漢詩大会の漢詩全文/古詩十九首



  • 訳について
《文選/卷二十九(近デジ)》/
昔の早稲田大の解説(以下、早稲田)

解釈例論文(参考):


其の一 行行重行行

文学スレ解説
行行重行行。與君生別離。
相去萬餘里。各在天一涯。

道路阻且長。會面安可知?
胡馬依北風。越鳥巢南枝。

相去日已遠。衣帶日已緩。
浮雲蔽白日。遊子不顧反。

思君令人老。歲月忽已晚。
棄捐勿復道。努力加餐飯。

+  単語解説

行き行きて、重ねて行き行き。夫君と生き別れ、なお遠く。
君と相去ること、万里よりも遠く。夫は天の北の果て、私は南の果てにいる。

私たちを隔てる道路は、遠く険しく。どうして、面を会わせる日を予測できるというのか?
胡馬は故郷を思って北風に寄り。越鳥も故郷を思い、南枝に巣を構えるというのに。

互いの距離は、日に日に遠くなり。思えば、衣の帯が日に日に緩むほど、痩せ細る。
浮き雲は白日を覆いかくし、遊子たる夫は、私を振り向いてくださらない。

君を思えば、私をして老いしめる心地。年月はこつぜんと暮れて終わるもの。
いえ、もはやこの悩みは捨て、私は私の道を往こう。努力して、食事をとろう。


韻が変わる後半の文章は、「しっかりご飯をお食べなさい」妻→夫への呼びかけだとする説もある(『漢代 王子喬演変考』p10)。



其の二 青青河畔草

青青河畔草。鬱鬱園中柳。
盈盈樓上女。皎皎當窓牖。
娥娥紅粉粧。繊繊出素手。
昔為倡家女。今為蕩子婦。
蕩子行不帰。空床難獨守。

+  単語解説

青青たる河畔の草、鬱鬱たる園中の柳、
盈盈たる樓上の女、皎皎たること當に窓牖の景色。
娥娥たる紅粉粧、纖纖たる素手を見せる。
昔は遊女屋の女となりて、今は蕩子の妻となる。
蕩子は行きて帰らず、空床を難く獨り守る。

 これに関しては、早稲田の訳が秀逸。
 戦前の漢詩に親しんでいた時代の解釈は、今とは違った面白さがある。


其の三 青青陵上柏


青青陵上柏。磊磊礀中石。
人生天地間。忽如遠行客。
斗酒相娛樂。聊厚不為薄。
驅車策駑馬。遊戲宛與洛。
洛中何鬱鬱。冠帶自相索。
長衢羅夾巷。王侯多第宅。
兩宮遙相望。雙闕百餘尺。
極宴娛心意。戚戚何所迫。

+  単語解説

青青として枯れずにある、陵上の柏。磊磊として砕けることなき、礀中の石。
木や岩に比べ、天地の間に居る人生は。忽ち旅をくりかえす客の如く、はかないもの。
斗酒を飲もうや、踊ろうや。酒が濃くないというが薄くもないぞ(気にするな)。
車を駆り、駑馬にムチあて。宛や洛にて遊び戯れよう。
洛中は、草木がみごとに茂り。役人たちが互いを求め、駆け回り。
大通り裏通り、たてよこ交差して。王侯貴族の屋敷があい並び。
兩宮の遙かに相望み。雙闕の高さは百餘尺。
宴は極りて、心そこから楽しむ。くよくよ悩みに迫られることもない。


其の四 今日良宴會

今日良宴会。歓楽難具陳。
弾箏奮逸響。新聲妙入神。
令徳唱高言。識曲聞其真。
斉心同所願。含意俱未申。
人生寄一世。奄忽若飆塵。
何不策高足。先據要跨津。
無為守窮賤。轗軻長苦辛。

+  単語解説

今日は良き宴会。歓楽たるや、言葉に尽くしがたい。
箏が弾かれれば、清音が空気を震わせ。初めて聞く音楽は、妙にして神技の境地に入る。
徳人が高言を唱えれば。知っている筈の曲に、あらためて其の真意を知る。
座中の客、心に願うところは同じ。皆共に意に含むところを敢えて申さず、ただ聞くのみ。
人生の世に寄せること。たちまち漂う塵芥の如し。
どうして名馬にムチをあてぬのか。まずは先んじて要路をとるべし。
くれぐれも無為のまま貧賤の地位を守るなかれ。不平に長く苦心するだけだから。

 人の一生は短いのだから、努力してさっさと要職につけ。文句をいうだけで一生を終えるな、という意味合い?
 「先據要跨津」が、維基だと「先據要路津」になっている。


其の五 西北有高樓

西北有高樓。上與浮雲斉。
交疏結綺牕。阿閣三重階。

上有絃歌聲。音響一何悲。
誰能為此曲。無乃杞梁妻。

清商隨風發。中曲正徘徊。
一彈再三歎。慷慨有餘哀。

不惜歌者苦。但傷知音稀。
願為雙鳴鶴。奮翅起高飛。

西北に高楼あり。高さは浮雲に等しい。
その四面では、格子に彩絹が結ばれ。反り返った屋根が、三重に重なっている。

上から聞こえてくる、絃歌の声。音響の一つ一つに、深い悲しみが込められている。
誰がよくもこの曲を為しているのか。やもめ暮しの妻だろうか。

清商の音は、風に従い飛び立つと思えば。中曲はまさに辺りを漂う。
ひとたび弾けば、再三も嘆息し。憤慨して哀しみ余りある。

歌うものの苦しみを、惜しみはせぬ。ただ、知音の稀なるを痛む。
願わくば、双鳴の鶴と為りて。羽を奮い起ちて、高く飛びたちぬ。

この楽人と歌を共にし、思いを風に乗せて、遠くへ飛ばしたい。
【杞梁妻】は、斉の杞梁という人物の妻の逸話から。夫が死して悲しむの意味。



其の六 渉江採芙蓉

渉江采芙蓉。蘭澤多芳草。
采之欲遺誰。所思在遠道。
還顧望舊郷。長路漫浩浩。
同心而離居。憂傷以終老。

江をわたり蓮の花を採る。蘭の咲き誇る沢には、かぐわしき草花が多い。
これを採って、誰に送ろうか。思うところは道の遠くにあり。
返り顧みて故郷を望むも、長路は散漫として広すぎる。
心を同じくするも、しかし離れて暮らす。憂傷を以って、老いを終える。

芳香を放つ花を採り、或いは美しく着飾ったところで、
夫と互いに花を贈りあおうと夫は遠方に旅立ち、同じ喜びを抱きあえる両親もなく、
花はただ枯れ散って、この美貌も老いさらばえるのみ。



其の七 明月皎夜光

明月皎夜光。促織鳴東壁。
玉衡指孟冬。衆星何歴歴。
白露霑野草。時節忽復易。
秋蟬鳴樹間。玄鳥逝安適。

昔我同門友。高舉振六翮。
不念携手好。棄我如遺跡。
南箕北有斗。牽牛不負軛。
良無盤石固。虚名復何益。

+  単語解説

名月はこうこうと夜に輝いて。キリギリスは東壁に鳴いている。
玉衡の星は孟冬を指し。従う衆星は鮮やかにさんざめく。
白露は野草をうるおし。時節はたちまち移り変わる。
秋蝉は樹間に鳴き、玄鳥(ツバメ)は安住の地へ飛び去る。

私には昔、同じ師につき従った友がいて。友は高く、六翮を振るうように出世した。
彼は、手をよく取り合った昔を想いもせず。私は踏みにじられた遺跡のごとく棄てられた。
南に箕星、北に斗星があるが、名だけで実際に測ることは出来ない。牽牛星も、軛をおうことはない。
人の縁に磐石の固さなどなく。虚名にまた何の益があるというのだ。

うつろう季節のように人の心も変わり果て、共に青春を謳歌した友情も名だけのこと。
友はツバメのように遠くへ飛び去り、私はキリギリスと共に孤独を歌う。
今はただ荒野に冷たい風が、むなしく吹きつけるばかり。


其の八 冉冉孤生竹

冉冉孤生竹。結根泰山阿。
與君為新婚。菟絲附女蘿。
菟絲生有時。夫婦會有宜。
千里遠結婚。悠悠隔山陂。
思君令人老。軒車来何遅。
傷彼蕙蘭花。含英揚光輝。
過時而不采。將隨秋草萎。
君亮執高節。賤妾亦何為。

+  単語解説

か弱い孤独な竹が生えている。荒れ果てた山間の日陰で、根を結ぶ。
君と新婚となること。兔絲の女蘿に附くがごとし。
兔絲にも、生ずる旬というものがあり。夫婦にも、会う時宜(タイミング)というものが有る。
千里は結婚するには遠く。悠悠として山陂は隔てる。
君を思えば令人をして老いしめ。軒車が迎えに来るのはどうして遅いのか。
彼の蕙蘭の花を傷む。つぼみは今にも花開こうというのに。
時はすぎてもいまだ採られる事なく。時の流れに従い秋草となりて萎む。
君が冷たくも高節を執るならば。賤妾は何をどうしろというのか。

男がいつまでも採りに来ないので、花は枯れ、私は老いていく。
劉履『古詩十九首旨意』など、隠棲したまま出仕できずに朽ちようとしている賢者が、おのれと君主との関係を、男女の仲になぞらえたものだという説もある。
早稲田には、この作品は掲載されてないぽい。


其の九 庭中有奇樹

庭中有奇樹。緑葉発華滋。
攀條折其榮。將以遺所思。
馨香盈懷袖。路遠莫致之。
此物何足貴。但感別経時。

庭中には奇樹があり。緑はつやよく滴りを発する。
條枝をよじ登ってその花を折る。「意中の人に渡したい」と想うが。
芳香は懐や袖に満ちても。道は遠く、花を渡したくとも渡せない。
満開の花にいったい何の価値があるものか。ただ別れより経てきた年月を感ずるのみ。

かっては毎年花が咲くたびに、意中の人と共に、庭の木を愛でてきた。
しかし今や一人、花を懐いっぱいに採っても、見せる人はもう居ない。
どんなに花がきれいでも、一緒に「綺麗だね」って言い合える人がいないと、つまらないんだよ。


其の十 迢迢牽牛星

迢迢牽牛星。皎皎河漢女。
纎纎擢素手。札札弄機杼。
終日不成章。泣涕零如雨。
河漢清且浅。相去復幾許。
盈盈一水間。脉脉不得語。

遥かなりしは牽牛の星。あきらかなるは織女の星。
かぼそき手にて、糸をひきつつ。たんとんとして機杼を弄(いら)う。
ついに一条たりとも、織り成せず。泣きて涙こぼれること、雨のごとく。
あまのがわ清くして、かつ淡く。二人の相去ること、また幾ばくか。
満ち満ちたる澄んだ河の流れ。この距離に、何も語りえず。

七夕を詠んだ漢詩のなかでは、最古といわれる。
【弄機杼】機杼をいじる。機杼は、機織道具。
維基だと、脉脉は「脈脈」になっている。

其の十一 迴車駕言邁

迴車駕言邁。悠悠涉長道。
四顧何茫茫。東風搖百草。
所遇無故物。焉得不速老。

盛衰各有時。立身苦不早。
人生非金石。豈能長壽考。
奄忽隨物化。榮名以為寶。

+  単語解説

車をめぐらせ牛馬に引かせ、さぁ走り出そう。悠々と長道を渡るのだ。
四方を見渡せば何とも延々と果てしなく。東風は緑なす百草を揺らし。
会うところに故(ふる)き物はなく。どうして生命は速やかに老いずにいられるだろうか。

盛衰おのおの時あり。身をたて名をあげることの早からざる(難しさ)に苦しむ。
人生は金石にあらず。どうして老後を考えるのか。
命は天に随いたちまち移り化すもの。ただ栄名をもって実を残そう。

馬車による景色の流れと、人生のときの流れを重ね合わせている様子。


其の十二 東城高且長

東城高且長。逶迤自相屬。
迴風動地起。秋草萋已緑。
四時更変化。歲暮一何速。
晨風懐苦心。蟋蟀傷局促。
蕩滌放情志。何為自結束。

燕趙多佳人。美者顏如玉。
被服羅裳衣。當戸理清曲。
音響一何悲。絃急知柱促。
馳情整巾帯。沈吟聊躑躅。
思為雙飛燕。銜泥巣君屋。

+  単語解説

東城は高く且つ長く。長遠として相連なる。
強風が竜巻のように地を巡り。秋草は盛り育ち緑なす。
四時は更に変化し。歲が暮れるのは何と速いことか。
「晨風」に苦心を抱き。「蟋蟀」に堅苦しさをいだく。
そんな情志は大いに洗い流せ。何が為に自らを束縛するのか。

燕趙には佳人が多く。美者の顏は玉のよう。
服の上にうすあみの裳衣を羽織り。戸に当たりて清曲を整える。
音響の一に何ぞ悲しき。絃急にして柱の促すを知る。
(楽人への)情を馳せ巾帯を整え。沈吟して僅かに進み出るも躊躇(ためら)う。
つがいの飛燕となりて。泥を銜えて君が屋に巣くわんとぞ思う。

「巾帯」が、維基では「中帯」(帯の中心をとめる帯?)。


其の十三 驅車上東門

驅車上東門。遙望郭北墓。
白楊何蕭蕭。松栢夾廣路。
下有陳死人。杳杳即長暮。
潜寐黄泉下。千載永不寤。

浩浩陰陽移。年命如朝露。
人生忽如寄。壽無金石固。
萬歲更相送。聖賢莫能度。
服食求神仙。多為薬所誤。
不如飲美酒。被服紈與素。

+  単語解説

車を上東門に馳せて。郭北の墓を遥かに望めば。
白楊は何とも寂しげに柳絮をあらわし。松栢は広い路地を挟んでいる。
その下には、久しき昔に死せる人あり。薄暗い夕陰は長く傾き。
黄泉下の寝床に潜り。千載の末も永く目覚めることはない。

大海の波のように陰陽は移ろい。年命は朝露の如し。
人生はすなわち寄せては帰すがごとく。壽に金石の固さはなく
よろずの歲を更に相送る。聖賢の士といえど、歴史にまさることはできず
服食して、神仙の生を求めるものも。多くは薬のために身を誤った。
美酒を飲むにこしたことはない。さぁ薄絹の衣を羽織ろうか。

人は長暮の後に死して永遠に目覚めることはなく、されど生死を繰り返して、万の歴史を積み重ねてきた。
その成果は、いかな聖人の行いにもまさる。人は今を楽しみ、生を楽しみ、文化を育てていけばいい。


其の十四 去者日以疎

去者日以疎。生者日以親。
出郭門直視。但見丘與墳。
古墓犁為田。松栢摧為薪。
白楊多悲風。蕭蕭愁殺人。
思還故里閭。欲歸道無因。

+  単語解説

去る者は日々に疎くなり。生まれる者は日々に親しくなる。
郭門を出て直視すれば。但、丘と墳とを見るのみ。
去りし者の古墓は、耕されて田畑となり。松栢はひかれて生者の使う薪となる。
白楊、悲風多し。ものさびしき愁(うれい)は、人をも殺す。
故郷の門をくぐり(生者の世界へ)還ろうと思っても。死へと至る道を逆戻りできることは決してないのだ。


其の十五 生年不満百

生年不満百。常懷千歲憂。
晝短苦夜長。何不秉燭遊。
為樂當及時。何能待來茲。
愚者愛惜費。但為後世嗤。
仙人王子喬。難可與等期。

+  単語解説

人の生年は百に満たずして。常に千歲の憂いを抱く。
昼は短かく夜の長きに苦しむ。どうして燭をとり遊ばずにはおれようか。
楽しみを為すに及ぶなら、まさに今。どうして時が来るのを待つのかね。
愚か者は、けちけちと費用を惜しむが。ただ後世の嗤いものとなるだけよ。
仙人王子喬。彼と同じときを、凡人が過ごすことは難しいのだから。

関連:
西門行


其の十六 凜凜歲雲暮

凜凜歲云暮。螻蛄夕鳴悲。
涼風率已厲。遊子寒無衣。
錦衾遺洛浦。同袍與我違。
獨宿累長夜。夢想見容輝。

良人惟古歡。枉駕恵前綏。
願得常巧笑。攜手同車歸。
既來不須臾。又不處重闈。

亮無晨風翼。焉能凌風飛。
眄睞以適意。引領遙相睎。
徒倚懷感傷。垂涕沾雙扉。

+  単語解説

凛々として歲は暮れ。螻蛄の夕べに鳴くや悲しき。
涼風、にわかに厲(きび)しくおこり。遊子は寒くして衣無し。
いにしえの物語に「錦衾を洛浦に遺す夫あり」というが。同じ夫婦でも、我らは違う。
独り宿のまま長夜をかさね。ついには夫の容輝を、夢に想い見る。

良き人は昔なじみに満足し。駕を引いて私を迎えに来て、前綏を譲ってくださる。
願わくば常なる巧笑を得て。手に手を取って同車にて帰らんことを。
すでに同乗したと思えば。夫は思わぬうちに去り、閨を重ねることもない。

亮らかに朝風の翼なく。どうして能く風を凌ぎ飛びされるというのか。
よこしまに見ては渇愛の情をゆるめ。あるいは領を引き遙かに愛を望む。
進退窮まり門に寄りかかっては昔を懐かしみ。涙垂れて双扉を潤す。

伝説上の、繋がりが強い夫婦は服装も暖かいが、作者の夫婦は、服装も繋がりも冷え切っている。
「古権」は、維基では「古歓」。


其の十七 孟冬寒気至

孟冬寒気至。北風何惨慄。
愁多知夜長。仰観衆星列。
三五明月満。四五蟾兔缺。

客従遠方來。遺我一書札。
上言長相思。下言久離別。
置書懷袖中。三歲字不滅。
一心抱區區。懼君不識察。

+  単語解説

秋もいつしか過ぎ初冬となり、にわかに寒くなった。北風は吹きすさび、見もよだつほど。
冬の夜長に、悲しみはいよいよ深く。ふと仰ぎ見れば、幾万の星がまたたいている。
すぎし15日には、満月が中天に。二十日には、うっすらと月は欠けていく。

遠方より、お客様がいらっしゃって。私に手紙ひとふみを残してくださった。
手紙の始めには、長く相覚えようと。手紙の末尾には、久しき離別が辛いと。
頂いた文を、懐や袖の中に大切にしまい置けば。三年たった後も字は消えることなく。
かくも私の心は、ただ一途なままであり。この思いが、夫に届かぬことを恐れるのです。

三五、四五で、時の流れを表している。
これも蔡邕?の飲馬長城窟行に影響ありか。


其の十八 客従遠方来

客従遠方来。遺我一端綺。
相去萬餘里。故人心尚爾。
文彩雙鴛鴦。裁為合歡被。
著以長相思。縁以結不解。
以膠投漆中。誰能別離此。

遠方よりお客様がいらっしゃって。私にひとおりの綺羅布を残してくださった。
相去ること万里を超え。故人のこころも、またかくの如し。
あや絹の模様を見れば、鴛鴦がむつまじく並んでいる。私はこれを裁ち、相被せよう。
この行為をもって長い相思の心を表し。縁を縫うときは頑丈に結び、糸がほつれぬようにしよう。
私たちの仲は、膠と漆を合わせた様に硬く。誰に、私たちを別れさせることができましょうぞ!

  • コメント
 単純に読めば、遠くから送られた布をどうしようかと、あれこれ考える婦人の姿。
 問題は、「尚爾」を「昔のまま」と読むか、「互いの身が遠く離れたように、心もまた遠く離れた」と読むか。

 早稲田は大幅に意訳した上で、「愛に焦がれるあまり狂気に陥りながら、なおも品の良さを失っていない作品」と解釈している。
 膠(にかわ)、漆(うるし)が唐突かもしれないが、古代、大陸から日本に渡った漆加工技術のひとつに、麻布を貼り重ねた生地に漆を塗る「夾紵(きょうちょ)」という手法がある。
 作者は漆職人など、漆に親しみのある環境にいたかもしれない。
 あるいは「布で着物を作る」というより、「すぐに汚れ破れてしまう綺羅布を手元に永遠にとどめ置くために、本来なら使わない綺羅布を生地に、漆の作品を作る」「もうまともな理性がなく、ただ愛を形に遺そうとあがく様を表した」かもしれない。

 ちなみに夾紵については、日本でも遺跡から夾紵による棺が出土していた(と思う)し、奈良時代になると「そく(土塞)」という仏像製作技術などに進化する。こうした古代技術の中には、現代では失われた技術もあったりする。



其の十九 明月何皎皎

明月何皎皎。照我羅牀幃。
憂愁不能寐。覽衣起徘徊。
客行雖云樂。不如早旋歸。
出戶獨彷徨。愁思當告誰。
引領還入房。淚下沾裳衣。

+  単語解説

明月はこうこうと照り輝き。我が寝床のとばりを照らす。
憂愁のあまり、寝ることもかなわず。衣を手探って、起きて徘徊する。
夫はひとり旅を楽しんでいるかもしれないけど。帰りの早いに越したことはない。
戸を出でて、独りさまよって。この愁思を、誰に告げればよいのか。
きびすを返して、寝床に帰れば。おちる涙はらはらと、裳衣をぬらす。

旅に出た夫が、早く帰ってこないものか。
夜中に独り、愛を求め月下をさまよう。

関連:
詠懐詩(阮籍)



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