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144 :名無しさん@ピンキー:2008/04/12(土) 19:16:11 ID:UddDhst4 グロ、鬼畜注意 焼け焦げて脆くなった建物が目の前で倒壊する様を見た。少年が巻き添えを食らう様を見た。東京は空襲を受けて…… 砕けた煉瓦の破片が瀑布となって、少年の頭部に降り注ぐ様をこの眼で見た。血管が凝固した。視線が凝固した。舞い上がる土埃──視界を遮られてる。 道端に転がったゼリー状の球体──赤い網膜に覆われた少年の眼球だった。生温い風が首筋を…… 新鮮な眼球だった。空腹だ。下腹部が鳴った。空腹だ。生唾を飲み込んだ。空腹だ──眼球を拾い上げた。口腔内に放り込む。 被った砂利の食感──震えるゼラチン質──咀嚼した。水晶体が壊れる。卑しく粘っこい汁が蛞蝓の如く舌へと絡みついた。 湿り気──しょっぱい──涙か。露骨な現実感が邑の口内で弾けた。流れ出た血が冥い風に乾く。乾く。乾く。 答えるものは何も無い。何も無い。動くものは何も無い。何も無い。煤で汚れた煉瓦の破片を掻き分ける。 胸元が汗に濡れてべとついた。むかつくようにべとついた。脇下が滑る。汗で滑る。不快に滑る。草も土も木も水も、全ては炎に包まれた。 焼夷弾が降り注いだ。空から焼夷弾が降り注いだ。春先の青空から焼夷弾が降り注いだ。燃えた。春先の青い空から激しい爆撃が…… 人も燃えた。家も人も燃えた。ビルも家も人も燃えた。ビルも家も人も赤ん坊も野良犬も燃えた。 黄色く汚れた歯も、赤い唇も、しわがれた喉も、朗らかな嬌声も灰にまみれて……目眩く黒い灰にまみれて…… 煉瓦の破片を掻き分ける。破片を掻き分ける。掻き分ける。太陽の熱気、かぐろく艶っぽい髪を垂れ下げたしゃれこうべの頭上に熱の雨が降り注ぐ。 ぽつんと生えた針金の雑草。ぽつんと生えた惨めな針金の雑草。光に晒されてぽつんと生えた黒く惨めな針金の雑草。 何でも食べた。何でも食べた。木の実、木の葉、木の皮、木の根、口に入れられるものはなんでも食べた。 虫、蚊、虫、黒蝿、虫、ノミ、虫、シラミ──邑の汗の気配に、血の気配に、肉の気配に、骨の気配に、存在の気配にたかり群がる。 錆びた鉄骨は半ばから溶けて──瘡蓋が膿を垂れ流す。火傷を負った瘡蓋が膿を垂れ流す。酷い火傷を負った右足の瘡蓋が黄色く臭い膿を…… 日が上がるにつれて気温が上昇する。渇きと憔悴に悩まされる。輝くばかりの太陽は腐敗の象徴に過ぎず──太陽の熱があらゆる骸を腐らせる。腐らせる。 毒の太陽、毒の熱、毒の光、毒の雲、毒の空。太陽を殺せ。昼を殺せ。太陽を殺せ。昼を殺せ。太陽を殺せ。昼を殺せ。 飢える。渇く。飢える。渇く。飢える。渇く。飢える。渇く。飢える。渇く。飢える。渇く。飢える。渇く。 見渡す限りの瓦礫、瓦礫、瓦礫の山、瓦礫の焼け野原。空襲が来るぞ。空襲が来たぞ。空襲が来るぞ。空襲が来たぞ。 見つけた背嚢を探って、破れた背嚢を探って、何か食べ物は無いか探って、煙草でも金歯でもいいから探って。 ……疲労で身体が凝り固まる。煉瓦がやけに重い。何も見つからない。何も見つからない。知ってはいるが何も見つからない。 びっこになった足を引きずる。びっこになった痛む足を引きずる。びっこになった火脹れに痛む右足を引きずる。びっこになった…… ノミがそこかしこに喧しく跳ぶ。食われた肌が朽ちた斑模様を作って──痒い。痒い。掻き毟る。掻き毟る。 ──穢多は出て行けやッッ、穢多は出て行けやッッ、穢多の餓鬼は出て行けやアァァッッ! 怒声が飛び交う。怒声が飛び交う。怒声が飛び交う。怒声が飛び交う。怒声が飛び交う。 ──穢多は出て行けやッッ、穢多は出て行けやッッ、穢多の糞餓鬼は出て行けやアァァッッ! 叫びが轟く。叫びが轟く。叫びが轟く。叫びが轟く。叫びが轟く。叫びが轟く。叫びが轟く。 145 :名無しさん@ピンキー:2008/04/12(土) 19:16:54 ID:UddDhst4 ──穢多は出て行けやッッ、穢多は出て行けやッッ、汚らしい穢多は出て行けやアァァッッ! 石ころが身体を打つ。石ころが身体を打つ。石ころが身体を打つ。石ころが身体を打つ。石ころが身体を打つ。 防空壕から追い出された。防空壕から追い出されたから生き延びた。影に身体を密着させて、影の中へと忍び入り、生き延びた。 瓦礫の奥に見えた少年の腕を引っ掴み、瓦礫の奥から少年の腕を引きずり出し、瓦礫の奥から血管を剥き出しにした少年の腕を…… 口元に寄せた。肌に溜まった土色に染まる垢の生々しい臭みが鼻をつく。炙られるような暑さのせいで、肌に溜まった土色に染まる垢の生々しい臭みが鼻をつく。 前歯で肉を噛み千切った。邑は前歯で肉を噛み千切った。邑は前歯で死人の肉を噛み千切った。死肉の滋味が溢れ出す。 死肉の生酸っぱい滋味が溢れ出す。胃袋が痙攣する。嘔吐感──胃液を飲み込んだ。嘔吐感──食道から逆流する胃液を飲み込んだ。 神経線維の一本、一本が捻じ切れるように軋んでは鳴く。邑は前歯で死人の肉を噛み千切った。邑は前歯で肉を噛み千切った。前歯で肉を噛み千切った。 邑は前歯で肉を噛み千切った。前歯で肉を噛み千切った。ボルトが転がる。骨が転がる。野良犬が死臭を…… 蝿がたかる。前歯で肉を噛み千切った。蚊がたかる。前歯で肉を噛み千切った。蝿がたかる。前歯で肉を噛み千切った。蚊がたかる。前歯で肉を噛み千切った。 黒い蝿どもが傷口にたかって卵を産み付ける。黒い蝿どもが群れを為しながら、傷口にたかって卵を産み付ける。 糜爛する傷口、糜爛する精神、糜爛する誇り、糜爛する人間の尊厳。敗者は汚穢に塗れて、全てを勝者に潰されて…… 胃袋が収縮した。吐きたくない。胃袋が収縮して胃液を食道目掛けて逆流させた。吐きたくない。胃袋が収縮して横隔膜が引き攣り、胃液を…… 肌の表面に浮んだ水滴のような汗がポタリと落ちた。涙湖に溜まった涙が一滴。肉は焦げて白骨は炭となり、ただ消えた。 沈黙の喧騒が灰色の世界を支配し……空虚と貧困の土色に……憐憫と驚倒が占領軍の…… 地獄の業火に東京は……一九四五年 ──バナナの因縁聞かそうかッ、土人娘に見初められ、ポッと色気のさすうちに国定忠治じゃないけれどッ バナナのタンカ売。木箱に乗せた青いバナナのタンカ売。木箱に乗せた青いバナナを叩きながら、売人が調子っぱずれの声を張り上げてタンカ売。 ──さあ、買ったッ、買ったッ、黄色い熟れた色気のバナナもいいが、青い色気のバナナも悪くはねえぞッ 掌を木箱に叩きつけながら威勢の良い声でタンカ売。売人が威勢の良い声で……売人が威勢の良い声で…… ──バナナは入れてもしゃぶっても、餓鬼の心配いらないよッ、そこの姉ちゃんムコさん代わりにおいらのバナちゃんどうかいなッ 日照りだ。日照りだ。この熱さには耐えられない。容赦なく降り注ぐ太陽の光は通行人を責め苛む。 容赦なく降り注ぐ太陽の光は行商人や、通行人を責め苛む。容赦なく降り注ぐ太陽の光は行商人や、通行人を…… ──もう一声かけて壱八円だッ、小粋な芸者の一八番ッ、お旦那衆のお座敷でバナナ輪切りの芸を披露ッ、上手く千切っておひねり貰うッ! 邑は生まれてこの方、バナナなんて食べたことが無い。邑は生まれてこの方、バナナなんて嗅いだ事が無い。 邑は生まれてこの方、バナナなんて触った事が無い。邑は生まれてこの方、バナナなんて触った事が無い。 売人の傍らに置かれた唐丸駕籠へ手を伸ばし、売人の傍らに置かれた唐丸駕籠へ目意識に手を伸ばし…… ──この盗人小僧があァっっ! 手首を掴まれた。売人の怒号、拳が空気を切った。邑の顔面に鋭い痛みが襲った。頬骨を打つ音が鼓膜を貫く。砕けた鼻腔が鼻血をしぶかせて…… 眼を覚ます。邑が眼を覚ます。邑がそこで眼を覚ます。トタン板の上に寝そべっていた邑がそこで眼を覚ます。 驟雨が、天の雨桶をぶっ壊したような驟雨が、天の雨桶をぶっ壊したような激しい驟雨が襲う。暗い雨、黒い雨、暗い雨、黒い雨、大粒の黒い雨。 黒い雨が邑に向かって力強く降り注ぐ。黒い雨が邑に向かって力強くいたぶるように降り注ぐ。 生水は飲むな。雨水も飲むな。コレラになる、赤痢になる、チフスになる、A型肝炎になる、死人になる。飲むな。飲むな。飲むなッ!思考は混濁する。 悪夢は束の間の幻影ではなかった。束の間の幻影ではなかった。幻影ではなかった。 赤茶けて所々擦り切れたメリヤスのシャツが水を吸う。激しい渇きに水を吸う。 146 :名無しさん@ピンキー:2008/04/12(土) 19:17:37 ID:UddDhst4 暗雲が空を低く横切って、生水は飲むな。雨水も飲むな。コレラになる、赤痢になる、チフスになる、A型肝炎になる、死人になる。死人は嫌だ。死人は嫌だッ! 町は町ではなくなり、建物は建物ではなくなり、家は家ではなくなり、人は人ではなくなり……ただ東京一面は廃墟の…… 嫌だッ!嫌だッ!嫌だッ!嫌だッ!嫌だッ!嫌だッ!嫌だッ!嫌だッ!嫌だッ!嫌だッ!嫌だッ!嫌だッ! 心臓が慌しく血液を吐き出し、邑の足首が地面を蹴る度に揺れた。足をすくわれそうになる。 ボウフラの沸いた水溜り。泥雨が……泥雨が…… 新橋の近く、路地裏とは呼べぬ路地裏に潜り、僅かに原形を留めたあばら屋に入る。鼻がもげるような異臭の群れが、熱気とともに顔にぶちあたる。 どす冥く沸騰する心臓、どす冥く沸騰する喉元、どす冥く沸騰する指先、鼠や蛆虫が、鼠や蛆虫が人肉を貪って、鼠や蛆虫が腐敗した人肉を貪って…… 膨れ上がった女の死体だった。醜く膨れ上がった女の死体だった。腐臭を漂わせ、肛門から糞便とともに内臓をひり出す女の死体だった。 緑色の線が網膜模様にはりめぐった女の腐乱死体だった。爪先は黒ずみ、眼窩からは蛆虫がこぼれて、舌は溶けて干からびていた。 舌は溶けて干からびていた。舌は溶けて濃褐色の腐汁をしたたらせ…… 生ぬるい褐色の腐汁が邑の足元を触った。腐敗ガスが充満する室内。激しい異臭が脈動する。脈動する。 死体の穴に潜って、死体を引き裂きながら出口を捜す鼠──鼠が芋虫のようにのたうつ腸を前足で押さえて、クチャクチャとせわしなく食らい続ける。 ここから逃げよう。ここから去らなければ──本能が脳裏で待てと呟いた。えづく。醜い裸体。腐った馬脂の悪臭。 生臭い腐った血液をガスがぶちまける。誰だ。ぶちまける。思い出せない。ぶちまける。見覚えがある。ぶちまける。この女には見覚えがある。ぶちまける。 女が握りしめたお守りが邑の視界を奪った。女の持っているお守り──女は邑の母親だった。半年前に新宿ではぐれた母親だった。 皮膚という皮膚は腐ってぶよついて浮腫を起こしたような有様で、腐敗ガスが醜く無残に身体を膨らませて……その姿には名残も面影も…… 嘔吐を催させる腐肉の臭気、握りしめた拳──爪先が肉に食い込んだ。汗ばんだ掌──血管が膨張する。 147 :名無しさん@ピンキー:2008/04/12(土) 19:18:20 ID:UddDhst4 黄白色の蛆虫どもがウゾウゾと蠢き、眼窩から這いずり出ては地面へとこぼれ落ちる。灰色に濁った眼球が紫の菌糸を引いて眼穴から…… 毛穴からにじみ出る脂汗が蒸発する。蒸し暑い。蒸す。蒸す。湿りと熱が屍の腐敗を加速させていく。 腐れ爛れた母親の屍を抱きかかえた。無数の蝿が飛び出す。両腕と胸が屍が分泌する濃褐色の膿汁で滑った。 皮膚が腐ったジャガイモの皮のようにずるりと捲れてどす黒く変色した筋肉組織を露出させた。濃緑を黒く混ぜた筋肉組織を露出させた。 膿汁が空気に触れて漠然と揮発する。剥離した人皮の切れ端。泥雨が……泥雨が…… 歯茎から血が流れる。食い締めた奥歯──砕け散った。毛細血管が千切れる。哀しいのか、嬉しいのか、わからない。わからない。 毛穴から噴き出す血の汗──心臓が握りつぶされる。屎尿のアンモニア臭も大便もスカトール臭も感じなくなる鼻腔粘膜。 汗と体液で黄ばんだ黒髪を手櫛ですくって……生き延びた幸福と苦痛を噛み締める。ぬめぬめと光る腸が……裂けた腹腔内から…… 噛み締める。虚しい喪失感。血が歯茎を濡らし……病的な緑色が……醜悪な慟哭を…… 地獄の業火に東京は呑み込まれて、神風は吹くことも無く……一九四五年 新橋ではタチンボが集まって、青いドル札を見せびらかすアメリカ兵に声をかけていた。冷たい汗が唾のように額に張り付いて頬を伝う。 ──ねえ、メリケンさん。ちょいとそこのメリケンさん 死人にすらなれない死人は難民の如く彷徨い、敗者の群生はわずかばかりの配給食を求めて力なくくず折れて…… ──遊んでいってよ、メリケンさん 抜け殻、人の抜け殻、魂の抜け殻、人ばかりではない。物も抜け殻だった。人々の呪詛が……奴隷の呪詛が呟かれ…… 三ヶ月ぶりに風呂にありつけた。古いドラム管を拾ってきて、石鹸は無かったけれど──久しぶりの湯だった。 暗いひさしの下に屈み、物陰でアメリカ兵が邑のアヌスの香りを嗅ぐ。腰の揺れに応じて米兵が邑の尻を叩きながら、大便で汚れたアヌスの香りを嗅ぐ。 腰の揺れに応じて米兵が邑の尻を叩きながら、さきほど目の前で排泄を晒し、瑞々しい朽葉色の大便がこびりついたアヌスの香りを嗅ぐ。 糞便の臭いが鼻柱で絡み合い、アメリカ兵が鼻頭を押し付けて、淡い褐色の穢れを糞臭もろとも柔軟な舌腹で舐め清める。怖い。怖い。 柔軟な熱い舌腹で執拗に、汚物を肉ごとこそぎ落とすように、肛門の周辺から丹念に舐め清める。怖い。怖い。 舌を汚す排泄物独特のえぐい苦味──米兵が愛しそうに微笑んだ。邑の瞼縁が微かに蠕動する。恥ずかしそうに邑の瞼縁が微かに蠕動する。 哀しそうに邑の濃い睫毛に彩られた瞼縁が、微かに蠕動する。身をよじらせて……苦悶の表情を浮き彫りにし…… 麝香線を触られて……アメリカ兵の手が包皮を被った邑の硬直しつつある部分を指弄する。性器が痛痒い。プロシャ青の瞳が…… 菫色した肛門の縁を覗き込み、ウイスキーの混ざった熱い湿り気を含んだ米兵の呼気が、邑のアヌスと睾丸いっぱいに広がる。 なんでこんな憂き目に遇うのだろう。狭隘な孔を指でくじられる屈辱。逆らってはいけない。逆らえば殺される。殺されるのは嫌だ。殺されるのは嫌だッ! 男根をしゃぶらされる。男根を小さな唇でしゃぶらされる。男根をほんのりと赤い小さな唇で…… 銃弾が額を打ち抜くぞ。銃弾が心臓を打ち抜くぞ。逆らえば殺される。逆らえば殺される。殺されるのは嫌だ。殺されるのは嫌だッ。 嫌だッ!嫌だッ!嫌だッ!嫌だッ!嫌だッ!嫌だッ!嫌だッ!嫌だッ!嫌だッ!嫌だッ!嫌だッ!嫌だッ! 塩辛い苦味を含んだ精汁が、邑の口内を満たした。吹きたての白粥のような、塩辛い苦味を含んだ精汁が、邑の口内を満たした。 飲まなければ殴られる──喉をふるわせて啜った。涙と青鼻ごと啜った。不浄の焦茶色が鼻に沁みて…… 尻朶を開かれて肛門にワセリンを塗りこまれた。尻朶を開かれて、無骨な指で肛門にワセリンを塗りこまれた。直腸内部にまでたっぷりと…… 148 :名無しさん@ピンキー:2008/04/12(土) 19:19:40 ID:UddDhst4 脇腹を両手で押さえつけられて……男根が突き刺さった。捻じ込まれる。捻じ込まれる。括約筋が悲鳴を上げる。痛い。痛い。痛い。 メキメキと音を立てながら、括約筋が悲鳴を上げる。肉が引き裂かれる。引き裂かれる。痛い。痛い。痛い。 炎暑に喘ぐ肢体を痙攣させてブツン、ブツンと肉が引き裂かれる。痛い。痛い。痛い。痛い。痛い。痛いッ。痛いッ。痛いッ!痛いッ! メリケン兵が腰をグラインドさせる。痛いッ。痛いッ!痛いッ!くぐもった悲鳴──声帯が裂けんばかりに震動した。 亀頭の襟に糞便をすりつけた男根が肛門からゆっくりと抜かれた。背徳の茶色……光は青褪めて……浮浪児の魂を二重の渦中へと投じ…… 透明感漂う首筋、清澄なすすり泣き、器官から洩れる空気が嘲いのメロディーを奏でる。忌まわしい。涙腺が震えた。 アメリカ兵が一ドル紙幣五枚とキャメルを一カートン──握らされた。アメリカ兵が古い一ドル紙幣五枚とキャメルを一カートン──邑はそのか細い指に握らされた。 口が痛い。肛門が痛い。腹が痛い。口が痛い。肛門が痛い。腹が痛い。口が痛い。肛門が痛い。腹が痛い。口が痛い。肛門が痛い。腹が痛い。 黄土色に染まったザーメンを邑が肛門からひり出すと、アメリカ兵がテッシュで邑の汚物を拭い取った。キャンディーの入った袋と石鹸を手渡しながら…… 黄土色に染まったザーメンを邑が肛門からひり出すと、アメリカ兵がテッシュで邑の汚物を丹念に拭い取った。ピースの紫煙をくゆらせて…… もう一度、邑に表面の黄ばんだペニスをしゃぶらせる。己の排泄物の味を……苦い、臭い、苦い、臭い、味わって……苦い、臭い、苦い、臭い。 アメリカ兵が邑の唇にキスをする。アメリカ兵が邑の唇にディープキスをする。巴の背中を労わる様に撫でて、優しく言葉をかけながら…… もう一度、邑に表面の黄ばんだペニスを舐め清める。テッシュの臭いを嗅ぎながら、もう一度、邑に表面の黄ばんだペニスを舐め清めさせる。 息苦しい。喉の奥まで……息苦しい。アメリカ兵が邑の頭に真新しい帽子をかぶせて…… アメリカ兵が邑の唇を舌で割り広げて、ザーメンと糞で雀蜂色に濡れた歯茎を愛撫し、唾液を吸って優しくディープキスをする。 心が萎える。死んじまったほうがマシだ。心が萎える。死んじまったほうがマシだ。心が萎える。死んじまったほうがマシだ。 兵隊を乗せたジープが走り去っていく。チョコレートやガムをばらまいて…… 黒い排気ガスを撒き散らして、ジープが走り去っていく。黒い排気ガスを撒き散らして、石ころをタイヤで弾き飛ばしながらジープが走り去っていく。 虚無、果てしない虚無、果てしない生への虚無。しがみつく。しがみつく。しがみついた。しがみついた。虚無にしがみついた。 涙が瞼をこじ開けて、止められずにただ、ただ…… 安堵に意識が霞んだ。安堵に意識が霞んだ。安堵に意識が霞んだ。安堵に意識が霞んだ。眠い。眠い。 軋む鈍痛の石黄色に……乖離する生への渇望、 149 :名無しさん@ピンキー:2008/04/12(土) 19:23:56 ID:UddDhst4 地獄の業火に東京は呑み込まれて、神風は吹くことも無く、人々の魂と胃袋は飢えに踏みにじられて……一九四五年 三尺竿の露店に小さなゴザの切れ端を敷いて木箱の上に煙草を乗せた。一本五円で一箱なら八十円。肛門が痛む。腹部が疼いた。 公務員の給料が二百円。肛門が痛む。公務員の一ヶ月分の給料が二百円。腹部が疼いた。ほつれてささくれ立ったゴザが尻を刺す。 ──子宮は男の突く所、それが女の良か所。男と女のまぐわいはするがよいよいさのよいよい。さあ、らっしゃいッ、らっしゃいッ。 メチルアルコールを欠けた茶碗に注ぎ、ドラム缶に残飯をぶち込んだ雑炊はコンドームを浮かばせて…… デンゴロ(握り飯)が食いたい。銀シャリのデンゴロが食いたい。闇市ではなんでも売れる。なんでも売られている。物も人も…… 新宿の闇市ではなんでも売れる。なんでも売られている。物も人も活気も猥雑さも……地べたに並ぶものは全て……傷痍軍人も…… 看板掲げた兵隊が命売ります。命売ります。戦争帰りの兵隊が命売ります。命売ります。千円で命売ります。 リンゴが一個五円だ。野良犬の放るモン焼きが十五円。鰯がキロ売りで十円。リンゴが一個五円だ。野良犬の放るモン焼きが十五円。鰯がキロ売りで十円。 米兵から貰ったキャンディーを舐めて……視界の片隅で陽炎が…… 米軍の物資を横流ししろ。日本は米をよこせ。米軍の物資を横流ししろ。日本は米をよこせ。米軍の物資を横流ししろ。日本は米をよこせ。 ──お前、誰に断ってここで商売してるんだ。ここは俺達、赤狼会の縄張りだぞ。え?誰に断ってバイなんかしてるんだこの餓鬼ッ 朝鮮人。腫れぼったい一重瞼の朝鮮人。エラばった頬を震わせて、唾を飛ばしながら腫れぼったい一重瞼の朝鮮人が喚く。 ──金を出せば許してやるッ。ショバ代はアガリの五割だッ、グズグズするな、その女みたいなツラ張り飛ばされたいかッッ! 朝鮮訛り。ダンゴ鼻が横に広がったひしゃげ鼻。猛暑のせいでぜえぜえと息を上がらせて、貧相な胸板を雄々しく突き出す。 シラミが髪の隙間から顔を覗かせる。シラミが朝鮮人の髪の隙間から顔を覗かせる。右腕はできものに…… せわしなく蠢く血色の良いシラミが、朝鮮人の頭髪の隙間かちらほらと顔を覗かせる。生酸っぱく饐えたような臭い。汗の臭い。垢の臭い。 腐った白身を連想させる澱んだ白眼で邑を睨み……開いた毛穴から汗を噴き出して……朝鮮人、朝鮮人。 鼻穴から鼻糞をこびりつかせた鼻毛が……朝鮮人、朝鮮人。朝鮮人。朝鮮人。朝鮮人。朝鮮人。朝鮮人。朝鮮人。 エナメル質の剥げた薄汚い歯を剥いて、こめかみに青筋を立てながら金切り声で邑を罵り……朝鮮人。朝鮮人。朝鮮人。朝鮮人。朝鮮人。朝鮮人。 ──銭が払えないなら血でも肉でも売りやがれッ、俺達は戦勝国民だぞッ、お前ら日本人は負け犬だッ! 東声会の末端組織。町井久之……日本人と同じ肌……同じ黄色い肌をした戦勝国民…… 虎の威を借るゴキブリの朝鮮人。虎の威を借る卑しいゴキブリの朝鮮人。野卑な笑みを張り付かせて、朝鮮人が木箱を蹴り飛ばした。 お決まりの恫喝、お定まりの陳腐な恫喝。静黙する。静黙する。醜態を得意げに披露する朝鮮人。静黙する。静黙する。 力ある者は力なき者を虐げ──邑は静黙する。息巻く朝鮮人──邑は静黙する。 朝鮮人を殴り殺してやりたい衝動に耐えて……宙に翳りが射し……視線を周囲に巡らせた…… ──俺は女も好きだが、おめえみてえに綺麗な餓鬼のケツを抱くのも好きなんだよォ。アガリを待ってやるから、なあァ? 三文カストリ雑誌。どこの三文カストリ雑誌を読んだ。その台詞、どこの三文カストリ雑誌を読んだんだ。 口臭が、カストリの臭いを漂わせる口臭が、歯糞と混ざり合ったカストリの臭いを漂わせる口臭が頬を撫でた。 尻の辺りに朝鮮人の卑猥に動く指先が、爪先に垢を溜めた罅割れてざらつく指先が太腿をこねる。虫唾が走った。 触るな。触るな。触るな。汚い手で触るな。薄汚い手で触るな。薄汚い手で触るなアァッ! 150 :名無しさん@ピンキー:2008/04/12(土) 19:44:37 ID:UddDhst4 焦げついた木の陰……ベニヤ板を地面に置いて……崩れかけたバーは死角となって誰の眼に止まることも…… 朝鮮人の膝上に跨って、隆起した亀頭を肛門の襞にこすりつける。奪われるのはもう嫌だ。言われるがままに尻を落とした。沈痛な面持ちで…… 奪われるのはもう嫌だ。奥歯が疼く。奪われるのはもう嫌だ。奥歯が疼く。失われたる幸福。 ニヤつきながら邑を見上げる朝鮮人──前屈みで肛門を使う。身体を上下させて──砕けた煉瓦を掌が探り当てた。探り当てた。 後頭部で誰かが叫ぶ──殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。後頭部で誰かが叫ぶ──殺せ。殺せ。殺せ。殺せッ。殺せぇぇぇッッ! 力を込めた。腕の血管が浮き上がった。馬乗りの姿勢で煉瓦を朝鮮人の顔面目掛けて振り下ろす。瞼を見開いた朝鮮人──欠けて尖った部分が右の頬肉を穿った。 白黄の脂肪が傷口から露出──闇雲に煉瓦を顔面に叩きつけた。頬皮を肉ごと抉る。頬骨が砕けた。肉を潰す。潰す。 狂乱、狂態、狂貌──殺せ。殺せ。殺せ。殺せ。交錯する。脳神経がする。交錯する。脳神経がする。 前歯が砕け散った。唇を突き破って、血溜まりに転がった。肉を打つ湿った音と骨を砕く乾いた音が混合して響く。 死の勃起、死の射精、オルガズムス。死の勃起、死の射精、オルガズムス。死の勃起、死の射精、オルガズムス。 糞小便を漏らして……赤に浮かんだ白は際立ってめまぐるしく鮮やかに……心の苦痛が…… 歪に裂けた傷口──生白い脂肪組織が鮮血と混ざり合う。こめかみに渾身の一撃を見舞った。頭蓋骨が陥没──衝撃に左の視神経ごと眼球が飛び出す。 ぶん殴った。ぶん殴った。ぶん殴った。ぶん殴った。ぶん殴った。ぶん殴った。ぶん殴ったッ。ぶん殴ったッ。ぶん殴ったッ。 眼球が垂れ流れて耳朶に張り付いた。鼻骨が飛び出す。空洞になった眼窩に煉瓦を刺しこんでこね回した。熱く火照る血潮…… ぶん殴った。ぶん殴った。ぶん殴った。ぶん殴った。ぶん殴った。ぶん殴った。ぶん殴ったッ。ぶん殴ったッ。ぶん殴ったッ。 体重を乗せて踵で煉瓦を踏みつける。頭蓋骨が割れて血と脳漿が鼻腔から飛び散った。眉毛をつけた額の皮が揺れていた。 顔にへばりついた鉄臭い液体をシャツで拭って……太陽は意味もなく燦々と酷薄そうに輝き…… 地獄の業火に東京は呑み込まれて、神風は吹くことも無く、人々の魂と胃袋は飢えに踏みにじられて、神に見放された亡者の国が生まれ落ち……一九四五年

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