ダニエル・デフォー
(Daniel Defoe)
(1660~1731)

略歴

 市民社会の成長期に市民階級に生まれたデフォーは、天成のジャーナリストとして、またパンフレット作家として活躍した。その活動によって捕らえられ、さらし台に上げられたこともあった。彼の作家活動は「そのまま18世紀イギリス文学の序説となる」と言われる。

作品

 ジャーナリストとしては数多くの定期刊行物を創刊し、発行した。また幼少時に体験したロンドンの大疫病(1664~1665)について、60年も経ってからルポルタージュ風にまとめた『大疫病日記(A Journal of the Plague Year,1722)がある。これはジャーナリストとしてリアリズムを追求する姿勢と、面白い物語として描こうという作家としての姿勢、また災厄を神の罰かと恐れおののく清教徒の良心がない交ぜになっている。この事実性、面白さ、道徳的教訓性という三つが、デフォーの文学の構成要素であり、また18世紀英国ジャーナリズムの基本性格でもある。またこれが後に小説の誕生の原点となる。
 そんな彼が晩年になってから、小説の原型となるような物語を書いた。これが有名な『ロビンソン・クルーソー(Robinson Crusoe,1719)である。この物語の特徴は、事実らしさに徹したフィクションであることである。架空の島を舞台にしながらも、ユートピア小説とは異なり「どこかにあるはず」というように描かれている。そして清教徒的精神、苦境に負けぬ創意工夫、意志力は、市民階級に教訓として、そして何より新しい娯楽として受け入れられた。しかしながらこれは近代小説に今一歩足りなかった。そこには近代小説に欠かせない二つの点が欠けている。一つは「人間同士のかかわりあいの描写がないこと」、そしてもう一つは「そこから浮かび上がるはずの正確造形と心理描写が欠けていること」である。他に『モル・フランダース(Moll Flanders,1722)という女すりの生涯を描いた、ノンフィクションを装った物語もある。





最終更新:2008年02月06日 19:07