[マーテル=コロッスス]
顔を見せたばかりの陽光が空に色を付けてゆく。
窓からの光が花瓶に反照して、光のカーテンを壁に掛ける。
身体を起こすと、自慢の金色の長髪が背中を撫でる。
<ウチ>はベッドから、鉛のように重く気だるい身体を窓へと連れ出そうと決意した。
朝は苦手。
「ひゃっ」床の冷たさに思わず小さい悲鳴を上げてしまう。
夜の冷気を浴びた大理石が直ぐに伝わる。鱗に覆われた脚は皆思うほど鈍感では無いのだ。
鱗から伝わる冷気を我慢しながら窓辺へ辿り着く。
「人魚用の靴も作ってくれへんやろか。」
ウチは若い鍛冶屋の青年の顔を思い出して独り言ちた。
そういえば最近、円形闘技場の鍛治師を志してやってきた見習の子は私の好みの顔つきだった。
この窓から見える世界の首都と呼ばれる街並みを見遣る。眼下には聖者が海を割ったように、街を二分する大通りがどこまでも伸びている。
青々と茂る街路樹は緑の少ない都市にとって彩りを添える大事なアクセント。
通りには日が昇ったばかりだというのに、まるで働きアリのようにヒトが忙しなく往来している。
「ならば、コロッススと呼ばれる巨人象が立つここはアリ塚といったところか」
遥か遠方に、アリ塚へ向かってくる馬車が視界に入った。大通りに3頭曳きの巨大な馬車が勢いそのまま巣へと吸い込まれて、消えた。
馬車を見る度に自分が連れてこられた記憶が蘇る。
あの蹄の音も苦手。
・・・・・・
円形闘技場は都市の中心に座す巨大な娯楽施設である。
収容人数は十万人らしいが実際に数える気になどならない。
昔は規模も小さく、競技場の延長のような施設であったが、十年前の大火が木造の闘技場と逃げ惑う人々を炭にした。
娯楽施設はすぐに有力議員の幾人かが私財を投じて再建された。
石材、粘土と石灰を練って作られセメントでできた立派な闘技場は近隣の商店や浴場などを取り込み、本当にアリ塚のように人が生活している。
新たに運営される際に、巫女という名目で人魚が1人連れてこられた。
大火が2度と無きようにと、巫女として人魚を宛がうのは実に安直なアイディア。
人魚は遥か東方に根差す種で、珍しかった。
半ば誘拐されたように連れて来られた巫女は、勝者への褒美として寵愛を与えるよう強いられた。
閨を共にするということらしかった。演出の為だけに。
闘技会が開かれる度に巫女は抱かれた。
ある勝者は名声を欲する豪腕の巨躯。彼は巫女を乱暴に扱った。勝者が所有したモノとして。
その次の日から、毎夜震えて眠れなかった。
ある勝者は女性であった。「彼女は女性を馬鹿にしている男どもを叩きのめす」為に参加したと話した。
巫女の震えている手を取って、「大丈夫」と囁く。そして朝まで巫女の手を握っていてくれた。
巫女に出来た初めてのトモダチが彼女だった。
ある勝者は主人から無理矢理剣闘をさせられた青年。
傷だらけの彼は巫女と視線が合うと、顔を真っ赤にして視線を壁に移した。
床に付いても、傷だらけの背中しか見せてくれなかったのが可笑しかった。
こらえたはずの笑声が彼に聞こえてしまったようで、振り返った時の真っ赤な顔はウチの声を1トーン高くした。
ウチは可愛くて初めて自分から寵愛を与えた。初めて巫女の仕事をした時だった。
・・・・・・
身支度を終えて、思い出のアルバムを閉じる。
鏡の前の人物を再度確認した。
舞い降りる天使の羽のような優しいカーブを描く眉毛。海よりも深く蒼い瞳。
腰まである髪を梳く鼈甲の櫛には力を入れる必要はない。花を引き立てるドレスは若草のよう。
半身の鱗は薄く繊細で、秘部には薄い桃色の柔肉に挟まれた一筋の線がドレスのレースに見え隠れする。
以前、前の開いたドレスを着て外出(闘技場内だが)した時に鍛冶屋の青年が顔を真っ赤にして挨拶していったのを思い出した。
「またあの服でお話でもしましょぅか」人魚は下半身を隠す文化など無いので、勝手に恥ずかしがる無垢な青少年の反応を見るのが楽しくてしょうが無かった。
最後に重い鉄球と鎖、無骨な腕輪を一瞥する。
初めは逃げ出さないようにとつけられ、実際食事も移動もままならなかったのだが、
いつの間にか片手で持てるほど筋力が付いてしまい、アクセサリーのひとつと思うようにしていた。
「逃げないから外してぇや」と、御付兼監視役に提言するも、無言の返事を頂いた。
能面のような顔の監視殿は、ウチの色香も及ばない謹厳な精神をお持ちなのだ。
くるんっ と鱗の足で器用に身体を回転させる。
「うん、完璧やわぁ」鏡に向かってちょこんと一礼する。
トントン
準備が終わるのを待っていましたとばかりに、重い木扉がノックされる。
「ええよ」扉に向かって入出許可を与える。
大きな獣人が2人、入ってきた。身の丈2mはある。
足にはカリガ、胸に牛の皮をなめして木の板に張った防具を身につけている。
頭部は狼のそれで、空気を含んだ雪のように白い毛が全身を覆っている。2人とも優しい眼をしていると感じた。
ウチが双子の違いを判断できるとすれば胸防具の模様の違いだけだった。
優しい4つの瞳が悲しげにウチを見つめていた。
・・・・・・
獣人を二人お願いしたいとウチに依頼が来たのは昨日のことだ。
話は1ヶ月前の国境付近。
防衛に当たっていた師団の1つが壊滅した。商人に偽った蛮族が、深夜砦の門を開けたらしかった。
指揮官とそれに続く者たちは殺され、一夜にして防衛線は崩れた。
部隊長であり、実質前線で指揮を取ることになってしまった彼ら兄弟は、一時砦を捨てて後方へ撤退した。
その際、彼らは蛮族との捕虜解放の金銭交渉を行った。
後方で武器と兵站を補充して返す刃で蛮族を叩く為の交渉だった。
彼らが不幸だったのは、刃を振るう前に、遠征に出ていた師団が現状を聞きつけて合流した一事に尽きる。
当然指揮権は合流先の師団へ移り、残ったのは蛮族との交渉に応じたという指揮官としての汚名だけであった。
この国の軍隊は捕虜の金銭的交渉には応じないことを誇りとしているのだ。二人は糾弾され本国へ召還された。
元老院が下した結果は、闘技場での「ラストワン」。
犯罪者を数十人集め、最後に生き残った1人を解放奴隷として無罪放免とする闘技に“2人とも”参加することであった。
実質的な死罪だ。
そして彼に救われた軍団員が尋ねてきたのは数日前。
双子の獣人にせめてに巫女の恩寵を頂けないかと、団員のすずめの涙のような給与の銅貨で膨れた皮袋を持ってきた。
彼は2人の為に心から頬を濡らしていた。
ウチの身体目当てで金貨を積む貴族や商人は後を絶たなかったが、そういう輩は謹厳な監視殿に摘み出されていた。
しかし、その時は団員の言を待ってから摘み出した。
ウチの手には重たい皮袋という人望が残されていた。
団員は私の恩寵を与えることで、闘技場での優勝と同じ、誇りや栄誉を与えたかったのだ。
ウチは後日、監視殿へ特別に恩寵を与えたい者が要る旨を伝えた。
・・・・・・
ぱんっ
ウチは両手を音がなるように勢いよく顔の正面で合わせ合わせてこういった。
「お酒でも飲みましょうえ♪ 大男が2匹そろって湿気た顔せんと!」
二人はお互いを見遣った後、優しい眼で奇妙なモノでも見るようにウチを見た。
どうやらイメージの巫女様とは少しギャップがあったみたい。失礼千万。
酒宴が始まると、すぐに彼らが饒舌であることが分かった。そして語ってくれた。
部下を慕っていること。この国を愛していること。お互いを尊重していること。
「コイツはその遠征先で、村の娘に一目ぼれしちまって、グァッハッハ」
兄の名前はディベルト。口は悪いが、そこに棘のようなものは無い。親分肌で、軍団より寧ろ闘技場のほうが相応しく思える。
防具で分からなかったが、胸に大きな傷痕があるので私でも弟と区別が付いた。戦場でこの傷を付けた女戦士が今の奥さんだそうだ。
ウチが世間知らずなのは自覚しているけれど、彼の家庭が普通で無いことは想像に難くない。
「兄さん、あの話は簡便してよっ!本当に可愛かったんだから、外見は!」
こっちの女々しいのが弟のテネル。
お酒が入る前は聡明そうな顔つきで、当たり障り無い話でウチと意思疎通を図ろうと努力してくれていた。
酒と兄のディベルトが調合される前までは。
朝から飲み始めて数刻で、望まずして脅迫に使えるような赤裸々な弟テネルの過去を、ウチは3つも握ってしまっていた。
兄のディベルトと顔の造りは同じでも、喋り方、表情で印象が全く異なった。
兄が熊で、弟が忠犬。ウチも喋れば、その雰囲気で2人をなんとなく見分けることができた。
酒を呷って、兄の暴露はさらに加速する。
「実はその村娘、オスだったんだよな!がーはっはっは!!」ディベルトの咆哮のような笑い声が大理石を振るわせる。
泣きそうなテネルは必死にディベルトの口を押さえようとするが、兄の伸ばした足で簡単にあしらわれている。
テネルの武勇伝が又ひとつ増えた。
・・・・・・
「ん、、、」
気づけば夜だった。頭が棍棒で殴られたようにズキズキする。
朝から飲んで正午を過ぎた頃までは記憶がある。
その頃にはテネルの武勇伝は指では数え切れなくなっていた筈だが。そこから先が曖昧だった。
窓から夜光が差していた。
私は喉の渇きから、水を飲もうと寝台から脚ヒレを下ろした。
モフッ
「ひぃ!」
突然の生暖かい感触が私を襲った。
ふと大理石であるはずの床に眼を向けると、大きな毛の塊が2つ、転がっていたのでぎょっとした。
分かってはいても、床を埋め尽くす毛の海が、鼾を奏でながら波打っている光景は心臓に悪い。
「はぁ、びっくりしたわぁ。 ・・・ん?」
「ぐるるるぅぅ」
「ぐるるるぅぅ」
「っ!?」
灯台の守人、否、ディベルトとテネルが威嚇としか思えない寝言を発する。驚くウチ。
「さっきから驚いてばっかりやよ。。。」
また鼾をかきはじめた兄弟の顔をしばし見つめる。
テネルは泣きそうな顔をしていた。なぜかそう感じた。
ディベルトの顔を覗くと、背筋に悪寒が走った。殺されると思った。
そこには仲間を守った誇りより何より、二人で殺しあう明日への憎しみが映っていた。
この二人が明日、犯罪者たちと一緒に殺しあうのだ。
ウチは何もできないし、こういう定めの人たちを闘技場で見つめてきた。
殺しあう親子。信じる神の違いだけで猛獣と素手で戦う羽目になった信者。
手にした自由を棒に振って再び舞戻る罪人。両手足を縛られて発情した獣の群れに投げ込まれる娼婦。
ウチはどうすることもできなかった。この兄弟たちは善人だ。助けたい。
けれどウチも彼らと同じだ。手につながれた鎖がそれを冷たく証明する。
「だから、ウチは、こないなことしかでけへんけど、、、」
兄のディベルトを見ると、ズボンから誇張する山が脈打っていた。
静かに腰を下ろして、ズボンの前ボタンを外す。
「ぁ・・・」天を突くような黒く巨大な灯台が姿を現した。
灯台下暗しという言葉が頭に浮かんで、笑いそうになった。
「ふふっ、それにしても、大きいどすぇ」
今まで幾人もの獣人たちへ寵愛を与えたが、かなり大きい部類に入った。
細い指がディベルトに触れる。
「んっ」ディベルトが声を上げる。
「つらいことは明日まで忘れて今宵は、、、」
ウチは灯台をしっかりと握り、顔を近づけた。
自分でも驚くほど胸の鼓動が聞こえる。会って間もないが彼らをウチは好いていた。死んでほしくないと願っていた。
親分肌で弟思いの兄、それを懸命に支える弟。彼らが戦場で必死に部下を救おうと四面楚歌の中で死力を尽くした姿が思い浮かぶ。
「今だけでええんよ、気持ちよくなってぇや。」
伸ばした舌先が先端に当たる。
「熱い、、、」かまわずに舌を絡めてゆく。そして、そのまま口内へ、、、
「んはぁ、じゅぷっ」
ディベルトが身体を揺らす。夢の中はどんなことになっているのだろうか。
彼のものを加えたまま上目遣いに表情を伺った。心做しか表情が和らいでいる気がして、嬉しかった。
胸が締め付けられるような気持ちに襲われた。
もっとそれを感じたい。その一心で口内、喉の最奥まで彼を包み込んだ。
彼の身体が びくん と振るえた。
ウチの喉は規定外の大きさで忽ち彼で一杯になった。
「んふぁ、ん、、、じゅぷぉっじゅぷっじゅぷっ」
一生懸命に脈打つ灯台を喉の肉で締め付ける。雁の部分が容赦なく喉の粘膜を引っ掻いた。
「んふっぁ、じゅぼぼっじゅぶぅっ」
「ぐぉ、ぉ」ディベルトが小さく唸る。と同時に喉のものが熱く、大きく膨張する。
ウチは彼を導く為に喉を窄め、彼も空気も、全てを命一杯吸い込んだ。
「じゅぼぼぼぼぼっじゅぼぼっ!!」彼が震えた。
どぴゅっ!!!!
頭に直接出されたような射精音と共に白い洪水がウチの喉を覆い尽くした。
どぴゅっどぴゅっどぴゅっ!!!!
ごくん、ごくんと何度も飲み干すが、一向に排出量が減らない。
「んごぼぉっ! んがっ!んくっ!」
ついに飲み切れずに鼻や口から飲み切れなかった白が逆流する。
堪らずウチが灯台から口を離す。
「けほっけほっんぁ、嘘や、まだでてるぇ」
十回ほどウチを白く染めて、漸く噴水が止まった。
「うぁ、ふふふっ、ぎょーさんだしはって♪」
死の間際に、オスは子孫を残す本能から性欲が膨れ上がり勝手に勃起すると言われるが本当だった。
巫女として恩寵を与える時、彼らは異常なほどの量と回数をウチにぶつけてきた。
興奮冷めやらぬ勝者、チャンピオンが更なる栄光を掴む前日。国の覇道へ向かって勇往邁進する凱旋将軍。
ディベルトもまた同様に死地へ赴くことを身体でも理解しているのだろう。
まだ痙攣している灯台を優しく指で撫でる。
「んぁ、中々のものだな、がっはっは」
突然の言葉に胸が破裂しそうになる。もちろん声の主は愚兄だ。
「起きとったんどすか」
「気持よかったぞ、これだけ気持よかったのはカミさん以来だ!」
がっはっはと彼は獣が吼えるような笑声で、自分の失言を笑い飛ばす。
もし口に含んでいたら歯を立てていたのにと、ウチは飲み切れなかったことを悔やんだ。
気分を害したウチの気持ちを汲んだのか、ただ単にしたいだけなのかは分からないが、大きな手でウチの頭を撫でながら、お礼を言った。
「むぅ」
いつものウチならヘッドドレスが潰れると苦言を呈する所だが、
以外と彼の肉球が気持ちよかったので好きなだけ撫でさせることにした。決して「ありがとう」と言われたからじゃない。
「ふぁ~~~~~、頭が痛い」愚弟が愚兄の笑声で目覚めたようだ。
酒の副作用で頭を抱える彼を見て、忘れていた頭痛を思い出した。肉球で弄ばれているので猶痛い。
「ん?おはよう、仲良いんだね、二人共」ニコッと笑う愚弟。
頭をかき回されて顔を顰めているウチを見て、なぜその言葉がでてくるのだろうか。
しかめっ面のウチを無視して、テネルは夜の帳が下りた窓辺を見て口を開いた。
「よかった、まだ朝じゃないんだね」
ウチの頭を弄んでいた肉球が止まった。
ウチは視界が歪んでゆくのが分かった。だがそれを止める術は無かった。
「えぐっ、、、うっ、、、うっ」
なんだろう、喉が熱くて、息を吸うのに勝手に変な声が喉を震わせる。
頬を熱い雫がぬらしてゆく。
どれくらいウチの声が部屋を支配していただろうか。とても長い、長い時間だった。
ぎゅっ!
不意に頭上の肉球が頭を締め付ける凶器と化した
「イダイ、イダイ、イダイ!」
必死にもがいて、悪魔の肉球から逃れて距離を取る。
「なにしはるんよ!」涙を若草色のドレスで拭くと凶器の持ち主を睨んだ。
彼は、号泣していた。
熊のような兄のディベルトは顔をくしゃくしゃにしながら、しかし笑顔だった。
泣きながら、彼はすごい嬉しそうだった。
「えぐっえぐっ」愚弟も声を上げて泣いていた。
こちらは鼻腔から液体を垂らしながら、手で覆うことも忘れている。
3人ともずっと泣いていたのだ、自分ひとりで泣いていたと思った時間が馬鹿らしくなった。
「ふふふ、」誰かが笑った。
「ははは」また誰かが笑った。
「がっはっは」3人の笑い声が聞こえた。
気づけばウチも口の端が引っ張られて、お腹の底から声を上げていた。
「ふふふ」「ははは」「がっはっは」
大理石には3人の声が暫く響いていた。
夜空は宝石を散らしたように輝き、雲ひとつ無かった。
満月は窓辺の花瓶を反照して、光のカーテンが三人を優しく包んでいた。
・・・・・・
ビリビリッ!
若草が千切られて空を舞っていた。ドレスの胸の部位が破れ、双丘が月光に照らされる。
2人はウチの行為に驚いていた。
破れた布地の若草が大理石の大地に舞い降りた。
ベッドに仁王立ち(下半身は魚だが)になり、鎮座するウチに2人は圧倒されたようだ。
あんぐりと口を開けているのは、私への畏敬の念に違いない。うん、そういうことにしておこう。
「ど、ど、どうしたの!?」そこへテネルが口を挟む。
質問には答えずに腰に当てていた両手をゆっくりと左右に広げる。
「わらわは、この闘技場の巫女にして母」いつもの口上を続ける。
そして手の甲を彼らに向けるように正面へ腕を動かす。
静かに手を広げて水を掬うように手をお椀の形にする。
「わらわがディベルト、テネルの両名に寵愛を授けましょう!」
2人とも見惚れている。ぽかーんという擬音語なんて出ていない。そう、断じて。
・・・沈黙
「がっはっはっは」
ディベルトが笑声をまき散らしながら拍手をする。馬鹿にしているな、絶対!
ウチはすぅーっと深呼吸をすると、真剣な眼で、想いを込めて口を開いた。
「あなた達は明日どちらか、あるいは二人とも死にます。」
必死に言葉を紡ぐ。
「現世での武勲により神格化され、生き続けることも無いでしょう。」
彼らから目を逸らさずに。
「わらわはあなた達の母となりましょう。母は決して息子を、娘を、忘れることはありません。」
いつもは口上であることが多いが、今回は心の底からそう想う。
「栄達を所望する者よ、生への渇望を欲する者よ」
いつもの口上が頭に浮かんだが、最後に自分の言葉で思いを告げようと決めた。
「すぅ~はぁ~」深呼吸をする。こんなに緊張したのはいつ以来だろう。
二人の顔を窺うと、真剣にウチを見守っていた。
言葉が胸の奥底から浮かんだ。だからそのままを笑顔で言った。
「二人ともおいで。ウチに生きた証、出してええよ。朝まで全部、受け止めてあげる」
そういって両手を広げて二人を迎えるポーズを取る。
二人は静かにベッドに近づくと、ディベルトが激しく口接を求めてきた。ウチは彼の長くてザラザラの舌を迎え入れる。
「んはぁちゅぷっ」
彼の舌がウチの小さな口内を蹂躙する。熱い、自分のものでは無い唾液は粗野で荒々しい味。
じゅるっちゅぷっ
「んはぁ」
右の胸をテネルが吸って。まるで乳飲み子のように懸命に吸っている。
ウチはテネルの頭に腕を回して、子供を寝かしつけるようにリズムを刻みながら頭を撫でる。
はじめに耳がびくっと驚いた仕草を見せたが、次第に耳を寝かせて吸引に夢中になる。大きいけれど、やっぱり子犬だ。
「あっ」
不意に鱗に囲まれた秘部が刺激され、思わず高い声が喉から漏れた。
ニヤリとディベルトの口端が吊り上がった。犯人め。
さらにディベルトの指がずぶずぶ、と鱗に囲まれた秘肉を押し分けて柔肉に侵入した。
「ちゅぷっ、ちゅぷっ」
キス、胸、秘部の音の三重奏が淫猥な水音を部屋に満たした。
ふと鱗に固いものが当たっていることに気づいた。
下を向くと、テリスが乳房を吸いながら、必死に自分のものをウチの鱗に押し当てて、擦りつけていた。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ」息も絶え絶えに、必至に腰をカクカクと押しつける。
その姿が無償にかわいくて、ウチは彼のリズムに合わせて足ヒレを気持ちがいいように動かして上げた。
ディベルトが俺にも構えとばかりに、秘部に挿入した指を激しく震動させた。
「あっあっあっ」肉壁を擦るように執拗に絶頂へと導いてゆく。
必死に堪えるが、鋭利な痛みが胸を襲った。
吸っていた乳首をテネルが甘噛みしたのだ。
「あ、、、でる、、、、」さらに震えるテネルは自分の陽棒を鱗に一層強く押し当てて、弾けた。
びゅっびゅっびゅっ
何度も何度も鱗を白に塗り替えてゆく。
震える瞳でウチを見つめながら絶頂するテネルに、ウチの秘部がこれ以上ないほどの強さでディベルトの指を締め付けた。
「あきません、、、いっちゃ、、、いくぅっ!」
身体の奥からしびれるような快感の波を全身に浴びで、ウチはディベルトに必死にしがみ付いた。
私に入っていた彼の指が優しく秘部から抜かれる。
ディベルトはウチをゆっくりと、ベッドに横たえた。腕に付けられた鉄球が柔らかい羽毛のベッドに沈み込んだ。
天井を見つめると。二匹の獣の吐息が聞こえる。
ウチを呼ぶディベルト。
「なんどすぇ」
「お前に注ぎたい」
「ふふっ、許可なんていりまへんぇ。お好きに。」
続けて一言添える。
「全部覚えます。忘れまへんよって、安心をし。」
それが兄弟を獣に変えた。
二人は思うがままに、シタ。
愛して、蹂躙して、体という体に獣汁を吐き出した。
そして、手をつないで川の字になって眠った。
握った手は三人の体の芯を温めた。
翌日には10万人で揺れる闘技場の一室は静かな夜に包まれていた。
・・・・・・
翌日、
「ま~てるさまっ!そこどいて下さい!」
清掃係兼お付きのメイドが部屋を清掃している。
空色のショートヘアが似合う快活な子だ。主人より胸が大きいのが玉に瑕である。
「もぅシエルちゃん、人がせっかく窓辺で黄昏れてんのに、邪魔せんといてくれはる?」
ウチは小さな抵抗を試みる。
「全身イカ臭いのでシャワー浴びてきて下さい!シッシッ」
主人を虫か犬猫扱いしてまで職務を全うする、真にメイドの鏡である。
監視役のおじさまと言い、闘技場で働く者は皆職務に謹厳で実にありがたい。
「昔はこーんなちいそーて、かわぇぇ手弱女やったのになぁ」シエルがウチに付いた頃を思い出す。
あの頃の憧憬は、テキパキと室内清掃の任を遂行するメイドの前に霞んでいた。
「はいはい、ご尊母様の小言は後で聞いてあげますから。独りで怖いなら、沐浴も手伝いますか?」
お母さんのようなことをご尊母様に仰る下手人。
これ以上引っ張ると良いことにはならないと判断してウチは渋々、隣の浴室へと向かう。
双子の居ないベッドは少し寂しい。
「そうや」
思い出したように浴室から声を掛ける。
「シエルちゃーん、化粧台の前に置いてある革袋と手紙、牙商に渡してもらえへんやろか」
「いいですけど、これお金ですか? あれ、革袋なにも入ってない、残念!」
実況してくれるシエルちゃん、これで悪気は無い(本人談)から恐ろしい。
「それともうひとつ、今日の試合も見まへん、後結果も報告せんでよろしおす」
「昨日の方々ですね。いつも通り、了解しましたー」
彼女への用事を言い終え、湯船に浸かる。
金色の髪は、今はかぴかぴに固まってしまっている。
お湯で丁寧に洗い落とす。汚れを落とすたびに、何だが名残惜しい気持ちに駆られた。
双子は今日、どちらかが必ず欠ける。軍団叩き上げの部隊長が罪人程度に負けることは無いだろう。
恐らく二人とも残るだろう。
そして兄ディベルトの性格を考えると、自分の命を賭して弟を勝者にすることも容易に想像できた。
弟のテネルが後を追って自害しなければ良いが。。。
「いかんいかん」
首を左右に振って頭の中を初期化する。
好いた者の後を気になって闘技場へ見に行った頃もあったが、そのほとんどは悪い方向へと転ぶ。
結果、闘技を観ることは無くなった。
ウチはただ、偶然勝者になって再び会いにくる時を心待ちにする日々を続けていた。
そんな一握りの勝者が名前の無かった私を「マーテル」と呼び始めた。マーテルは母の意。闘技場の母という訳だ。
今ではこの都市の皆がウチをマーテルとして慕っている。
子供たちの最後を看取らない者が母とは皮肉以外の何者でもない。
ふと昨日の言葉が蘇った。
ありがとう
柔らかい肉球で乱暴に頭を撫でながら言ってくれた一言。
「ありがとう、ありがとう、ありがとう、」
浴槽に映る自分の歪んだ顔を見つめて、呪文のように口ずさんだ。何度も、何度も。
・・・・・・
「あ、マーテル様、牙商にお手紙と皮袋渡しておきましたよー。ってもう上がられたんですか!?まだお着替えのご用意が、」
「今日のラストワンは何時から始まるぇ?それと観戦用の外着をすぐに容易!」
驚くシエルにウチは矢継ぎ早に注文を出す。
「えっ?、えっ?、今日は昨日の方が参加するから観ないんじゃ?」
彼女の質問にウチはこう答えた。
「母が息子の行く末を見守らんでなんの母ぞ」
まだ櫛が通りそうにない髪を揺らして、小さな母は闘技場に立つ巨像のように腰に手をあて胸を張る。
鏡に映る裸の母は素敵な笑顔を浮かべる。
くしゅん
割れんばかりの歓声に揺れる闘技場。その一室で、かわいいくしゃみが木霊した。
顔を見せたばかりの陽光が空に色を付けてゆく。
窓からの光が花瓶に反照して、光のカーテンを壁に掛ける。
身体を起こすと、自慢の金色の長髪が背中を撫でる。
<ウチ>はベッドから、鉛のように重く気だるい身体を窓へと連れ出そうと決意した。
朝は苦手。
「ひゃっ」床の冷たさに思わず小さい悲鳴を上げてしまう。
夜の冷気を浴びた大理石が直ぐに伝わる。鱗に覆われた脚は皆思うほど鈍感では無いのだ。
鱗から伝わる冷気を我慢しながら窓辺へ辿り着く。
「人魚用の靴も作ってくれへんやろか。」
ウチは若い鍛冶屋の青年の顔を思い出して独り言ちた。
そういえば最近、円形闘技場の鍛治師を志してやってきた見習の子は私の好みの顔つきだった。
この窓から見える世界の首都と呼ばれる街並みを見遣る。眼下には聖者が海を割ったように、街を二分する大通りがどこまでも伸びている。
青々と茂る街路樹は緑の少ない都市にとって彩りを添える大事なアクセント。
通りには日が昇ったばかりだというのに、まるで働きアリのようにヒトが忙しなく往来している。
「ならば、コロッススと呼ばれる巨人象が立つここはアリ塚といったところか」
遥か遠方に、アリ塚へ向かってくる馬車が視界に入った。大通りに3頭曳きの巨大な馬車が勢いそのまま巣へと吸い込まれて、消えた。
馬車を見る度に自分が連れてこられた記憶が蘇る。
あの蹄の音も苦手。
・・・・・・
円形闘技場は都市の中心に座す巨大な娯楽施設である。
収容人数は十万人らしいが実際に数える気になどならない。
昔は規模も小さく、競技場の延長のような施設であったが、十年前の大火が木造の闘技場と逃げ惑う人々を炭にした。
娯楽施設はすぐに有力議員の幾人かが私財を投じて再建された。
石材、粘土と石灰を練って作られセメントでできた立派な闘技場は近隣の商店や浴場などを取り込み、本当にアリ塚のように人が生活している。
新たに運営される際に、巫女という名目で人魚が1人連れてこられた。
大火が2度と無きようにと、巫女として人魚を宛がうのは実に安直なアイディア。
人魚は遥か東方に根差す種で、珍しかった。
半ば誘拐されたように連れて来られた巫女は、勝者への褒美として寵愛を与えるよう強いられた。
閨を共にするということらしかった。演出の為だけに。
闘技会が開かれる度に巫女は抱かれた。
ある勝者は名声を欲する豪腕の巨躯。彼は巫女を乱暴に扱った。勝者が所有したモノとして。
その次の日から、毎夜震えて眠れなかった。
ある勝者は女性であった。「彼女は女性を馬鹿にしている男どもを叩きのめす」為に参加したと話した。
巫女の震えている手を取って、「大丈夫」と囁く。そして朝まで巫女の手を握っていてくれた。
巫女に出来た初めてのトモダチが彼女だった。
ある勝者は主人から無理矢理剣闘をさせられた青年。
傷だらけの彼は巫女と視線が合うと、顔を真っ赤にして視線を壁に移した。
床に付いても、傷だらけの背中しか見せてくれなかったのが可笑しかった。
こらえたはずの笑声が彼に聞こえてしまったようで、振り返った時の真っ赤な顔はウチの声を1トーン高くした。
ウチは可愛くて初めて自分から寵愛を与えた。初めて巫女の仕事をした時だった。
・・・・・・
身支度を終えて、思い出のアルバムを閉じる。
鏡の前の人物を再度確認した。
舞い降りる天使の羽のような優しいカーブを描く眉毛。海よりも深く蒼い瞳。
腰まである髪を梳く鼈甲の櫛には力を入れる必要はない。花を引き立てるドレスは若草のよう。
半身の鱗は薄く繊細で、秘部には薄い桃色の柔肉に挟まれた一筋の線がドレスのレースに見え隠れする。
以前、前の開いたドレスを着て外出(闘技場内だが)した時に鍛冶屋の青年が顔を真っ赤にして挨拶していったのを思い出した。
「またあの服でお話でもしましょぅか」人魚は下半身を隠す文化など無いので、勝手に恥ずかしがる無垢な青少年の反応を見るのが楽しくてしょうが無かった。
最後に重い鉄球と鎖、無骨な腕輪を一瞥する。
初めは逃げ出さないようにとつけられ、実際食事も移動もままならなかったのだが、
いつの間にか片手で持てるほど筋力が付いてしまい、アクセサリーのひとつと思うようにしていた。
「逃げないから外してぇや」と、御付兼監視役に提言するも、無言の返事を頂いた。
能面のような顔の監視殿は、ウチの色香も及ばない謹厳な精神をお持ちなのだ。
くるんっ と鱗の足で器用に身体を回転させる。
「うん、完璧やわぁ」鏡に向かってちょこんと一礼する。
トントン
準備が終わるのを待っていましたとばかりに、重い木扉がノックされる。
「ええよ」扉に向かって入出許可を与える。
大きな獣人が2人、入ってきた。身の丈2mはある。
足にはカリガ、胸に牛の皮をなめして木の板に張った防具を身につけている。
頭部は狼のそれで、空気を含んだ雪のように白い毛が全身を覆っている。2人とも優しい眼をしていると感じた。
ウチが双子の違いを判断できるとすれば胸防具の模様の違いだけだった。
優しい4つの瞳が悲しげにウチを見つめていた。
・・・・・・
獣人を二人お願いしたいとウチに依頼が来たのは昨日のことだ。
話は1ヶ月前の国境付近。
防衛に当たっていた師団の1つが壊滅した。商人に偽った蛮族が、深夜砦の門を開けたらしかった。
指揮官とそれに続く者たちは殺され、一夜にして防衛線は崩れた。
部隊長であり、実質前線で指揮を取ることになってしまった彼ら兄弟は、一時砦を捨てて後方へ撤退した。
その際、彼らは蛮族との捕虜解放の金銭交渉を行った。
後方で武器と兵站を補充して返す刃で蛮族を叩く為の交渉だった。
彼らが不幸だったのは、刃を振るう前に、遠征に出ていた師団が現状を聞きつけて合流した一事に尽きる。
当然指揮権は合流先の師団へ移り、残ったのは蛮族との交渉に応じたという指揮官としての汚名だけであった。
この国の軍隊は捕虜の金銭的交渉には応じないことを誇りとしているのだ。二人は糾弾され本国へ召還された。
元老院が下した結果は、闘技場での「ラストワン」。
犯罪者を数十人集め、最後に生き残った1人を解放奴隷として無罪放免とする闘技に“2人とも”参加することであった。
実質的な死罪だ。
そして彼に救われた軍団員が尋ねてきたのは数日前。
双子の獣人にせめてに巫女の恩寵を頂けないかと、団員のすずめの涙のような給与の銅貨で膨れた皮袋を持ってきた。
彼は2人の為に心から頬を濡らしていた。
ウチの身体目当てで金貨を積む貴族や商人は後を絶たなかったが、そういう輩は謹厳な監視殿に摘み出されていた。
しかし、その時は団員の言を待ってから摘み出した。
ウチの手には重たい皮袋という人望が残されていた。
団員は私の恩寵を与えることで、闘技場での優勝と同じ、誇りや栄誉を与えたかったのだ。
ウチは後日、監視殿へ特別に恩寵を与えたい者が要る旨を伝えた。
・・・・・・
ぱんっ
ウチは両手を音がなるように勢いよく顔の正面で合わせ合わせてこういった。
「お酒でも飲みましょうえ♪ 大男が2匹そろって湿気た顔せんと!」
二人はお互いを見遣った後、優しい眼で奇妙なモノでも見るようにウチを見た。
どうやらイメージの巫女様とは少しギャップがあったみたい。失礼千万。
酒宴が始まると、すぐに彼らが饒舌であることが分かった。そして語ってくれた。
部下を慕っていること。この国を愛していること。お互いを尊重していること。
「コイツはその遠征先で、村の娘に一目ぼれしちまって、グァッハッハ」
兄の名前はディベルト。口は悪いが、そこに棘のようなものは無い。親分肌で、軍団より寧ろ闘技場のほうが相応しく思える。
防具で分からなかったが、胸に大きな傷痕があるので私でも弟と区別が付いた。戦場でこの傷を付けた女戦士が今の奥さんだそうだ。
ウチが世間知らずなのは自覚しているけれど、彼の家庭が普通で無いことは想像に難くない。
「兄さん、あの話は簡便してよっ!本当に可愛かったんだから、外見は!」
こっちの女々しいのが弟のテネル。
お酒が入る前は聡明そうな顔つきで、当たり障り無い話でウチと意思疎通を図ろうと努力してくれていた。
酒と兄のディベルトが調合される前までは。
朝から飲み始めて数刻で、望まずして脅迫に使えるような赤裸々な弟テネルの過去を、ウチは3つも握ってしまっていた。
兄のディベルトと顔の造りは同じでも、喋り方、表情で印象が全く異なった。
兄が熊で、弟が忠犬。ウチも喋れば、その雰囲気で2人をなんとなく見分けることができた。
酒を呷って、兄の暴露はさらに加速する。
「実はその村娘、オスだったんだよな!がーはっはっは!!」ディベルトの咆哮のような笑い声が大理石を振るわせる。
泣きそうなテネルは必死にディベルトの口を押さえようとするが、兄の伸ばした足で簡単にあしらわれている。
テネルの武勇伝が又ひとつ増えた。
・・・・・・
「ん、、、」
気づけば夜だった。頭が棍棒で殴られたようにズキズキする。
朝から飲んで正午を過ぎた頃までは記憶がある。
その頃にはテネルの武勇伝は指では数え切れなくなっていた筈だが。そこから先が曖昧だった。
窓から夜光が差していた。
私は喉の渇きから、水を飲もうと寝台から脚ヒレを下ろした。
モフッ
「ひぃ!」
突然の生暖かい感触が私を襲った。
ふと大理石であるはずの床に眼を向けると、大きな毛の塊が2つ、転がっていたのでぎょっとした。
分かってはいても、床を埋め尽くす毛の海が、鼾を奏でながら波打っている光景は心臓に悪い。
「はぁ、びっくりしたわぁ。 ・・・ん?」
「ぐるるるぅぅ」
「ぐるるるぅぅ」
「っ!?」
灯台の守人、否、ディベルトとテネルが威嚇としか思えない寝言を発する。驚くウチ。
「さっきから驚いてばっかりやよ。。。」
また鼾をかきはじめた兄弟の顔をしばし見つめる。
テネルは泣きそうな顔をしていた。なぜかそう感じた。
ディベルトの顔を覗くと、背筋に悪寒が走った。殺されると思った。
そこには仲間を守った誇りより何より、二人で殺しあう明日への憎しみが映っていた。
この二人が明日、犯罪者たちと一緒に殺しあうのだ。
ウチは何もできないし、こういう定めの人たちを闘技場で見つめてきた。
殺しあう親子。信じる神の違いだけで猛獣と素手で戦う羽目になった信者。
手にした自由を棒に振って再び舞戻る罪人。両手足を縛られて発情した獣の群れに投げ込まれる娼婦。
ウチはどうすることもできなかった。この兄弟たちは善人だ。助けたい。
けれどウチも彼らと同じだ。手につながれた鎖がそれを冷たく証明する。
「だから、ウチは、こないなことしかでけへんけど、、、」
兄のディベルトを見ると、ズボンから誇張する山が脈打っていた。
静かに腰を下ろして、ズボンの前ボタンを外す。
「ぁ・・・」天を突くような黒く巨大な灯台が姿を現した。
灯台下暗しという言葉が頭に浮かんで、笑いそうになった。
「ふふっ、それにしても、大きいどすぇ」
今まで幾人もの獣人たちへ寵愛を与えたが、かなり大きい部類に入った。
細い指がディベルトに触れる。
「んっ」ディベルトが声を上げる。
「つらいことは明日まで忘れて今宵は、、、」
ウチは灯台をしっかりと握り、顔を近づけた。
自分でも驚くほど胸の鼓動が聞こえる。会って間もないが彼らをウチは好いていた。死んでほしくないと願っていた。
親分肌で弟思いの兄、それを懸命に支える弟。彼らが戦場で必死に部下を救おうと四面楚歌の中で死力を尽くした姿が思い浮かぶ。
「今だけでええんよ、気持ちよくなってぇや。」
伸ばした舌先が先端に当たる。
「熱い、、、」かまわずに舌を絡めてゆく。そして、そのまま口内へ、、、
「んはぁ、じゅぷっ」
ディベルトが身体を揺らす。夢の中はどんなことになっているのだろうか。
彼のものを加えたまま上目遣いに表情を伺った。心做しか表情が和らいでいる気がして、嬉しかった。
胸が締め付けられるような気持ちに襲われた。
もっとそれを感じたい。その一心で口内、喉の最奥まで彼を包み込んだ。
彼の身体が びくん と振るえた。
ウチの喉は規定外の大きさで忽ち彼で一杯になった。
「んふぁ、ん、、、じゅぷぉっじゅぷっじゅぷっ」
一生懸命に脈打つ灯台を喉の肉で締め付ける。雁の部分が容赦なく喉の粘膜を引っ掻いた。
「んふっぁ、じゅぼぼっじゅぶぅっ」
「ぐぉ、ぉ」ディベルトが小さく唸る。と同時に喉のものが熱く、大きく膨張する。
ウチは彼を導く為に喉を窄め、彼も空気も、全てを命一杯吸い込んだ。
「じゅぼぼぼぼぼっじゅぼぼっ!!」彼が震えた。
どぴゅっ!!!!
頭に直接出されたような射精音と共に白い洪水がウチの喉を覆い尽くした。
どぴゅっどぴゅっどぴゅっ!!!!
ごくん、ごくんと何度も飲み干すが、一向に排出量が減らない。
「んごぼぉっ! んがっ!んくっ!」
ついに飲み切れずに鼻や口から飲み切れなかった白が逆流する。
堪らずウチが灯台から口を離す。
「けほっけほっんぁ、嘘や、まだでてるぇ」
十回ほどウチを白く染めて、漸く噴水が止まった。
「うぁ、ふふふっ、ぎょーさんだしはって♪」
死の間際に、オスは子孫を残す本能から性欲が膨れ上がり勝手に勃起すると言われるが本当だった。
巫女として恩寵を与える時、彼らは異常なほどの量と回数をウチにぶつけてきた。
興奮冷めやらぬ勝者、チャンピオンが更なる栄光を掴む前日。国の覇道へ向かって勇往邁進する凱旋将軍。
ディベルトもまた同様に死地へ赴くことを身体でも理解しているのだろう。
まだ痙攣している灯台を優しく指で撫でる。
「んぁ、中々のものだな、がっはっは」
突然の言葉に胸が破裂しそうになる。もちろん声の主は愚兄だ。
「起きとったんどすか」
「気持よかったぞ、これだけ気持よかったのはカミさん以来だ!」
がっはっはと彼は獣が吼えるような笑声で、自分の失言を笑い飛ばす。
もし口に含んでいたら歯を立てていたのにと、ウチは飲み切れなかったことを悔やんだ。
気分を害したウチの気持ちを汲んだのか、ただ単にしたいだけなのかは分からないが、大きな手でウチの頭を撫でながら、お礼を言った。
「むぅ」
いつものウチならヘッドドレスが潰れると苦言を呈する所だが、
以外と彼の肉球が気持ちよかったので好きなだけ撫でさせることにした。決して「ありがとう」と言われたからじゃない。
「ふぁ~~~~~、頭が痛い」愚弟が愚兄の笑声で目覚めたようだ。
酒の副作用で頭を抱える彼を見て、忘れていた頭痛を思い出した。肉球で弄ばれているので猶痛い。
「ん?おはよう、仲良いんだね、二人共」ニコッと笑う愚弟。
頭をかき回されて顔を顰めているウチを見て、なぜその言葉がでてくるのだろうか。
しかめっ面のウチを無視して、テネルは夜の帳が下りた窓辺を見て口を開いた。
「よかった、まだ朝じゃないんだね」
ウチの頭を弄んでいた肉球が止まった。
ウチは視界が歪んでゆくのが分かった。だがそれを止める術は無かった。
「えぐっ、、、うっ、、、うっ」
なんだろう、喉が熱くて、息を吸うのに勝手に変な声が喉を震わせる。
頬を熱い雫がぬらしてゆく。
どれくらいウチの声が部屋を支配していただろうか。とても長い、長い時間だった。
ぎゅっ!
不意に頭上の肉球が頭を締め付ける凶器と化した
「イダイ、イダイ、イダイ!」
必死にもがいて、悪魔の肉球から逃れて距離を取る。
「なにしはるんよ!」涙を若草色のドレスで拭くと凶器の持ち主を睨んだ。
彼は、号泣していた。
熊のような兄のディベルトは顔をくしゃくしゃにしながら、しかし笑顔だった。
泣きながら、彼はすごい嬉しそうだった。
「えぐっえぐっ」愚弟も声を上げて泣いていた。
こちらは鼻腔から液体を垂らしながら、手で覆うことも忘れている。
3人ともずっと泣いていたのだ、自分ひとりで泣いていたと思った時間が馬鹿らしくなった。
「ふふふ、」誰かが笑った。
「ははは」また誰かが笑った。
「がっはっは」3人の笑い声が聞こえた。
気づけばウチも口の端が引っ張られて、お腹の底から声を上げていた。
「ふふふ」「ははは」「がっはっは」
大理石には3人の声が暫く響いていた。
夜空は宝石を散らしたように輝き、雲ひとつ無かった。
満月は窓辺の花瓶を反照して、光のカーテンが三人を優しく包んでいた。
・・・・・・
ビリビリッ!
若草が千切られて空を舞っていた。ドレスの胸の部位が破れ、双丘が月光に照らされる。
2人はウチの行為に驚いていた。
破れた布地の若草が大理石の大地に舞い降りた。
ベッドに仁王立ち(下半身は魚だが)になり、鎮座するウチに2人は圧倒されたようだ。
あんぐりと口を開けているのは、私への畏敬の念に違いない。うん、そういうことにしておこう。
「ど、ど、どうしたの!?」そこへテネルが口を挟む。
質問には答えずに腰に当てていた両手をゆっくりと左右に広げる。
「わらわは、この闘技場の巫女にして母」いつもの口上を続ける。
そして手の甲を彼らに向けるように正面へ腕を動かす。
静かに手を広げて水を掬うように手をお椀の形にする。
「わらわがディベルト、テネルの両名に寵愛を授けましょう!」
2人とも見惚れている。ぽかーんという擬音語なんて出ていない。そう、断じて。
・・・沈黙
「がっはっはっは」
ディベルトが笑声をまき散らしながら拍手をする。馬鹿にしているな、絶対!
ウチはすぅーっと深呼吸をすると、真剣な眼で、想いを込めて口を開いた。
「あなた達は明日どちらか、あるいは二人とも死にます。」
必死に言葉を紡ぐ。
「現世での武勲により神格化され、生き続けることも無いでしょう。」
彼らから目を逸らさずに。
「わらわはあなた達の母となりましょう。母は決して息子を、娘を、忘れることはありません。」
いつもは口上であることが多いが、今回は心の底からそう想う。
「栄達を所望する者よ、生への渇望を欲する者よ」
いつもの口上が頭に浮かんだが、最後に自分の言葉で思いを告げようと決めた。
「すぅ~はぁ~」深呼吸をする。こんなに緊張したのはいつ以来だろう。
二人の顔を窺うと、真剣にウチを見守っていた。
言葉が胸の奥底から浮かんだ。だからそのままを笑顔で言った。
「二人ともおいで。ウチに生きた証、出してええよ。朝まで全部、受け止めてあげる」
そういって両手を広げて二人を迎えるポーズを取る。
二人は静かにベッドに近づくと、ディベルトが激しく口接を求めてきた。ウチは彼の長くてザラザラの舌を迎え入れる。
「んはぁちゅぷっ」
彼の舌がウチの小さな口内を蹂躙する。熱い、自分のものでは無い唾液は粗野で荒々しい味。
じゅるっちゅぷっ
「んはぁ」
右の胸をテネルが吸って。まるで乳飲み子のように懸命に吸っている。
ウチはテネルの頭に腕を回して、子供を寝かしつけるようにリズムを刻みながら頭を撫でる。
はじめに耳がびくっと驚いた仕草を見せたが、次第に耳を寝かせて吸引に夢中になる。大きいけれど、やっぱり子犬だ。
「あっ」
不意に鱗に囲まれた秘部が刺激され、思わず高い声が喉から漏れた。
ニヤリとディベルトの口端が吊り上がった。犯人め。
さらにディベルトの指がずぶずぶ、と鱗に囲まれた秘肉を押し分けて柔肉に侵入した。
「ちゅぷっ、ちゅぷっ」
キス、胸、秘部の音の三重奏が淫猥な水音を部屋に満たした。
ふと鱗に固いものが当たっていることに気づいた。
下を向くと、テリスが乳房を吸いながら、必死に自分のものをウチの鱗に押し当てて、擦りつけていた。
「はぁっ、はぁっ、はぁっ」息も絶え絶えに、必至に腰をカクカクと押しつける。
その姿が無償にかわいくて、ウチは彼のリズムに合わせて足ヒレを気持ちがいいように動かして上げた。
ディベルトが俺にも構えとばかりに、秘部に挿入した指を激しく震動させた。
「あっあっあっ」肉壁を擦るように執拗に絶頂へと導いてゆく。
必死に堪えるが、鋭利な痛みが胸を襲った。
吸っていた乳首をテネルが甘噛みしたのだ。
「あ、、、でる、、、、」さらに震えるテネルは自分の陽棒を鱗に一層強く押し当てて、弾けた。
びゅっびゅっびゅっ
何度も何度も鱗を白に塗り替えてゆく。
震える瞳でウチを見つめながら絶頂するテネルに、ウチの秘部がこれ以上ないほどの強さでディベルトの指を締め付けた。
「あきません、、、いっちゃ、、、いくぅっ!」
身体の奥からしびれるような快感の波を全身に浴びで、ウチはディベルトに必死にしがみ付いた。
私に入っていた彼の指が優しく秘部から抜かれる。
ディベルトはウチをゆっくりと、ベッドに横たえた。腕に付けられた鉄球が柔らかい羽毛のベッドに沈み込んだ。
天井を見つめると。二匹の獣の吐息が聞こえる。
ウチを呼ぶディベルト。
「なんどすぇ」
「お前に注ぎたい」
「ふふっ、許可なんていりまへんぇ。お好きに。」
続けて一言添える。
「全部覚えます。忘れまへんよって、安心をし。」
それが兄弟を獣に変えた。
二人は思うがままに、シタ。
愛して、蹂躙して、体という体に獣汁を吐き出した。
そして、手をつないで川の字になって眠った。
握った手は三人の体の芯を温めた。
翌日には10万人で揺れる闘技場の一室は静かな夜に包まれていた。
・・・・・・
翌日、
「ま~てるさまっ!そこどいて下さい!」
清掃係兼お付きのメイドが部屋を清掃している。
空色のショートヘアが似合う快活な子だ。主人より胸が大きいのが玉に瑕である。
「もぅシエルちゃん、人がせっかく窓辺で黄昏れてんのに、邪魔せんといてくれはる?」
ウチは小さな抵抗を試みる。
「全身イカ臭いのでシャワー浴びてきて下さい!シッシッ」
主人を虫か犬猫扱いしてまで職務を全うする、真にメイドの鏡である。
監視役のおじさまと言い、闘技場で働く者は皆職務に謹厳で実にありがたい。
「昔はこーんなちいそーて、かわぇぇ手弱女やったのになぁ」シエルがウチに付いた頃を思い出す。
あの頃の憧憬は、テキパキと室内清掃の任を遂行するメイドの前に霞んでいた。
「はいはい、ご尊母様の小言は後で聞いてあげますから。独りで怖いなら、沐浴も手伝いますか?」
お母さんのようなことをご尊母様に仰る下手人。
これ以上引っ張ると良いことにはならないと判断してウチは渋々、隣の浴室へと向かう。
双子の居ないベッドは少し寂しい。
「そうや」
思い出したように浴室から声を掛ける。
「シエルちゃーん、化粧台の前に置いてある革袋と手紙、牙商に渡してもらえへんやろか」
「いいですけど、これお金ですか? あれ、革袋なにも入ってない、残念!」
実況してくれるシエルちゃん、これで悪気は無い(本人談)から恐ろしい。
「それともうひとつ、今日の試合も見まへん、後結果も報告せんでよろしおす」
「昨日の方々ですね。いつも通り、了解しましたー」
彼女への用事を言い終え、湯船に浸かる。
金色の髪は、今はかぴかぴに固まってしまっている。
お湯で丁寧に洗い落とす。汚れを落とすたびに、何だが名残惜しい気持ちに駆られた。
双子は今日、どちらかが必ず欠ける。軍団叩き上げの部隊長が罪人程度に負けることは無いだろう。
恐らく二人とも残るだろう。
そして兄ディベルトの性格を考えると、自分の命を賭して弟を勝者にすることも容易に想像できた。
弟のテネルが後を追って自害しなければ良いが。。。
「いかんいかん」
首を左右に振って頭の中を初期化する。
好いた者の後を気になって闘技場へ見に行った頃もあったが、そのほとんどは悪い方向へと転ぶ。
結果、闘技を観ることは無くなった。
ウチはただ、偶然勝者になって再び会いにくる時を心待ちにする日々を続けていた。
そんな一握りの勝者が名前の無かった私を「マーテル」と呼び始めた。マーテルは母の意。闘技場の母という訳だ。
今ではこの都市の皆がウチをマーテルとして慕っている。
子供たちの最後を看取らない者が母とは皮肉以外の何者でもない。
ふと昨日の言葉が蘇った。
ありがとう
柔らかい肉球で乱暴に頭を撫でながら言ってくれた一言。
「ありがとう、ありがとう、ありがとう、」
浴槽に映る自分の歪んだ顔を見つめて、呪文のように口ずさんだ。何度も、何度も。
・・・・・・
「あ、マーテル様、牙商にお手紙と皮袋渡しておきましたよー。ってもう上がられたんですか!?まだお着替えのご用意が、」
「今日のラストワンは何時から始まるぇ?それと観戦用の外着をすぐに容易!」
驚くシエルにウチは矢継ぎ早に注文を出す。
「えっ?、えっ?、今日は昨日の方が参加するから観ないんじゃ?」
彼女の質問にウチはこう答えた。
「母が息子の行く末を見守らんでなんの母ぞ」
まだ櫛が通りそうにない髪を揺らして、小さな母は闘技場に立つ巨像のように腰に手をあて胸を張る。
鏡に映る裸の母は素敵な笑顔を浮かべる。
くしゅん
割れんばかりの歓声に揺れる闘技場。その一室で、かわいいくしゃみが木霊した。
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