• ナルマヨが夫婦。
  • こどもまでいる。
  • 本番は無し。すまん。




「ふぅ~」
今や“自宅”となった綾里屋敷の広い風呂から上がり、薄暗い廊下にぺたぺたと足音を響かせながら台所へ向かう。
「真宵ちゃーん、ビール……っていないか」
仕方ない、と小さな明かりをつけて自分で冷蔵庫を開けてビールを探す。
(前はよく用意してくれてたんだけどなぁ…)
昔からよく気がつく子だった。
助手時代、デスクにはいつも温かいコーヒーがあったし疲れている時はお菓子(トノサマンの)だの休憩(トノサマンを見る)だのとよく気を遣ってくれた。
結婚前や新婚の時も至れり尽くせりで、風呂上がりには欠かさずビールか熱燗を用意してくれたものだ。
(多分、それがなくなったのは…こどもが出来てから、かな)
彼女はつわりがひどく、あれほど好きだったみそラーメンや甘いものや、終いにはお粥すらろくに食べれなくなってしまった。
一時は一日中ほとんど横になるほどで、どうしたらいいかまったくわからず慌てふためいたぼくは当時里を出て大学へ通っていた春美ちゃんに連絡して一時帰ってきてもらった。
その時、母屋の様子に唖然とした春美ちゃんに
『なるほどくん!ちゃんと家事を覚えてくださいませ!!』
と久しぶりにビンタされ、ようやく台所の流しいっぱいの皿や居間のカップラーメンの残骸に気がついた。家事はずっと真宵ちゃんまかせでどこに何があるかすらわかってなかったのだった。
春美ちゃんに特訓されひととおり家事にも慣れた頃、真宵ちゃんも無事につわりが治まった。
その後も安定期になるまでは、産後落ち着くまではと家事を手伝っていたらいつの間にか自分で出来る事は自分で、家事は二人でやろうというルールが出来ていた。
ぼくも真宵ちゃんも仕事があるし、それに異存はないのだけど…最近ちょっと真宵ちゃんがこどもにかかりきりで、まぁ何というか…少し……寂しい、かもしれない。
「あれ、なるほどくん」
パチッと大きな明かりがついて慌てて振り返ると、パジャマ姿の真宵ちゃんが立っていた。

「なるほどくんたらまたビール?お腹でちゃうよー」
「はは、まだセーフだよ。真宵ちゃんは?」
「ん?哺乳ビン洗い忘れちゃってさ」
「ああ…なるほど」
ひらひらと哺乳ビンと見せて笑う。一瞬、ぼくの晩酌に付き合いに来てくれたのかと期待したのだけど…残念。
「なるほどくん?どしたの?」
「え」
「なんかムスッてしてる……怒ってる?」
「いやいや、怒ってないよ」
「うーん…そうかなぁ…」
正直、どきりとした。
もちろん怒ってはいないけど、心の中にモヤモヤとしたものがあるのは確かだったから。
そんなぼくの心の中を探るように、真宵ちゃんは少しかがんで椅子に座るぼくの顔にずいっと自分の顔を近づけて見つめる。
はははと笑ってごまかすが真宵ちゃんはまだ気になるようで、哺乳ビンをテーブルにことんと置くとぼくの頭をぎゅうっと抱きしめた。
「真宵ちゃん?」
「んー…なんか、なるほどくんとこうするの久しぶりかもって思って」
頭の上から、柔らかな声が返る。
「……そうだね」
「寂しかった?」
「はは……まぁ、そうゆう事にしとこうか」
「素直じゃないなぁ、なるほどくんは」
よしよし、と頭を優しく撫でられて、ぼくはほぅっと感嘆のため息をついた。
やっぱり、真宵ちゃんはよく気がつく子だ。昔も今も、変わらずに優しくぼくを見つめている。
抱きしめられている真宵ちゃんの柔らかい胸からは、娘時代とはまた違う、なんだか甘い不思議な匂いがした。ボリュームも記憶のそれより大きい。

「…真宵ちゃん、胸おっきくなったね」
「あぁ、母乳のせいだよ」
「ふぅん…この匂いも母乳のせい?」
「匂い?匂い、する?」
「うん。…いい匂いだ」
いい感じのほろ酔いと久しぶりの触れ合いで、ぼくはなんだか少し変な気分になってきた。
真宵ちゃんのパジャマのボタンをはずしながら顔を埋めていた胸を唇でやわやわと刺激すると、頭の上から今度は少し慌てたような声が降ってきた。
「ちょ、ちょっと、なるほどくん?」
「なに?」
「なにって…何してるのよぅ…」
「いやぁ、ぼくもおっぱい飲んでみたいと思ってさ」
「えええー!って、あ…っ!」
みるみる間にパジャマをはだけさせてブラジャーのホックを外すと、たわわに揺れる胸がこぼれだした。久しぶりに対面するそれは予想よりかなり大きくなっていた。
「やっぱり寂しかったんじゃない…」
「どうだろうねぇ?」
「もう…しょうがないなぁ」

真宵ちゃんを一旦抱き上げてぼくの膝に跨がらせると、まずは両手で揉みしだく…が、
「あ、あんまり強く揉まないで…!張ってて、痛いの…」
「あ、ごめん…このくらい?」
「……ん」
真宵ちゃんの言う通りにゆるゆると撫でるように揉みつつ、腰をかがめて前より少し大きくなった乳首を唇で包みこんだ。
ちゅう…と優しく吸ってみる。しかし、吸っても吸ってもなかなか出てこない。
「な…なるほどくんっ……」
「…うん?」
一度顔を上げてみると、ほんのり紅くなって瞳を潤ませた真宵ちゃんの顔が間近にあった。
てっきりいつもこどもにおっぱいをあげる時のような顔をしているかと思っていたから、ぼくは少し驚いた。
「もっと…」
「え?」
「……もっと、強く吸わないと出ないよ…」
「そうなの?」
「うん。…初めてあげた時、すっごくびっくりしたもん」
「へぇ…」

あの小さな赤ん坊の唇にそんな力があったとは。
もう一度唇を押しつけて、真宵ちゃんのアドバイス通り強く吸ってみた。するとほどなくさらさらとした生暖かい液体が口に広がった。
(……ほんのり、甘い…ような)
口の中に広がる不思議な味。そして何よりも、この甘やかな優しい匂い。
「……おいしい」
「そ、そう…?」
「うん。…もう一回いい?」
「あ……そ、その前に…」
「ん?」
「その前に、さ…?」
顔をあげると、真宵ちゃんが少女の時のようにもじもじと初々しく頬を染めて、ぎゅうっと抱きついてきた。耳たぶに唇を押しつけながら、そっと囁く。
「……お布団…行こう…?」
パジャマがはだけたままの真宵ちゃんを抱き上げながら、寂しかったのはぼくだけではなかったみたいだ、そう思った。
最終更新:2010年03月26日 23:25