5-
ぐったりとリリスに凭れかかるラムザ。
「貴様、ラムザに何をしたッ!?」
「暴れたら面倒だから、寝て貰っただけ。―今夜は良い夜ね」
「何!?」
「お酒の匂いでまた来てみれば、お酒の他にオ・ト・コ付き☆」
「ふ、ふざけるなッ!だいたい、逃げられると思うか!」
聖剣技を繰り出す。
リリスはラムザを離し、回避する
「聖剣技が使えるのね~。感心感心」
「ああ。神の加護より繰り出される剣技だ。ラムザは渡さんぞ、妖魔!」
「"は"…って。何?貴女、仕事よりラムザちゃんが大事なの?」
「む…つ、積み荷も渡さんぞ!」
「! は~ん、貴女、彼のこと好きなのね?」
「そ、そんな事は―」
「そう、そうなんですよ!隊長は――」
「アリシアァ!」
「………ゴメンナサイ。何デモナイデス」
「ラムザは隊の長だ。…尊敬はしている」
「それだけ?」
「それだけだ!」
「ふ~ん、そう」

少し思案した後、リリスは予想外の言葉を発した。
「ねぇ、貴女のしぶとさに免じてお酒、置いていってあげる」
「何?」
「お酒も良いけどたまには男も良いな~って☆」
「ふ、ふざけるな!それに貴様を倒す事がそもそもの目的!!積み荷は消えても、貴様をかえすわけにはいかん!」
「あ、そう。馬鹿ね貴女。折角私が見逃して上げるって言ってるのに」
リリスはヤレヤレと肩をすくめた。
「私ね。リリスの中でも結構好き嫌いない方だけど、どうしても我慢できないものがあるの。それが―」
高スピードで跳躍してくるリリス。
「―貴女みたいに自分の気持ちに嘘をついてる人よっ!!」
アグリアスに爪攻撃を仕掛ける
それをを左後方に転がり避ける。
起き際に聖剣技を繰り出そうとするが、見当たらない
「鈍~い♪」
右後方から声がし、咄嗟に盾で防御
リリスの回し蹴りをもろに食らい吹っ飛ぶアグリアス。
「ホーリー!」
アリシアが唱えたホーリーがリリスに直撃する
「うふふ♪私には聖魔法なんて効かないわよ?」
「青き海に意識薄れ、沈み行く闇 深き静寂に意識閉ざす… 夢邪睡符!」
アリシアが力なく倒れる。
「ホーリーが駄目なら、これならどうだ!」
アグリアスの乱命割殺打がリリスに向かって放たれる。
しかしリリスはさっと飛び去り、聖剣技を避ける。

「はい、ハズレ」
「チッ!」
「貴女はだいぶ鍛錬を積んでるわね」
「何だと?」
「剣技を見てれば判るわ。所々鋭く、綺麗な剣線をしてるもの」
「――何が言いたい」
「リリス族って、相手の心が読めるの。心に隙のある人は特にね。だから貴女の攻撃も避けれた」
心が読める?―剣を極めて行くと相手の心が読めるようになると聞くが・・・。
「そんなんじゃないわ。例えば…ふ~ん、貴女、今の隊に居場所がないようね。強い人が入って居場所がなくなったってところかしら?」
――!
本当に自分の心が読まれている事をしり、動揺を隠せない。
「その人が入るまで自分は腕のたつ剣士だ~、そこら辺の騎士より優れている~って思ってたでしょ?そう言うのをね、慢心って言うのよ!」
リリスの爪がアグリアスに迫る。
「クッ!」
アグリアスは迎撃するように剣を振る。
しかし、驚いた事にリリスの爪はアグリアスではなく、剣をしっかりと掴んでいた。
「貴女より強い人間なんて沢山いるわっ!―自分の慢心に気がつかない限り、貴女の居場所は見つからないし、自分より強い人にも勝てない!
 どんなに鍛錬を積んだってねッ!!」
言い終わるや、もう片方の爪がに迫る。
アグリアスはそれを寸前のところでかわす。
だが避けた直ぐ後、爪を追うように回し蹴りが迫って来た。
「心が影響を及ぼすのは剣だけじゃないわ。当然動きも鈍る!!」
――避け切れない!
アグリアスは咄嗟に盾で防御をする。
「そんなヘタれた盾じゃ防げないよ!」
リリスの回し蹴りをもろに受け盾が砕ける。
衝撃で吹っ飛んだアグリアスは山の岩肌に叩きつけられた。
「グハッ!」
拙い―!予想よりダメージが大きい。
だんだんと口の中に血の味が広がるのを感じる。

「あはは☆――動きも鈍い、剣も鈍い、そして自分の気持ちにも鈍い!ホントにイライラすわ、貴女を見てると!!」

確かに自分は慢心していたのかもしれない。
以前から雷神シドの噂は聞いてたし、騎士として尊敬している人物である。
騎士団時代はそのオルランドゥをも超えるよう鍛錬を怠らないようにしていた。
だから、聖剣技を自在に駆使し、ラムザと一緒に旅をするようになってからも頼りにされていた。
多種多数のモンスターを倒し、伝説に詠われるルカヴィとも渡り合った。
それがため、「もはや自分はオルランドゥ伯に並んだ。いや、超えたかも知れぬ」と慢心に繋がっていたのだ。

6-
アグリアスは重い体に鞭をうちなんとか立ちあがる。
「まだ戦うの?シブトイわね」
戦況は確実に不利。
敵にこちらの攻撃はあたらなく、盾も壊れてしまった。
叩きつけられた影響で、体も重く感じる。
ケアルで何とか出来るだろうが、唱えている間にやられるのがオチだ。

「ねぇ、最後に教えてよ。何のために剣を振るうの?」

剣を振るう理由、戦う理由――

「名誉を挽回したいから?」

そうじゃない違う。

「アハハ!騎士って人種は本当に哀れね。民を守るとか言いながら、心の中では卑下している。貴女が騎士になったのも地位と名誉が欲しかったからなんでしょ?」

私は――――


「サヨウナラ、騎士さん」


リリスの爪がアグリアスに伸びる。
その攻撃を剣で弾くアグリアス。
「―確かに私は弱い。慢心し、守るべき君主の側にも居ず、今も貴様にやられそうだ」
突然のアグリアスの言葉に怪訝な顔をするリリス。
だが、止めを刺さんと再び回し蹴りを繰り出す。
「だが、どんなに弱くても、どんなに鈍くても譲れないものがある」
回し蹴りをしゃがんで避けるアグリアス。
「権力や地位など関係ない」
右斬上に剣を振り上げる。
「助けを求められれば助けたい」
(早い―!?)
予想外のスピードに避ける事も出来ず慌てて爪で受け止める。
「大切な人を守りたい」
リリスはいったん距離を取ろうと翼を羽ばたかせる。
「私は、私を必要としてくれる者の為に戦う!それが私の戦う理由だ!!」
アグリアスは逃げようとするリリスの手を掴む。
「死兆の星の七つの影の 経路を断つ! 北斗骨砕打!
リリスはアグリアスに掴まれ避ける事ができず、放たれた北斗骨砕打が体を貫いた。
「あ…」
小さく呻き崩れ落ちた。

暫く倒れたリリスの様子を伺うアグリアス。
リリスからは殺気も戦意も感じ取れない。

北斗骨砕打が綺麗に決まったから良いようなものの、決らなかったらやられていたのは私の方だった。
妖魔リリス――、破廉恥で心を読む厄介な敵だった。
だが、おかげで自分の間違いに気づく事ができた。
それに忘れれかけていた戦う理由も。

きっと止めを刺そうとすればいつでも刺せたのだろう。
何のためにリリスがあんな無駄口を叩いたのかは判らない。
そういう性格なのかもしれない。

――だが、もしかすると自分を諭すために?

もしそうだとするなら相当な御節介者だ。
「…!」
突然、眩暈がし思わず片膝を付く。
やはり叩きつけられたダメージがそうとう効いているようだ。
ケアルラを唱え、体力の回復を図る。
癒しの光が体を包み、次第に体も軽くなって行く。

積み荷も完全な状態とは言えないが、なんと守る事も出来た。
ラムザとアリシアも夢邪睡符で寝ているだけだから、問題あるまい。
しかし、依頼とはこんなに大変なものなのだろうか?
だとすればいつも儲け話に行っているラヴィアン・アリシアの評価をもっと上げる必要があるな。

ケアルラをかけ終わり、体に力が戻って来たのを確認するアグリアス。
ふと視線を上に戻すと、そこに倒れているはずのリリスの姿がない。
「逃げた――か?」
そう思ったが、倒れていた場所に掌大の石像が落ちている。
それは羽の生えた女性像で先ほどまで倒れていたリリスに似ている。
「あぁ、そうか。リオファネス城で倒したアルケオデーモンも倒したら石になったな」
悪魔種とはきっとそういうものなのだろう。
アグリアスは地面に落ちているリリス像を手に取った。

――フフフ。私を倒すなんてやるじゃない。これからは自分の気持ちに正直になりなさいよ

そんな、リリスの声が聞こえた。
少し驚いたアグリアスだが、直に苦笑する。
「本当に御節介だな、貴様は」

7-
ハッー!ヤッ!フッ!

ラムザ一行が宿泊する宿の裏手で、アグリアスはいつものように鍛錬に勤しむ。
依頼を受けてから4日目でドーターに戻った。
酒場では異例の速さに報酬にイロを付けてくれ、休暇を楽しんでいたメンバーも称賛の言葉をかけてくれた。
だが、夜間戦闘からの帰還で眠さがピークに達していた為、直ぐに寝てしまった。
そして今日にはドーターを発たなくてはいけない。
だから、朝から鍛錬に勤しんでいるのだ。

そんなアグリアスを心配して、ラムザが声を掛けて来た。
「アグリアスさん、大丈夫ですか?昨日帰ったばかりなのに休まなくて」
「なに、心配するなラムザ。今日は素振りだけにするよ。あと300回程で止める」
(300回のどこが軽いんだろう?)
ラムザも鍛錬をするが、300回と言ったら普通の鍛錬と変わらない気がした。
「おぉ、今日も鍛錬をしておるのか。結構結構」
「あ、伯。おはようございます」
「おはようございます、オルランドゥ伯」
「うむ、二人ともおはよう」
一旦、素振りを止めたアグリアスだが、挨拶を終えると直ぐに素振りを始めた。
そんなアグリアスをじっと見るシド。
「―うむ。迷いがない良い剣線だ。迷いが吹っ切れたようだな」
「はい!ですが、まだまだオルランドゥ伯の足元には及びません」
「なに、儂は長い年月を経て今の力を手に入れたのだ。きっと貴殿と同じ頃の儂なら負けておるよ」
「ご謙遜を」

「ときにラムザ。報告書は読ませてもらったよ、妖魔リリスとはなかなかの相手だっただろう」
「いえ、僕なんか直ぐに眠らされちゃって戦ってないんです」
「ならば、君もアグリアスを見習って鍛錬に勤しむがよい。
 君はどこか自分の命を軽率に見ている感がある。
 己が死んでしまったら、多くの人が悲しむことになる。そうならないようにな」
「はい」
シドの言葉をおもおもしく受け止めるラムザ。
「とこで、リリスを倒したとなれば、リリス像が手に入ってのではないか?」
「あ、はい。あの像ですか。他の財宝と一緒に管理してありますよ?」
「うむ、昔からリリス像は持つ者の力を高めると云われ、歴代の武人が好んで収集したものなのだよ」
「へ~」
「でな、少し儂に貸してくれんか?」
「え?構いませんが――」
「そうかそうか。ではさっそく―――」
上機嫌に去っていくシド。

「ねぇ、アグリアスさん」
「何だ?」
「伯が言っていていたように依頼を終えてから、
 特にリリスを倒したあとから以前のように何か吹っ切れたような気がするんですけど、何があったんですか?」
「ん―知りたいか?」
アグリアスは素振りを止め、ラムザに向き合う。
「ラムザもアリシアも眠らされた後も、あのリリスは色々な罵声を私に浴びせて来たんだ。
 その中でリリスは私に戦う理由を詰問してきた」
「戦う理由ですか?」
「あぁ。だから言ってやった。私は私を必要としてくれる人のために戦うのだと」
「―なるほど。でも、リリスも何でそんな事を言ったんでしょうね」
「さぁ、私にも判らない。だが、おかげで自分を再認識する事が出来た」

少し間が空いた後、アグリアスが真剣な面持ちで言う。
「ラムザ、これからも――私を必要としてくれるか?」
それはとても深くて、重みのある言葉。
だけど、ラムザはいつもの笑顔で答える。

「もちろんです。僕にはアグリアスさんが必要です」

「ありがとう」


ラムザは出発の準備をすると言い、その場から離れて行った。
それを見送り、アグリアスは鍛錬を再開する。

正直にいえば、自分の気持ちを伝えたかった。
リリスは自分の気持ちに正直にと言っていたが、今はその時ではない。
ラムザはその身にアルマの事、ルカヴィの事、隊のメンバーの事などたくさんの重荷を背負っている。
そこに自分の気持ちを伝えれば、良いにしろ悪いにしろ私はスッキリするだろう。
だが、それはラムザにまた一つ重荷を背負わせる事に他ならない。
ならば、今は言う時ではない。
今は側にいてラムザを支える―――
それが最善の方法だろう。


剣線は 黒珊瑚の海から吹きあげる風を切っていく。
その剣の鍛錬に一層の気合が入る。
以前のように己のためではなく――
―――――その剣で自分の大切な人を守るために。

次の朝―――
「あれ~、フェニックスの尾が減ってる…。おかしいな~?昨日確認した時はもっとあったのにな」
「ラムザ!」
「あ、アグリアスさん。丁度良かった―って、どうしたんです?そんなに怖い顔して」
「見てくれ、これを!」
「あぁん、返してくださいよ!私のお酒ぇ~」
「あ、これって依頼で運んだ―」
「そうだ。幻の酒と言われるバッカスの酒だ!」
「でもあれってリリスに全部飲まれたんじゃ?」
「たしか もう飲んじゃったって」
「ヘッヘー、このアシリアがちゃんと手を打っておいたんですよ♪」
「お前が隠しておいただけだろうが!!」
「良いじゃないですか一本くらい。私達のおかげでイヴァリース中においしいお酒が届くんですから」
「だからと言って積み荷を盗ってしまっては盗賊と同じだろうがッ!!」
「む?なんの騒ぎかね?」
「あぁ、伯、見てください。アリシアが―って風呂あがりですか?」
「うむ。昨日の夜は少し鍛錬に気合が入りすぎての、朝までヤってしまったわい」
「朝まで鍛錬とは…私も頑張らねば」
「イイ汗かいたおかげで若返ったようだ!」
「そうそう、ラムザ。フェニックスの尾が必要だったのでちょっと使わせてもらったぞ」
「あ、伯だったんですか?でも、鍛錬でフェニックスの尾なんて何に使ったんです?」
「レイズでも良いのだが、それだとかなり手間がかかるのでな。体力がギリギリの状態で生き返ってた方が、鍛錬に勤しめるのだよ」
「?」


おしまい
最終更新:2010年04月02日 21:22