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    <title>雑文小屋</title>
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    <description>雑文小屋</description>

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    <title>ラフェスタ・１</title>
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    <description>
      ＊＊＊＊＊＊
　きぃぃいい…ぃん
「さあさあさあ！やって参りました年に一度の大・告・白タイム！ドキ高名物『ラブ・デスティニー』が始まります！
ルールは単純、卒業生が隠した第二ボタンやリボンを捜し出してレッツ告白！己の絶対運命黙示録に新たなページを刻み込め！」「女子同士前提!?」

　マイクのハウリング音の後に続く流暢な喋り（と続くツッコミ）が早春のドキドキ高校グラウンドに響き渡る。
　天気は、晴れの舞台にふさわしい晴天。しかしオレ、乾一の胸中はどんよりと曇っていた。
　いや、どんよりしているのはオレだけではない。
　隣に立つ大木玲夜や、女子列に並ぶ笛路紋の表情もどこか浮かない。

　理由は…皆同じだろうな。

「さて、今年の『ラブ・デス』は一味違います！一目合ったその日から、恋の花咲く事もある――そんなシチュエーションがあってもいいじゃない！
題して、『好きなモノは好きだからしょうがない!!』」
「今度はベーコンレタス!?」
「今回の『ラブ・デス』は、校内のどこかに主催側によって奪取した、もて四天王のボタンとリボンが隠されております！
捜し出して、ええいままよと当たって砕けるもよし！狙いと違う相手に妥協するもまた良し！」「やりづれーよ！有り得るけどな！」

　…そういう事なのだ。自分の意志で参加したわけではない。
　言ってみれば、体のいい客寄せパンダである。
　ん？何だこの古臭い例え。アイツの口調がうつったのかな。

「なるほど、四天王の面子が参加しているのが謎だったが、そういうカラクリか。主催も去年の惨状には懲りたと見えるな」
　ぽそり、静かに呟いたのは、オレの背後に立つ安骸寺悠だ。
　…って、あれ？疑問が浮かび、オレは振り返る。
「――なんで参加してるか、か？毎度毎度サポートばかりしていたら王子の為にならんからな。高校生
活の総決算。…静かに見守るのも悪くないだろう」
　先回りして答えた安骸寺が手にしたビデオカメラの先には、笛路親衛隊の面々に袋叩きにされている
百手太臓の姿がある。

「…静かにねえ…」
　この男の性格上、そんな慎ましい考えなんて持ち合わせてないだろう。
　覚えがあるだけにどうにも身構えてしまう。

「悠様ーっ！悠様の大切な突起物は私が必ず手にしてみせますからーっ！」
『ボタンもそんな風に呼ばれたくはないと思うタマ』
「それよりも」
　無視かよ。あ、コケた。
「見たところ、探す側の人山には姿が見えないようだが、参加しなかったのか？」
「……」

　しれっと尋ねる声に、視線を派手に転んだ緑色の髪の少女から、自分の足元へと移す。
　…本当、余計なところには目がいくヤツだな。
　誰のことを指しているのかは分かっていたが、なんと答えるべきか言葉に困り、結果オレは、帰ったんじゃねーの、と答えた。

　　　　　　　　　
　――まあ、仕方ないんじゃない？乾なんだかんだ言ってモテるしさ。

　もう使うことのない学校指定の鞄に卒業証書の筒をしまいながら、アイツは他人事のようにオレに向かって言葉を放った。

　卒業式終了後の最後のHRも終わり、クラスの中では、この後に控えるイベントに意欲を燃やす者や、そのまま学校を出て友人の間で卒業を祝おうとする者がそれぞれ、賑やかに会話を交わしている。

　ついでに言えば――オレの希望としては、目の前の相手とささやかな打ち上げなんてしたかった訳で。
　だから、このあっさりとした反応には驚かされたのだ。

「…どしたの乾。そんな馬鹿５割増みたいな顔して」
「一言余計だ。あ、じゃあ夕…一口も、『ラブ・デス』参加すんのか？」
　軽く睨まれ、呼びかけた名前を訂正しつつの質問は、そんなヒマないよ、という答えに一蹴された。
「もうすぐ後期試験だもん。３年で『ラブ・デス』参加してんのって、合格が確定してる人くらいじゃ
ないの？」
「ああ…」
　そういえばそうだった。
　このクラスの中でも、大学入試が終わってない者は早々に帰宅し、受験勉強に打ち込む予定らしい。
　加えて、こいつの場合は――。


　改めて気付かされた障害によって、自分の淡い期待が打ち砕かれたのを心で理解し、オレはがっくり
と肩を落としたのだった。
　以上、１時間ほど前の事である。

　　　　　　　　　　　　　
「３年で参加してない奴なんてザラだろ。阿久津だって参加してないし」
　彼女である矢射子先輩に対しての誠意だろうか。少し複雑だが。
　とは言え、参加してたらしてたで腹が立つ訳だが。
「参加させた方がこちらとしては面白いんだがな。王子もそのままにしておくとは思えん――」
　不意に、安骸寺の言葉が止まった。
「…？」
　疑問に思い、オレもつられる様に視線を校舎に向けたが、その先には誰も居ないように見えた。
「どうし――「それではっ！『ラブ・デスティニー』スタート!!ちなみに実況はドキドキ学園放送部、ジ・OG！目指すは戦うアナウンサー！
明石サマンサがお送りいたしまーす!!」
「おおおおおおおっ!!!!」

　オレの言葉は、どう見ても張り切りすぎな高校生と、それ以上に張り切る元高校生の声によってかき消された。
「エロSSが浮かばなかったから、急遽借り出したな。全く、引き出しの少ない書き手だ…ん？一、何か言ったか？」
「…何でもない」
　あーあ。オレ何やってんだろう。空を見上げ、大きく溜息を吐く。

　そんな事をしても何が変わるというわけではないのだけれど。

＊　　　
　何でこんな、コソコソしなくちゃなんないんだろう。

　三年Ｃ組――ついさっき巣立った教室の、窓際の柱に身を隠しながら、あたし、一口夕利は不意にグラウンド側から感じた視線に冷や汗をかきつつも、とっさに自分のとった行動の間抜けさに、心の内で愚痴をこぼした。
　受験生だから、と断った手前今更アイツに姿を見つけられるのは、さすがに恥ずかしい。

　うー…こんなんだったら、素直に参加した方が良かったかな。
　でも、間違ってアイツのじゃないボタン取っちゃうのは嫌だし、正直扱いに困るし。
　でも。
　見守ってしまうのは、それ以上に心配になっちゃったからだ。

　　　　　　
　――今日は、やめとこう。

　ぎし、とベッドを軋ませる音と同時に頬に触れる手に目を開けると、あたしの部屋でない、だけど見慣れた部屋の天井と、少しだけ汗をかいた少年の見下ろす顔が視界に入った。
　腕立ての要領で体重をかけまいとしている少年と、あたしの間にできた微かな隙間に、エアコンの温くも乾いた空気が流れ込んだような気がした。

「え…どし、たの…？一」
　予想外の言葉に、声が途切れ途切れになりつつも尋ねてみる。
　受験勉強の合間を縫った形でのデート（改めて言葉にすると物凄く恥ずかしい）の末という、状況としては滅多にない機会なのに。
「や、その…ホラ、そんな偶の機会だからって、がっつくモンじゃないだろ？オレたちまだデート自体そんなしてないのにさ」
　あたしの上に被さっていた体をベッドの隙間へと移動させつつ、少年――乾は照れ臭そうにうなじの辺りを掻きながら答えた。

　付き合い始めのころには、押し倒そうとまでしてたくせに。思ったが、口にするのは止めた。
　初めて体を重ねた初雪の日の一件については、乾なりに気にしている出来事らしい。

　もともと正義とかそういう言葉が好きだからなあ。変態だけど。

「あたしは…大丈夫だよ？一がしたいって思うなら…」
「したくねーって訳じゃないんだ…けど、あー…」

　ごめん。呟くと乾はベッドに横たわったまま、あたしを抱きしめた。
　体と体が密着し、そこでようやく避妊具に包まれたままになっている乾の体の一部が、勢いを失ってしまってたことに気が付いた。

「……いいよ」
　ちょっとクセのある、固めの乾の髪を撫でながら、あたしは肩越しに見える恋人の部屋の中を見ていた。
　カーテンの閉められた窓。年季の入った学習机。筋トレ用の鉄アレイ。――そして。
　ぱんぱんに膨れた、真新しい紙の手提げ袋。

　ずきん。

　手提げ袋の中身を想像し、あたしの胸が痛んだ事が、どうかこいつに伝わりますように。
　心の中で願いながら、あたしもまた、目の前の体を抱きしめた。
　　　　　　　　　

　――おおおおおっ。

　窓の外から聞こえた歓声に、あたしの意識が半月前の乾の部屋から今の教室内へと戻った。
　と、同時に顔が熱くなる。ちょっと、あたし何学校で考えてんだろ。
「…始まったんだ」
　柱から離れ、再び窓から校庭を眺めると、お目当てのボタンやリボンを探す生徒や元生徒の集まりが散らばっていく姿が見える。
　
　あの中にはきっと、半月前の紙袋の中のチョコレートの贈り主も居るんだろうな――。
　考えたらまた、胸が痛んだ。

「……」
　本当に、参加しとけばよかった。
　今更考えてももう、遅いかもしれないけど。

＊　　　　　　　　
　パン。パパパパン。
「卒業おめでとう宏海！」「おめでとうお兄ちゃーん！」
「…親父、伊舞…オレもう18なんだが…」
「お、おめでとうー…宏海」
「…矢射子も。つられなくていいから」

　自宅アパートの扉を開けた瞬間降り注いだクラッカーのテープを手で払いながら、オレ、阿久津宏海は目の前ではしゃぎすぎている面々に向け、静かにつっこんだ。
　卒業式終了後次々と送られてきた『早く帰るように』のメールはこういう訳か。

「さあさあ早く着替えて着替えて！せっかく皆で料理作ったんだぞ？主役が席に着かないとパーティーは始まらないぞ？何だったら父さんが着替えるの手伝おうか？」
「うぜええっっ！」
　学ランに手を掛ける馬鹿親父を裏拳で振り切り、自室の戸を閉める。
　…卒業は確かにめでたいが、どう見てもテンション高すぎだろ。

　まあ、おかげでふざけた誘いからは逃げ出す事が出来たのだが。

　　　　　　　
　――なにーっ!?さっさと帰るだとーっ!?宏海オマエ最後のもてチャンスをみすみす逃すのか？

　三年Ｆ組教室。
　最後のHRも終わり、席を立とうとしたオレに変態三角おにぎり――太臓がかけた言葉だ。
「も、もしかしてオマエ、学校を卒業ついでに矢射子姉ちゃん相手にアッチの方も卒業って魂胆かコノヤロー!?」
「違うわ！何だその風呂デビューする卒業間際の学生DT（※例えはフィクションです）みたいな考え！
……家からも帰るようにメールが来てんだよ。大体オレはまだ受験勉強中だ。『ラブ・デス』なんぞ顔出すヒマはねえ」
「そうですよ王子。宏海は受験生です。…ついでに二人きりの部屋で、矢射子に手取り足取りナニ取り教えてもらおうという算段もあるでしょうが」
「ナニ取られてええーーーーーッ!!」
「どこの水色だオレは！」
　つーか、コイツらも受験生じゃねえのか。随分余裕だな。

　頬杖をつき、改めてクラスをざっと眺める。
　感傷的、という気分になれるほど青臭い訳でもないが、学生服姿のクラスメイトの面々と出会えるのもこれで最後かと思うと、わずかにだが胸の奥にじわりと、痛みに似た感覚が広がるような気がした。

　目の前の二人組とも――ん？
「悠、制服のボタンが無いが…オマエ、ひょっとして…」
「ああ。今年は隠す側に回る事にした。毎年毎年オレの能力を頼りにしてたら王子も成長できんだろ」
「ふーん…」
　一見謙虚なように見えるが、何か裏があるとしか思えん。
「故に宏海には『ラブ・デス』に参加して、全裸で暴れて他の連中を邪魔する役に回ってもらいたかったんだがな」
「断る!!まだ引っ張ってたかそのネタ！…冗談じゃない！オレは帰るぞ」
　これ以上付き合っていると、また言いくるめられて参加させられかねない。
　捨て台詞を残して、オレが教室を出たのが、30分ほど前の事。

　…よく考えたら、フラグ立ってたなこのセリフ。
　後で考えても遅いが。
　　　　　　　　
「お兄ちゃんいつまで着替えてんのー？」
「あ、悪い。今行く」
　――今更過ぎた事を考えても仕方ないだろ。
　着替えを終え部屋を出ると、待ち構えていた伊舞に腕を引かれて居間へと誘われた。

「やっと来たかホラホラ、主役は上座だぞ。矢射子さんも隣に座って、あ、座布団固くないかな？なんならこちらのと替えようか？」
「え、あ…大丈夫です」
「いい加減にしろ親父！ドン引きしてるじゃねえか！」
　真っ赤な顔でうつむく矢射子を横目に怒鳴る。
　今日のコイツはやけにおとなしいが、またなんか余計な事吹き込まれたんじゃないかと心配になってしまう。

「んん、えーと、それじゃあ、お兄ちゃんの卒業を祝って、カンパーイ！」
　伊舞の音頭に全員がグラスを合わし、身内と彼女によるささやかな宴が始まった。

「太臓さん達も来たらよかったのにねー」
「伊舞、お兄ちゃんはそういう性質の悪い冗談はキライだぞ」
「ささ、矢射子さんも遠慮せずに。このエビフライなんか自信作で…」
「……」
「無理して食うなよ。ん、こっちの唐揚げは矢射子のか？」
「う、うん！どうかな？」
「……うまいよ」
　いや、本当に美味い。
　美味いのだが、周りのにや付いた視線に晒されながらだと、言えるセリフも言いづらくなるものだ。

「あ、そうそう、お母さんからメールあってね、こっち来るのは仕事終わってからだって」
　巻き寿司をつまみながらの伊舞の言葉に、いい年をした中年男が硬直する。
「…こ、こっちに来るのか？」
「息子の卒業祝いだからしょうがないって。もう、お父さんちょっと落ち着いてよジュースこぼしてるよ」
　伊舞の言葉も耳に入らないほどうろたえる馬鹿親父の図。うん、いい気味だ。
　そもそも、この男も今日は仕事じゃなかったのか。閑職なのか。
「そういえば、矢射子はおふくろに会うの初めてだっけ。…オレもここ数ヶ月会ってな「わー！このアスパラ巻きおいっしー！」
「ん？宏海オマエはクリスマスの時に、向こうに泊まって来たばかりじゃなかったのか？」

　しまった、忘れてた。
　ごめん矢射子、お前のフォロー役に立ってないわ。

「あ、ああ、そうだったっけな」
「…まさかとは思うが、父さんに嘘を吐いて不純異性交遊なんてしてないだろうなあ？」
「し、してねえって！つかオッサン臭い言い回しすんじゃねえよ！」
「ふじゅんいせいこーゆー？」
「何だ知らないのか伊舞。不純異性交遊というのはだな…」
「メシ時にする話じゃねえ!!」
「ちょっ、ちょっと宏海落ち着いて」
　首を傾げる伊舞に説明しようとする父親、それにつっこみを入れるオレと諌める矢射子。
　オレの高校生活最後の昼下がりは、かなり騒々しくもそれなりに平和に過ごせていたのだ。

　――そう、あの悪魔の使いが、オレの前に現れるまでは。

「そ、そうだ！今日、卒業祝いにケーキ作ってきたの！よかったら皆で食べない？」
「へえ、矢射子さんケーキも作れるんですか？あたしも教えてもらおうかな」
　ぱん、と手を叩き、話を切り替える矢射子の話に伊舞が乗る。

　とりあえず話が替わって一安心か。

「そ、そんなたいしたものは作れないんだけどね」
　と謙遜しながら開けた箱の中には、瑞々しい桃が敷き詰められたタルトが入っていた。
　オレは料理に関しての知識など、ほとんど持ち合わせてはいないが、それでも目の前の菓子が上手にできているのはわかった。

「それじゃ、切り分けて、と。…あ、取り分け皿足りないみたい」
「おっと、じゃあ出してこようか。小皿でいいかな」
　矢射子の言葉に親父が席を立つ。
　そんな中年男の姿が台所へと消えたのを確認した伊舞が、そっと矢射子に耳打ちをするのがオレの耳にも届いてしまった。

「…ケーキをそのまま手に持って、お兄ちゃんに『あーん』なんてしたらいいんじゃない？」
「!!」
「ぶっ！」
　思わず飲みかけのジュースを噴いてしまった。
　戸一枚向こうの台所からは、どうした？と暢気な声が尋ねてくる。

「何でもなーい。…ほら早くしないとお父さん戻っちゃうよ」
　なんでノリノリなんだ伊舞。

「え…えーと、じゃあ、いいかな？」
　いや、いいかな？じゃなくて。ちゃっかり手の中に切り分けたタルト持ってるし。

　ああもう、しょうがねえ。ニマニマと笑う妹の視線に耐えかね、固く目を閉じる。
「…わかったよ。あー」

　目を閉じた暗闇の中で、口いっぱいに桃と、カスタードクリームの甘みが広がっていくのを感じる。
　オレの太ももに当たる柔らかい感触は矢射子の手か――って何考えて。
「宏海、おいしい？」
「……」
　咀嚼しつつ、テーブルの下で、オレはこっそり矢射子の手を握り返した。答えは決まっている。

　ああ。

　そう、答えようとしたのに。
『阿久津宏海』
　答えた瞬間、その声が耳に届いてしまったのだ。――聞き違う事のない、悪魔の声が。

「しまっ…!!」
「宏海!?…きゃあっ！」
　物凄い力に引っ張られていく感覚。忘れる訳がねえ。
「お兄ちゃん!?」
　遠くで伊舞の呼ぶ声がする。だが、もう遅い。
　とりあえず、とりあえずこの流れの外に出たら、あの馬鹿をぶっ飛ばそう。

『――緊急開門!!太臓を知る者来たれ!!』

＊＊＊＊＊＊
「おおーっと!?今２階の辺りでなにか光ったようですが何でしょう!?爆発とかじゃないようですね」
　――来たか。サマンサの声に、俺はビデオカメラの電源を入れ直した。
「何だ一体？」
「王子は期待を裏切らない、という事だな。さて、寒い校庭で待つのも飽きたことだし、俺は抜けさせてもらうぞ」
「え？あ、安骸寺!?」
「なんということでしょう！安骸寺君、早々と戦線離脱しましたーっ！」
　校舎から『そんなーっ！』という声が聞こえた気がするが、聞かなかったことにする。

「一、お前もいつまで律儀に待ってるつもりだ？従うだけの犬は、ただの犬だぞ」
「いやそれ普通だろ」

　確かにそうだ。だがその答えは今の場合正解ではない。

「…お前の想う相手は、待つだけじゃ捕まえられん。そういう事だ。じゃあな」
　立ち尽くす男に言い残し、俺はグラウンドを後にした。
　早くしないとオイシイ場面を撮り逃してしまう。
「――お楽しみはこれからだな」
　一人呟く口元が、自然と笑みを作ってしまう。だが止める理由などどこにもない。

　こうして、高校生活最後の一日のフィナーレの幕が上がろうとしていた。    </description>
    <dc:date>2010-10-10T08:24:36+09:00</dc:date>
  </item>
    <item rdf:about="http://www39.atwiki.jp/aquick/pages/1.html">
    <title>トップページ</title>
    <link>http://www39.atwiki.jp/aquick/pages/1.html</link>
    <description>
      こちらは２ちゃんねるエロパロ掲示板より個人的にＵＰした作品に加筆・修正して保管しております。
ＵＰした場所の都合上、18歳未満の方のご利用は固くお断りいたします。
なお、18歳以上でも原作に思い入れの強い方のご利用は控えて頂ければ幸いです。


**SS一覧（『大亜門総合エロパロ』より）　

**・連作モノ
（下に行くほど新しいです・話の時間設定は連載終了後・それぞれ話がリンクしてます）

***イヌイチ（乾×一口）
　[[１&gt;&gt;イヌイチ・１]]/[[２&gt;&gt;イヌイチ・２]]
　[[おまけ・雨宿り]]

***モモテウラ（宏海×矢射子）
　[[１&gt;&gt;モモテウラ・１]]/[[２&gt;&gt;モモテウラ・２]]

***[[続イヌイチ前編]]（乾×一口）

***[[続イヌイチ後編]]（乾×一口）

***オマツリ
　[[１&gt;&gt;オマツリ・１]]/[[２&gt;&gt;オマツリ・２]]

***[[おまけ・課外授業&gt;&gt;イヌイチおまけ・課外授業]]（乾×一口）

***[[おまけ・家庭教師&gt;&gt;イヌイチおまけ・家庭教師]]（乾×一口）
　
***[[イヌイチおまけのおまけ]]

***[[モモクリ]]（宏海×矢射子）

***ラフェスタ
　[[１&gt;&gt;ラフェスタ・１]]/[[２&gt;&gt;ラフェスタ・２]]/[[３&gt;&gt;ラフェスタ・３]]/[[４&gt;&gt;ラフェスタ・４]]

***[[ラフェスタ『蛇足』]]

***[[イチイチ]]（乾×一口）

***[[イチイチおまけ・桜香]]

**・単発モノ
（上記連作とはあまり絡みのないモノ）

***[[スケロク&gt;&gt;スケロク・１]]（スピン＆透瑠）

***バレンチ（『一九ポンチ咄』一九×桂×慎右エ門※３Ｐ注意！）
　[[１&gt;&gt;バレンチ・１]]/[[２&gt;&gt;バレンチ・２]]

　　　　　　　　　　    </description>
    <dc:date>2010-10-10T08:08:47+09:00</dc:date>
  </item>
    <item rdf:about="http://www39.atwiki.jp/aquick/pages/34.html">
    <title>イヌイチおまけ・家庭教師</title>
    <link>http://www39.atwiki.jp/aquick/pages/34.html</link>
    <description>
      ＊＊＊＊＊＊
　こんな時。
　あなたならきっと女の子を泣かすんじゃないわよって、厳しくオレを叱り付けるでしょうね。
　凛とした表情で、木刀で、背中に喝を入れながら。
　ええ、オレもそう思います。
　女の子のカラダは男より柔らかで、でも心はもっと柔らかで、傷付きやすくて。
　気付けなかったオレは、きっと今一番馬鹿なんでしょう。

　先輩。

　オレは今から、一番好きな子を抱きます。
　馬鹿でいくじなしで情けないオレを、好きだといってくれた子を、抱きます。
　傷付けてしまった心ごと、全部受け止めて。

　先輩。矢射子先輩。

　オレは、あなたが、好きでした。

＊　　　　　
　玄関の扉の前に立つ少女は、寒風に鼻を赤くさせながら、おはよう、とオレに声を掛けた。

「…おす。迷わず来れたか？」
「途中でわかんなくなって、コンビニで聞いちゃったよ。同じ町に住んでんのに、迷う事ってあるんだ
ねー」
　そう言って、一口は苦笑交じりにコンビニのビニール袋を持ち上げてみせた。
　中に入っているジュースのペットボトルが揺れ、がさりと音を立てる。
　――ジュースくらい、ウチにもあるんだけどなあ。
「何だよ、ケータイで呼び出せば、迎えに行ったのに」
「後で気がついたの。…それより乾、上がっていい？」

　頬を膨らませ、むくれる一口の言葉にオレはハッとなり、慌てて、12月の来訪者を我が家に招いた。
　目の前をすり抜けた瞬間漂った、一口の甘い匂いに、オレは胸が高鳴っていくのを、自覚していた。

「乾ん家って、共働きだっけ。…土曜日もなの？」
「ああ。昔っからだし、慣れてるけどな。あ、そこ、テキトーに座っていいぞ」
　一口の返事を背で受け、オレは学習机の上に置いてたプリントをまとめる。
　…あーもう、がっつくなオレの手！今から震えてどうする!!
「…オレの部屋、なんか変か？」
　きょろきょろと見回す一口に尋ねると、ううん、と首を振りながら返される。
　気のせいか、少しぎこちない。
　いや、気のせいじゃないのかもしれないけど。
「男子の一人部屋って、初めて入るから、どんなのかなーって。…ふふっ、本棚、漫画ばっか」
「何だよ、お前小説読むのか？」
「読むよー？今野○雪とか」
「……」

　…それは、何とかが見てるとかいうタイトルの作者じゃねーか。聞くんじゃなかった。

　部屋の真ん中に出したテーブルの上に、ばさり、とプリントの束を置く。
「一応、自分で出来るだけの事はした…つもり…だけど、やっぱわかんねートコ多くてさ」
「空白多っ！」
　ぐさり。的確さが痛いツッコミにめげそうになりつつも、オレは改めて、頭を下げた。
「いやホント頼むって一口、いや一口センセイ。提出期限、英語なんか終業式の日だしさ」
「わ、わかったって。でもさ…あたしもそんな英語得意じゃないよ？そりゃあ、分かる範囲なら教えら
れるけど。…あと『センセイ』はやめてよね」
　なんかヘンな感じだから。
　と、一言付け足し、一口は着ていたクリーム色のダッフルコートを脱いだ。

　ニットのセーターにシャツ。…下はデニムのタイトスカートと、黒タイツ…かな？

「どうしたの乾。まずは英語から始めるんでしょ？」
「へあっ!?あ…あ、うん」
　きょとんとした表情と声に、オレは我に返った。――おいおい、何やってんだ。
　服装をざっと眺めただけで、『その服をどう脱がすか』なんて不埒な考えを抱きはじめる自分の頭を
大きく振り、オレは辞書と筆記用具を、テーブルの上に出した。

＊　　　　　
　難問だ。
　目の前のプリントがどうとか言う話じゃなくて。
　いやプリントも難問だけど、それは置いといて。

　正直、高を括っていたのだ。
　（ゴタゴタの末とは言え）裸で抱き合ったり、（半ば強引に）教室でコトに及ぼうとしたりはしたの
だから、何とかなると思っていた。
　だが、頭で何度も行われていた予行演習が全て無駄になりそうな位、きっかけが掴めない。
　ああ、オレって、こんなにヘタレだったんだなあ。

「――…だから、その派生語の“surprising”は、『人を・驚かすような』とか『事柄が・驚くべき』
って意味で使うのね」
　バインダー用のルーズリーフにかりかりとペンを走らせ、一口が問題の解説をしている。
　あまり自分では気がついてないみたいだが、コイツは意外と人に教えるのが上手い。
　オレが『センセイ』と呼ぶのも、あながちでたらめではないのだ。

　…その割に成績があまり良くないらしいが、多分それは、クラスに一人は居る『ノートを取るのは上
手いが憶えがあまりよろしくない』タイプに分類されるからではないだろうか、とオレは踏んでいるの
だがどうだろうか。

「…でもこの場合は、訳が『驚いたようだった』だから使うのは『何々させられている・何々している』
の“ed”で、“suprised”になるって訳か。て事は正解は４番だな。なるほど」
　番号をプリントに書き込むと、一口はにっこりと笑い、そうそう、乾飲み込み早いねえ、と嬉しそう
に声を上げた。
「普段から真面目にやってたら、もっといい点取れるんじゃないの？」
「マジメにやっててコレで悪かったな。今回は特に居眠りのツケもあったけど、元々オレはこんななの」

　ふてくされるオレに、一口は眉をハの字にし、もったいなーいと呟いた。
「狙おうと思えば、普通に大学行けるよ絶対…って、推薦決まったからいいんだけどね。うん」

　――何が『うん』なんだろう。胸の中がもやもやする。

　近頃、一口は歯切れの悪い言葉をよく残すようになった。
　聞きたい事があるなら聞けばいいのに、無理に踏み込もうとせず、壁をわざと作るような感じで、オ
レとの間にぎくしゃくした空気を漂わせる。
　オレは、そんな空気は欲しくないのに。

「…あのさ一口、お前どこの大――「ほら乾、ここも答え書いてないよ」
　あと５枚もプリント残ってるし、なんて、困った顔で笑いながら、話題を切り替えたりなんかして。
　何だよ。
　オレはもやもやを吐き出す代わりに、席を立った。
「ちょっと、トイレ行ってくる。また頭いっぱいいっぱいになってきたし」
「はいはい」
　部屋の扉を閉め、溜息を吐く。
　しんとした廊下に吐息は逃げるが、胸の中は相変わらずもやもやでいっぱいだ。

「…んと、何だよ一口」

　ああ、難問にも程がある。英語の語句整序なんて目じゃない。
　目の前の、好きな子の事なのに、オレは何一つ分かっていない。

　――互いの進路について触れなくなるのが暗黙の了解になったのは、いつの事からだったろう。

　進路なんて、以前ならもっと気楽に話せたはずだった。
　以前――ただのライバルで、仲間だった頃なら。
　オレはその立ち位置の心地良さに、ずっと臆病になっていた。
　雨宿りの二人でいたいと願い、無理に自分の気持ちを押し込めていた。
　それがダメだと教えたのは誰でもない一口で、だからこそオレもまた、一歩踏み出すことができたの
だ。――なのに、どうして。
　新たに塞がる壁に、オレは何度立ち止まらなければならないんだろう。

　胸の中のもやもやが、どす黒い色に染まっていく。
　少しも吐き出せないまま、体の一番奥に、タチの悪い毒みたいに溜まっていく。
　――ひょっとしたら、一口はこのままオレの元を離れていくんじゃないか。
　ずっと、頭の奥に押さえつけていた、疑問が不意に表に浮かび、否定したい一心で、オレはぎゅっと
目を閉じた。
　なあ、一口。
　お前、嫌な事考えてないよな？


　部屋に戻ってからの記憶は――なぜか少し曖昧になっている。

　ただ、長いトイレだったじゃないという茶化した言葉と、散らばるプリントの乾いた音と。
　コンビニの袋ごと床に転がった、未開封のジュースのペットボトルの鈍い音だけが、頭の中にいつま
でも残っていた。

＊　　　　　
　食い尽くしてやろう。本気で思った。

　フローリングの床に押し倒し、両手をしっかり押さえつけて、オレは夢中で一口の口腔を犯した。
　柔らかい唇も、キレイに並んだ歯も、小動物のそれに似た舌も、全部オレのものにしたくて、ただ、
乱暴に貪った。
　やろうと思えば、唇や舌を噛んででも止めるくせに、一向に抵抗しない一口の姿が、オレを更に野蛮
にさせるという悪循環。

　放課後の教室の時より、凶暴で残酷な感情が、キモチ良くて、キモチ悪くて、反吐が出る。

「んぐっ――ん、むっ…ふっ、あ…いぬい…？」
　なに今更『何でそういうコトするの？』って目で見るんだよ。
　オマエだって分かってただろうが。
「あっ…ちょっ、やっ!!」
「何がヤだよ。…んむっ…前言ったよな。オマエ無防備すぎって。オレが――随分我慢してるって」
　小さな体にのしかかり、首筋に吸い付きつつ、耳元に囁く。
「だっ、ダメ！吸っちゃやあっ!!見られちゃ…」
「見えるなら見せとけよ。それとも一口、オレと付き合ってるって誰かに知られると困る訳？」

　卑怯だ。なんて自分勝手なセリフだろう。なのに、今のオレは。
「…反論しないってのは、図星かよ。ごめんな一口？でももうダメだ」
　じりじりと腹を灼く痛みにまかせるまま、欲望を吐くことしか出来なくて。

　改めて気付かされてぞっとしたが――…一口の両手は、オレの片手でも押さえつけられるほど、非力
だった。
　オレは空いた片手で一口のニットセーターを捲り上げると、シャツのボタンに手を掛けた。
　胸元のボタンだけ外し、隙間から手を差し込むと、半ばあきらめの表情だった一口の目が変わった。
「やだっ!!お願…いっ、乾やめてってば!!」
　体の下でじたばたと小さな体が動く。けど、今のオレにはそんな言葉全然通じない。

　男と女って、別の生き物だよな。
　――涙を浮かべる一口の目を見つめ、遠い所で冷静な自分がぼんやり呟く言葉が、妙に心に響いた。

「おとなしくしろよ。…っはあっ、どうせロクな抵抗なんて、出来っこねーんだから」
　息を荒げ、最低な言葉を投げつけると、手首を押さえる片手に目をやる。
　ああ、どこからどう見ても、今のオレ最低だな。
  少し腰を浮かせた姿勢を取りつつ、もう片方の手はシャツの隙間に潜り込んだ。
　もう少しで、ブラジャー越しの柔らかな感触が掌に伝わりそうだったその時――。

「いっ…いいかげんにしろーーーっ!!!!!!」
「ぐぉっ!!!?」

　みぢっ。
　オレにしか聞こえない破滅の音と同時に、一口渾身の膝蹴りが股間に、それはもう見事に命中した。
　下半身は既に興奮状態だったのだから、その衝撃たるや、説明するだけで股間を押さえたくなるシロ
モノだった。
「～～～～っ!!!!」

　脳天まで突き抜ける激痛に、意識が途切れるのを感じつつ、オレは心の片隅で、少しだけ安心したの
だった。

＊　　　　　　
　男と女って、本当、別の生き物だ。

　だからこそ、オレは一口の拒む理由が分からないし、一口にはきっと今のオレの痛みがわからない。
　…本当、痛え。急所蹴りなんて喰らったの、何年ぶりだろう。
　あーでも、今はそれよりも、もっと深いトコが、泣くほど痛い。

　畜生。こんな見苦しい自分の姿、出来るなら一生見たくなかったよ。

「……」
　一口、きっと帰っちまっただろうな。
　当然だ。あんな危険な目に遭って、逃げ出さない方がどうかしてる。
　いくら謝っても、いくら許しを請うても、もう、アイツは。

　――ことん。…きぃっ。

　？…何の…音、だ？物凄く聞き慣れた音のような気がするけれど。
「乾…まだ寝てる？」
「!!」

　――…一口!?
　少しぼやけた視界の中、学習机の前に座った一口がこちらを向いているのが見えた。
「なんっ!?…お前、帰っ…痛でででででっ!!?」
　ベッドを軋ませ起き上がった瞬間、股間に痛みが走った。――て事は、夢じゃない。
「帰ったほうが良かった？」
「い、いやっ!!全然っ!!」
　首をぶんぶん振り、オレは慌ててうかつな発言を取り消した。
「…けど、正直…逃げると思ってた、から」
「うん、正直、帰っちゃおうって思ったけど」

　きいっ。

　椅子を鳴らし、一口はちらりとプリントの束を見た。
「こんな…コトで、あんたが勉強のやる気なくしたりなんかしたら…それこそ目覚め悪いし、イライラ
してたのも、何となく、わかるし。――ごめんね、乾」
「や…一口が謝る事じゃねーだろ…」
　どう見たって、悪いのはオレだ。お前が謝る理由なんてない――言おうとしたセリフは、一口のそう
じゃなくて！、という大声によって遮られた。

　一瞬、部屋がしんと静まり返る。一口は、首筋を押さえて、続く言葉を放った。

「そうじゃなくて――さっき、乾言ってたよね。オレと付き合ってるって誰かに知られると困るのか、
って…あれ、ちょっとだけ正解。…あたしね」
　お姉さまに、知られるのが、怖いの。

　椅子の上の一口は、いつもより小さく感じた。
　実際は縮こまってるからなのだろうが、それでも、膝の上に置いた手を握り締め目を伏せる一口は、
とても辛そうで。
　見ていて、胸が痛くなった。
「…酷いよね。あたし、ずっと振り切れてるって思ってたのに、乾の傍に居ると、一緒にお姉さまの
こと思い出しちゃう時、あるんだ。乾のこと、考えたいって…思ってん、のに、乾の中に、あたしが
追い、かけ続けてた、お姉さまの面影見出したりっ、し…」

　ぽたっ。手の甲に、雫がしたたる。
　一口は、泣いていた。

「でもっ、あたし乾に、そういうの思われるのっ、嫌で…む、ね、触られるのも、どこかで比べられ
てたらっ…っく、わがままなのは、分かってるけど、思ったら、怖くて」
「もう言うな、一口」
「あたし、お姉さまみたいに、おっきくないしっ…いっく、子どもみたいだし」
「言うなって!!」
　悲鳴染みたオレの叫びに、一口はびくんっと身をこわばらせると、何度もごめん、と呟いた。

　――オレは、目の前の少女の何を、知りたがろうとしていたのだろうか。
　一つになりたい、独り占めしたいと気を焦らせるばかりで、彼女の小さな体に抱えた悩みなど、欠片
もわかってやれてなかった。
　一番好きだった人に対して、相反する感情を抱かざるを得なくなった一口の痛みなど、これっぽっち
もわかってやれなかった。

　ちくしょう。本当にオレは馬鹿だ。

「ごめん…ごめんね、乾…お姉さまも…二人にすごい、酷いコト…考えて、ごめんなさ…」
「いいから、あんまり自分を責めるな」
　オレはベッドから降りると、泣きじゃくる一口の前に立ち、そっと抱きしめた。
　背中を軽くたたき、落ち着かせるように促すと、耳元に唇を寄せ、言葉を紡ぐ。

　自分にも、言い聞かせるように、一言一言、力強く。

「…オレは、確かに矢射子先輩が好きだったよ。多分、あの人が与えてくれたものは、ずっとオレの中
に残ると思う。少しずつ、姿を変えながら。――無理に消し去ろうとか、するもんじゃなくてさ、肌に
なじんだシャツみたいに、自然な形で溶け込むようにな。…一口もさ、無理に振り切ろうとかすん
なよ。オレは、オレだから先輩の代わりにはなんねーけどさ」
「……」
「オレの中に、先輩の面影があるってのは…正直、ちょっと嬉しかったよ。オレも先輩みたいになれた
らって思ってたから――あ、でも、これだけは忘れんなよ？」
「なっ、何？」

　いきなり身を離され、一口が目を丸くする。
　あー…やばい。すごく、この表情、イイ。

「オレは、誰でもない、一口夕利が好きだってこと」

＊　　　　　
　カーテンを閉め切った部屋は暗いが、昼間ということもあり、何も見えないというほどではない。
　そんな中、オレと一口はお互い下着姿のまま、パイプベッドの上に向かい合って座っていた。
　白地に桃色の飾りのついた、上下お揃いの一口の下着はとても愛らしかったが、それよりもその中が
気になってしょうがない。
　…って、いかんいかん。また暴走する気かオレ。
「え…と、その…優しくしてね」
　月並みな一口のセリフも、今のオレを見透かされてるみたいだったので、オレは馬鹿みたいに何度も
首を上下し応えた。

　近付いて、そっと首筋に触れる。
　さっき自分が吸い付いた場所は、鬱血し、白い肌に紅い花を咲かせていた。
「痛い？」
　指で痕をなぞると、一口はくすぐったそうに目を閉じ、ううん、と答えた。
「いまの乾の指、気持ちいい…」
　ぽすん、とオレの胸に寄りかかり、言葉をこぼす一口が可愛くて。
　もっと気持ちよくさせたくて、オレは柔らかい頬に、小さい貝殻みたいな耳に、クセのない髪に、キ
スの雨を降らせた。

「――…ん…」

　そして、さっき力任せに貪った唇を、今度は優しく重ね合わせる。
　さっきはただ、なすがままにされていた一口の舌は、オレの口の中にもこっそり入り込み、薄暗い部
屋に、吐息の音と水音が響いた。
「んむぅ…ふ、んん、く」

　…ああ、やっぱり、やらしいな。　　　
　一心に舌に絡み付こうとする一口の表情は、とろとろに蕩けきっていて、さっき蹴られた場所に血が
集まっていくのが、イヤでもわかる。

　そっと背中に手を回し、ブラジャーのホックに触れると、一口の肩がぴくんっ、と動いた。
　――まだ、怖いかな。
「…嫌？」
　尋ねると、胸元に直接、ううん、と返ってきた。

　壊さないように注意しながらホックを外し、肩紐をずらすと――ささやかながら、丸みのある一口の
胸が、オレの視界に飛び込んだ。

　掌にすっぽり収まる乳房は、確かに小さいけれど、ふわふわしていて、男のや、子どものとは明らか
に別物だ。
「…柔らかい、ん、だな。スベスベしてて、すげ…キモチイイ」
「んあ…っ、あんまり、強く揉んじゃやあっ…痛っ…」
　――痛いのか。オレは慌てて手を離し、ゆっくりと、狭いベッドに一口を横たえさせた。

　そのまま、身体に覆いかぶさるような形で上に乗り、乳房にもキスをする。
「一口の胸、甘いんだ。…オレ、初めて知った」
「えっ…そ、そう、なの？あっ、わかんないよそんなのっ！」
　出来るなら、足先から髪の先まで、余すとこなく唇を這わせて、味わいつくしたかったけれど。
　さすがにそれは嫌がられそうだったので、自重した。

＊　　　　　
　――全く、ロリコン趣味じゃないとか、未成熟とか言ってたのは、どこのどいつだよ。
　もし今、あの頃のオレが目の前に居たら、有無を言わさずぶん殴るだろう。
　いや、ロリコン趣味じゃないのは変わってないけどな。
　けれど――今、目の前に居る女の子のカラダは、明らかに子どもとは違う。

「あ…はぁっ、それっ、ぞくぞくするのぉっ…！」
　脇腹を触れるか触れないかのギリギリのラインで弄びながら、へそを舌で責めるたび、頭上に降って
くる声には、甘さと、ほんの少し重めの艶っぽさがある。
　こんな声、子どもになんか出せやしない。
　かと言って、他の女子に出されても困る。

　コイツじゃないと、駄目なんだ。

　くちゅん。

「―――っ!!!」
　ショーツの上からちょっと触ってみただけだったのに、一口の一番熱い所は、びっくりする位潤んで
いて、桃色の飾りのついたショーツのクロッチ部分だけが、水に濡れたみたいにぐしょぐしょだった。
「すげー…びっしょり…」
「っ…!!やあっ、見ちゃだめっ！」
　見られまいと閉じようとした一口の脚の間に、オレは膝を割り入れる。

　どくん。どくん。

　オレ…で、こんなになってくれたんだよな。…やばい、泣きそう。
「脱がすぞ」
「う、うん」
　返事と同時に腰が浮く。ショーツは一筋、透明の糸を引きながら、一口の体から離れていった。

　どくん。どくん。

　スリットが透けて見えるくらい、淡い陰り――その下に、熱い蜜を湛えた小さな花が咲いていた。

　以前見た時とは、状況が違うからだろうか。何か、別物のようにも思えた。
「い、乾…？」
　おそるおそる声を掛ける一口に、オレは軽く飛ばしていた意識を取り戻した。
「ん、どうした？」
「…あたしの…その、ソレ…ヘンかな？」
「い、いや…って、わかんねーよ。オレ、女の…ココ見るの、初めてだし…」
　厳密に言えば、一口以外のを見た事ないし。

　時折ひくひくと蠢いては蜜をこぼす、小さくも淫らな花の仕草があまりにもやらしくて、切なくて。
　オレは誘われるように、唇を近付けた。

「ひゃあっ!?乾それダメっ、汚いっ…!!」
　頭を挟み込む両脚が、びくんっと跳ねるのが分かった。

　ちゅぷっ。くちゅん。ちゅるっ。

　口の中がぬるつく。
　ほんの少しの塩気と、酸味と、むせ返るほどの女の匂いに、頭の中がぐらぐらと煮え返りそうだ。
「お願い…だからっ、やめてよぉ…っ」
　一口の手がオレの頭を離そうともがくが、オレは離れたくなかった。

　もっと触りたい。もっと味わいたい。
　身も心も、一つになりたい。
　ずっと、ずっと――おそらくは、初めて肌を合わせたあの雨の日から――思ってたのだから。

「ふっ…んっ、くっ、んんんっ」
　唇より柔らかくてぷるぷるした花弁にキスをし、赤く熟れた小さな実を唇でついばみ、とめどなく蜜
をこぼし続ける芯に舌をねじ込む度に、一口の体はびくびくと跳ね、くぐもった鳴き声が頭のてっぺん
に降ってきた。

　あ…やべえ…オレ、これだけでもイきそう。
　蹴られた痛みも吹っ飛びそうな快楽に、下着の中がぐちゃぐちゃになってるのが分かった。
　でも、出来るならこの中でイきたい。
　誰でもない、一口の中で。

「――…ぷあっ。いぐち…」

　ぎくり。

　無我夢中で、舌がふやけそうになる位堪能したオレは顔を上げ、一口の名を呼ぼうとし――。
　…硬直した。

　真っ赤な顔の一口は、目の端に涙をたたえつつ、声が漏れないように片手で自分の口を押さえ、ふる
ふると、しゃくり上げるように震えていた。

　ひょっとして――いや、ひょっとしなくても今オレがやったことって、一口には物凄く恥ずかしい事
だったんじゃないか？
　わああっ！どこまで自分勝手なんだよオレ！舌の根も乾かない内からっ!!
　思い至り、オレは青ざめた。

「あっ！わ、悪い…オレ、やりすぎた…よな？」
　謝ると睨まれた。――今更、童貞の好奇心でした、じゃ済まないよな。
「……ごめ「…ばか。ヘンなとこで醒めないでよ」
　ぽかり。頭を叩かれる。…えーと？

「…続けていいってこと？」
「聞かないの」

＊　　　　　
「そーっと、だからね。そーっと」
「お、おう」
　枕の下に隠していた（一口には呆れられた）避妊具を装着し、オレはガチガチに固くなってしまった
モノを握ると、熱くぬかるんでいた一口の入口に、先端を擦りつけた。

　くにゅり。

　ゆっくりと円を描き、拡げるようにしながら先端を少しだけ潜り込ませる。
　裏側にぞわり、と柔らかいものが這うような感触。

「…うおっ」「つっ!!」

　思わず声が漏れた。
　先しか入ってないのに、イきそうになってしまうのを、腹に力を入れ、崖っぷちギリギリで耐える。
　ぬるぬるで、きゅうきゅうで、キモチイイ。
　入口だけでこんなんだったら…全部入れたらどうなっちまうんだよ。

　どくん。どくん。どくん。

　知りたい。感じたい。――もっと、もっと。
　一口の中に入りたい。
　ごくり、喉を鳴らして生唾と、ともすれば飛び出しそうに感じる心臓をムリヤリ押し込むと、オレは
ゆっくり腰を進めた。
　少しずつ、必要以上に傷つけないように。

　ずっ。
「あっ」
　ずぬっ。
「あうっ」
　…ぐっ。

　――微かに感じる抵抗。これを越えたら、もう。
「…いいか？」
　荒ぶる息を抑え、オレは体の下の一口に尋ねる。
　一口は、泣き出しそうな目でオレの顔を見ると、小さくうなずいた。
「いいよ、乾――来て」

　あたしの奥まで、乾でいっぱいにして。

　最後のセリフは声になっていなくて、ひょっとしたらあれは、オレの幻想の中での言葉だったのかも
しれない。
　だけど、確かに聞こえたのだ。
　少女だった一口の、最後の言葉が。


「――っ!!!!」
　ぎしいっ、と大きくベッドが軋んだ。
　一口の目はきつく閉じられ、初めて受ける衝撃を必死で耐えているのが、痛いくらい伝わってくる。
「あっ…くうっ、うあはぁっ!!!!」
「はっ…あっ」

　すごい。すごいすごいすごい。
　あんな小さなトコが目一杯開いて、オレのを一生懸命に包み込んでる。
　一つになるって、こういうコトなんだ。
　紅に滲む、繋がった部分を目にし、オレは最初にそんな子どものような感想を抱いた。

　一口の中は、熱くて、柔らかくて、そのまま溶けてしまいそうな程、気持ちよかった。
「……っ、くうっ、うっ…」
　けれど、脂汗を浮かべ青ざめた、痛々しい表情を見ていると、自分だけ気持ちいいままでいいのかと
いう罪悪感が沸き起こってくるのも、また事実だった。
　痛いか？とか大丈夫か？なんて答えがわかりきっている言葉なんか掛けたくなかったし、かと言って、
このまま腰を突き上げるなんて出来ない。

　――結果、一口の呼吸が落ち着くまで、オレは指一本動かせないままだったのだけど。

「…っ、はあっ…ね、え…まだ…入ってる？」
　まだ少し、息を途切れさせつつも尋ねる一口に、ああ、と答える。
　ゆっくり肘を曲げ、一口の体の上にぴったりと被さると、胸にオレのものじゃない鼓動と、下半身に
くにっとした衝撃が伝わった。
「…一口の、奥まで入ってる」
「んんっ」
「我慢すんなよ。…しばらく、こうしてるから。こうしてるだけでも、オマエん中、スゲー気持ちいい
から」

　幸か不幸か、さっき受けた一撃は未だ尾を引いていて、こちらもあまり激しい動きは出来そうもな
かった。
　痛みと快楽がごちゃ混ぜなのは、オレもまた同じなのだ。

　…と、正直に口にする程、オレも恥知らずではない。
　代わりに涙に濡れた一口のまぶたに何度もキスを落とし、少しでも破瓜の痛みを和らげようと試みる。
「きゃっ…やんっ、ちょっと、くすぐったいよ」
　くすくす笑いながら、一口は首を振るが、オレはなおもキスを続ける。
　お腹の動きがダイレクトに下にも伝わり、きゅんっと締まる中が、少し痛くて、かなりイイ。


　――ありがとう。オレは声にせず、心の中で一口に礼を言った。
　オレの傍に居てくれて。
　オレを好きになってくれて。
　オレと一つになってくれて。
　本当に、本当にありがとう。

＊　　　　　　
「…ね、動いてもいいよ」
「ん？無理しなくてもいいっての」
　こちらにしてみれば、まだ苦しそうな体を労わるつもりで言ったセリフだったのだが、相手には不満
だったらしく、また頭をぽかりと叩かれた。
　いてーな。
「アンタって、本当…我慢強いよね、マゾだから？…でもさ、少しくらいは、無理、させてよ」
　つうっ、と背中に回されていた一口の手が、オレの背筋をなぞる。
　…いや、マゾ云々は今は無関係だと思うぞ？
　頬を赤く染めた一口は、ちょっと口ごもったあと、オレの耳に唇を寄せた。
「あたしだって…はじめ、のが、欲しいって思ってんだから」

　――ん？

「今、何て言った？」
　この声では耳慣れない単語に聞き返すと、一口は顔を真っ赤にさせ、何度も言わせないでよ！と三度
オレの頭を叩いた。
「もうっ、一のバカっ！」
「……」

　どうしよう。
　恥ずかしがりつつも、オレの名前を呼ぶ娘が、可愛すぎて、愛しすぎて――。
　めちゃくちゃにしたくなる。
「…夕利」
　かすれ声で名を呼ぶと、相手も一瞬驚いた表情を見せ、それからふわりと微笑んで、どうしたの一、
と返す。なんだよもう。反則じゃねーか。
「夕利、夕利、ゆ…り」

　呼ぶたびに、切なさが胸から溢れ出していくのがはっきりわかる。
　オレは、目の端に浮かんだ涙を見せまいと、小さな体を抱きしめると、ゆっくり腰を動かし始めた。

「くふっ…う、んっ」
　ベッドが軋む音と、荒い呼吸の音と、体と体がぶつかる音と、粘ついた水音が、部屋の中でやらしい
セッションを奏でる。
　オレはただ夢中になって、愛しいカラダを全身で感じていた。
　最初はゆっくりだった腰の動きも、徐々に激しさを増す。
　理性のブレーキはとっくに壊れ、脳内麻薬が痛みを消していた。
　引き抜こうとすれば絡み付き、喰らいつかんばかりに離そうとしない淫らな花は、挿しこむ時には、
柔らかく受け止めてくれる。
　こんな感覚、知ってしまってはもう戻れない。戻る気も起こらない。

「あっ…あっ、一っ、激しっ…」
「夕利、夕利っ、好きだ」
「――…っ」

　背中に回していた腕に、力が入る。
　オレは繋がったまま夕利を抱えて起き上がると、座った状態で再び腰を突き上げた。
「はあっ…！はじめっ、一っ、好きっ、大好きっ！」
　がくがくと夕利の体が震え、中できゅうううんっ、と締め付けられる。
「くあっ…夕利っ、出るっ！」
「来てっ！はじめ…んああっ、ああああっ!!」
「うくっ…ううっ！」

　どくんっ！どくんっ!!どくんっ!!

　体の芯が爆発するんじゃないかって思ってしまう程の、激しい衝動がオレの中を駆け巡り――。
　流れに任されるまま、オレは、誰よりも愛しい娘の中で絶頂に達した。
「ああ…っ、好き、はじめ…好き、すき、だよ」
　オレの衝動を、しっかり受け止めている間、夕利は何度も『好き』と繰り返し、囁いていた。

　唇から紡がれる声は、甘くて、切なくて、少しだけ苦しそうで、でもかなり誇らしげな、『女』にな
りたての、夕利の声だった。

＊＊＊＊＊＊
　えーと…確かこの引き出しだったと思うんだけどな。
　がさごそと、机の引き出しの中をあさるオレの背に、ドアの開く音と何やってんの、という声が投げ
かけられたのは、事を終え、昼も大きく過ぎた頃だった。
「夕利。――血、止まったのか？」
　振り返り声の主を見ると、シャツとタイトスカート姿の夕利は、かあっと頬を赤らめた後渋面を作り、
オカゲサマデ、と感情のこもらない返事をした。

　…やっぱり、まだ怒ってんだろなあ。

　はじめての女の子を抱いた場合…その、痛みと同時に血が出るって事位は、オレも知識として知って
いる。
　痛みの有無や、血の量に個人差があることも。

　そして、夕利の場合は。

「…アレの時以外に着けるなんて思わなかったわよ、ホント」
　と何度も愚痴るほど血が止まらず、二人揃って慌てふためき――今に至る訳で。
「はあ…」
　いや、その生理用品、家にあったやつなんですけど。
　オレは変な所で生々しいモン知っちまった訳ですけど。
「まだ一のが入ってるみたいで、歩きにくいし。優しくしてって言ったのに」
　ハイ。その通りです。返す言葉もございません。
　帰りは自転車で送りますので、どうぞご容赦くださいませ。

「…言っとくけど、他の女のコ、こんな風に泣かせたら、承知しないからね」

　…がしゃん。「ぎゃんっ!!」
　加減が効かず、思い切り開けてしまった引き出しが抜けて足の甲に落下する事態に、オレは情けない
悲鳴を上げた。
「いってえーー…夕利！何急にバカな事言い出すんだよ！」
「バカじゃないよ！…こんな痛くて痛くて、涙も出なくなるくらい痛い目に遭わせるのは、あたしだけ
にしなさいって言ってんの!!」
「…え？」
　スミマセン意味がわかりません。
　まぬけ顔のオレに、夕利は長い溜息を吐くと、もういいよ、と諦めたような呟きを漏らした。

　意味がわかったのは、日も暮れた頃、ベッドに横になっていた時で、その何とも彼女らしい独占欲の
現われと、ベッドに漂った残り香に、オレは一人、悶える事になるのだが、それはまた別の話だ。

「それよりさ、何やってんの？」
「ん？…あ、あったあった。――はい、これ」
　散乱した引き出しの中身から、見覚えのある封筒を拾い上げると、オレはそのまま夕利に手渡した。
「何？」
「オレが行く、大学のパンフレット」
　言葉に夕利の表情がわずかに固くなる。
「――って言っても、オレもまだあまり読んでないんだけどな。…ざっと見た限りじゃそんな遠くない
トコだし…その」
　こういう時、上手く言えなくなるのは何故だろう。
　耳まで熱くなるのを感じつつ、オレはとにかく読め、と夕利に薦めた。

　ぎしっ。
　ベッドに腰掛け、夕利が封筒を開ける。
　何とも言えない気恥ずかしさを感じたオレは背を向け、机上のプリントと、ちまちまとした文字の書
かれたルーズリーフに目を落とした。
　英文の解説が書かれたルーズリーフは、オレが寝てるうちに書いたものか。
　――本当、変なトコで現実的なヤツ。
　丁寧に、色分けまでされた解説文に、オレは目を細めた。
「…な、夕利。オレ、大学行ってからも、お前とこうしてたいって思ってんだ。会う機会は減るかもし
んねーけど。…それでも、お互い辛い時や嬉しい時に、傍に居られたらって」

　そして、もしも叶うなら――…なんて考えるのは、やっぱり妄想のしすぎだろうか。

「…夕利？」
「――で、一は『ギャクウシロコテシバリ』なんかされながら、『キュウビムチ』でしばかれて、
『ローションリョウアシバサミ』で、責められたりしたいの？」
「へ？」
　な、ナ、何言ってんのかな？
　嫌な予感に、オレはもう一度足元に散らかったプリントやらCDケースやらの跡に目を遣る。
　――げ。
「い、いいやっ!!夕利、そっちじゃなくてこの封筒だ!!それ違う!!」
　そうだ。それは――封筒は似ているが、中身はオレが長年お世話になった夜の友（入手経路について
は極秘とさせてもらう）で。
　下手に隠し場所に凝ろうとしたのが、逆に首を絞めるハメになるとは。
「『魂の暗部を狙撃する雑誌ス○イパー』ねえ…。一、やっぱりこういうの読んでたんだ」
「そ…それは…えーと」

　うわあ。一口サン顔、物凄く怒ってません？怒ってますよね。
　あ、総ページ数400の雑誌が一瞬で真っ二つに。さらば夜の友。

「言い訳するなぁーーーーーっ!!!!バカ犬っ!!」
「ああはぁああ～～～～んっ!!!!」

　曇天の土曜日、昼下がりの住宅街に、ド派手なビンタ音と嬌声が響き渡る。
　――そして、それから数十分後には、大学パンフレットを見た夕利による、素っ頓狂な大声も。

　冷え込んだ12月の空は、この冬最初の雪を街に降らせ、本格的な冬の到来を。
　そして、その先にある、春をも予感させた。    </description>
    <dc:date>2008-06-23T13:02:38+09:00</dc:date>
  </item>
    <item rdf:about="http://www39.atwiki.jp/aquick/pages/27.html">
    <title>続イヌイチ後編</title>
    <link>http://www39.atwiki.jp/aquick/pages/27.html</link>
    <description>
      ＊＊＊＊＊＊
　その人の名前を知ったのは、生徒会選挙の日。
　共学で、女子の生徒会長候補者なんて、珍しさから結構気後れしてしまうものなのに、演説の壇上に
上がったあの人の瞳は真っすぐで、あくまで毅然としていて。
　――この人が会長になるんだ。投票前からあたしは確信していた。
　実際会長に決定した時、あたしは自分の事のように嬉しくて、その日は眠れなかった。
　いつかあの人に近づきたいと思っていた。
　あの人の傍に立って、あの人に振り向いてもらって、あの人に触れて――。

　――けれどあの人は、あたしじゃない、違う人を見ていた。
　それは、誰よりもあの人を見ていたあたしが知る、残酷な真実。

＊＊＊＊＊＊
「ふあぁ…あああふっ」
　朝もやも漂う通学路には、学生の姿なんてまだない。運動部の朝練に向かう部員が関の山だ。
　そんな中を大あくびしつつオレは、早朝の補習を受けに学校へと向かっていた。

　――元々お前は身体的に推してしかるべき能力を有している。が、私の推挙を得るならば、もう少し
鍛えた方が良いだろう。

　数週間前の体育教官室で鉄アレイ（12キロ）を軽々と持ち上げながら、体育教師・ルリーダが微笑み
と共に語りかけた言葉に端を発するこの補習だったが、何か騙されている気もしなくないのは、オレの
考えすぎだろうか。
　――いや、疑っちゃいけないよな。
　先生だって放課後は部活があるからって、わざわざ朝に時間割いてくれてるんだし。
　でもなんで先生の机、『打倒　あいす』なんて貼り紙がしてあるんだろうな？

　つれづれと考えつつも、気が付けば学校にたどり着いていた。
　――おっと、ダメだ。今日は直接体育館に行っちゃいけないんだよな。
　慌てて向きかけた足を職員室方面へと向き直し、オレは立ち止まった。

　――っ、もう…家すぐそこだから。

　昨日、オレが何の気もなく出した手を拒んだ一口の表情が、脳裏をよぎる。
　一瞬だけ見えた、泣きそうな、困ったような顔。
　オレのうしろめたい部分をえぐるような目をしていた。
「…」
　気付い…たのかな。放課後の教室で、オレがやっちまったコト。
　何であんな事をしたのか、自分でも理由が分からないのが更に苛立たしい。

「失礼します」
　職員室の扉を開け、声を掛けると丁度クラス担任が電話応対をしている所だった。
　いくつもの鍵が掛かっているコーナーから自分のクラスの鍵を取り出し、そのまま出て行こうとした
時、かちゃりと受話器を下ろす音がした。
「おい乾、ついでに日誌も持って行け。――今日、一口休みだから」
　――え？
「休み、ですか？」
「うん。風邪だって、さっき連絡が入った。残念だったなあ。あいつ今まで皆勤賞だったのに」
「…はあ」
　学級日誌もついでに受け取りつつ、オレは担任の独り言をぼんやりと耳にしていた。
　やっぱり、体調崩していたのか。妙に赤い顔してたもんな。

　でも。
　それでもやっぱり、アイツが休んだのはオレのせいじゃないかなって、心の隅で思った。
　多分、それは間違いじゃない。

＊＊＊＊＊＊
　ぴぴぴぴ。ぴぴぴぴ。ぴぴぴぴ。

「38度２分、結構高いわねえ。…お母さん休んで病院いこうか？」
「いいよ別に…けほっ、薬飲んだし寝てたら治るから」
　枕元で中腰の姿勢のまま顔を覗き込む母親に、あたしは咳き込みながら言葉を返した。
「パートだって、そんな気軽に休めるものじゃないんでしょ？」
「でも夕利、ここ数年風邪なんて引かなかったじゃない」

　子離れ出来てないなあ。

　冷却シートを額に貼る、ひやりとした指先を心地良く感じながらも、ちょっとだけむず痒さを憶えて
しまう。
「大丈夫だって。あ…そうだ、仕事の帰りに桃ゼリー買って帰ってくれると嬉しいな」
　半分割りのがごろんってしてるの。

　そう言うと母親は、根負けしたのを認めるかのように大きく溜息を吐くと、お粥は台所にあるからね、
と呟いて立ち上がった。
「それじゃ、体はあっためなさい。――行ってくるから」
　ぱたん。部屋のドアが閉まり、あたしはゆっくり目を閉じた。

　頭の中がもやもやする。寝ているのに陽炎の中に立っているような、変な感じ。

　…風邪で学校休むなんて、何年ぶりだろう。
　少なくとも高校に入ってからは一度も休んだ事はなかった。
「けほっ」
　寝返りを打つついでに、枕元の充電器に差し込んだままの携帯電話を手にする。
「――…ごめんなさい」
　着信履歴には、一件の不在着信。
　『お姉さま』と書かれた着信履歴に向け、あたしは小さく謝った。

　昨日は、結局電話には出られなかった。
　何度もポケットの中で鳴る『DESIRE』を聞きながら、あたしは、あたしの中でざわめいていたよく分
からないものに対して戸惑う事しか出来なかったのだ。
　そんな状態ではマトモな受け答えなんて出来やしない。
　――きっと、余計お姉さまを困らせる。

　それは、嫌だった。
　今までの自分なら、どんなにいっぱいいっぱいでも、無理して喋っていただろうから尚更に。

　お姉さま。今のお姉さまを受け止められるのは、あの男だけなんですよね。
　――あたしじゃ、ないんですよね。
　考えて、涙が出た。一人だけの考え事は、感傷的になりすぎて困る。
　今の『かわいそうな自分に酔う自分』を止めたいのに、いつまでたっても止まらない。

　せめて、隣にアイツが居てくれたらいいのに。
　悲劇の主人公はオマエだけじゃねーだろって、軽くたしなめてくれたらいいのに。

＊＊＊＊＊＊
　頭の芯がぼんやりする。…眠い。体中に回った疲労感が眠気を更に助長させる。

　ルリーダ先生の今日の補習内容はウォーミングアップ代わりの鉄球避け30セットの後、徒手空拳組手
10本だった。――これ本当に補習だよな？
　どういう推薦の仕方をするのか少し気になるのだが…それより今は眠気と闘うのが先決だ。
　オレは、日誌の一ページをシャーペンの頭で叩きながら、気を抜くとがくりとなってしまう現状を、
崖っぷちスレスレで耐えていた。

「乾珍しいじゃーん。今日は寝てなかったよ」
「やれば出来る子だったんだねえ。エライエライ」
　…子ども扱いするなよなあ。同級生なのに。
「オレだって、鼻にキンカン塗るなんて言われたら起きるっつーの」
　くさりつつ言い返すと、今時キンカンって、と笑われた。
　あれ？キンカンって一般的じゃないのか？

「あ、今日一口さん休みだっけ。乾日誌ちゃんと書いてんの？」
　手元の学級日誌を目ざとく見つけた女子が、尋ねる。
　書いてるよ、と答えると、他の女子がそっかーじゃあ今日はＳＭショーは無しかー、とぼやいた。
「あれ面白いんだけどねー。アタシ達だと『えっ？いいの!?』って気になるけど、一口さん、いい意味
で遠慮ないから」
「そうそう」
　かつん。ページを叩く手が止まる。
　…改めてクラスメイトからアイツが休みだと聞かされるのは、何か変な気分だ。
　目の前の席は、ただの机と椅子でしかないなんて。

「…」

　何考えてんだろオレ。溜息を吐きつつ、オレは席を立った。
「あれ？乾どこ行くのー？」
「…眠気覚ましにトイレ行ってきます」
　何で敬語まじりなんだろ。多分これも眠気のせいだ。

　眠気覚ましついでに顔でも洗うか。
　軽い気持ちで足を踏み入れた三年男子トイレには、２名の先客が居るようだった。
「…でもよー。ここのSS、オレ出番少なすぎじゃね？オレ一応本編じゃ主役よ？」
「しょうがありませんよ。何せ王子の場合、ハードルが高いともっぱらの評判ですから。コレの書き手
など、『刺身セットの菊みたいなモンで、食っていいかどうかさえためらう』と周りに愚痴っていたそ
うですし」
「菊ぅー？あれ手抜いてるヤツってプラスチック製じゃねーの？…ハッ！つまりオレは三次元でこそ映
えるプラスチックドールってやつなのか？」
「違います」
　Ｆ組の百手太臓と安骸寺悠の二人は、普段から良く分からない会話を交わしているが、今日のはとり
わけ分からない。
　いつもならもう一人居るはずのツッコミ役の姿が居ない事もその理由だろうか。

　…まあ関係ないけど。オレは気にせず隣に立ち、小用を始めた。

「今だったらオレが傷心の伊舞なぐさめるSSリクエストするね…っと。…ムフフ、宏海のヤツも、今の
フヌケ状態なら簡単に伊舞引き渡しそうだしな」
「そうですね。身から出た錆とはよく言った物ですが。…矢射子と伊舞に同時に嫌われるとは、とこと
ん不運な男ですね」

「――!!」
　眠気が吹っ飛んだ。微妙に説明臭い会話だったが、そんなのはどうでもいい。
　阿久津が――矢射子先輩に嫌われた？

「そ、それどういう事だよ!!」
　オレは振り返り、既に手洗い場に立った二人に向け叫んだ。

　三年男子トイレに「ソルカノン充填120％!!?」「ヤツの弱点は雷です!!王子、早くサンダラを唱えて
ください!!」という絶叫が響いたのは、また別の話だ。

＊＊＊＊＊＊
　最初に好きになったのは、物怖じしない強いまなざしだった。
　凛とした表情を、更に強く見せる眼光――あたしの周りにそんな人、今まで居なくて。

　だから好きになった。

　性別がどうとか、関係なかった。ただ、触れたいと、欲しいと思った。
　形のいい唇からこぼれる、メゾソプラノの声も、白くて細い指も、ポニーテールに結い上げた髪も、
全部、全部。

「…んっ」
　いけないコトだと分かっていながら、自分で自分のカラダを弄る事を覚えたきっかけも、お姉さまを
想ってだった。
　声が漏れないよう、布団の中に潜り込んで、パジャマのボタンの隙間からそっと胸を触る。
　薄っぺたいあたしの胸は、汗でじっとりとしていた。

　お姉さまの胸はすごく大きくて柔らかい。
　服の上からしか触った事ないけれど、桃みたいな甘い香りがする柔らかな谷間は、あたしの頭ですら
すっぽりと包んでくれそうだった。

「はっ…あ、くふっ…」
　吐息で熱がこもる暗闇の中、あたしの指は更に下へと降りていく。
　片手を胸に当てたままショーツの上から触れた部分は、じっとりと熱くなってて、指先がすこしぬる
ついた。

　――ぷちゅん。

「……っ!!」ショーツに手を入れ、濡れた場所に直接触れた瞬間、快楽に背がくうっと引きつった。
　女の子なら誰でも持ってる、熱い部分。
　あたしにも、そしてお姉さまにだってある、大切なトコロ。
　――今、あたしの指は、あたしを弄びながら、お姉さまをも弄んでいる。
　そう思うとドキドキが止まらなかった。
　ぷちゅくちゅと粘ついた水音が耳を、布団中を熱くする吐息が肌を責め立てていく。
「…っ、あっ、あっ、くぅっ、ん――…」
　お腹の底が切なく疼く。波が、もうすぐ、来――。

　――…先輩が例え阿久津のモンになっても、先輩はオレの憧れだ。

「っ!!」
　いきなり頭の中に飛び込んできた声に、あたしの指が止まった。
「い…ぬい…？」
　布団から顔を出し、名前を呟く。外気の冷たさが火照った頬に容赦なく染み込んでくる。

　それは、昨日の記憶だ。放課後の教室で、アイツがあたしに向けて真っすぐ言い放った言葉だ。
　けれど、今のいけない一人遊びを止めるには十分な力を持つ言葉でもあった。
「…シャワー浴びよ」
　のろのろと起き上がり、すっかり用をなさなくなった冷却シートを額からはがす。
　時計の針は既に正午を回っていた。

『～♪』
　携帯電話から再び『DESIRE』が流れたのは、そんな時だった。

＊＊＊＊＊＊ 
「…じゃあ、一口も話聞いたのかよ」 
　放課後の誰も居ない教室は、意外と声が響く。 
　オレは気が付いて慌てて声のトーンを落とした。 
「いや、オレのは安骸寺たちからの又聞きだけど…じゃあもう少し話、詳しく聞かせてくれるか？」 
　風邪をひいて喉を痛めているにも関わらず、一口はオレの要求に応えて、昼間掛かったという矢射子 
先輩からの電話内容を教えてくれた。 

　この前の日曜の事だ。 
　その日、矢射子先輩は阿久津の家に招かれたという。 
　家族――阿久津は父親と二人暮しらしい――との初めての顔合わせとなった訳だが、多少緊張しつつ 
も、顔合わせは和やかに行われていた。 
　時折、阿久津とその父親の間に、過剰とも思えるスキンシップがあったらしいが、それはオレの知り 
たい話じゃないので割愛させて貰った。 

　さて、問題は昼に起きた。 
　昼食時となり、料理の腕には自信のある先輩は、すすんで台所に立ち、三人前の昼食を手際よく作り 
上げていった。 

「…うらやましいな」 
『あたしもそう思うけど、まだ話終わってないよ乾』 

　その日の献立は、鶏の照り焼き、蕪とがんもどきの煮物、小松菜のおひたしに三つ葉を散らしたかき 
たま汁――。 

「…腹減ってきたんですけど」 
『馬鹿言ってると切るよ？』 

　前もって特訓していた甲斐もあってか（一口曰く、女の子の努力というらしい）阿久津の評価は上々、 
父親も、口数少なくなりつつも、きちんと平らげたそうだ。 
　そして、この父親は食後の茶を啜りつつ、こう言った。 
　――いやあ今度の彼女が料理上手で良かった。前の彼女はとてもじゃないが、上手とは言えなかった 
しな？宏海。 

「今度の!?」 
　オレはうっかり大声を出してしまった。電話の向こうで乾ウルサイと言われ、口を押さえる。 
『なんかあたしが思うに…けほっ、そのお父さんが結構変わってる気がするんだけどね。…それでも、 
お姉さまには寝耳に水な話よね』 
「あー…確かに寝てる耳ン中にミミズ入れられたら驚くよなー」 
『…切っていい？』 

　なぜか怒りだした一口をなだめつつ、話は続く。 
　がちゃん、と片付け中の食器を落としながら、先輩は当然阿久津に問い直した。 
　――宏海、前のってどういう意味？ 
　――あ、そ、それはだな…その、説明するけど事情があってだな…。 
　――佐渡さんは、確かに器量は良いが、少々物言いがキツかったしなあ。はっはっは。 
　――うるせえバカ親父黙ってろっ!!や、矢射子勘違いするなよ。オレは…。 

　――言い訳なんて聞きたくないわよこの女たらしーーーーっ!!!! 

　前の彼女というだけでもダメージ大な先輩。 
　更に相手が阿久津に何かと縁のある佐渡あいすと来れば倍率ドン（←一口：談）である。 
　先輩は、阿久津の頬を思いっきりひっぱたくと、割れた食器もそのままに阿久津の家を飛び出したと 
いう。 

＊＊＊＊＊＊ 
「けほっ…。それからお姉さまは、今の今まで予備校にも行かずに家に引きこもってるって訳。…で、 
乾のほうは？」 
　喋りすぎて痛くなった喉を押さえつつ尋ねると、乾は、オレが聞いたのはその続きだよ、と答えた。 

　出て行ったお姉さまを追いかける為、とりあえず父親に数発拳を入れた阿久津くんは、アパートの入 
口で一番あってはいけない人物に会ったらしい。 

　――…お兄ちゃん？朝、お父さんからメール貰ったんだけど。 
　同じ色の髪をした少女――阿久津くんの実の妹で、伊舞ちゃんという――は、お姉さまが出て行った 
方向をちらりと見て、尋ねた。 
　――お兄ちゃん、あいすさんと付き合ってたんじゃないの？何で急に相手変わってるの？ 
　――いや…伊舞、良く聞け。オレは本当は佐渡とはそういう付き合いをしてない。今付き合っている 
人が…オレの本当の彼女だ。 
　阿久津くんは、腹の底を振り絞るような声で、妹に向けて言い放った。 
　けれど、時は遅すぎた。 

　目の前に立つ妹は、ぽろぽろと涙を落としつつ、こう言ったそうだ。 
　――じゃあ…あいすさんとは遊びだったんだ…それで、二股かけてたんだ…。 
　――わかってねえじゃねえか！なに勘違いしてんだ伊ぶべっ!? 
　すぱぁん。お姉さまに叩かれたのとは逆の頬に、伊舞ちゃんのビンタが決まる。 

　――お兄ちゃんの馬鹿！最低！…お兄ちゃんなんか、大っ嫌いっ!!!! 

「…そりゃ…すごいね」 
『シスコンの阿久津からすりゃあ、そりゃもう死刑宣告よりひどい仕打ちだったらしくてよ。こっちも 
日がな一日生ける屍みたいになってるって話だぜ』 
　昨日見かけた『燃え尽きた阿久津宏海の図』が多分それに当たるのだろう。 
『正直、自業自得って気もするけどな。阿久津が前もって説明していれば、先輩も妹も泣かさずに済ん 
だんだしなー…けどさ』 
「…うん」 
　そうだ。問題は、起きてしまった過去を問い質し、責める事じゃない。 
　お姉さまと阿久津くん、この二人のこれからの関係がどうなるかだ。 
　 
　あたしは、ためらいながらも、今考えている事を乾に話そうとした。 
『一口…』「あのさ…」 
　奇しくも同時に声を出してしまい、同時に黙り込む。 
『…何だよ』 
　乾のすすめる声に、あたしは小さく咳払いをした。 
「…あのね、乾怒らないで聞いて。あたしは――二人の仲を戻したいって思ってるの」 
『!!』 
　電話口の乾が、息をのむ。当然の態度だ。 

　あたしも乾も、お姉さまのことが一番大好きで、だったら、今こそ振り向いてもらう絶好のチャンス 
なのだから。 
　そんな時にわざわざヨリを戻させようなんて、馬鹿げているのかもしれない。 
　 
　けれど。 

『一口…それでいいのか？』 
　しばらくしてから返ってきた乾の声は、静かな響きがあって、無理に感情を押し殺しているようにも 
思えた。 
「…だって、お姉さま電話口で泣いてたんだもん。…っく、あ、あたしじゃっ、今のお姉さまの涙っ、 
止められないんだもん」 
　――どうしてもっときちんと話を聞けなかったんだろうって、何度も何度も悔やんでいた。 
　切ない、メゾソプラノの声。 
　あたしは、布団の上に涙を落としつつ、昼間の自分を恥じた。 
「ごめん、乾。本当に嫌だったら…今の話聞かなかった事にして」 
　ぐしゅっ、と鼻をすすりつつ、あたしは乾の返事を待った。 
　さすがに今回は、あたしのわがままで乾を振り回せない。そう思いながら。 

　けれど、あたし一人の手で仲を取り持つ事になっても構わない、と思う気持ちも強く持っていた。 

　――ややあって、はーーっ、と長い溜息が携帯電話から聞こえた。 
『…ばかやろう。病人がちょろちょろ動き回ったところで、風邪ぶり返すのがオチじゃねーか』 
　電話先の乾の声は怒っていた。 
　当たり前か、なんて思っていたら、乾は怒った声のまま、オレのセリフ取るんじゃねーよと呟いた。 
「――…？それって…」 
『オマエにばっか無茶な事させるかってーの。…オレも乗るぞその話。今さら断るなよ？あともう泣く 
なよ』 

　詳しくは明日な。 
　そう言って切れた電話を握り締めながら、あたしはこぼれ落ちる涙を止める事が出来なかった。 
「…っ、ごめん、ごめん乾…ありがと…」 
　部屋のカーテンの隙間からは、あの日と同じあたたかな色の夕陽が差しこんでいた。 

＊＊＊＊＊＊ 
「……」 
　充電切れスレスレの携帯電話のディスプレイを眺めつつ、オレは、しばらくさっきの会話を反芻し 
ていた。 

　――あたしじゃ、今のお姉さまの涙止められないんだもん。 

　それは、一口だけじゃない。きっと、オレにも出来ない事だ。 
　悔しいけれど、矢射子先輩が好きなのは阿久津の野郎だけであって、オレたちの姿なんか眼中に無い 
のは、事実だった。 
「…仲を取り戻す、か」 

「面白そうな話をしているな」 

「うひゃおわっ!!!?」――がたたんっ。 
　背後でいきなり聞こえた声に、オレはどこかの新喜劇よろしく椅子から転げ落ちてしまった。 
「うむ。今のリアクションは中々いいぞ。往年の上島Ｒ兵を髣髴させる」 
「あ、安骸寺…!?なん…」 
　何で、と言いかけた口は、安骸寺のヒマだからだ、というセリフに遮られた。 
「王子が時間ギリギリまで補習を受けている間退屈でな。何かないかと思ったら、一（はじめ）が興味 
深い会話をしてるのが聞こえてな」 
「それって盗み聞きって言うんじゃ…」 
「そんな事より、今の話は例の二人に関してだな？」 

　安骸寺の表情の読めない眼がオレを捉える。 
　脳裏になぜかアナコンダと豆柴の向き合う図が浮かんだが、何故なのかよく分からない。 

「あ…ああ、矢射子先輩と阿久「伊良子と藤木の対決…俺もREDは毎号買っているが、あれだけは先が 
読めん」 
「違げーよ!!何でそこでシグルった話になる訳？オレたち虎眼流!?つかせめてジャンプキャラでボケろ 
よ!!」 
　口走ってはっとなる。うっかり反射的にツッコミを入れてしまったが、少々言い過ぎた。 
　安骸寺はうつむき、ふるふると震えている。 
「…あ、悪い…」 
「合格だ。今のつっこみ、協力に値するぞ一」 
　へ？あまりの超展開に、頭の中が真っ白になってしまった。 

「ど…どういう…」 
「宏海と矢射子を復縁させようというのだろう？俺もその話に乗ったという事だ。…つっこみ一つ出来 
ん宏海をこれ以上見るのもつまら…もとい、忍びないしな」 
　安骸寺はそう言うと、にやりと口元だけで笑みを作った。 
「よくわかんねーけど、協力してくれるなら助かる。…ありがとう」 

　不気味ささえ感じる笑顔からわずかに目を逸らしつつ、オレは礼を言った。 
　あの眼はどうも苦手だ。 
　何というか、余計な部分まで覗かれている気分にさせられる。 

「こっちは遅かれ早かれ動くつもりだったんだがな…俺にしてみれば一、オマエの方がよく分からんぞ？ 
今だったら矢射子の心など、労せずとも落とせるだろう。人の心は移ろいやすいからな――…そんな目 
で睨むな。冗談だ」 
　眉間に皺をよせ安骸寺はうそぶいたが、冗談にしてはタチが悪い。 
「…義理立てすると思うのもいいがな、たまには自分の気持ちを冷静に見つめてみろ、という話だ。 
今のオマエからは義理以上のものも伺えるぞ？」 

　――は？小難しい口調のせいか、理解するのに時間がかかってしまった。 
　というかまだよく分からない。誰が誰に義理以上の…。 
「ふむ、時間だな…失礼する。――安心しろこんな面白事、そう簡単に口外せん」 
「え、いや…ちょっ、待て安骸寺…」 
　オレの言葉をはね返すように、ぴしゃりと扉が閉められ、同時に下校放送が教室に鳴り響く。 

　オレは、閉められた扉を睨みつつ、やっぱりあの眼は苦手だと思った。 
　――余計な部分まで、覗き込むなんて。    </description>
    <dc:date>2008-06-23T12:44:57+09:00</dc:date>
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    <item rdf:about="http://www39.atwiki.jp/aquick/pages/25.html">
    <title>続イヌイチ前編</title>
    <link>http://www39.atwiki.jp/aquick/pages/25.html</link>
    <description>
      ＊＊＊＊＊＊
　暗闇の中、ひたりと頬を撫でられる手の感触。
　それが自分の手で無いという事は、後ろ手に縛られた感覚から分かっていた。
　じゃあ、この手は誰のものなんだろう。頬を滑る指が半開きの口に潜り込む。

　――くちゅ。

　ぞくっ。口の中を掻き回され響く水音に、軽く身が震えた。
　反射的に口をすぼめ、与えられているもどかしい快楽を逃さまいとする。
　…相手は誰なんだろう。
　心の底でちりっとした焦りを覚えつつ、それでもキモチ良さには逆らえないなんて。

　柔らかくて、細い指。…あなたは、誰なんですか？

　――…い。
　――ぬい。

＊＊＊＊＊＊
「乾一！いつまで寝とるか!!」
　三年Ｃ組に野太い怒声が響き渡るのと同時に、あたしの真後ろの席から、ごっごんと机に何かがぶつ
かる音がディレイで聞こえた。
「…っ、はい！何でしょう!!」
「何でしょうじゃない馬鹿者！あと元気がいいのは返事だけでいい！」
「へ？…!!」
　指摘され、二重の意味で立ち上がっていた乾が慌てて席に座る。
　同時に、クラス中に男子のげらげらという笑い声が満ちていき、恥ずかしさに、あたしまで頬が赤く
なった。

　やっぱり、男子って馬鹿。特に後ろの。
　何で寝てる時にまで――…。
「ばか」
　こっそり呟いた声は、授業終了のチャイムにかき消されたのだけど。

「乾ー、三年になって余裕だねえ。大学行かないの？」
「ただでさえアンタ学年ビリじゃん。え？何就職？」
「やめときなよー。今時高卒ってロクな仕事見つかんないよ？」
　休憩時間になって早々、乾の机の周りにクラスの女の子が集まってくる。
　みんな乾の『気のいい女友達』という感じの人々だ。
「好き放題言うなあ…オレだってそりゃ考えてるって」

　どうだか――あたしは心で悪態を吐きつつ、黒板の前に立った。
　週番の仕事が、今週はあたしの番なのだ。
　ついでに言えば、週番は男女二人組の仕事であり、あたしの相手は乾だったのだけれど。

「もし良かったら、知り合いんトコの現場で働くー？初心者カンゲーだって」
「だーかーらー、オレは進学だって言ってるじゃねーか」
　女の子に囲まれて、からかわれながらも笑う乾の姿を見て、声を掛けるのをやめた。

　別に乾自体はどうでもいい。
　けれど、こういう時下手に声を掛けて、周りの女の子から不必要な反感を買うのだけは避けたかった。
　女子の間柄というのも、かくもややこしいものなのだ。
　小さく息をこぼし、あたしは黒板消しを持った。

「い、一口さん、よかったらボクも手伝おうか？」

　ふと声に振り返ると、額から汗を流しつつ自分に声を掛ける大柄な少年の姿があった。
「坂田くん。…いいの？」
「ほ、ほらボク高いところも手が届くし、あの先生みっちり書き込むから…」
　坂田くんの言葉にも一理ある。
　平均よりはるかに低いあたしの背では、高いところに書き込まれたチョークの文字を消すのにも踏み
台が必要になる。はっきり言って、面倒くさい。

「じゃあ、お願いしていいかな。ありがとう」
　にこり。笑って応えると、坂田くんは更に汗を流しつつ、チョークの書き込みを消し始めてくれた。
　…あ。黒板にお腹くっついてるけど、いいのかなあ。
　服、汚れない？

＊＊＊＊＊＊
　何へらへらしてんだか。
　オレは机に頬杖をつき、心で悪態を吐きながら、まだ抜けない睡魔と戦っていた。
　全く、古文なんて呪文の詠唱と同じだよな。それもラリホー系の。
「あ、坂田くんっ、汗、汗!!」
「え、あ、ご、ごめん！」
　あーあ。坂田の出っ腹で黒板水拭き状態じゃねーか。
　一口もニブいよなあ。アイツの下心気付いてないのかよ。
「いぬいー？聞いてる？」
「あ？何が？」
　やべ、聞いてなかった。
「だから最近乾、本当に授業中寝すぎじゃないかって聞いてたの。進学はいいけどさー、アンタもしか
してもう一回三年生やるの？」
「何かやってんの？あ、またバイトとか？」

　知ってどうすんだろう。
　思ったが、適当にいろいろだよ、とはぐらかした。

　オレは、今周りにいる女子がオレに対して何かを知りたいと本気で思っている訳じゃない事を知って
いる。
　TVの番組、雑誌の１コーナー、新譜のCD、２ちゃんの新スレ。
　日常を作るパーツの１つ。いや、最後のは特殊か。
　まあとにかく――そういう目でオレを見ているに過ぎない。
　別に不快じゃないけれど、だからといって心地良くもない、微妙な間というやつだ。
「あれ、乾また寝てんじゃない？」
「起きなよ――…」

　次は、丘の授業だっけ。…意識が遠のく中、オレは何かを忘れているような気がした。

「――もう三年も折り返しを越えてる時期だろうが。…オマエの場合はルリーダ先生からも話を聞いて
るが、教師全員寛容なわけじゃない。これ以上下手を打つと留年も洒落で済まなくなるぞ」
「…はい」
　ホーミングチョークでコブの出来た頭をさすりつつ、オレは職員室で丘の説教を聞いていた。
「わかったら教室に戻れ。次やったら鼻の下にキンカン塗るからな」
　アンモニア入りの為、鼻の下などに塗れば悶絶必至である。
　『目の下にメンソレータム』と双璧を誇る罰に青ざめながら、丘に頭を下げる。
「すみません。――失礼します」
　ぴしゃり。職員室の扉を閉め、オレは大きく溜息をついた。

「バカ犬」

「!!」
　ぼそっと肩の辺りから響いた声に、心臓を掴まれたかと思った。
「な、何だよ一口…驚かすんじゃねーよ」
　斜め下を見ると、変なマスコットの髪飾りとぴこんと跳ねる一つ括りの前髪が見えた。
　こんな頭の知り合いなど、周りには一人しか居ない。
「驚くのは、自分の行いの悪さのせいでしょ」
「つか何でオマエ職員室の前…うわっ！」

　どかっ。

　尋ねようとしたら、いきなり分厚いプリントの束を渡され、オレは危うくバランスを崩して転ぶとこ
ろだった。
　何なんだ一体。
「今日の５時限目、自習だからプリント取りに来たの。それ乾の持つ分だから、よろしくね？『週番
さん』」

　――あ。

＊＊＊＊＊＊
「人が悪りーな一口。オレが週番だって、さっさと言えばいいのに」
「何言ってんの。朝は朝で予鈴スレスレまで教室来ないし、休み時間までぐーすか寝てばっかりだった
じゃない」
「…スミマセン」
　プリントを抱えたまま、乾が肩を落としつつ謝る。
　あまりにもしょんぼりした姿――人によっては『雨に濡れた子犬系』とでも名付け、愛でるのでは
ないだろうか――に、あたしは大きく息を吐き、明日からはちゃんとしてよね、と前を向き言った。

　――そうだ。あたしはふと思った事に対し、尋ねてみた。

「乾、何で最近学校来るの遅いの？」
　二年の時はそうでもなかったように思っていたのだけれど。
　質問に乾はしばらく答えを探すように黙ったあと、ヤボ用だよと答えた。
「野暮？」
「い、いいだろ別に。ホラ早くしねーと、５時間目始まっちまうぞ」
　言い捨てて廊下を走っていく。
　一歩走るごとに揺れる、乾の一つ括りにした後ろ髪を眺めつつ、あたしは言い訳が下手なヤツ、と一
人呟いた。
「ちょっと、プリント落とさない――…ん？」
　ふと立ち止まった教室の前で、あたしは妙なものを見てしまった。
　いや、そのクラス――三年Ｆ組――は、クラスのメンバー上、妙なものがかなりの頻度で（ちなみに
その正体は、ほぼ間違いなく一人の人間離れした体格の変態だったりするのだけれど）見受けられるが、
今日見たものは、少々勝手が違っていた。

「…阿久津くん？」
　休憩時間のＦ組。
　がやがやとにぎわうクラスの中で一人だけ浮いてる…というか、燃え尽きている男の姿。
　いつも変なことに巻き込まれて、悲惨な目にあう確率の高い彼――阿久津宏海の真っ白になっている
姿が、あたしの視界に入ったのだ。
「……」

　いつもなら、良くある事と思って気にしない。けれど今日は何故か気になった。

「おーい一口！早くしねーとプリント配れねーぞ！」
　Ｃ組の扉から顔を出し呼ぶ乾に、はっと我にかえる。
「あ…わかったから大声で呼ばないでよ！」
　本当、デリカシーに欠けるヤツ。あたしは口をへの字に曲げつつ、その場を後にした。

　５時限目は英語の自習。
　プリントは仕上げられなければ即宿題と化すので、皆が居るうちに答えを写…教えてもらい、仕上げ
るのがお約束だ。
「…んがー…」
　…まあ、お約束に当てはまらない馬鹿も居るけれど。
　自分のプリントにペンを走らせながらあたしは、背後から聞こえるイビキに小さく溜息を吐いた。

＊＊＊＊＊＊ 
「んー…っ、はあっ」 
　ＨＲ終了のチャイムと同時に背伸びをする。首を回すと、こきこきといい音が響いた。 
　ここ最近の寝不足も少しは解消されただろうか。 
「さてと…」 
「帰んないでよ乾」 
　帰るか、と言いかけたオレの口の動きは、くりんっ、と振り返った一口のセリフに遮られた。 
　手には学級日誌のオマケ付きだ。 
「忘れてたでしょ」 
「あー…忘れてた。そういや書かなきゃなんねーんだよな。…なあ一口、１時限目って何やってたっｋ 
あふっ!?」 

　ばちーん。 

　日誌のページをめくりながら尋ねると、いきなりビンタが飛んできた。 
　見れば一口の額には青筋が浮かんでいる。 
　 
　バシバシバシバシバシ!!!!! 
「結局アンタは一日中寝てばっかだったじゃないっ！一緒に組むあたしの身にもなりなさいっての!!」 
「あっあっあっあっ！」 

　このバカ犬、と罵りつつ繰り出される、スナップの効いた往復ビンタを頬に喰らいながらも、快楽に 
背筋がぞくぞくと震えだすのをオレは止められなかった。 
　いや、わざとじゃないんだけどな。 
　ちなみにこの（誰が呼んだかは知らないが）『Ｃ組名物ＳＭショー』は、クラスからも生温かい目で 
受け止められている。 

　変なクラス。 

「はあはあ…本当、乾ってビンタされてる時輝いた顔するよね…」 
「おう。ついでに言えばもう2、30発は貰っても平気だぞ」 
　腫れた頬の、じんじんと痺れる痛みさえキモチイイと感じる――それがオレの特性なのだ。 
「えらそーに言うなっ！…ああもうわかったよ。日誌はあたしが書いとくから、乾はこれ写しとけ 
ば？」 
「？」 
　赤くなった右手をひらひらさせながら一口が差し出したのは、数枚のプリントだった。 
　三行見ただけで眠りに落ちそうな言語は、間違いなく今日の英語のだ。 
「その調子だと、宿題になってもやって来なさそうだしさ。あたしが日誌書いてる間にでも仕上げれば 
いいんじゃないの？」 
「……」 
「…何？」 
「いや、一瞬オマエの後に光が差したような気がして…」 

　これが神か仏かってやつなんだろうか。だとしたら神仏はずいぶんフレンドリーなんだな。 

「礼なら坂田くんに言いなさいよー？あたしの分かんないところ丁寧に教えてくれたんだから」 
「……」 
　…なんとなく、さっきのセリフを撤回したくなったのは気のせいだろうか。 

＊＊＊＊＊＊ 
　かりかり。かりかりかり。 

　クラスメイトが部活やら帰宅やらでどんどん席を立つ中、あたしと乾の間では、シャーペンが紙の上 
を走る音だけが響いていた。 
「なー、ここのwhatの使い方なんだけど…」 
「ん？ああ、これねー…」 
　説明すると、乾はふーん、なるほどなあ、と呟きつつ、再びプリントに向かう。 
　時折、ペンを持った手を口に添えたり、ペンの頭をかつんと机に当てたりしながら。 
　多分この乾の姿ですら、色んな女の子に見出されて、手垢の付いたものなんだろうなあ。 
　難しく考え込んで寄せる眉も、伏せたまつ毛の長さも。 

　――ちくん。 
　胸に、針で突付かれたような痛みを感じ、あたしはそれを全力で否定する。 

「…なに考えてんだか」 
「何か言ったか？」 
「なーんにもー。それより乾、早くしないとあたしもう日記仕上げちゃうよ？」 
「げ。待て待て、あと３枚だからなっ！」 
　乾の慌てっぷりに小さく笑いつつ、あたしは日誌に目を落とす。 
　本当は日誌なんて、とっくに書き上がっていたけれど。 

「そういやさ、最近一口坂田と仲いいな」 
　ぴたり、とペンを止め乾が尋ねる。 
　『そういや』の流れなどない唐突な発言に、あたしはしばらく考えてしまった。 
「そう…かな？時々手伝ってもらったりはしてるけど」 
　いつも困ってる時にタイミング良く現れるんだよね。妖怪道中記のご先祖さまみたいな感じでさ、と 
言ったら例えが古くて分かんねーよと返された。 

　そんな古くないと思うけど。 

「ふーん…オレはてっきり先輩に見切りつけたのかと思ったけどな」 
「そんな訳ないでしょ」 
　馬鹿げた質問をばっさり斬り捨てる。 
「そういう乾はどうなのよ」 
　仮にも、ドＭでも『もて四天王』なんて呼ばれる男だ。 
　引く手あまたなんて言葉も霞むくらい、本当は相手に困らない筈なのに。 
「ねーな。先輩が例え阿久津のモンになっても、先輩はオレの憧れだ」 
　どうして真っすぐあたしを見て答えられるのだろう。 
「憧れ、ねえ」 
「そゆこと」 

　あたしは、憧れと恋が似て非なるものだと知っている。 
　乾が強く想っているにも関わらず、阿久津くんからお姉さまを奪おうとしない理由も。 
　だけど、言わない。それはコイツ自身気付いていないだろうから。 
　そして、あたしも気付かない事を心の底で願っているから。 

　――本当、馬鹿だね。 

　かりかりとペンを走らせる音を耳に心地良く感じつつ、あたしは西日の差し込む教室の中、ゆっくり 
と眠りに落ちていった。 

＊＊＊＊＊＊ 
　かつん。 

　紙にピリオドの印を叩き込む音と共に、オレのプリントが完成したのは、西日が赤味を帯び始めた頃 
だった。 
「はー…出来た、っと。一口、そっちはど…」 
　顔を上げ尋ねようとして、言葉が止まる。 
　机をはさんで向かいに座る一口は、すやすやと微かな寝息を立てていたのだ。 
「何だよ、自分だって寝てんじゃねーか」 
　今と授業中が別物なのを棚に上げ、オレはひとり愚痴る。 
「おーい一口、日誌書き終わってんのか？」 
　へんじがない　ただのし…じゃない、ずいぶん深い眠りについているらしい。 
　週番の仕事で、朝一番に教室に来ていたという辺りに理由がありそうだが。 
「…別にオレだって、遅刻してる訳じゃねーけどさ」 

　それにしても、寝顔まで子供染みてるよなあ。無邪気っつーか、幼稚っつーか。 
　くりっとした大きな目も、見た目に反して古臭い発言が目立つ口も、今はただひっそりとそこにある 
だけだった。 

「……」 
　そっと、閉じられた学級日誌を手に取り、今日のページを捲ってみる。 
　ちまっとした一口の字は既に書くべき全ての項目を埋めていた。 

　――なんだよ、とっくに書き終わってんじゃないか。 

　ならば、いつまでも教室に居続ける理由はない。オレたち以外に誰も居ないなら尚更だ。 
　立ち上がって揺り起こそうとして――オレは手を止めた。 
　ふと、視界に留まった一口の手が、オレのおぼろげな白日夢を思い出させてしまったのだ。 

　――頬を撫でる、柔らかな掌。細い指先。 

「…一口」 
　一応呼んでみるが、相変わらず返事は無い。ど、くん。…どくん。どくん。 
　早まるな、正気になれと頭の中のオレが叫ぶ。 
　けれど体は叫び声に逆らうように、ゆっくりと一口の手を掴んでいた。 
　小さくて、柔らかな一口の手。 
　なんかコイツの体のパーツって、どこもかしこも小さいような気がする。 
　オレは目を閉じ、静かに掴んだ手を自分の頬に寄せた。 
　ほのかに温かい掌が、ひたり、頬を撫でる。 
「……」 
　ぞくっ。背中に軽く電流が走った。 

　――はっきり言って今の自分は、不審とかあやしいなんて言葉で片付けられないくらい変だ。 

　もし今一口の目が覚めたなら、ビンタ100発どころの問題じゃない。 
　分かっているのに、手が止まらなかった。 
　オレは、夢の中のオレと同じで、触れられるキモチ良さに抗えないまま、ゆっくりと一口の指を自分 
の口へと導こうとしていた。 
　人差し指が唇を軽くかすめたその時――。 

　ポーン。 
『下校時刻になりました。生徒の皆さんは、すみやかに帰宅してください』 

「!!」だんっ！反射的に手を机に叩きつける。 
　――義務的な下校放送の声により、オレは危うい倒錯の世界から、ギリギリのところで強制送還と相 
成ったのだった。 
「痛っ!?…あれ？あたし寝てた？…っていうか乾、何やってんの？」 
「いや…何でも…」 
　本当、オレ何やってんだよ。 
　一口に背を向け、赤くなった顔と昼間同様に熱を持ってしまった股間を悟られまいとする姿は、間抜 
け以外の何者でもない。 

　いや本当に、何やってんだ。 
　一口相手に。 

＊＊＊＊＊＊ 
「おー、もう星出てるなー。秋の日は鶴瓶ポロリって言うけど本当だな」 
「そんな言葉聞いたことないけど、本当、もう真っ暗だねー」 
　街灯の光に、吐いた息が微かに白く染まる。いつの間にかそんな季節になったのだ。 

　何も変わってないようで変わり続ける。冬服になって尚感じる寒さに、あたしは軽く身を震わせた。 

「にしても、わざわざ送んなくていいのに。…乾ん家、方向違うでしょ」 
「ばっか、季節の変わり目ってのは変なヤツが多いんだぞ？それに、帰るのが遅くなったのはオレのせ 
いでもあるしな」 
　変なヤツの中に自分を入れてない辺りが、乾の乾たるところである。 
　そりゃ確かに、意外と紳士的なところは評価していいのだろうけれど。 
「あ、それとな、朝の教室の鍵開け、明日からオレやっとくから。一口いつも通り学校来るんでいいか 
らな」 
「え？…乾いいの？」 
　予鈴ギリギリから急に朝一番の登校は大変じゃないのかな。 
「どうせ補習のついでになるしな。ちょっと遠回りになるだけだろ」 
「補習？」 
　初耳だ。あたしの言葉に乾はちょっと考えた顔をして、体育のだよ、と答えた。 
「オレ、スポーツ推薦狙っててさ。でも部活入ってなかったから色々面倒な事になっててなー…。で、 
困ってた時、ルリーダ先生から、新しく学科が出来た所が遅くまで積極的に募集してるからどうだって 
話持ち掛けられて…」 

　前を向きながら、照れ臭そうに語る乾の言葉はしかし、途中から聞こえなくなっていった。 
「――…でもしなきゃオレ普通に大学行けねーもんな。…一口？」 
「…え？」 
「え？じゃねーよ。話振っときながらぼーっとしてさ。何だよ、風邪引いたか？」 
　――違う。けれど、言葉が出てこなかったので、代わりに首を振った。 
「そうか？でもなんか顔色ヘンだぞ？やっぱ熱あんじゃねーの？」 
　そう言って額に当てようとした乾の手を、あたしは反射的に身をよじり拒んでしまった。 

「…!!」 

　街灯に照らされた乾の顔が、不自然なくらいこわばる。あれ、あたし、何で。 
「…っ、もう…家すぐそこだから、今日はありがとね」 
　あたしは一気に言葉を放つと、振り向く事もせず走って乾の元を離れた。 
　どくん。どくん。どくん。 
　全力疾走の体に、晩秋の風が冷たい。けれど全然気持ちよくない。 

　驚いてたのだろうか。 
　ひそめた眉も、見開いた目も、堅く閉ざした口も、全部見覚えのある部分なのに、あたしの知らない 
乾の表情だった。 

　――何も変わってないようで変わり続ける。 
　さっき思い浮かんだ言葉が、呪文みたいに頭をぐるぐる回って離れない。 
「…はあ、はあっ…けほっ」 
　家のすぐそばで足を止め、息を整える。 
　あんなに走ったのに、体がぞくぞくして、震えが止まらない。 

　――何も変わってないようで変わり続ける。 
　乾も、お姉さまも、阿久津くんも、みんな、みんな。 
　――あたしは？ 

　ポケットの中の携帯電話から『DESIRE』の着メロが響いた。 
　けれどあたしは、いつもならすぐに取るはずの、一番好きな人からの電話さえそのままに――。 
　ただ道の真ん中で立ち尽くす事しか出来なかった。    </description>
    <dc:date>2008-06-23T12:43:37+09:00</dc:date>
  </item>
    <item rdf:about="http://www39.atwiki.jp/aquick/pages/47.html">
    <title>ラフェスタ『蛇足』</title>
    <link>http://www39.atwiki.jp/aquick/pages/47.html</link>
    <description>
      ＊＊＊＊＊＊
「…ああ、ちょっと用があって太臓ん家に泊まる事になったから。オフクロにも宜しく伝えといてくれ
…言っとくけどこっちに逃げてくんなよ。心底迷惑だからな。じゃあ」
「残念だったね。せっかくお母さんに会える機会だったのに」
「しょうがねえだろ。ホイ太臓、ケータイ返すぞ。しっかし持ちづらいなソレ」
「慣れるとそうでもないぞ。じゃあ帰るか。矢射子姉ちゃん今度はお風呂で卒業ごっこしようぜー！」
「ちょっと遠回りして、交番行ってから帰るか太臓？オイ悠もなんか言ってやれ…あ、あれ？悠は？」
「悠なら、さっき撮ったビデオの編集でPC室使わしてもらってるらしいぞ？先帰れって」
「な…っ！何撮ったんだアイツ!?」「ちょっと！ヘンなもの撮ってないでしょうね!?」

　…賑やかだな。
　PC室の窓際の席に腰を下ろし、頬杖をつきながら俺は、窓の外の会話に耳を傾けていた。
　目の前のパソコンからは、編集した名珍場面のDVDを焼く音が微かにするのみである。

「…と思ったが、こっちも賑やかになりそうだな」

　――…ぱたぱたぱたばたばたばたばた、ガララララッ。「悠様ーっ!!」
　騒音と共に戸を開けたのは、一学年下の魔法使い、翠だ。

「なんだ翠、まだ学校に居たのか」
　俺が早々にリタイアした時に帰ったと思ったのだが。
「悠様のロマン輝く突起物を手にせずには帰りませんよ！」
『だからボタンをそう呼ぶのは止めて欲しいタマ』

　鼻息荒く言い返す翠。随分自信満々だが、見つけ出したのだろうか。
「ふっふっふ、まさか排水溝に流れてるなんて、誰も思わないでしょう。もう、悠様ったら手の込んだ
ところに隠しちゃって…テクニシャンになるのは夜だけでいいんですよ？」
『捨てたんじゃないかと思うタマよ…』

　言葉と共に、掌を開くと、そこには泥に汚れたボタンがあった。
　番号は『８』――間違いなく俺のボタンだ。
　ついでに言えば、彼女の使い魔、精子（しょうこ）の推理は的中している。

「見つけた所で、もう『ラブ・デス』自体終了しているし、俺はリタイアした。そんなものに意味なん
ぞあるまい」
　言い放ち、再びPCの画面に向き直る。
　ディスプレイの中では、融合した二人と、自称犬型サイボーグの一戦が早送りで流れている。

「意味ならあります！…だってこのボタンは、悠様の学生生活を共に送ってきたんですから！――悠様
の大事な、生活の一部だったんですから」
　いいセリフだ。しかし。
「…背後に俺の着替え姿やトイレ内の姿を妄想させながら言うものじゃないな」
「アレーッ!?」『翠たま折角のセリフも台無しタマ』
「お遊びの時間は終わってるんだ。俺もそろそろ帰る」
　そして、もうこの学校に顔を出す事も、今ほど無くなるだろう。

　それが卒業だというならば。

「……」
「どうした。何か妙な事を言ったか?」
　返事は無い。翠はただ黙って首を横に振るばかりである。
　だが、彼女の黒目がちの瞳には、大粒の涙が今にもこぼれそうになっていた。
『翠たま…』
「ヘンじゃ、ない、です。ただ、悠様そんな悲しいこと言わないで下さい」
　ぽろぽろと、涙が落ちる。傾いた日の光にきらめくそれを、俺は心の片隅で――綺麗だと思った。
「何が悲しいんだ」
「…らない、わからない…ですけど、胸が苦しくなるんです。苦しくて、涙が止まらなくなるんです」

　俺たち間界人に、元々『時間』の概念は無い。
　知らず発生し、無限に等しい時間を生き、そして知らず消えていく。
　人間界で過ごす時間など、火花の瞬きに等しいものでしかなく、出会う者全て、光より速く己の上を
通り過ぎていく。
　目の前の女だって、そんな事知っているはずなのに。

「…いや、だからこそ、か」
　だからこそ、焼き付けたくなる。だからこそ遺したくなる。
　自分の為に、相手の為に、通り過ぎていった全ての瞬間の為に。

　ディスプレイの中の映像は、とっくに終わっていた。
　真っ暗になった液晶の画面、ぼんやりと景色が映るソレにほんの数秒間だけ、二つの人影が重なった
のを、俺は視界の端で確認した。
「…先に行ってるぞ」
　DVDを取り出し、電源を切ると俺は教室を出た。…全く、柄にもない事を。
　感傷的になるなど、俺らしくも無い。

　――どうせ、すぐに追いつくさ。俺たちが、同じ時間の中を過ごしている限り。

　呟いた言葉は、誰もいない廊下の闇に溶けていく。
　そして、そのあまりに人間臭い考えに俺はひとり、苦笑いをこぼした。    </description>
    <dc:date>2008-04-23T09:48:31+09:00</dc:date>
  </item>
    <item rdf:about="http://www39.atwiki.jp/aquick/pages/46.html">
    <title>ラフェスタ・４</title>
    <link>http://www39.atwiki.jp/aquick/pages/46.html</link>
    <description>
      ＊＊＊＊＊＊
「…はい、包帯はこれで良し、と。軽くひねっただけだから、全治１週間といったトコかしら。勿論、
安静にしてね。ああ、そこらのヤブ医者なんか行かなくてもいいわよ。他に怪我した所も無いし、頭も
打ってないし」
　先程痛めた足首にてきぱきと処置を行う保険医の手つきを見ながら、あたしは黙ってうなづいた。
　外科医もやっていた、と噂に聞く目の前の先生は、女子に対してはまともな対応をするので、割と評
判がよいのだ。
「さて、次は外のいい体したコかしら？」
「彼は大丈夫だって言ってました」
「あら残念。でも一応診といたほうがいいんじゃないの？頭とか胸とかお尻とか」
　代わりにちょっと困った性癖を持っているため、男子からの評価は最悪だけど。

　受験生なら早く帰りなさい、というごもっともなセリフに促され、保健室を出ると、制服姿に着替え
た乾が扉の前に立っていた。

　お姉さ…阿久津くんって呼べばいいのかな…あの二人（？）の姿は無かった。
　いたらいたで、顔を合わせづらかっただろうから、あたしは少しホッとした。

「……」
「やっぱりひねってたって。縁起悪いよね受験生なのに」
「……」
「あたし、帰るね。乾はまだ残るんでしょ？ボタン、見つかってないって聞こえたよ」
「……」
　返事はない。
　ただ黙って、何か訴えるようにあたしを見る乾の目が、胸に痛くて、息苦しくて、辛くなる。
「…何か言ってよ」
「……夕利は、オレのボタン探してたんじゃねーのか」
　　　　　　　　　　
「――はいっ！これで残る四天王関連は、只今席を外している乾君のボタンのみとなりました！…が！
乾君はそろそろ制限時間の１時間を過ぎてしまいそうです！このままでは失格になってしまいますよ!?
乾くーん？」
　窓の外からのアナウンスが再び呼んでいる。
　けれど、動かない目の前の姿に、あたしは期待してしまうのだ。
　　　　　　　　　　　
「オレは、夕利からボタンを受け取りたい。他の奴じゃ駄目だ」
「…後悔、するよ？」

　だって、あたしよりいい子なんていっぱいいて。
　乾はバカだから、それに気付いてなくて。

「しねーよ。何いまさらな事聞いてんだオマエ」
　乾はくしゃっとあたしの頭を撫でると、オレのバカが移っちまったんじゃねーか？と聞いてきた。
　困ったように笑う表情にあたしは耐え切れず、廊下の床に、幾滴もの涙の粒を落とした。
「うーー…」
「泣くなって。帰るならオレも一緒に帰るから。元々『ラブ・デス』なんて、オレどうだっていいし。
…あ、そうだ夕利」
「？」
　目を開けると、乾はあたしに背を向けて身を屈めた。って何してんの？
「足痛めたんだったら歩きづらいだろ。乗れ。背負ってやる」

　……え゛。

「や、やややだよ！何考えてんの!?そんな小学生みたいな事あたししないよ！」
「体は小学生並みがいっちょ前のセリフ言うなって」
「余計なお世話！大体あたし歩けるし！そんなんで外出たら何言われるか…！」
「…見せ付けてやりたいんだよ、周りに。今背負ってんのがオレの彼女だって。オレが、一番好きな人
だって」

　バカだ。今更言うのも疲れるくらい、こいつ大バカだ。
　そんな恥ずかしい事、出来るわけないじゃない。
　そりゃアンタはドＭだからそんなプレイも慣れっこでしょうけど。
　だけどあたしは…あたしは――。

「よいしょっと…あれ？夕利太ったか？」
　言うに事欠いてなんてこと口走りやがりますかこのバカ犬。…あれ？あたしまだ…。
「失礼ね、レディに体の重さを聞くなんて躾がなってないわよ」
「おわわわわわっ!?」
「きゃあああっ!?ぶ、ブラ孔雀先生!?何してんですか!!」
　乾の背に乗り、耳元に息を吹きかける保健医（ちなみに性別はレディではない。念の為）にあたしも
乾も目を白黒させた。
　正直言って、気持ち悪い。あ、乾の首筋トリハダ立ってる。
「何って、さっきから保健室の前で甘ったるい話なんかしてたのは誰よ。それにいい男に『乗れ』なん
て言われたら乗るのが礼儀でしょ」
「どこの礼儀ですか！」
「い、いいから先生、早く降りて下さい…」
　青ざめた顔の乾の言葉に、名残惜しそうに変態保険医は背中から降りた。
　いや、親指の爪噛みながらこっち見ないで下さい。

「わ、わかったわよ！乗るわよ！あたしが乗ればいいんでしょ！」

＊　　　　　　　　
　やれやれ、やっと終わったか。

　あの変態野郎の告白は、男に触れて人格が変わってしまった笛路の回し蹴りという、お約束によって
幕を閉じた。
　しかしアイツ結局何も変わってねえなあ。
「これでアイツらも帰り支度するだろうから、オレたちも引き上げるか」
　フェンスから手を離し屋上を後にしようとしたオレの足は、オレと融合したもう一人の存在によって
止められていた。
「矢射子？」
「…もうすこしだけ、待って」
「ん？」

「乾君！制限時間を今切ろうとしています！本来なら失格です！…しかしっ！もて四天王だけの特例に
より特別にオマケが付きましたっ！題して『３分間だけ待ってやろう』！」
「銃で括った髪撃ち落とされそうな題だな」

　オレのつっこみはグラウンドの明石に届くわけも無く、アナウンスは更に続く。

「ボタンを探している女子にも特別サービスで、乾君のボタンの番号を教えておきます！乾君のボタン
番号は…『１』！そのまんまです！安直です！さあ３分以内に探しだす事ができるのかーっ!?」

　来ねえと思うがな。あの男が今更のこのことグラウンドに戻ると思えない。
　というより、戻ってきたりなんかしたら、今度こそ本気でぶん殴りそうだ。

「３分で探して持ってくるのも難しいとは思いますが、そこは気力でカバーです！愛は心の仕事です、
と、かつて本当のロッカーと評された人は言ってました！……あ！今！校舎から――来たぁっ！主役は
遅れてやって来るのか乾一！」
「なにーっ!?」
　オレはフェンスに顔を近づけ、グラウンドを見た。だが姿は校舎の影になってまだ見えない。
「玄関を抜け、こちらに来ます！軽やかな足取り…で…？」
　明瞭さが売りの明石の声がよどむ。
　それもその筈、校舎の影から出て来たもて四天王最後の男は、背中に少女を背負ってグラウンドへと
やって来たのだから。
　…おいおい、どこの羞恥プレイだ。

「何やってんだアイツ…！」
　呆れてそれ以上声が出ない。馬鹿だとは知っていたがこれほどとは。
　背負われてる一口も災難だ。真っ赤になって背中で縮こまってるし。

　今時ラブコメディでもメロドラマでも、絶対やんねえぞこんなクサい展開。
　ああもう恥ずかしくて見てらんねえっ！

「あ、あー…乾君？えと、後ろに背負っているのは…というか、『ラブ・デス』は…？」
　引きつった声になりながらも尋ね、明石がマイクを向ける。
　今の彼女を動かすのはアナウンサー魂とかいうヤツなのだろう。あまり知りたくないが。
　マイクを向けられた乾は大きく息を吸い、

「待ってくれてすみません！でもっ、オレの彼女が怪我をしたので送って帰ります！」

　とグラウンドどころか学校中に轟くような声で答えたのだった。

「やっちまった…」
　ご丁寧に『オレの彼女』の部分を強調しやがって。
　階下から窓を開ける音や、女子のざわめく声が聞こえる。
　けれどあいつにしてみれば、こんな羞恥は慣れてるのだろう。
　むしろ、周りが恥ずかしがってるのだが、気付いてねえんだろうなあ。

「き…きたぁーーーーーっ!!!!これぞまさに『大・ドン・デン・返し!!』！」
「明石本当に大学１年生かって聞きたくなるな」
　わああああああああっ。
　二人の周りが歓声に包まれる。
　調子に乗ってくるくると笑顔で回っていた乾は、背後の一口に怒られたか、グラウンドに置きっぱな
しだったらしい自分の鞄を持つと、小走りで学校を後にした。

「あーあ…ありゃ一口も苦労するぞ。なにせ相手が底抜けの馬鹿だからな」
「そう、だね……でも」
　矢射子の言葉は、途中で声にならなくなり、代わりにオレは自分の目頭が勝手に熱くなっていくのを
感じていた。
「よ…よかっ…」
　視界が曇り、一滴、二滴。ぱたぱたと晴天の屋上に雫がこぼれる。

　オレはあいにくと、こういう事で泣くような青臭さは持ち合わせていない。
　今泣いてるのは100％矢射子の涙だ。大事な後輩を思うコイツの涙だ。
　だから――オレはただ素直に泣かせておこう、そう思った。
　例えオレの顔がみっともない泣き顔になっていたとしても。

＊　　　　　　　
「ばか、バカバカバカバカバカ！信じらんないあんな大勢の前で！」」
「はいはい、オレはバカですよー。いいじゃねえか皆祝ってくれたし」
「さらし者扱いだってあんなの！面白半分で騒いだに決まってんじゃん！…責任取んなさいよバカ犬」
　オレの肩を掴む手に、力がこもる。おう、と言い返し、校門まで続く道を小走りに駆ける。

　本当はもっともっと、叫びだしたいくらい嬉しいんだ。――これでも我慢してんだぞ？

「あ、乾ちょっと下ろして」
「え？何だトイレか？」
「違うっ！…学校の門、くぐるの最後だからさ。自分の足でくぐりたいんだ」
　なるほど。納得したオレは身を屈めるとゆっくりと夕利を下ろした。
「…もう、この格好でここには来られないんだね」
「…ああ」
　次に来る時は学園祭か体育祭か…どちらにしても、学生としてこの学校に来る事は、もう、ない。
　教室にも、もうオレたちの居場所はない。

「一年と二年の時は、矢射子先輩追いかけてばっかりだったな。オマエ先輩の邪魔ばっかして」
「乾だって人の事言えないでしょ！全然女心わかってなかったし！」
　気持ちがわかったのが、先輩が卒業した日だったなんて、随分皮肉な話だった。
「まあ女心に関しては、今もまだまだわかってないと思うけどね」
「あーその言葉そっくり返すぞ夕利。先輩のデートつけ回した挙句にラブホまで入っていきやがって。
巻き添えくらったオレはだな…」
　言いかけて、言葉が詰まる。

　あの通り雨の日――あの出来事がなかったら、オレは。
　傍らにいたコイツの温かみも、優しさも、気丈さも知らずにいたのか。

「…なによ」
「オレは…」

　色々言いたくて、でもオレはやっぱりバカだから、言葉にならなくて。
　目の前でへの字口にする、大好きな娘を――ただ、黙って抱きしめる事にした。

　かつん。
「…ん？夕利、ポケットから何か落ちたぞ？」
「え？何だろ」
　腕をほどき、アスファルトで舗装された地面を二人揃って見る。
　かすかに鈍く光るものを見つけ、拾い上げると学ランのボタンだった。
　なにやら番号が振ってある、という事は『ラブ・デス』のボタンか。
「何でボタンが」
「あ、保健室――あたし、診てもらった時、上着脱いでたから」
　という事はあの保健医の仕業か。
　…さっき耳に吹きかけられた吐息の生ぬるさを思い出し、オレの背筋に悪寒が走る。
「『ラブ・デス』、結局ボタン探せなかったね」
「いーんじゃねーか？結果は決まってたし」

　オレが誰からボタンを貰っても、夕利が誰のボタンを手にしても。
　何も変わらなかった。
　――それはとても、幸福なことだ。

「ねえ、番号、何番？」
「知ってどうすんだよ」
「いいじゃない。教えてーよー」
「いでで、わかったから髪引っ張んなって！…えーと」

　オレは言われるままボタンに書かれている番号を口にする。
　そのボタンの番号は――。

　また、別の機会に。    </description>
    <dc:date>2008-04-23T09:48:01+09:00</dc:date>
  </item>
    <item rdf:about="http://www39.atwiki.jp/aquick/pages/45.html">
    <title>ラフェスタ・３</title>
    <link>http://www39.atwiki.jp/aquick/pages/45.html</link>
    <description>
      ＊＊＊＊＊＊
　１年前の卒業式は、あのひとの気持ちをハッキリと知った日だった。
　ずっと、ずっと追いかけ続けてきた大好きな、大好きだった人の、本当の気持ちを知った日。
　でも悔しくて、諦め切れなくて、こっそりデートの後を付け回したりなんかして。
　…後から思えば酷いことしてたなあ。
　
　その時傍に居たのは、今あたしが想う相手。
　そして、１年経った同じ卒業式の日。
　あたしの前には、かつて想っていたあのひと――お姉さまがいる。

「ひっく、あ…うあっ、ああああっ！わあああああんっ！」
　言葉にもならないあたしの感情の暴走を、困惑顔で受け止めている。
　何故卒業生が学校に、それも人影もない屋上に居たかなんて、あたしにはどうでもいいことだった。
　ただ、黙って泣かせてくれれば、それでよかった。

　ごめんなさいごめんなさい。こんなことさせても、お姉さまには迷惑でしょう。
　だけど、止まらないんです。
　ずっと張り詰めさせていた物が壊れてしまって、どうしようもない位、気持ちがぐちゃぐちゃになっ
てしまったんです。

「…夕利、落ち着いた？」
　しばらく経ち、静かに尋ねる声に、小さくうなづく。
　しゃっくりは止まってないけれど、涙はようやく収まって来た。
「ひっく、ごめんなさい。…いきなりこんなことされても、っく、困りますよね」
　かつての自分だったら、考えられない行動だ。恥ずかしさのあまり舌でも噛みかねない。
「正直驚いたけどね」
「……」
「責めてるわけじゃないわよ。…夕利に泣くだけの理由があって泣いてるなら、あたしに止める権利は
無いでしょ？」

　言葉はそっけなくて、突き放したようにも見えるけれど、そうじゃないのはあたし自身が一番分かっ
ていた。
　無理に理由を聞き出そうとせず、そっと見守るように傍に居る存在が、今の自分には心の底からあり
がたかった。
　　　　　　　　　
　屋上の床に三角座りになり、膝に顔をうずめながらあたしはゆっくり言葉を紡いだ。
「…お姉さま」
「ん？」
「お姉さまは、阿久津くんと付き合ってるんですよね」
「…うん」
　答えはすぐに、照れ臭そうに返ってきた。
　胸の奥が少し痛んだけれど、あたしは言葉を続ける。
「時々、怖くなることって、無かったですか？…ふとした瞬間に、相手が自分と違う存在だって、自分
より遠くに居るって気が付いて、足元が冷え込むような感じになって」

　あたしとはこんなにも違うのに、どうして傍に居てくれるんだろう。
　あたしよりもお似合いの相手が居るかもしれないのに、どうしてあたしを見てくれるんだろう。
　あたしよりも強く想う人が居るのに、どうしてあたしを好きでいてくれるんだろう。
　わからなくて、怖くなる。

　どんなに近くに居ても、どんなに触れ合っても。
　――いつだって二人の間には無限の距離が横たわっている。

「自分が、相手のことを好きでいていいのか、迷うような」
「あるわよ」
　顔を上げ、横を見る。
　隣で同じように座るひとは、真っすぐあたしの目を見ながらもう一度、あるわよ、と言った。
「でも、好きになっちゃったらどうにもなんないでしょ。相手がどうとかじゃなくて、自分が」

　当たり前の話だけど、距離なんて相手が他人である限り、どんなに近くに居てもゼロになんてならな
いわよ。
　でも、あたしはあたしじゃない、違う人だから好きになったの。
　あたしが持ってないものに少しでも近付きたくて、触れたくて、傍に居るの。
　傷付くことや腹が立つ事だってあるけど、それ以上に――。

「…それ以上に？」
　尋ねると、お姉さまの顔が急に真っ赤になった。
　ああ、いいところで話の腰を折ってしまったみたいだ。ごめんなさい。
「や、やだ夕利！ゴメン今の忘れて！…うわーなんかすごい偉そうな事言っちゃったよねさっき」
「えー、そんなこと無いです！さっきのお姉さま、格好よかったですから！」
「もう、茶化すの禁止！あんまり突っ込んだ事聞いてると、こっちも夕利の好きな人が誰か聞くわよ？
…あたしじゃ、無いんでしょ？」

　ずきん。

　単刀直入に問われ、心臓が音を立てた。
　でも。
「…はい」
　誤魔化したり、嘘を吐く気にはならなくて。あたしは素直に答えた。
　それは、あたしが好きだった人に対する、精一杯の敬意だ。

　――よかったね。
　あたしの好きだった人は微笑みながら、そう言って軽く頭を撫でてくれた。
　その掌の温かさに、掛けた声の優しさに、あたしの中でずっと凝り固まっていたものが、ゆっくりと
溶けていき――。
　あたしはもう一度、甘い匂いのする胸元で涙をこぼした。

　…思い返せば、何故かあの柔らかい谷間が固い胸板になってたのだけど、その時のあたしはそれどこ
ろではなかったのだ。
　　　　　　　

＊　　　　　　
「いててて、まだ鼻が痛いな…あとは、３階と４階の教室と、屋上だけか」
　マスクの上から鼻を押さえ愚痴をこぼしつつ、オレはひとり階段を昇っていた。
　多少は予想していたが、Ｃ組の教室に夕利の姿は無かった。
　だが代わりに、オレの知る限りでは立って居なかった筈の窓際に、ほんの少しだけ残っていた夕利の
残り香が、オレの心もとない推論に力を与えてくれた。
　間違いなく、アイツはここに居る。
　校舎内のどこかに。

「――…下の階の方がまだ可能性あるんですけど」
「また探してみるんですけど」
　階段の上から降ってくる声に視線を上げると、丁度、上の階から女子生徒が下りて来る所だった。
　確か同じ学年の、ちょっと騒がし気な女子二人組だ。
　すれ違いざまに「変態がいるんですけど！」とか「キモいんですけど！」とか酷いセリフを言われた
ような気がするが、気のせいにしておく。
　似たような事を下の階でも言われたような気がするが……いや、いや気のせいだ！

　そういう事にしとかないと辛すぎる。オレが。

「ん？」
　すん、と鼻を鳴らし踊り場で立ち止まる。
　いろいろな匂いに紛れ、ここにも夕利の匂いが強く残っている。
　ということは、夕利はこの階段を使って上に行ったのか。
　歩を進め、更に上の階へと昇りはじめる。
　不思議なことに、上へと進むほど、他の人間の匂いは薄れていくようだった。

　そして、居場所を特定させたのは、犬型サイボーグと化したオレの耳でさえやっと届くほどの、小さ
な――本当に小さな声だった。

　――…はい。…ま放って…のも…し。
　――でも…かなって。

「屋上!!」

　言葉の内容まではわからなかったが、声のする先さえわかれば充分だ。
　ふんっ、と一息気合を入れ、オレは一段抜きで階段を駆け上った。
　アイツに会って何を喋ったらいいか、実のところ何も考えていない。けれど、それでいい。
　オレは馬鹿だけど、馬鹿なりにアイツのことを考えているつもりだ。
　だから、きっと何とかなる。

　きゅっ、とリノリウムの床が足音を立て、屋上へ続く階段を昇り始めた時。
　――重い音をあげて鉄製の扉が開いた。
　逆光で出来た小さな影は、オレが捜していた人物だ。
　マスクを被っててよかった。今のオレの顔、自覚できる程度に緩んでるよなきっと。
「……ゆ」
　夕利、と名を呼ぼうとした声は喉の途中で引っかかった。
　ずぐん、とみぞおちを突かれたような痛みがオレの中を走った。

　――後ろにいるヤツは誰だ？
　
「な、あんたまた…その格好」
　絶句する一口。その目は、泣きはらしたのか真っ赤になっている。
　ぞわぞわと、足先からいろんな感情が頭のてっぺんに昇っていく。――アイツの後ろに居る、男。
　あの男が、アイツを泣かしたのか。

「いぬ…「阿久津!!オマエが夕利を泣かしたのか!!」
「「「えええっ!!?」」」

　オレの目の前には二人しか居ない筈なのに三人分の声が返ってきたとか、
　顔を撫で回しながらうろたえる阿久津の姿とか、
　振り返った状態で固まる夕利とか、
　あとから考えたらいろいろ妙な部分はあったのだが、

　その時すっかり頭に血が昇りきってしまったオレは何も考えず、
「矢射子先輩だけじゃなくて夕利まで…今度という今度は許さねえ！」
　拳を握り締めると、激情にまかせるまま叫んだのだった。

＊　　　　　　　　
「いつだってクライマックスな『ラブ・デスティニー』も終盤にさしかかって参りました！今年は成立
するカップルも見受けられますが四天王の乾君のボタンと、笛路さんのリボンはまだ見つかっておりま
せん！まだまだチャンスは文字通り転がってます！」
　　　　　　
「…だとよ乾。良かったなお前のボタン、まだ見つかってねえとさ」
　１階廊下に立つオレは、アナウンスの声が響き渡る窓の向こうのグラウンドを見ながら、隣で膝を抱
えて座り込む男に向け言った。
「……」
　返事はない。さっきの今で会話がしづらいと思っているのか。
　それとも、背後の扉の向こう――保健室の中が気になっているのか。
　　　　　　　　　

「ちょ、ちょっと待て乾、お前勘違いしてるだろ！」
「言い訳は男らしくないぞ!!黙って殴られろ！」
　一気に階段を駆け上った乾の放つ一発目の拳は、紙一重で空を切った。
「避けるな！変な格好して馬鹿にしてんのかオマエ！」
「お前に言われたかねえよ！つかこんな狭いトコで殴りかかるんじゃねえっ！」
「黙れ！」
　二発目――これも何とか避けきる。地響きに似た音がさっきまでオレが居たところで鳴った。
　おいおい…素手でコンクリの壁に穴あけてるよコイツ。
　黙って殴られたら顔面骨折どころの話じゃねえな。
　いつもの身体ならそりゃ応戦のひとつふたつはするが、今の身体はオレだけの物じゃない。
　元に戻った時、矢射子に取り返しのつかない怪我を負わせちまったらどうすんだ。
　というか、乾のヤツ何でこんなにムキになってんだ？

「乾！いいかげんにしなさい！」
　これは矢射子の言葉だ。
　だがオレの口で喋っているので、傍から聞けばただの女言葉で怒鳴っているようにしか聞こえない。
　畜生、なんて間の悪い時に融合率が変化したんだ。
「どこまで馬鹿にする気だ阿久津！…いい加減に」
「このっ、バカ犬ーーーーーーーッ!!!!」

　ぱぁん。

　屋上階段の昇降口に、平手打ちの音が響いた。
　オレも矢射子も、そして、叩かれた乾本人も、ビンタの主を見た。
　顔を真っ赤にさせ、唇をわななかせる一口は、涙目で乾を睨みつけていた。

「…どうして周りを見ないのよ、バカ」

　ぽつり、呟く声。だが一口、周りが見えてないのはお前も同じだぞ。
「おい！そっちは階段――!!」
「え？」
　オレの叫び声に一口が横を見る。…さっきのビンタの反動で、体が階段方向へと傾いていたのだ。
「あっ、あっわっ――きゃあっ！」
　抵抗むなしくガクン、と一口の体が沈む。
「一口！」「「夕利!!」」
　足が床を離れ、オレたちの頭の中に、受験生の禁句オンパレードが浮かび上がった――瞬間。
「どけ阿久津っ！」
　オレの体を押しのけて、乾は惑うことなく階段をダイブした。
　そして、空中で一口の小さな体を抱きかかえると、そのまま蒲田行進曲モードへと突入した（※受験
生向け表現）のだった。


　…つまり、この経緯からくれば、実際には一口より、乾の方が保健室の世話になるべき筈なのだが、
そんな気配は伺えない。
　例によって無駄に頑丈な乾の身体故か、それとも男色趣味の保険医に拒否反応を起こしたか。
　両方か。

「…あー…一口の相手って、お前だったんだな」
　前を向いたままのオレの言葉に、乾の肩が反応する。…正解だな。
　いくら鈍いと周りから言われ続けているオレでも、流石にわかったぞアレは。
「…だったらどうだって言うんだよ。どうせあぶれ者同士くっついてせいせいしたとか思ってんだろ」
　おそらく本音交じりであろう悪態に、オレは拳骨を一発、乾の頭に叩き込んだ。
「痛えな！」
「馬鹿野郎。お前はそんな引け目感じながらあいつと付き合ってんのか。…一口のヤツ、矢射子に教え
た時、スゲー嬉しそうな顔してたんだぞ」
　屋上で静かに答えた彼女の表情には、確かな自信と誇りを感じさせた。
　その時は相手を知らなかったオレは、矢射子と同じ視界を共有しながら、そんな表情をさせる相手が
羨ましいとさえ思ったのだ。

「……!!」

　声も無く乾の目が大きく見開かれたのを一瞥すると、拳をしまいオレは背を向けた。
「オレはまた屋上に戻る。…外で明石がお前の名前呼んでるが、どうするかは自分で決めろ」
　制限時間がどうとかというアナウンスだ。オレ自身には全く関係のない話である。
「それと――いいかげん着替えとけ。マスク外してパンツ一丁はどう見ても危険だ」
　言い捨て、昇降口に向かう。
　男物と女物の重ね着姿のオレに言われたかないだろうが、とりあえずの忠告だ。

「い、いいの宏海？」
「オレたちが口出すトコじゃねえだろ。…なあ矢射子」
　名前を呼び、なにか言葉にしようとして…オレは口をつぐんだ。
　もし今身体が融合してなければ、オレはただ黙ってコイツの体を抱きしめていただろう。
　ああ、もどかしい。
「…なに？」
「いや…何でもねえ」
　やっぱり明日元に戻った時に聞くことにしよう。

　――さっきの、屋上での言葉の続きを聞いていいか。
　言いかけたセリフを喉の奥に押し込み、オレは階段を昇った。

＊＊＊＊＊＊
　――バッテリーの残量も残り少なくなってきたな。
　ここらでまとめてやらかして貰えば有難いのだが。

　ビデオカメラのディスプレイを眺め、グラウンドで俺は一人思案する。
　一たちの方は大体撮れたので、残るは王子か。ふむ。
「ま、王子に関しては理屈もクソもないか」
　校舎の方から悲鳴と絶叫と怒声が響く。――そろそろ、来るな。
　俺は録画ボタンを押し、カメラを構えた。

「いつだってクライマックスな『ラブ・デスティニー』も終盤にさしかかって参りました！今年は成立
するカップルも見受けられますが四天王の乾君のボタンと、笛路さんのリボンはまだ見つかっておりま
せん！まだまだチャンスは文字通り転がってます！」

「ちょーっと待ったぁ！」
「おおっと!!『ちょっと待ったコール』だ！」「古っ！」
「紋のリボンはオレがいただいたぜええぇぇええーーっ!!!!」

　――雄叫びと共に校舎から抜け出した特徴的な二頭身。紛う事なき我らが王子の姿だ。
「このリボンから染み出すフェロモンは、間違いなく紋のだ！待ってろよ！」
　――そして後を追うのは、笛路親衛隊の三人組だ。
「ふざけんなおにぎり頭！紋さまのリボンはあたしたちが手に入れるのよ！」
「リボンが汚れるからさっさとあたしたちに渡しなさい！」
「紋さまは男からのリボンなんて受け取んないんだよ！」
「えっ、それ誤解よ加瀬さん!?」
　紋が慌てて弁明するが誰も耳を貸すわけが無い。

「大・混・戦！リボンはこのまま百手太臓の手に落ちてしまうのか！それとも白百合乙女が奪い返すの
かーっ!?」

　体一つ分王子が抜き出ているが、いかんせん足の長さに差がある。更に相手は三人だ。
「葉和！そっち回りこんで前から止めて！」
「わかった！」
　目の前を塞がれ、後から追われる。連携プレイでの挟み撃ちが成立すると誰もが思ったその時。

「見てろよ　紋…！　ブースカブースター進化型　究極の　屁テクニックを…!!」
　どこかで聞いたことのある文句と共に、辺りが爆音と異臭に包まれた。

「なげァああああ!!?」
「この臭い、は…!!?」
「げほっ！…おえっ!!」
「非道なり百手太臓！女子相手にもこの仕打ち！これじゃもてる訳ありません！しかし…しかし！」
　そう、微妙に屁の発射を加減する事によって弧を描くように軌道を変え、回り込んでいた相手を更に
回りこむ形で追い抜く――まさに進化型の名にふさわしい技で、王子は混戦を抜け出したのだ。
　更に加えれば、相手は屁の臭さにすっかり戦意を失いかけている。

　どうでも良くないが、この書き手はここが18禁サイトだと銘打っている事を忘れては無いだろうか。

「太臓くん…！」
「紋、今なら言える。これはオレの夢だ。やっと言える――」
　一緒に行こう　『間界』に…!!
　手を取り合い、王子の高校生活総決算とも呼べる告白が行われる――しかし。

　バキィイイイッ!!!!
「触んじゃねえよオラァっ!!」
「わずれでだっ!!」
　一閃。手を触れた瞬間放たれたキレのいい回し蹴りにより、王子は真昼に輝く星となった。
「…あ。た、太臓くーーん！」
「百手太臓、退場!!『やはり人間夢見るとロクなことがない』ということでしょうかーーーっ!?」
　サマンサまでつられているな。まあいいか。
「太臓もて王サーガのオチはこうでなくっちゃね」

　いや、まだ話は終わってはいないのだが。
　もうちょっとだけ続くんじゃぞ。    </description>
    <dc:date>2008-04-23T09:47:03+09:00</dc:date>
  </item>
    <item rdf:about="http://www39.atwiki.jp/aquick/pages/44.html">
    <title>ラフェスタ・２</title>
    <link>http://www39.atwiki.jp/aquick/pages/44.html</link>
    <description>
      ＊＊＊＊＊＊
「おおーっと!?今２階の辺りでなにか光ったようですが何でしょう!?爆発とかじゃないようですね」

　外で聞き覚えのある声がする。明石の声かな？…って、ここ学校じゃない!?
　何で？あたしさっきまで宏海の家に居て、宏海にあーんってあー…。
「よし来たか！って何でまた融合してんの!?まさかやっぱり最後のセーラー…「ナーーーーーウ!!!!」

　バキッ。

　聞き覚えのあるド変態の声は最後まで言葉にならず、右拳に走った衝撃とともに、三角頭が廊下の端
まで飛ばされていくのが見えた。
　あれ？ちょっと。
「ちょっ、な、何コレ一体？」
　いや、このシチュエーション思いきり身に覚えがあるんだけど。
　そういやさっき融合がどうとか…。
　――まさか。
「矢射子、パニックになる気持ちはわかる。だが落ち着いて横を見ろ」
　宏海の声。けれど紡ぎだしているのはあたしの口。まさか。
　どくん。どくん。どくん。
　ゆっくり横を向き、教室のガラス窓に映った自分の姿を見る――が。

　ポニーテールに結われた、赤色の髪。
　ぱっちりしたタレ目に、太い眉。
　さっきまで着てたカットソー＆キャミワンピと男物のトレーナーとジーンズの重ね着の下で、やたら
存在を主張する胸とごつい体躯と…下半身の異物感。

　その姿は、自分の姿とも宏海の姿とも似ているようで違う、二人が合体（ミックス的な意味で）した
姿だった。

「ナーーーーーーウ!!!!!!」
　　　　　　
「…で、リボンを一人で集めるのに難航した結果宏海を呼び出す事にしたけど、実際はまた融合状態の
あたしたちを召喚しちゃったと」
　パニックから落ち着いた矢射子はそう言うと、足元の太臓に向け、経緯をまとめるように呟いた。
　やけに冷静だな。それになんか協力的な感じがしないでもないが…。
「ま、そういう訳だな。矢射子姉ちゃんも協力してくんない？」
　ズドォム！「掌底!?」
「あらいけない。…耳障りな虫の鳴き声が聞こえたからつい潰しちゃった」

　…前言撤回。でもまあ、コレは太臓の自業自得だな。
　ていうか矢射子お前、虫は手で潰す派なのか？

「冗談じゃないわ！何が悲しくて大事な日にアンタなんかの片棒担がなきゃなんないのよ！…帰るわよ
宏海」
「ああ。っつーか今は同じ体共有してんだけどな」
「帰ってもいいのか？」

　階段の昇降口からの声に振り返る。とそこにはビデオカメラを片手に持った悠が立っていた。
　――カメラ片手って事は予測してたなコンチクショウ。

「…どういう意味？」
「どうもこうも、お前たち以前融合した時の事を忘れたのか？どちらの家にも帰るに帰れず、挙句宏海
の親父には変態扱いされてたじゃないか」
「そりゃお前が勝手にケータイで呼んだからだろうが！」
「ともかく、このまま帰ったところで不法侵入がオチだ。だったら時間稼ぎとでも思って付き合え。何
だったらまた泊まる場所位貸してやったっていいしな」
「……っ！」

　本当、痛いところを突く奴だな。
　しかし実際の話、融合は一晩寝ないと解けねえんだよな…。

「クソっ、分かったよ」
「宏海!?」
「けどオレの好きなように探させてもらうぞ。確か参加者以外とつるんでたらルール上まずいんじゃな
かったか？」
「ええっ？」
　ええっ？じゃねえよ馬鹿。誰のせいでこんな目に遭ったと思ってんだ。
「そうだな。今の宏海じゃここの学生にも見えんだろうし、仕様がなかろう」
「じゃ、じゃあ悠、おまえの能力でリボンの番号を――」
「ダメです王子。今年は自分の力でリボンを手に入れてください。相手だってその方がきっと心に残る
と思いますよ」
「そんなあー！」

　絶対そんな事思ってないだろアイツ。
　主従二人のやり取りを背に、オレは階段を昇る。
「どうするの宏海？まさか本当に太臓の手伝いなんて…」
「する訳ねえだろ。屋上で適当に時間潰すよ…矢射子、本当すまない。変な事に巻き込ませちまって」
　オレの声に、階段を昇る足がぴたり、と止まった。
「…矢射子？」
「…ううん、なんでもない。ただ」

　――宏海の近くに居られて、嬉しいなって。不謹慎だけど、思っただけ。

　…その辺は、オレも同感だったりするんだが。しかし。
「…自分の口から聞かされるのは、どうも複雑だな」
「…そうね」

＊　　　　　　
　…だんだん周りが騒がしくなってきたなあ。そろそろ教室出ないと皆と鉢合わせしちゃうかも。
　心で呟くと、あたしはこっそりＣ組の教室を抜け出した。
「えーと…トイレでも行ってこようかな」
　それから図書室で受験勉強でもして。うん、そのほうがいいかも。受験生だし。
　やっぱりコソコソしてるのって性に合わないっていうかなんていうか。
　思い、トイレへと向きかけたあたしの足は、

「――ねえ、ここにボタン隠してると思う？」
「乾自身が隠したんじゃないとしても、何かしらヒントくらいあるでしょ」

　聞き覚えのある声によって逆方向にある階段の昇降口へと勝手に向いてしまった。
　ってあたしのバカーっ！
　声の主は、ついさっきまで同じクラスにいた――ついでに言えば、乾にいつも話しかけていた『女の
子友達（乾・談）』だった。
　……あの人たちも『ラブ・デス』参加してたんだ。
　盗み聞きは趣味が悪いな、と思いつつ、つい教室の入口へと近付き耳をそばだててしまう。
　だって。
　だってやっぱりその、気になるんだもの。

　もし見つけちゃったらどうかとか、アイツがどんな反応するかとか。

「んー、やっぱ机とかの辺りにはないみたいだね」
「見つけたらどうする？…やっぱりまた告白する？」

　――また？少しトーンの落ちた声に、あたしの胸がざわめいた。

「聞いた話だとさ、乾バレンタインの時、下のコにも同じこと言ったらしいよ？」
「え、あれ？『彼女ができたから気持ちまでは受け取れない』ってヤツ？…聞いてるほうが恥ずかしく
なりそうな」
「それそれ。馬鹿だよねー、もうすぐ学校卒業するんだから嘘くらい突き通せばいいのに」
　がたがたと机や椅子を動かしながらの声は、だんだん静かになっていく。
「…本当、少しくらい夢見させろって話だよね…最後になってさ…」

　がたん、と移動した机が音を立てた後、教室の中が静かになった。
　その後に続くのは――きっと、微かに咽ぶ声だ。
　いたたまれなくなり、あたしはその場を離れ、階段を一気に駆け上がった。
「…ばか…」

　そして、誰も居ない３階へ続く階段の踊り場で、あたしは届く相手のない言葉をこぼした。

　本当に、アイツは馬鹿なやつだ。
　鈍感で、直情的で、思い込んだら周りが見えなくなって。
　いろんな相手を泣かせてる酷いやつだ。

　唇をぎゅっと噛みしめ、階段を更に昇る。
　今の表情は誰にも見られたくないので、降りるに降りられない。

　…屋上だったら、一人で居られるかな。

　リノリウムの床に靴音がこだまする末に、屋上の重い鉄製のドアを開けると――。
　３月の風に乗って、桃に似た甘い匂いがしたような気がした。

「誰か居るの？」
　不意打ちのように聞こえた声に、身体がこわばる。
　――…人の声？そんな、今の顔なんか見られたら。
　けれど、今更引き返すことなんか出来なくて。
　ああ、視界がだんだん熱くぼやけていく。
「……っく、うっ」
「夕利!?どうしたの？」
　この声を、あたしは知っている。かつて、ずっと追いかけ続けていたメゾ・ソプラノ。
　だから。

「お、お姉さまぁーーっ！」
　だから、あたしは堪えきることが出来ずに、声をあげて泣いた。

＊　　　　　
「――…っ!?」
「さあどんどんリボンやボタンが集まってきてますねー皆さん特攻精神フル稼働です！カミカゼアタッ
クです！…乾君どうしましたか？」
　いきなりマイクを向けられたので何を言えばいいか困り、とりあえずオレは、何でもないです、と答
えた。
　けれど実際は違う。３月の風に流れた小さな声が、微かにオレの耳に届いたのだ。

　…誰かの、泣き声？

　幼子のそれに似た、胸を締め付ける声は、どこか聞き覚えがあるような――。
　…いや、まさかアイツが居るわけがないだろ。
　だってアイツは今学校に残る余裕なんか無い筈なのだから。

　　　　　　　　
　――おい夕…じゃない、一口！さっき職員室で先生が話してたの聞いたけど…おまえ、ドキ大一本に
絞ったって本当か？

　冬休み明けの校舎内で、振り返った彼女はオレの質問に小さくうなづいた。
「先生に驚かれちゃったけどね。滑り止めぐらい受けとけって」

　それは先生じゃなくても言うだろう。
　推薦入学を決めたオレが言うのもどうかと思うが、はっきりいって無謀だ。
「えーと、ひょっとして…」
「乾がアレコレ考えることじゃないよ。…あたしが、そうしたいって思ったから受けるだけ。それだけ
だから」
　前を向き歩きながら、自分に言い聞かせるように呟いた一口の横顔は、静かな覚悟を秘めていて。
　オレは――その表情に、不覚にも胸を高鳴らせてしまった。
　そして、それ以上何も言えなくなってしまったのだ。

　もしも本気でアイツのことを思うなら、無理にでも滑り止めを受けさせるべきだったのだろうか。
　もしももう一度あの時に戻ったら、オレはアイツの無謀を止めることが出来ただろうか。

　多分、無理だ。

　何度同じ場面に立ち会ったとしても、オレはアイツの意志を止めることは出来ない。
　あんなにも力強く前を向く瞳を遮る術なんて、オレは知らない。

　…ああチクショウ。どうしてオレが好きになる相手って、あんなにも強いんだろう。
　自分の卑屈さが浮き彫りになっちまって、時々自己嫌悪に陥ってしまう。――半月前の時のように。
　近付きたいのに、触れ合いたいのに、汚したくないなんて。どれだけオレは傲慢なんだよ。
　　　　　　　

「悪いけど…僕、心に決めた人がいるから…」
「そ、そんな！ずっと見てたのに！」
「っていうか君、男じゃないか。僕そんな趣味ないよ」
「大番狂わせ来たーッ！最初にもて四天王、大木君のボタンをゲットしたのは、同じ元生徒会の男子生
徒だぁーっ!?だが速攻で断られた！」
「恋に性別の垣根なんかいらないだろう大木！俺は、俺は…もうっ!!」
「ハイハイ数字展開は当サイトでは取り扱っておりません！該当サイトへ行ってください！」

　……。
　なんか、まじめに考えてるのが馬鹿らしくなる状況だな。

「明石先輩スミマセン、オレちょっとトイレ行って来ていいっスか？」
　軽く片手を挙げ尋ねると、席の中座は１時間を超えると脱落扱いになりますよ？という念押し込みで
許可を貰うことができた。

　なんかオレこの書き手の話だとよくトイレ行くなあ。別に腹が弱いって訳じゃないんだが。
　…って書き手の話って何？オレ今スゲーどうでもいい事考えてないか？

　――待つだけじゃ捕まえられん。

　校舎内のトイレに駆け込み、オレはさっきの安骸寺の言葉を心の中で反芻した。
　安骸寺はよくデタラメでいい加減な事を言うが、あのセリフもそれらと同じ扱いで括っていいのか、
判別しかねていたのだ。
　そういえば開始前、校舎の方見てたよな。
　あの時視線の先にあったのは――オレの居たクラスの辺りじゃなかったか？
　まさか…アイツまだ学校に残ってんのか？
　何のために？

「……」

　御都合主義で短絡的な結論と笑われても文句の言えない考えだろう。
　けれどオレは、心の奥で確信していた。

　アイツは、夕利はまだ学校のどこかに居る。
　どこかで――泣いている。

「……だったら」
　捜そう。オレがするべきことは、ボタンを手にした『誰か』を待つことじゃない。
　オレを待つたった一人の『彼女』を捕まえることだ。
　なんで泣いてるかは分からないけれど、涙を止めることはオレにだって出来るだろう。

　そうと決まれば話は早い。
　オレはズボンのポケットをまさぐって取り出した変身用の首輪を付け、バックルを回した。
「ヘンジン！」
　周りが光に包まれていく――変身すれば、素早さも五感の精度も段違いに上がる。
　今のオレの目的には、まさにおあつらえ向きというわけだ。

　だが。
「――!!?んがっ!?鼻！鼻痛えっ！トイレ臭がっ!!塩素が！サンポールがっ!!」

　サイボーグ乾の嗅覚は常人の100万倍。
　忘れてた。――今度から変身する場所はきちんと選ぼう。
　鼻にハンマーで殴られたような臭いの暴力を受けつつ、涙目のオレは心に誓ったのだった。

＊＊＊＊＊＊
「ねえねえ、屋上ってまだ誰も探してない穴場だと思うんですけど！」
「そういえばこの辺、人の気配がしないんですけど」
　４階廊下で女子生徒二人組が、賑やかに喋る声がする。
「大木君のボタンは先越されちゃったんですけど」
「でも他にもいい感じの男子居るんですけど！」
「見境なさ過ぎなんですけど」
　最後のは、俺の言葉だ。

「「!!」」
　二人組が声に驚き、俺を見る。
　大きく見開かれた二人の双眸は、やがて微かな濁りを見せはじめ、俺のかけた術が効果を現しだした
事を示していた。

　しばらくした後、何もなかったかのように廊下に立つ二人は踵を返す。
「…屋上のボタンはとっくに取り尽くされたみたいなんですけど」
「…はあ、がっかりなんですけど」
「下の階の方がまだ可能性あるんですけど」
「また探してみるんですけど」
　両目を開けると、肩を落とし昇降口から階下へと行く二人の姿が見えた。

「――悪いが、邪魔に入られると面白くないもんでな」
　掌の眼をしまい、呟く。
　追い返すたびに能力を行使する訳だが、あまり多用するとさすがの俺も疲れる。
　だが、階下での動きから察するに、このつまらない役回りもそろそろ終わりか。

「この借りは、とびきりの好プレー珍プレーで返してもらうぞ」
　向こうは借りを作ったなどとは思ってないだろうが。    </description>
    <dc:date>2008-04-23T09:45:35+09:00</dc:date>
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    <item rdf:about="http://www39.atwiki.jp/aquick/pages/49.html">
    <title>イチイチおまけ・桜香</title>
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    <description>
      ＊＊＊＊＊＊
「え、えーと、番号覚えてるか？アレって受験票の番号が書いてんだっけ？あ、け、ケータイは？」
「もう一、うろたえ過ぎ。ちゃんと持ってるってば。それじゃ、行ってきまーす」
　靴を履き、タイルを爪先で叩くたび、ポケットの中のお守りに付けた鈴が、ちりちりと澄んだ音を
鳴らす。

　――春の匂いも立ちこめだした、でもまだちょっとだけ肌寒い３月下旬。

　アパートの部屋の前で待っていた一と共に、あたしは合格発表の会場へと足を向けた。
「ケータイ、ちゃんと充電してんだろうな。昨日長電話し過ぎてたから心配してんだぞ」
「してるよー。ね、ところでこの前スポーツ学科の説明行ってきたんだって？どんな事するの？一も
何かスポーツ始めるの？」

　ムダな緊張がうつりそうになったので、話を切り替えることにする。
　木蓮の花咲く香りが漂う住宅街で、話を振られた相手はちょっと考えるように、ひとり腕を組んだ。

「ん？んー…それなんだけど、いや、説明されたのはいいけど、なんつーか小難しくって半分位聞き
流したっつーか」
「難しい？ってコトは心理学とか生理学とか？」
　一瞬、白衣姿の一が脳裏に浮かび、あまりの似合わなさに慌てて打ち消した。
「違う違う。…あーでも場所は近いかな。運動能力や体質などの記録を取るとか言ってたから…なん
かオレの体が丁度いいらしいって、ルリーダ先生からの推薦なら文句なしだって」
「それって…」
　思い浮かんだのは、回し車に乗って走り続けるモルモ…一の姿。
　うわ。似合いすぎるのが怖いくらい似合うけど、学生扱いじゃないんじゃない？
「…大丈夫なの？それ」
「わかんね。でもさ、おかげで筆記試験とか免除になったから結果オーライだよな」
　だよな、じゃないよ。体のいい実験体じゃん。呆れてしばらく言葉が出なくなった。

「……夕利？」
　沈黙に耐えかねたか、一があたしの名前を呼ぶ。
　それを契機にあたしは長い溜息を吐くと、鈍く痛み出したこめかみを、親指でぎゅっと押さえた。

「アンタ…アンタねえ…もう少し考えて行動しなさいよ」
　疑うことを知らない訳でもないでしょうに。
　どうしてコイツは変なモノにばっかり引っかかってしまうのだろう。
「太臓に指南を請けようとしたり、サイボーグになろうとしたり…そういうの常識で考えたら、おか
しいって事気付かなきゃ」
　特に前半の人選ミスの酷さは、初めて聞いた時に思わず頭をはたいてしまったほどだ。
　思い出し、眉間に皺が寄る。一も思い出してしまったか、ばつの悪い表情で、前を向いていた。
「…でもさ」
　ぽつり、呟く声にあたしは横目で一の顔を見た。

「でも、オレだっていつも変なモンばかり選んでる訳じゃないぞ。…現に今、お前を選んで後悔して
ないんだから」

　頬と鼻先を赤くさせて紡ぐ言葉。前を向いたままなのは、照れているからだろうか。
　――夕利だって、そうだろ？
　手を握りながら尋ねる言葉に、あたしは小さくうなづいた。
　多分、あたしの顔も一に負けず劣らず赤くなってるに違いない。
　ああもう、さらりと言いにくいコト言ってくれちゃってもう。
「…ばか」

　この声が、照れ隠しだと気付いてくれるだろうか。本当の答えは、握り返した手にある事に。


　このまま重なりあって、行き着く先には何があるのだろう――時々、思う。
　他人同士だったあたしたちが、近付いて、触れ合って、でも溶け合うことはなくて。

「もうすぐ会場だな。夕利、ちゃんと受験票持ってるか？」
「持ってるってば。ほら」
　何度も尋ねる一に、証明のつもりでポケットから受験票を出す。
　と、一緒に出てきた物に付けていた、澄んだ鈴の音が辺りに響いた。
「お守りも、持ってきたんだよ」
　受験票と一緒に見せた、手作りのお守り袋に一はちょっと驚いた表情をした後、静かに微笑んだ。
「…効いたか？オレのボタン」
「番号通り、一番は狙えそうになかったけどね」

　卒業式の日に偶然手に入った一の第二ボタンは、あたしの小さなお守りとして、傍に居てくれた。
　試験のお守りには縁起悪くねーか？という一の自虐込みのつっこみもあったのだけど。

「でも…うん、出来ることは出来たと思う。ありがとね一」
　あたしの言葉に一は苦笑しながら、オレは何もしてねーよ、と返したが、そんなことはない。
　――何気ない日常を、変わらないようで変わり続ける毎日を、一緒に過ごしてくれる。
　言葉にすると壊れてしまいそうな、ささやかな理由だから口にはしないけど、とても大事なことだ。

　あたしはそんな一を好きになった。
　傍に居たいと、触れ合いたいと、重なり合いたいと願った。それは揺るぎようのない事実だ。
　そして――…。
　　　　　　　　　　　　　　
　――そして、更に願うなら、もっともっと先へ。全ての行き着く先を、彼と見たい。
　どの位先にそれがあるのかわからない、手探りの道だけど、きっと二人なら何とかなる。

「春になっても、一緒にいような。…先に待ってるから」
「…うん」
　言葉を交わし、二人揃って発表会場に入ると、３月の風が、あたしの髪留めを外して久しい前髪を
撫でた。
　少しだけ強い春風に乗って――どこかで一足早く咲く桜の匂いがしたような気がした。    </description>
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