65 : 1/4 : 2010/08/04(水) 19:41:42 ID: dzYJwSS2
静謐な夜の住宅街。
近代建築の粋を集めて建てられた、モダンな装いと小振りな背の、
そう安くもないマンションの前に、俺は佇んでいる。
自動ドアを抜けてすぐ左手のエレベーターを利用し、一瞬指先が迷ったあと、三階止まりを指示した。
三階の廊下は滑り止め処理済みのセラミックタイルが敷き詰められ、その正方形が6つを数えた後に、
俺の住まいである301号室が、控えめな姿で現れた。
鍵を錠に挿し込み、軽い手応えが来るまでカギを半回転をする。
それからドアノブを捻ると、どうしたことか、カギは逆に閉まってしまったようだ。
俺は深い溜息をついて、再度カギを挿し戻した。同じような処理をして、無駄骨の収支はやっとトントンになる。
合鍵を作られたのは、これで4回目だ。
ゆっくりと扉を開けようとすると、ドアの隙間からはオレンジ色の玄関照明が漏れる。
それから一気にドアノブを引いて、靴脱ぎ場に体を踊り込ませた。
「おかえりなさーい」
不本意ながら聞き慣れた声と、不本意にも見慣れた姿。
控えめに輝く光沢が天使のわっかを形作る、質の良い黒髪のおかっぱ頭と、意地悪そうな二重の吊り目。
中世的な容貌の丸顔に浮かんだ表情は小悪魔のように悪戯心満点で、含み笑いを隠そうともしていない。
段差があってさえ俺の鳩尾辺りしか高さのない、小学校高学年にしては並みな発育の背と、細い四肢。
きらきらと微細な光を反射する産毛のみが映え揃う、雌鹿のような脚はどこまでも白く澄んでいて、
上目遣いに潤み切った瞳を向けられると、どうしたって視線を逸らさざるをえない。
その子供は、何故かどこかで見覚えのある、ぶかぶかでよれよれのワイシャツ一枚っきりを羽織っているせいで、
歳若い少年特有の蟲惑的なまでの瑞々しさを、余すところなく主張していた。
「まひるさん、おかえりっ」
「……それ後で洗濯するから、今のうちに着替えておいで」
出動が無くたって訓練でへとへとな肉体に追い討ちを仕掛けるように、
奇妙な縁で巡り合った少年は、今日もまた憩いの我が家に堂々と忍び込んでいた。
あまつさえ、俺のワイシャツ一枚を勝手に拝借して、である。
俺の言葉を綺麗さっぱりスルーした少年は、ワイシャツの裾をちらりと捲り上げて、清楚な太腿とお尻を微かに晒す。
脇目も振らず少年の横を通り過ぎ、廊下を歩いて奥へと向かう。
「どう?むらむらした?」
「シャワー浴びたいなぁ」
「お風呂汲んであるよっ 一緒に入ろっ」
スルー返しをしたつもりの言質に子犬のように食らいついてきたと思うと、そのまま腰の辺りに抱きつかれた。
あまりに軽い体は引き摺ってでも歩ける。訓練用の古タイヤの方がよっぽど重いくらいだ。
シャワー室の前で人型の重石を振り解いて、電光石火の勢いで着衣を脱ぐと、風呂場の中へと緊急避難した。
あの子の言葉は嘘ではなかったようで、確かにお湯が張ってある。
油断なく水面に手を差し込んで、水中の温度を慎重に探っても、温度差トラップのような悪戯は仕掛けられていない。
ほっとしてシャワーの栓を捻り、軽く汗を流したあと、ボディソープを泡立てて、一日の垢をこそげ落とした。
さっぱりした体をゆっくりと湯に落とし込んで、首元まで漬かる。疲れが肉体から染み出して、湯に溶かされて消え去るような感覚。
始めはぼんやり朦朧としていた思考が徐々に収斂して、明日の予定や計画に至ったあと、職場の思い出に考えが及び、
それから波及して、あの子の処遇という、暗澹たる難問に行き着いてしまった。
66 : まひるさんとヨゾラくん 2/4 : 2010/08/04(水) 19:43:46 ID: dzYJwSS2
俺のような肉体労働者にはまるで不釣合いな美少年の出自は、実を言うと、かなりやんごとなき身分のご令息である。
ヨゾラという奇妙奇天烈な名前と、気品ある風貌、血筋と、約束された未来を持ちながら、
ある一日を境に奇矯を嗜むようになった、彼の一族の軽い頭痛のタネ。軽いというのは、あの子は三男だからだ。
長男次男は既に独立し、非常に優秀な手腕を奮っている。
それが、ヨゾラという少年の概要である。
あの子との馴れ初めは、なんでもないような事だった。
いや、なんでもないような事と言うと語弊があるが、少なくとも俺のような職業を持つ人間にとっては、日常の一コマに過ぎない。
二年前というと、僕が消防学校を出てまだ一年未満の新米だった頃だ。
普段通りの出動命令と、普段通りに業火の燃え盛る現場。逃げ遅れた生存者が居ないか、普段通りに僕らは突入して、
まだ生きている子供が居たから、訓練通りに救出した。子供はガスを吸い込んだけど、軽い入院で済んで万々歳。
出火の原因はあっけのない落雷火災と判明し、万事が丸く収まった訳だ。少なくとも、当時の俺にとっては。
……小隊代表で少年の退院祝いに行った時から、俺の運命は狂い出したと言って過言ではない。
煙を吸い込んだせいで、発育途上のお脳に致命的な影響が出たのだろうか。
思えば確かに、自分名義のカードすら保持する、倒錯少年の熱烈な求愛行動が続いて、もう二年にもなるのだった。
風呂から上がり、湯気の立つ体で脱衣所に踏み込むと、
俺のボクサーパンツを鼻面に押し付けながら、恍惚とした顔で深呼吸する少年の姿が目に入る。
軽やかに無視して、さっさと寝室に向かった。夕食は、外で食べてきている。
67 : まひるさんとヨゾラくん 3/4 : 2010/08/04(水) 19:44:26 ID: dzYJwSS2
家具量販店で買ってきた、何てことはないベッドに体を投げ出し、
薄い生地のシーツに体を包むと、そのまま目を瞑った。明日も早いんだ、俺は。
そうすればもう、五分も経たずに脇腹の辺りに、もぞもぞとくすぐったい感触。
耳元に息を吹きかけられたところで、そんな程度ではもう動じる事はないのだ。
「ねぇ……まひるさん。どうして僕のこと、抱いてくれないの?」
「同性愛に偏見はないけど、大人は子供に手を出さないのが、社会のルールだからだよ。」
「……僕、知ってるんだよ。まひるさん、僕と一緒に寝てるとき、おちんぽガチガチにしてるでしょ。
分かるんだよ、まひるさんのカウパー液の匂い……。」
「………………………。」
「僕がいっぱいオネダリした次の日、まひるさんが絶対フーゾク行くのだって知ってるよ。」
「それは……その……。」
「まひるさん、お願いだよぅ。僕がまだキレイでカワイイうちに、僕のオンナノコの初めて、奪って……。
僕、何でもするよ。どんな酷いコトしたっていいよ。
まひるさんが望めば、ちゃんと手術して、本物の女の子にだってなるよ。
こんなに大好きなのに、なんでいつも無視するの……?僕、寂しくて死んじゃいそうだよ。」
ヨゾラの求愛が下るにつれて、声色にだんだんと震えが混じってゆく。
この子の得意な嘘泣きじゃない、聞いた事もないような声のくぐもり。
そっと目蓋を明けると、俺のすぐ傍で枕を共有する少年は、黒目がちの大きな瞳を揺らめかせて、
さめざめと泣いていた。溢れる涙を手指で拭うこともない。間違いのない真実の涙。
俺ももう、これ以上逃げることはできないことを悟った。
「……そりゃあ、ヨゾラはいい匂いがするし、肌だって綺麗で柔らかいし、顔だってカワイイし
それで俺のことが大好きだってんなら、チンポは反応しちゃうだろ。」
「じゃ、じゃあなんで……」
あからさまな溜息を吐いたあと、いっぱいの涙を湛えた瞳と見詰め合う。言っちゃおうか、言っちゃおう。
「ヨゾラって、実は凄い飽きっぽいでしょ」
「なっ、なにそれっ、僕がまひるさんに飽きるわけないでしょっ」
顔を真っ赤にして怒るヨゾラ、俺の胸板をグーでぽかぽかと叩くけれど、それぐらいじゃ少しの痛みもないのだ。
「でも、毎晩ひっきりなしにヤリまくってたら、ヨゾラは飽きるんじゃない。心当たりあるでしょ。そういう性格だもん。」
「ううう………」
どうやら自覚はあるらしく、反論はできないらしい。根は素直でいい子だから、そんな性格のこの子が、僕は大好きだった。
「ヨゾラに捨てられちゃったら、正直に言って、俺はかなり堪えると思うよ。
だから、今ぐらいの関係のほうが、俺は好きだなぁ。ヨゾラがいつでも甘えてくれて、家に居てくれる今のほうが。」
かなりクサい事を言ったつもりだから、捻くれ者のこの子に通じるかどうか、かなりの不安はあった。
険しい顔をした俺の前に、息苦しい沈黙が数秒も続いた後、急にヨゾラは生真面目な顔になって、
「すごい。オトナのレンアイだ。」
ふむふむと大層感心しきり。予想してた反応とはかなりの隔たりがあるけれど、
感動とか失笑をどっかに置いといて、すっかり俺を信用してくたらしい。
「でもね、そのまま放置じゃ、ヨゾラがあんまり可哀想だからさ、」
68 : まひるさんとヨゾラくん 4/4 : 2010/08/04(水) 19:45:23 ID: dzYJwSS2
「今から五年後、ヨゾラが十五才になったら、俺が責任を持って、君の純潔を奪おうと思う。」
いつもの調子で淡々と告げた台詞のあと、ヨゾラは始めぽかんと口を半開きにして、
そして、わたわたと身を捩って、目を真ん丸くして、変な声を出した。
「ちょ、なに、なにいきなりっ!そういう事はちゃんとっ、急にじゃなくてさっ、あるでしょっ!時と場合がっ!」
「だから、これから五年間、身体は大切にしておいて。ぜったい、他の男には行かないでね。」
「……う……あ……はい……」
いつでも押せ押せの子だったから、逆に押し捲られるのには慣れていない様子だった。予想通り過ぎて鼻息も出ない。
「……も、もう、寝る……。」
「おやすみ。明日の朝は、フレンチトーストがいいなぁ」
「うるさいっ!寝てよっ、寝てっ!」
顔を耳まで真っ赤にして、シーツの中に潜り込んでしまうヨゾラが可愛くて、そのまま抱き締めて、おでこにキスをする。
俺はその後さっさと寝入ってしまったけれど、朝起きた時のヨゾラは目元におっきな隈ができていた。
それからヨゾラは、インランな求愛をすることはすっかり無くなった。
俺との半同棲生活は続いているけれど、学校でも家庭でもごく普通の男の子として振舞っている。
恥じらいと清楚さの芽生えた美少年は、むしろ以前より魅力的でさえあった。
これでとりあえず問題を五年は先送りできたけど、俺の遺伝子を後世に残せない事がほぼ確実となった事だけは、ちょっと残念かもしれない。
静謐な夜の住宅街。
近代建築の粋を集めて建てられた、モダンな装いと小振りな背の、
そう安くもないマンションの前に、俺は佇んでいる。
自動ドアを抜けてすぐ左手のエレベーターを利用し、一瞬指先が迷ったあと、三階止まりを指示した。
三階の廊下は滑り止め処理済みのセラミックタイルが敷き詰められ、その正方形が6つを数えた後に、
俺の住まいである301号室が、控えめな姿で現れた。
鍵を錠に挿し込み、軽い手応えが来るまでカギを半回転をする。
それからドアノブを捻ると、どうしたことか、カギは逆に閉まってしまったようだ。
俺は深い溜息をついて、再度カギを挿し戻した。同じような処理をして、無駄骨の収支はやっとトントンになる。
合鍵を作られたのは、これで4回目だ。
ゆっくりと扉を開けようとすると、ドアの隙間からはオレンジ色の玄関照明が漏れる。
それから一気にドアノブを引いて、靴脱ぎ場に体を踊り込ませた。
「おかえりなさーい」
不本意ながら聞き慣れた声と、不本意にも見慣れた姿。
控えめに輝く光沢が天使のわっかを形作る、質の良い黒髪のおかっぱ頭と、意地悪そうな二重の吊り目。
中世的な容貌の丸顔に浮かんだ表情は小悪魔のように悪戯心満点で、含み笑いを隠そうともしていない。
段差があってさえ俺の鳩尾辺りしか高さのない、小学校高学年にしては並みな発育の背と、細い四肢。
きらきらと微細な光を反射する産毛のみが映え揃う、雌鹿のような脚はどこまでも白く澄んでいて、
上目遣いに潤み切った瞳を向けられると、どうしたって視線を逸らさざるをえない。
その子供は、何故かどこかで見覚えのある、ぶかぶかでよれよれのワイシャツ一枚っきりを羽織っているせいで、
歳若い少年特有の蟲惑的なまでの瑞々しさを、余すところなく主張していた。
「まひるさん、おかえりっ」
「……それ後で洗濯するから、今のうちに着替えておいで」
出動が無くたって訓練でへとへとな肉体に追い討ちを仕掛けるように、
奇妙な縁で巡り合った少年は、今日もまた憩いの我が家に堂々と忍び込んでいた。
あまつさえ、俺のワイシャツ一枚を勝手に拝借して、である。
俺の言葉を綺麗さっぱりスルーした少年は、ワイシャツの裾をちらりと捲り上げて、清楚な太腿とお尻を微かに晒す。
脇目も振らず少年の横を通り過ぎ、廊下を歩いて奥へと向かう。
「どう?むらむらした?」
「シャワー浴びたいなぁ」
「お風呂汲んであるよっ 一緒に入ろっ」
スルー返しをしたつもりの言質に子犬のように食らいついてきたと思うと、そのまま腰の辺りに抱きつかれた。
あまりに軽い体は引き摺ってでも歩ける。訓練用の古タイヤの方がよっぽど重いくらいだ。
シャワー室の前で人型の重石を振り解いて、電光石火の勢いで着衣を脱ぐと、風呂場の中へと緊急避難した。
あの子の言葉は嘘ではなかったようで、確かにお湯が張ってある。
油断なく水面に手を差し込んで、水中の温度を慎重に探っても、温度差トラップのような悪戯は仕掛けられていない。
ほっとしてシャワーの栓を捻り、軽く汗を流したあと、ボディソープを泡立てて、一日の垢をこそげ落とした。
さっぱりした体をゆっくりと湯に落とし込んで、首元まで漬かる。疲れが肉体から染み出して、湯に溶かされて消え去るような感覚。
始めはぼんやり朦朧としていた思考が徐々に収斂して、明日の予定や計画に至ったあと、職場の思い出に考えが及び、
それから波及して、あの子の処遇という、暗澹たる難問に行き着いてしまった。
66 : まひるさんとヨゾラくん 2/4 : 2010/08/04(水) 19:43:46 ID: dzYJwSS2
俺のような肉体労働者にはまるで不釣合いな美少年の出自は、実を言うと、かなりやんごとなき身分のご令息である。
ヨゾラという奇妙奇天烈な名前と、気品ある風貌、血筋と、約束された未来を持ちながら、
ある一日を境に奇矯を嗜むようになった、彼の一族の軽い頭痛のタネ。軽いというのは、あの子は三男だからだ。
長男次男は既に独立し、非常に優秀な手腕を奮っている。
それが、ヨゾラという少年の概要である。
あの子との馴れ初めは、なんでもないような事だった。
いや、なんでもないような事と言うと語弊があるが、少なくとも俺のような職業を持つ人間にとっては、日常の一コマに過ぎない。
二年前というと、僕が消防学校を出てまだ一年未満の新米だった頃だ。
普段通りの出動命令と、普段通りに業火の燃え盛る現場。逃げ遅れた生存者が居ないか、普段通りに僕らは突入して、
まだ生きている子供が居たから、訓練通りに救出した。子供はガスを吸い込んだけど、軽い入院で済んで万々歳。
出火の原因はあっけのない落雷火災と判明し、万事が丸く収まった訳だ。少なくとも、当時の俺にとっては。
……小隊代表で少年の退院祝いに行った時から、俺の運命は狂い出したと言って過言ではない。
煙を吸い込んだせいで、発育途上のお脳に致命的な影響が出たのだろうか。
思えば確かに、自分名義のカードすら保持する、倒錯少年の熱烈な求愛行動が続いて、もう二年にもなるのだった。
風呂から上がり、湯気の立つ体で脱衣所に踏み込むと、
俺のボクサーパンツを鼻面に押し付けながら、恍惚とした顔で深呼吸する少年の姿が目に入る。
軽やかに無視して、さっさと寝室に向かった。夕食は、外で食べてきている。
67 : まひるさんとヨゾラくん 3/4 : 2010/08/04(水) 19:44:26 ID: dzYJwSS2
家具量販店で買ってきた、何てことはないベッドに体を投げ出し、
薄い生地のシーツに体を包むと、そのまま目を瞑った。明日も早いんだ、俺は。
そうすればもう、五分も経たずに脇腹の辺りに、もぞもぞとくすぐったい感触。
耳元に息を吹きかけられたところで、そんな程度ではもう動じる事はないのだ。
「ねぇ……まひるさん。どうして僕のこと、抱いてくれないの?」
「同性愛に偏見はないけど、大人は子供に手を出さないのが、社会のルールだからだよ。」
「……僕、知ってるんだよ。まひるさん、僕と一緒に寝てるとき、おちんぽガチガチにしてるでしょ。
分かるんだよ、まひるさんのカウパー液の匂い……。」
「………………………。」
「僕がいっぱいオネダリした次の日、まひるさんが絶対フーゾク行くのだって知ってるよ。」
「それは……その……。」
「まひるさん、お願いだよぅ。僕がまだキレイでカワイイうちに、僕のオンナノコの初めて、奪って……。
僕、何でもするよ。どんな酷いコトしたっていいよ。
まひるさんが望めば、ちゃんと手術して、本物の女の子にだってなるよ。
こんなに大好きなのに、なんでいつも無視するの……?僕、寂しくて死んじゃいそうだよ。」
ヨゾラの求愛が下るにつれて、声色にだんだんと震えが混じってゆく。
この子の得意な嘘泣きじゃない、聞いた事もないような声のくぐもり。
そっと目蓋を明けると、俺のすぐ傍で枕を共有する少年は、黒目がちの大きな瞳を揺らめかせて、
さめざめと泣いていた。溢れる涙を手指で拭うこともない。間違いのない真実の涙。
俺ももう、これ以上逃げることはできないことを悟った。
「……そりゃあ、ヨゾラはいい匂いがするし、肌だって綺麗で柔らかいし、顔だってカワイイし
それで俺のことが大好きだってんなら、チンポは反応しちゃうだろ。」
「じゃ、じゃあなんで……」
あからさまな溜息を吐いたあと、いっぱいの涙を湛えた瞳と見詰め合う。言っちゃおうか、言っちゃおう。
「ヨゾラって、実は凄い飽きっぽいでしょ」
「なっ、なにそれっ、僕がまひるさんに飽きるわけないでしょっ」
顔を真っ赤にして怒るヨゾラ、俺の胸板をグーでぽかぽかと叩くけれど、それぐらいじゃ少しの痛みもないのだ。
「でも、毎晩ひっきりなしにヤリまくってたら、ヨゾラは飽きるんじゃない。心当たりあるでしょ。そういう性格だもん。」
「ううう………」
どうやら自覚はあるらしく、反論はできないらしい。根は素直でいい子だから、そんな性格のこの子が、僕は大好きだった。
「ヨゾラに捨てられちゃったら、正直に言って、俺はかなり堪えると思うよ。
だから、今ぐらいの関係のほうが、俺は好きだなぁ。ヨゾラがいつでも甘えてくれて、家に居てくれる今のほうが。」
かなりクサい事を言ったつもりだから、捻くれ者のこの子に通じるかどうか、かなりの不安はあった。
険しい顔をした俺の前に、息苦しい沈黙が数秒も続いた後、急にヨゾラは生真面目な顔になって、
「すごい。オトナのレンアイだ。」
ふむふむと大層感心しきり。予想してた反応とはかなりの隔たりがあるけれど、
感動とか失笑をどっかに置いといて、すっかり俺を信用してくたらしい。
「でもね、そのまま放置じゃ、ヨゾラがあんまり可哀想だからさ、」
68 : まひるさんとヨゾラくん 4/4 : 2010/08/04(水) 19:45:23 ID: dzYJwSS2
「今から五年後、ヨゾラが十五才になったら、俺が責任を持って、君の純潔を奪おうと思う。」
いつもの調子で淡々と告げた台詞のあと、ヨゾラは始めぽかんと口を半開きにして、
そして、わたわたと身を捩って、目を真ん丸くして、変な声を出した。
「ちょ、なに、なにいきなりっ!そういう事はちゃんとっ、急にじゃなくてさっ、あるでしょっ!時と場合がっ!」
「だから、これから五年間、身体は大切にしておいて。ぜったい、他の男には行かないでね。」
「……う……あ……はい……」
いつでも押せ押せの子だったから、逆に押し捲られるのには慣れていない様子だった。予想通り過ぎて鼻息も出ない。
「……も、もう、寝る……。」
「おやすみ。明日の朝は、フレンチトーストがいいなぁ」
「うるさいっ!寝てよっ、寝てっ!」
顔を耳まで真っ赤にして、シーツの中に潜り込んでしまうヨゾラが可愛くて、そのまま抱き締めて、おでこにキスをする。
俺はその後さっさと寝入ってしまったけれど、朝起きた時のヨゾラは目元におっきな隈ができていた。
それからヨゾラは、インランな求愛をすることはすっかり無くなった。
俺との半同棲生活は続いているけれど、学校でも家庭でもごく普通の男の子として振舞っている。
恥じらいと清楚さの芽生えた美少年は、むしろ以前より魅力的でさえあった。
これでとりあえず問題を五年は先送りできたけど、俺の遺伝子を後世に残せない事がほぼ確実となった事だけは、ちょっと残念かもしれない。