(この娘の狙いは 何か?)
椅子に腰掛ける話術士♀の回りを私は一周した。

彼女の言う『彼』とは間違いなくラムザを指している。
しかしその名を口に出すことはしない。
(まるで私が確認するのを待っているように)
話術士♀はテーブルを指でトントンと叩く。
─早く座れ─
「…フッ」
私は席に付いた。

「あれは野蛮だが悪い男ではない」
「は? 野蛮…何を言っているんですか?」
私が切り出した言葉に話術士♀は困惑した。
「死んだ男に師事を続ける姿は良いな …気には触るが」
「…!! ラッドじゃありません!」
話術士♀は怒りで肩を震わせた。
「逃げるんですか! 私が怖いんですね?」
(…これはラムザを賭けた勝負なのか)
彼女には私がラムザの名を口に出すことが必要なのだろう。
勝負の前の儀式として。
私も彼女から逃げるつもりは無い。
(しかし…誰を選ぶのかはラムザだ)
「一つ 確認したい」
どうぞと話術士♀は頷く。
「告白されたというのは 部屋に入る口実… 嘘だな?」
「本当です」
(いや…嘘だな あのラムザが告白など)
「最近のことではありませんが」
話術士♀は澱みなくキッパリ言い張った。
「…彼が忘れているだけなんです」
そして隣の部屋に向かって彼女は呟いた。
ラッドは葛藤するラムザの姿に成長を見た。
ラムザの硬直時間は長かった。
「…アグリアスさんと …誰が話しているの?」
小さな声でラムザが聞いてきた。
(これは… 黒ラムザ優勢か?)
「気になるなら自分で聞け」
笑いを堪え、ラッドは素っ気なく答えた。
ラムザが壁に近付く。
「…… だ 駄目だ やっぱり盗み聞きなんて良くない」
(あ あ~あ…)
ギリギリで白ラムザが勝利を収めた。
ラムザがラッドの肩を掴む。
(これじゃあ命懸けの話術士♀が可哀想だな)
「なあラムザ …告白したってマジ?」
ラムザの目が点になった。
「た 誰が… 誰に!?」
「…… 話術士♀が お前にされたってさ」
ブンブンとラムザは首を振った。
「してないよ! ア アイツ アグリアスさんに何を…」
ムッとした顔のラムザだったが、
「……」
再び硬直していた。
「あ!!」
「あ!?」
慌てて部屋を出ようとしたラムザをラッドが押さえ込んだ。
「待て待て! まさか心当たりあンのか!?」
「離せよラッド! 話を止めなきゃ! 離して!!」
ジタバタもがくラムザは必死だった。
ラッドも全力である。
(まさかこれが狙い!? …ラムザを部屋から出したら負けか!?)
「離せー! 離せ離せ離せ!!!」
「ああもう! いいから落ち着け!!!」
廊下に人気が無いのを確認して三人は部屋を出る。
「アグリアスは 何歳だったかな?」
算術士♂が忍者♀に聞いた。
「…え 確か私達の四つ上じゃない?」
「22 か」
うーん、と算術士♂は唸った。
(歳では駄目だな)
「…何の話だ?」
「アグリアス以外はみんな18 でも22は算術に使えないのよ」
首を傾げるシーフ♂に忍者♀が教える。
(アグリアスだけを算術対象に出来ないものか)
「みんなって ラッドも18歳か?」
「同い年だって私は聞いたけど …あ」
何か思い出した忍者♀が算術士♂の袖を引っ張った。
「あの子はまだ17よ?」
(話術士♀は早生まれだったな)
「17は素数で使えるが それがどうかしたのか?」
「あの子にフレアを使って部屋ごとアグリアスを仕留めるのよ」
「!?」
「お お前は鬼か!」
「な… 馬鹿ね冗談よ」
忍者♀は慌てて弁明した。
(しかし… 最悪の場合はそれも考えて置かねば な)
いざとなった時に手が無ければ
自分達は聖剣技の前に成す術無く葬られることだろう。

ラムザの部屋のドアをノックしようとした算術士♂は躊躇った。
(何だ?)
部屋の中からラムザとラッドの叫び声が聞こえた。
尋常ではない声だった。
何事かと、
他の部屋から傭兵上がりの仲間達が顔を出して来た。
気絶した竜騎士♂をモンク♀は床に寝かせた。
「さあ 決着をつけましょうラヴィアン」
拳を突き出して構えるモンク♀。
「だからケンカなんか止めろって」
「退きなさいムスタ」
ムスタを押し退けてラヴィアンが前に出た。
倒れかけたムスタをアリシアが支える。
「似たもの同士は仲が悪いって言うけどね」
「ラッドも罪な奴… でもマジで寝取った訳?」
「ラヴィアンは一途なのよ? 略奪愛もなんのその!」
(やめてアリシア… 調子が狂うから…)
しかもモンク♀の怒りを逆撫でしてしまっている。
ラヴィアンは本当に頭痛を感じた。
「…くっ なんで…貴様みたいな女に…ラッドは!」
「私はただ世話をやいているだけよ 誤解しないで!」
「誤解な モノか!!」
「ッ!?」
モンク♀が踏み込む。
ラヴィアンは同じ速さで後退し距離を保った。
「よせ! 勝っても負けても隊に居られなくなるわよ!?」
「心配しなくとも明日には!」
「明日…!?」
モンク♀の猛攻が始まった。

モンク♀と竜騎士♂はなぜ屋上に来たのか?
初めからずっとアリシアは考えていた。
ポーカーフェイスの下には策士の顔をアリシアは持っている。
「ムスタディオは高い所 平気よね」
「ん?」
「そこにある非常用のロープを腰に結んでちょうだい」

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最終更新:2010年03月26日 16:42