レンコン

DOUDAN MEETS RENKON

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Doudan meets Renkon

低迷する農業

 T13、初頭。都築藩国、ビギナーズ王国。わんわん帝國に所属する2国の合併によって満天星国は誕生した。この国、正確には藩国宇宙船は合併に際して国内の気候を、両国の中間に設定していた。藩国宇宙船の階層毎に異なる気候を設定する、という方法もあったかもしれない。しかし、新しく一つの国として一歩を踏み出すために、都築藩国でもなくビギナーズ王国でもない、一つの気候を選択したのである。
 結論から言えば、それが裏目に出た。両国のいずれとも似て非なる、新たな気候と風土。両国の生態系は突如新たな環境に放り込まれ、そして、大きなダメージを受けた。無論、農作物も例外ではなく、国内の農産業は大きな被害を受けることとなる。
 また、合併からしばらくして発生した民族対立に起因する国内の内乱による人口の大幅な減少と、それに伴って引き起こされた食糧価格の下落や国内の他産業と比較して生産性が低かったこと。いくつもの原因が重なった結果、国内の農産業はひどく低迷していた。


レンコンの「発見」

「……しかし、よくそんなものを見つけたな」
「美味かったですよ?」

 時間は少し遡る。満天星国第4層、軍事基地内演習場。元々低湿地の粘土層からなる土壌であり、農地には不向きであるとして演習場に利用されてきた経緯がある。
 うっそうと茂る木々。緑に視界が遮られ、さんさんと降り注ぐ日光も地上には届かず薄暗い。そんな緑の中、一人歩を進める影があった。

「……くっ」

 彼の目の前には大きな沼が広がっていた。彼は今、この演習場において限られた食糧と水とで数日間かけて一定距離を移動するサバイバル訓練を行っている。前もって支給される食糧はごくわずかであり、不足分を演習場内において現地調達することも訓練の一環とされている。

「昨日の大雨で増水したか……? 迂回している時間は……」

 脳裏に描いていた予定ルートを再検討する。今日の日没までに目標地点に辿り着かなければ訓練は不合格。迂回ルートを取った場合、元のルートに戻るまでにかなりのロスがあり選択肢としては避けたい。……水位が浅ければ、まっすぐ突破する事も可能か。目まぐるしく頭を回転させる。……しかし。

「……腹減った」

 呟くや否やその場に崩れ落ちる。それなりにシリアスな場面が台無しであった。……場所が場所なら周囲からハリセンが飛んでくるところだが、残念ながらツッコミは無い。

「よく考えたら、もう3日間、何も口にしてねえ……」

 ……よく考えなくても気付け、と言いたいところではある。無論、彼とて本気で気付いていなかったわけではない。道中、夜営時に罠を仕掛け、獲物を捕らえようとしてみたものの、運悪く一度も当たりの無いままここまで来てしまったのであった。かといって、食糧調達のために予定ルートから外れて歩き回るのは大幅な時間ロスであり……。

「あ……いかん。目がかすんできた」

 ありていに言ってピンチであった。

「あ、なんか極楽っぽい花と暖かい光が……って、おい! やばい! やばいから!」

 ……飢え死にしそうになった挙句の果てに、幻覚を目の当たりにし、どうにかセルフツッコミで口から出かかっていた魂を自力で体に押し込む変な人がそこにいた。というか自分だった。

「……いや、幻覚でも無い……?」

 ようやく一息ついた彼が目を向けた方向。どんな神の気まぐれか、沼の一角がぽっかり開けており、日光を反射してキラキラと光る水面には、緑色の艶やかな大円の葉がいくつも浮いており、その中には一輪の花が咲いていた。

 まるで、そう、そうやって誰かが見つけるのを待ち侘びていたかのように。

 その後、そこには空腹によって極限まで研ぎ澄まされた嗅覚でもって沼の中から蓮の根っこを掘り出し、泥まみれになりながら歓喜する変な人がいた。というか自分だった。

 ―こうしてレンコンは満天星国で“発見”される事になったのである―

 その後、発見されたレンコンは初心記念大学農学部に持ち込まれた。ここでは小麦、米といった穀物類、ジャガイモや大根といった野菜類、また畜産業など、東国、北国を問わず、広く作物が集められ、新たな環境下での栽培方法や品種改良の研究が進められていた。レンコンもこれら農産物の中の一品種として、植物としての生態や、生育に適した環境などについて基礎データの収集が行われ、栽培方法の確立に向けて研究が進められたのである。また、同時に満天星国農業研究所でも商品作物としての観点から研究が進められ、結果、ビタミンCや食物繊維、ポリフェノールなど栄養に富む事が判明し、健康食品としての側面からも注目されている。

 その後、実験的に栽培が続けられ、農業博覧会や第2回タケモンダンジョンなど、いずれも満天星国の他の作物とともに高い評価を受けると共に注目を集めており、今後の本格的な商品化に期待が集まっている。


余談

「思うに、まだこの国には、本当の意味でこの国の産物と呼べるものがまだ無いのではないかと思うんだ。ピケも、天陽もかつてそれらを生み出した国の面影を色濃く映し出している。だからこそ、この国の産物と呼べるように願いを込めてこの名で呼ぼうと思う。」

「それならドウダンなのでは……?」

「満天と満点で語呂がよさそうじゃない?」

              ―国内某所にて。ある意味うちの国らしい会話―


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