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吟遊詩人古泉2」(2008/10/07 (火) 18:43:20) の最新版変更点

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俺と古泉は一昼夜をかけて広大な草原を越え 夕暮れの名も知らぬ小さな村へと辿り着いた。 さて、まずは近辺の情報収集から始めるのがセオリーだよな。 「それも良いですが、先に宿を決めてはどうでしょう?」 聞き込みの為に歩き出そうとした俺の背に、古泉から声が掛かる。 街から村まで、それなりに時間は掛かったが 休憩を挟みながらの平坦な道のりだったのだから そこまで疲労も溜まっていないと思っていたんだが。 「何だ。もう疲れたのか?」 「いえ、そういう訳では無いのですが。見た所小さな村のようですし。 既に日も暮れかけています。部屋が埋まってしまっては、と」 言われてみれば一理ある。 この村に俺達以外、どの程度旅の人間が滞在しているのかも謎ではあるが。 「じゃあ先に宿屋へ行くか」 「有難う御座います」 そう言って古泉は穏やかな笑みを浮かべた。 しかしまぁいちいち礼を言われる事でも無いと思う。 組んでから気付いたが、古泉は必要以上に礼儀正しい。腰が低いとも言える。 パーティーを組む相手にまでずっとその調子じゃ、気疲れすると思うんだがな。 「すみません。個室はあとお一人様用しか無いんですよ」 村の外観に馴染む、こじんまりとした宿屋に着いた俺達を迎えたのは 宿屋のオヤジのそんな台詞だった。 まさか古泉の予想通りになるとは思わなかったぜ。 「じゃあ残るは大部屋か?」 ベッドがあるのならそれでも構わないだろう。少なくとも野宿よりは遥かにマシだ。 「それが……」 おいおいマジかよ。なんでそんなに人気宿なんだ。ここ以外に宿泊施設が無いからか。 「別に一人用の個室でも良いんじゃないですか?」 古泉が横から口を挟んできた。珍しい。 しかしだな。俺は男同士で一つのベッドは嬉しく無いぞ。むさ苦しい。 ……古泉をむさいとは言えない気もするが。 「僕は床で寝ますから大丈夫ですよ」 野宿よりはマシなのは解る。だが体力の無い後衛職を床で寝させる訳にもいかん。 そして、ここでぐだぐだ言い合うのも見苦しい。 「それはあとで決めるぞ古泉。じゃあ店主、一人部屋で良いから。 あと出来れば布団一式も貸してくれ」 「はい。では後ほどお届けします。本当に申し訳御座いません」 オヤジから部屋の鍵を受け取って、俺達は狭い廊下を進んだ。 改めて小さな宿屋だと思う。まぁ村の規模に合ってはいるが。 着いた部屋は本当に狭かった。俺の背後から部屋を覗き見た古泉は おやおやとか悠長に言ってやがる。これ床に布団敷けるのか? 「ベッドだけは普通ですね」 そうだな。寧ろ狭い部屋に無理やり押し込んだ感すらある程だ。 この部屋だけ最後まで空いていた理由が解ったような気がした。 「床が敷くのが無理だった場合は、ベッドにお邪魔しても良いですか?」 古泉はもう自分は床で寝るものと思っているようだ。 俺が寝てやると言い出そうにも、この狭さではきちんと寝具を敷ける自信が無い。 寝袋だと思えば有りだが。しかし宿屋で寝袋もどうなんだ。 「……そうだな」 どうやら二人寝になるのは避けられないようだ。 大して多くも無い荷物を置いて鍵を掛け、俺達は宿を一旦後にする。 「まぁもう夜だし、あまり外をうろつく村人も居ないだろうが。 手分けして聞き込みした後に、酒場に集合な」 「了解しました」 ひらりとマントを翻して古泉は歩いていった。 白く長いその姿は夕闇の中でもやたらと目立つ。 謙虚な態度の割りに服装だけは主張が激しい奴だ。 職業的なものだろうか。別に何でも良いが。 既に時間も時間だ。大した情報は得られなさそうだと思いながら 俺も村の中を一人散策し始めた。 結局、予想通り大した手応えも無いまま、俺は酒場へと向かった。 閑静な村の中でも、ここだけは夜遅くまで賑やかだ。 扉を開ければ、人の喧騒と共に軽やかな明るい曲が耳に入った。 そこまで広くも無い酒場を見渡し、俺は納得する。 吟遊詩人って奴はやはり人に歌を聴かせてなんぼなんだろう。 古泉は店内の奥まった場所でハープを奏でていた。 入り口に立つ俺と目が合い、その顔に迷いを浮かべたが 演奏を途中で止めさせる訳にも行かない。 俺は軽く手をあげて、そのまま続けてろと伝えておいた。 空いているテーブルの一つに腰掛ける。 注文をとりにきた若い娘と軽く談笑をして 食事が来るまで暇な俺は、何となく古泉を眺めていた。 やがて演奏を終えた古泉が立ち上がる。 あちこちから声を掛けられ、お決まりの笑顔で受け答えつつ 俺の方へと向かってきた。一風変わった特技があるってのは良いもんだ。 情報収集には俺より古泉の方が向いているかも知れない。 「すみません。お待たせしてしまって」 「食事が来るまで待つのは同じだから気にすんな。あ、これ結構うまいぞ」 既に飲み食いを始めていた俺の向かいに腰掛けて古泉は笑った。 「有難う御座います」 何度聞いたか解らない礼を言いながら、古泉は焼かれた地鶏に手を伸ばす。 「本当だ、美味しいですね」 変わらぬ笑顔を浮かべつつ上品に食べる古泉と話しながら 俺は互いの情報を交換していった。 宿屋に戻り、俺達は風呂場を借りた。 烏の行水な俺は先に部屋に戻り、剣の手入れをして古泉を待つが意外と遅い。 長風呂なのは構わないが、あまりに遅いと明日に支障が出てしまう。 まさか風呂場で歌っている事も無いだろう。 先に寝ても良いんだが、まだパーティーを組んだばかりではあるし 多少は気を使ってやるべきだと思った俺は、古泉を探しに部屋を出た。 「……何してんだ古泉」 大して広くも無い宿屋内。その狭い廊下の片隅で、湯上りの古泉はあっさりと見つかった。 一人ではなく、隣になかなかナイスバディな旅のお姉様が居たのがアレだが。 「あ……」 俺を見とめた古泉がその顔に安堵の色を浮かべた。 「あら、お迎え?」 お姉様が俺を上から下までじろじろと眺める。 何となくどういう状況だったのかが察せてしまって、俺としては少々気まずさを覚える。 「ふぅん、じゃあまたね」 お姉様はあっさりと古泉から身を離し。しかし最後に古泉の腰を撫でて行った。 その手つきは妙にいやらしい。正直羨ましい。 「あー……とりあえず、戻るぞ」 「……はい」 しずしずと古泉は後を付いてきた。 派手なマントを脱いだ古泉は思いの外細身だった。その細腰にお姉様が触れていた訳で。 いかん、どっちを気にしてるんだが解らなくなりそうだ。 「絡まれてたのか?」 部屋に着きベッドに腰掛けた俺は、傍に立ったままの古泉を見上げて問う。 古泉は見た目が良いと再認識した。見た目が良いから吟遊詩人を選んだのか 吟遊詩人だからこそ、このツラなのかは解らないが。 大方絡まれるのも慣れているだろうと思ったのだが。 「……ええ、お恥ずかしいですが。どうやら旅の盗賊の方のようでした」 相手の職まで聞き出せているのは褒めても良いかも知れない。 「部屋に連れ込まれそうにでもなったか?」 「なっ……」 茶化す俺の物言いに、古泉の頬が紅潮した。当たりか。しかし意外と初心な反応は面白い。 「お姉様キラーなのかお前」 「違いますよ、止めてください」 憮然とした古泉の態度に、つい笑いが漏れる。 まぁ古泉の外見なら相手の年齢を問わずに異性受けはしそうだが。 「それも才能だからな。上手く使えば旅が楽になるかも知れん」 「ちょ……怖いこと言わないで下さいよ」 「冗談だ。そろそろ寝るぞ?」 未だ乾ききっていない古泉の頭目掛けてタオルを投げる。 「あ、そういえば隣良いですか?」 頼んだ手前布団は届いたが、店主すら苦笑していた程だ。敷くのも馬鹿馬鹿しい。 これが男女間だったら問題あるだろうが、男同士なのだから別に良いだろう。 「ああ。床も狭いしな。部屋からはみ出したお前が、盗賊のお姉様に攫われても困るし」 「だからそれはもう止めてくださいって」 タオルを受け取った古泉が苦笑しながら俺の隣へ腰を下ろした。 「よし、寝るか。やっぱり人間ちゃんとベッドで寝るのが一番だ」 古泉の分を空けるべく、端に寄りながら俺は寝転んだ。体を伸ばすのはやはり気持ち良い。 「昨日は野宿でしたしね」 隣でもそもそと古泉も横になった。部屋のわりに常識的なサイズのベッドで本当に良かった。 「まぁ旅を続けりゃそういう機会もどんどん増えるだろうけどな」 「そうですね」 「ま、今後とも頑張ろうな。おやすみ」 「はい。おやすみなさい」 そうして目を閉じる。至近距離に人が居るにも関わらず 俺達は疲れていたのか眠りに就くのはそう時間を要さなかった。

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