『力強く美しく、戦場に舞う蝶は料理が苦手』


ため息などいかんと思いつつ……この頃はこのまま剣に人生を捧げてしまっても良いものかと思うにつけ、つい深く息を吐いてしまう。
剣を振り続け、気がつけば男前だの、ゲルミナスパンティだの、脇がきついだの、足が臭うだの。
我々の業界ではご褒美とか言われる始末。
もううんざりだ。

とは言え、女らしく……か。

私には程遠い言葉だ。
今更この口調を変えるわけにもいかないし、王族付きの騎士として培ってきたこの仕草を直そうにも無理がある。
今ここにある私自身は、厳しい戦いを生き抜いてきた大事な私の結晶だ。
捨てられるわけがない。

だが騎士としての厳しさを持った私が、更に女性らしさを身に着けることができたなら……
強さとやさしさを併せ持つ理想の人間像とも言えるのではないだろうか。
皆からの人望も得られ、老いてもなお充実した生き方を送れるのではないか。
人生の後半(リア)を充実してすごす、これぞリア充ッ!!





では具体的に何をするか、なのだが。
ん?あんなところにうりぼうが……

はッ、そうだ!
料理にしよう!!

普段から堅物と思われているこの私が、意外にも皆に手料理を振る舞い、しかもそれが美味いとなれば!
ギャップ萌えからくる恋心。
命脈は無常にして惜しむるべからず・・・ 葬る!チョコボ活殺焼き!

うむ、色々な意味でこれしか無いだろう。

問題は私に料理ができるかどうかだが、そっち方面に関しては素人の私だ。
手伝ってもらうのは無理としても、何かしら知恵を借りなければ話にならないだろう。
やはりここは女らしさという意味でもレーゼに聞いてみるのが上策と思う。

と、いう訳でいざレーゼを訪ねて見た……は良いのだが。




「料理???どうしたの急に」
「んッ、わっ私も、少しは実生活に根付いた趣味を嗜んでおこうと思ってだな、その……」

なぜ料理を作るかだと……そんな不順な動機、口に出せるわけ無い。
うかつだった……いきなり料理を作ろうなんて不自然すぎる。

「ふーん、まぁ断る理由も無いし……それになんだか面白そうね」
「面白そうって……」

何でもお見通し的な態度は気になるが、レーゼが口が軽い人間では無いのは分かっている。
アリシアやラヴィアンのように言いふらしたりはしないだろう。
それに人間として、女として、ドラゴンとして様々な苦労をしてきているはずだ。
料理だけじゃなく、彼女から色々と学ぶものがあるはず。

「……わかったわ」
「ほ、本当か!」
「うそよ」
「えぇッ!?」
「冗談よ、冗談。ドラゴンジョーク」
「……」

前言撤回、この女……黒い。
下着も黒に違いない。

「貴女があまりにも真剣だったから、からかってみただけ」
「ぐぬぬ」
「ふふっ、私でよければ何でも聞いてちょうだい」
「ほ、本当か!!ありがたいッ!!」

(……でもアグリアス、貴女は料理なんてしなくても、十分魅力的だと思うんだけどな……)




ふう、よかった。
何とかなりそうだ。
それにしても私が料理をつくるのが、そんなに滑稽だろうか?

「料理といっても色々あるわ。それでもひとつだけと言うのなら、特に男性が喜ぶのは肉料理じゃないかしら」
「なんか男性向けということになってるが……」
「細かいことはいいの。女の子が料理を作る相手は好きな男性って昔から決まってるの」
「そうなのか……?」

「私はドラゴンでもあるから炎の扱いは得意なの。だから今回はお肉に火を通すときのコツを教えてあげるわ」
「わ、わかっぱ」

紙とペンを用意し、彼女の話に集中する。

「まずは下味を付けるのだけど、うりぼうの淡白な部位やチョコボのお肉には白胡椒が、逆にベヒーモスや牛気などには黒胡椒の方が愛称が良いわ」
「ふむふむ」
「赤身のお肉や魚は黒胡椒、白身のお肉や魚は白胡椒って覚えると良いわね」
「なるほど、それは分かりやすいな……」
「でも必ずしもそうという訳じゃないの。料理によっては白と黒の合挽きも使うし、珍味の彩りのためにピンクの胡椒を使うこともあるわ」
「そんなものもあるのか……」
「それから下味に使う塩はお肉から出てくる油で味が薄れるわ。焼いて油を落とす料理ならしっかり塩で下味を付けておいてね」

☆ここまでのまとめ
1、下味に使う胡椒は肉によって白と黒を使い分ける。
2、下味の塩はしっかりうつ。




「ここからが本番、火の通り具合について」
「ドキドキ」
「一般的には180度前後で焼き上げるのが理想なのだけど、温度は経験がないと簡単にはわからないわよね」
「確かに……」
「ひとつの方法として、お肉を小さめに切ってワインやレモンで香りを付け、葉っぱなどでくるんでそのまま火にかけるのが簡単ね。これだとしっかり火を通したとしても、葉っぱの内側に蒸気が充満して焦げることはほとんど無いわ」
「すごい!!これなら私でも作れそうだ……」
「でもこれだと焦げ目がつかないから香ばしさは他の料理に劣ってしまう。そこで貴女にはもうひとつの方法、焚き火を使った『直火焼き』に挑戦してもらいたいの」
「じ、じきびやくっ、き……!!」
「(噛み噛みね……)そう、でも直火といっても火そのもので焼くのではなく、焚き火から出る熱を使うということを覚えておいてちょうだい。これさえ理解していれば、焦げすぎて食べられない料理になるのだけは大体避けられるはずよ」

☆ここまでのまとめ
1、調理の際の温度は180度前後。
2、失敗したくなければホイル焼き。水分を足す意味でもワインやレモンで香り付けが効果的。
3、直火焼きは火に直接かける訳ではない。焼肉やバーベキューの網焼きなどが分かりやすい。




「お肉はなるべく厚みのあるものの方がよいわ。肉汁が中に閉じ込められて、外はパリパリで内はジューシーになりやすいから」
「見た目もボリュームがあってよさそうだな」
「ふふ、その通り。それから火が通ったかどうかの確認だけど。いざ切り開いてみたら中が生だったなんて…ガッカリすぎるわね」
「まったくだ」
「確認の方法としては、まず中まで温まったかどうかを見るには、串を使って中の温度を確認する」
「うむ」

ここまではなんとなくわかる。

「その後は時間を見ながら、外から指でお肉を押してみて、グニュッと指が埋まったり、お肉の形が変形して元に戻らなかったりしたらまだ火の通りが浅いわ」
「ふむふむ」
「逆になかなか指が入らないくらい硬いと焼きすぎ……食べられるけどおいしくないわ。程よい弾力でお肉がふっくら指を押し返してきたら完璧よ」
「む、難しいんだな……」
「そう、料理は気を抜いたらダメなの。そして最後に、そのまま火から下ろしてもお肉を切り開いてはダメ」
「ど、どうしてだ?」
「お肉の余熱で10分くらいは火が入り続けるから、それが収まってから初めてナイフを入れるの。焚き火の上にある時点ではなく、食べる人の前にお皿が並べられた時点で食べごろになるような料理が理想的ね」
「すばらしい……レーゼ、お前のことは今後、雄山と呼ぼう」
「ゆ……、えッ?」

☆ここまでのまとめ
1、厚みのある肉にじっくり火を通すのが、おいしい肉料理の第一歩。
2、火の通り具合は硬さで見分ける。
3、余熱を計算に入れて調理する。




「といった所なんだけど、まだこれでは足りないわ……」
「そうなのか!?」
「確かにおいしい料理だけど味や香りがシンプルすぎるわ。見た目もさびしいし」
「ど、どうすればよいのだ……」
「そうね……、そうだ、ラファちゃんに聞いてみたら良いと思うわ。彼女の一族は一風変わった香辛料を使うことでも知られているから」

なんだか話が広がってきたぞ……
どうなるのだ、私。
どうなるのだ、私の料理。












引き続き料理の修行に励む私、アグリアス・オークス。
美味しい料理を求めて西へ東へ。

さて、レーゼの次はラファか……
まあ、ラファもまだ子供だ。
私が料理をはじめたいと言っても特に疑問に思うことなど無いだろう。

早速だが可愛らしい先生にご教授願うとしよう。

「え?香辛料についてですか?」
「そ、そうだ……ちょっと教えてほしくてな……」
「急にどうしたのですかアグリアスさま……毒殺したい相手でもいるんですか?」
「ぶほッ」

いきなり何を言い出すのだこのアサシンガールは。




「すまない……どういう話の流れなんだろう?」
「食べあわせによって体に害のあるものもあるんです。たとえば一部のキノコやドリアンはアルコールと一緒に摂取すると命の危険もあるんです」
「そうなのか……いや、そうじゃなくて私は普通の料理について教えてほしいのだ……」
「はッ!!す、すいません、私ったらてっきり」

てっきりって、私を何だと思ったのだろう……
そんなキャラで大丈夫か、私。

「えーっと、香辛料についてですね」
「うむ」
「そんなに難しいことでは無いのですが、代表的なものではバジルやオレガノでお肉やお魚の臭みを消したり、料理に香りを付けたり、料理の飾りに使った

り、あとは料理そのものに色付けをしたりします」
「ちょちょ、ちょっと待ってくれ」
「えっ」
「一度にたくさん言われても覚えきれない……」
「あ、ごめんなさい……。でも大丈夫です、香辛料は基本を抑えればどんな風に使うかはとても自由なんです」
「ほうほう」
「ある程度役割は決まっていますが、バジルやオレガノを使って料理が台無しになる事は稀だと思います」
「なんだか気楽に言ってくれるな……」
「うふふ、たとえば今回はどんな料理にしたいのでしょうか?」
「うりぼうの直火焼きにしようと思っている」
「なるほど、ではバーベキューソースにたっぷり香辛料を使いましょう!」
「バーベキューソース???」

ここまでのまとめ
1、香辛料の役割は多岐に渡るので揃えようとすると結構な数に。気軽に使えるバジルがお勧め。
2、食料品店で香辛料の瓶のウラを見ると大体使い方が書いてある。自由に使おう。




「まずはボールにすりおろしガーリックを3かけら分と、同じくらいの量のすり下ろししょうが、そして適量のオリーブオイルを入れます」
「ふむふむ」
「砂糖、カイエンペッパー、バジル、オレガノを大さじ1杯づつ。次にセロリの種を小さじ2分の1杯入れます」
「0.5杯とはまた微妙だな」
「はい、香りの強い香辛料なので少なめにします。嫌いな人も多いですし……」
「なるほど」
「トマトケチャップやオイスターソース等、味を複雑にしてくれるものを一種類。大さじ10杯ほど入れます。和風にしたいなら麺つゆもアリです」

ワフー?
検索サイトだろうか。

「それから玉葱やにんじんを白ワインで煮て作ったスープにレモン一個を絞って果汁を足し、これらを全部あわせたものをアクを取りながら煮詰めれば出来上がりです」
「できあがりって……これはかなり手が込んでるんじゃないか?」
「確かにそう見えますが、実は味の濃さを決める調味料以外はほぼ全部、大さじ1杯なんです!」
「あ、ほんとだ……」
「今回の料理で大事なのは香りなので、更に簡単にするとガーリック、カイエンペッパー、バジル、オレガノ、セロリの種を、ワインとレモン汁で溶いたトマトケチャップに混ぜたものでもかなり十分なのです」
「一気に簡単になったな……」
「でも味はお肉そのものが美味しいはずなので、こうして香り付けをするだけでもぜんぜん違いますよ」

ここまでのまとめ
1、ガーリック、オリーブオイルは鉄板。ほぼ欠かせない調味料のひとつ。
2、セロリの種の他にウーシャンフェンやコリアンダーなど癖の強いハーブは色々ある。お好みで。
3、レモンはワインビネガーや、最悪の場合お酢でも代用できる。酸味で料理をさっぱりフルーティに。
4、ケチャップ、デミグラス等で味を豊かにすると一層バーベキューソースとして美味しくなる。





「ざっと説明しましたが、これらのソースは作るのに特に技術が必要ないということも特徴です」
「言われてみると確かにそうだな……」
「その分、香りや味をしっかり確認して出来上がりを想像しながら作業を進めていくことが大事です!」
「わ、わかっぱ!」
「美味しい組み合わせを見つけたらメモしておくと良いです!気に入ってくれた料理を何度も作ってくれるなんてことになれば……ラムザさんも男冥利に尽きると思います!!」
「あぁ、きっと喜んでくれ……ってちょっとまった!いつからラムザの話になったんだ!!」

キャッキャウフフ……

それはともかく、かなり理想の一品に近づいたのではないだろうか!!
なんだか手ごたえを感じるし、とても新鮮な気分だ。

「残るは盛り付けや料理の付け合せなのですが、これは生まれが辺境の部族である私にはちょっと苦手な分野なもので……」
「何を言う、これで十分美味しい料理ではないか?」
「いえ……今のままでは勝負料理としてはまだまだイチゴパンツレベル。真に男性の心をとらえるには純白のシルクを目指さなければなりません」
「イチゴが……何だって?」
「付け合せの野菜についてはメリアドールさまが得意だった筈です」
「メリアか……一番聞きたくない相手だが……」
「メリアドールさまも剣に関してはともかく、こと料理に関してとなればきっと快く教えてくれるはずです」
「だと良いのだが……」

果たしてメリアドールは料理を教えてくれるのか?
私の料理、完成するのだろうか?










「珍しいわね貴方が私に尋ねごとなんて。ラムザの下着の色なら知らないわよ」
「そんなことそれほど知りたくないッ!」
「それほどって……」

いかんいかん、心を落ち着けなければ。
手のひらにラムザ、ラムザ、ラムザ……と書いて飲み込む。

「実は、料理の盛り付けや付け合せの野菜について色々と聞きたいのだ」
「り、料理!?」
「うむ……」
「ふーん……」

(ブーッ!料理!?りょうり!?この女が!!ヘソで水銀沸かしちゃうわ)

「じ、実は……レーゼやラファにも色々と教わって少しづつ覚えているところなのだ」
「で、私の所にも教わりに来たと言うわけね」
「うむ、ラファの勧めでメリアなら料理に詳しいと……」

(料理ができないのが許されるのは小学生までだけど、ちょっといじらしいじゃない……)

「まぁ、なんで料理をはじめたいと思ったかは大体想像がつくとして……」
「うぅ……」

(ちょっと面倒だけど、……そうね、逆にアグリアスに料理を教えたのが私だと言うことがラムザに知れれば、それはそれで私に有利かも)

「いいわ、教えてあげる」
「ほ、本当か!?」
「うそよ」
「な、なんだと!」
「冗談よ冗談、神殿ジョーク」
「おいィ」
「そのかわり、私が教えるんだからしっかり覚えてもらうわ」
「……!!わ、わかっぱ!!」




毒づきながらもメリアドールは食材を用意して実際に調理の手順を見せてくれるようだ。
意外と良い奴かもしれん。

「しかし意外だな、メリアが料理にも精通しているとは……」
「良い機会だから説明してあげる。私はグレバドス教の神殿騎士として食べられるお肉や魚に制限があるから、戦中の食事に不手際が無いように一部の騎士や僧侶は料理をたしなむのが慣わしなの」
「ほう、初耳だな」
「これ書いてる人がそういう風に設定したのよ」
「なるほど……?」

なんのことだろう。
私だけ置いていかれていることがあるような気がするが……まぁ良いか。

「じゃあまずは料理を乗せるお皿に敷いておくソースからね」
「ふむふむ」
「香草焼きのソースだからさっぱりさせたいわね。生トマトを使いましょう」
「美味しそうだな」
「まずは目の細かい網でトマトを濾してピューレにする。次に少量のオリーブオイルで艶を出して、シェリー酒のビネガーで香りと酸味をつける」
「メモメモ……」
「黒胡椒と塩を一つまみ。味が調ったら好みで摩り下ろした生のガーリックやグレープフルーツ等の果肉を入れてもいいわ」
「グレープフルーツ!?意外な食材だな」
「甘みの無い柑橘類は食材の味を引き立てるのよ。ゆずなんて和風には欠かせないしね」
「ほほう……、ところでワフーって検索サイトか何かか???」


ここまでのまとめ
1、付け合せのソースは洋食には何種類もあります。今回のトマトのソースは一例です。
2、トマトのピューレにレモン汁、オリーブオイル、塩、胡椒だけでも美味しいソースになります。
3、魚介類やサラダにも合うので是非お試しあれ。





「付け合せの野菜はFFTらしく豆でいきましょう。スナップエンドウとソラマメとズッキーニが良いわね」
「それはいいな。豆は意外と美味しくて食べ始めると止まらなくなるのだ」
「食いしん坊ねぇ」
「し、仕方ないだろう。美味しいのだから!」
「……まあいいけど。じゃあ早速鍋にお水を張って火にかけるわね」
「わかっぱ」
「ソラマメは外側の皮と、豆そのものにも皮がついているの。お湯を沸かす間に外の皮を外して、豆についた皮には切れ目を入れる」
「なんだか難しそうだな……」
「ちょっと面倒だけどゆっくりでいいのよ。好きな人のため、心をこめて丁寧にね」
「うむ、やりがいが出てきた」
「からかったつもりがスルーされたわね」
「何の話だ?」
「なんでもないの。次はスナップエンドウの筋を取るわね。ヘタの部分からナイフを入れて外と内にスッと引っ張ると繊維状の筋が取れてくるわ。これを取らないと繊維が食感を邪魔して死ぬほど美味しくないの」
「メモメモ……」
「あとはズッキーニを一口サイズの輪切りにして……、沸いてきたお湯に塩を大さじ1杯入れて茹でるだけ」
「野菜は全部一緒に茹でてよいのか?」
「それは罠ね。ソラマメは硬いから1分くらいは火を通さないといけないけど、ズッキーニは10秒くらいでも十分よ」
「ふふ、割と簡単だな」
「チッチッチッ、まだ甘いわね。お肉に火を入れるときに余熱があるように、野菜も余熱で火が入り続けるから食感が次第に失われていくの」
「そ、そうなのか……」
「だから茹で上がったらすぐに冷水につけて熱を取る。ここまでが一通りの流れよ」

ここまでのまとめ
1、特に難しいことはありません。ブロッコリーでもアスパラでもお好きな野菜をどうぞ。
2、生で食べられる野菜は短めに、火を通さないと食べられない野菜はしっかり茹でましょう。
3、塩水で茹でた野菜を冷水で冷やすと、色も鮮やかになります。





「後は盛り付けね」
「ん、野菜に味付けはしなくてもよいのか?」
「さっき作ったソースでお肉と一緒に食べるからいいの。野菜が嫌いな人は美味しいソースを自分で作って、お肉と一緒に食べてみれば良いのよ」
「なんか投げやりだな」
「でも野菜自体が美味しい物だし、健康にも良いんだから野菜の美味しい食べ方を知らないなんて残念だと思うわ」
「それもそうだが、でも苦手な野菜は誰にでもあると思うが……」
「嫌いなものは無理に食べなくても良いわ。でもその食材の何が美味しいのか、どこが優れているかを考えたり知ったりすることは大事ね」
「確かに……」
「日々の戦いの中でふとした食事のひと時に、ちょっとした感動を見つけられるなんて……結構幸せなことだと思わない?」
「うー……、難しくていまいち分からないぞ……」
「まあ、料理を作っていればそのうち分かるわよ」

(それに今日から貴女も、その幸せを好きな人や他の誰かに提供する側の人間になるのよ……)

「次は仕上げよ」
「うむ!」





「盛り付けは適当なんだけど」
「えっ」
「まずは白くて平らなお皿を用意してちょうだい」
「さ、皿か……よし!」
「お皿には内側の窪んだ部分と、持ちやすいようについている外側のヘリの部分があるのだけど」
「あるな、超ある」
「……ヘリにソースや料理がはみ出ないように注意すると、まとまった盛り付けになるわ」
「うむ、気をつけよう」
「では、白いお皿に赤紫のトマトのソースを敷いて」
「ふむふむ」
「その上にスナップエンドウを輪になるように並べて台座をつくる」
「……う、うまくいかないッ……!!」
「ちょっと!!ここで躓かないでよッ!!」
「す、すまん」
「ふう、そしたら切り分けた美味しそうなこんがりお肉を中央に寄せて、高さが出るように立てかけていく。できれば桜色の切り口が食べる人に見えるようにね」
「ふむふむ、なんとなくできた」
「あとは白さが目立つプリプリのズッキーニをお肉の周りに三枚ほど並べて、その上に皮をむいた明るい黄緑のほくほくしたソラマメをのせていく」
「ん、お……おぉ?できた……かな??」
「うん、悪くないじゃない」
「ほ、本当か!?」
「初めてにしちゃ上出来よ」
「これで……これでやっと……皆に恥ずかしくない料理を振舞うことができるな……」
「胸が熱くなるわね……」


ここまでのまとめ
1、料理は真ん中に寄せ、立体的に盛り付けて主役の食材をみせつけよう。
2、お皿の色も考慮しつつ、色々な色の食材を使ってカラフルにしよう。
3、うまくできなかったら全部ボールに移してかき混ぜて、そのまま皿に盛り付けよう。意外とかっこいい。


(ふう、何とかなったみたいね……。我ながらお人よしというかお節介というか……)

「ありがとうメリアドール!!」
「え!?あ、あぁ。まあたいしたことは何もして無いんだけれどね……」
「そんなことはない、お前はいい奴だったんだな!」
「ばッ!?か、勘違いしないでよねッ!!貴女のためにやったんじゃないんだからね!」
「そ、そうだな……、お前が私に善意で手を貸すはずが無いものな……はっはっは!!」
「……」








3人の助けを借りて素晴らしい料理が出来上がった!!
これで準備は完璧だ。
私のパッシブスキルに調理の2文字が加わる日も近いかな。

夕暮れ時。
待ちに待った審判のとき。
皆の手には私の料理が盛り付けられた皿が行き渡っている。

あらためて作り直した「うりぼうのロースト、ソラマメのトマトピューレ仕立て」。

「アグリアス殿の手料理か……どれどれ」
「あのアグリアスさんがこんなに美味しい料理を……」

リアクションはそれぞれだったが、おおむね好評だ。
手伝ってもらったとはいえ、嬉しい事に変わりは無い。

そうだ、ラムザ。
ラムザはどうだろう……。

少しはなれたところでムスタディオと一緒に話が弾んでいるようだが。
すこし聞き耳を立ててみるか……。


「どうだ?ラムザ。この料理」
「うーん、……僕、肉料理は好きじゃないんだ」
最終更新:2012年01月02日 19:37