眼を開ければ、古泉がいつもの笑みを浮かべ俺の脇に立っていた。「気が付きましたか」と穏やかな声で尋ねられ、俺はあぁと適当な言葉を返した。ずきずきと頭が痛む。おかしな体制で眠っていたようだ。俺は今、簡素なパイプベッドの上、上半身を壁にもたれベッドに足を放り出すという格好だが痛みは果たしてこのせいだろうか?痛みを訴えるその場所へ手を伸ばそうとして俺は両手が動かない事に気が付いた。後ろ手に、がっちりと手枷。驚いて身体を動かせばじゃらじゃらと鎖の音が鳴った。鎖はベッドのパイプに繋がれていた。古泉を、見る。「余り激しい動きは、頭の傷に響きますよ」宥めるように古泉は俺の肩を優しく押し、その場に再び座らせた。・・・傷?この痛みは傷のせいなのか?「思いのほか、力強く打ち付けてしまったようです」古泉が俺の頭を抱きかかえ、髪の毛に口付けを落としていく。血が固まっていますね、と古泉は傷口に舌を這わせたものか俺の頭の傷口に柔らかい感触が伝わった。・・・。いや、ちょっと待て、『打ち付けてしまった』?『血が固まっている』?それはつまり、お前が俺を血が出るほどに殴った、ということか?頭を振り、強い口調で問いただせば古泉は、心底困った、という表情を俺に向け、しゃあしゃあと言った。「仕方がなかったんです」はぁ?!お前は『仕方なく』で人を殴るのか?!血を流させるほど、気を失わせるほど強い力で?!「・・・だって」と、古泉。ざわ、と俺の背が粟立った。「あなたが、涼宮さんを追いかけようとしたから。僕よりも、彼女を選んだから」古泉の表情からいつもの笑みが全く失せ、代わりにむき出しの憎悪が俺を刺す。いや、俺を通り越してこいつの悪意は全て、ハルヒに向っているのか。「神だからといって、全てを手に入れられると思ったら大間違いです」「ねぇ・・・」と古泉が甘い声を出す。先程までの形相は一変し、声色と同様、色めいた視線を俺に向けている。だが俺はそんな古泉の変化が恐ろしく、声を出せないでいた。古泉は俺の頬に手を伸ばし、肩膝をベッドへと乗せ身を寄せてくる。ぎしりとスプリングが軋む。俺は逃れようと唯一自由になる足を動かしたが結局は繋がれた犬。その上に跨られればもう身動きが取れなかった。古泉は頬を上気させ、吐息混じりに告げる。「僕、上手いですよ?きっと満足していただけます」恐怖に縮こまった俺の股間を、古泉はズボンの布越し、撫で、擦り、指先で軽くひっかき、それでも反応しないとわかると悲しそうに眉根を寄せ、言った。「あまり性急なのは勿体無いのですが・・・」古泉は俺のズボンのファスナーを下ろし、下着も無理やり剥いて、俺のくたりとした逸物を取り出すと俺の眼を見ながら、ぱくり、口に含んだ。「やめろ古泉っ!!!」否定を表すように、古泉は首を振った。それでも執拗に、やつは俺のを口に含んだままだ。いやだ、と思う。どうしてこんな目に遭うんだ、と思う。しかし悔しいかな、古泉は自ら称するとおり随分と上手く、喉の奥まで俺を咥え込み、舌先でちろちろと俺のイイ場所を的確に探り当てて行く。俺の股間は俺の意思とは関係なく奴の口内で質量を増し、こうもじゅくじゅくといやらしい音を立てしゃぶり続けられてはあと少しの刺激で達してしまいそうだった。だが、その時古泉の動きが止まる。顔を上げ、据わった瞳で顎先を伝う唾液を拭うと俺の屹立した股間と俺の顔を代わる代わる見やり、にぃと唇を引き上げた。「おっきくなってくれましたね」愛しそうに俺の頬、顎先、首から上半身へと指先を移動させ、ついには奴の唾液に濡れた股間へと終着させた。軽くそこへと指を添え、古泉は器用にもう一方の手で己のベルトを外しズボンも下着も片足だけ脱ぎ捨てると俺に、口付けをして、そして卑猥に、笑った。「僕、こっちもいいんですって。名器、とでも言うんですかね?自分では分かりませんが、喜んでいただけるものと・・・んっ!!!」言葉の途中で、古泉は自ら腰を埋めた。ぬるりと素直に入ったが、入り込んでしまうとそこはきゅうきゅうと俺を締め付け、全てを取り込もうとするよう貪欲に蠢いていた。思わず俺も、小さく呻く。だが、それよりも古泉が気持ちよさそうに大きく喘いでいる。「あぁっ・・!全部・・・全部僕のものですッ!」腰を振り、古泉は淫らに動く。「すごく・・・ッ、思って・・あっ・・・たんですっ!あなたと・・・こう・・・やって・・・っん!!!」繋がりたかった、と古泉は言った。俺はそれに対しどう答えるべきか、何が正しい答えなのか、襲い来る快楽の波に最早冷静な判断が出来ないでいた。古泉は後ろを穿つ俺のものだけでは足りないと言うのか、自ら立ち上がった自身を擦り上げながら俺を好きだと嬌声を上げる。「いっぱい、出してくださ・・・ッ。・・・僕の、中で・・・」一際きつく、古泉の内部が収縮した。「おまっ!やめ・・・っ!!!」「あっ・・・すごい・・・びくびくしてま・・す」やめてくれ、なんて無駄な言葉を口の中で呟きながら、俺は結局、古泉の中に放出した。
何度も搾り取られ、もう出ないからと懇願し、漸く身体を離してもらえた。古泉も同じくらい、いや、もっと多く欲望を吐き出していたはずだが、奴の性欲は全く衰えることがないようだ。名残惜しそうに俺の最後の一滴まで逃さぬよう、しゃぶりあげると唇を淫猥に舐め上げ、くすくすと笑いながら言う。「誰にも渡しません。もう、あなたは」俺の額に張り付いた髪の毛を優しく払いながら、古泉が続けた。「ずっとここで、僕だけを見て、僕だけと話し、僕だけと繋がっていればいいんです。一生、愛します。だからあなたも」
「僕を愛してくださいね」
唇で、古泉は笑った。だが、目は本気だ。俺は戦慄する。古泉の病んだ愛。今は恐ろしく感じるこの愛も、いずれ俺は慣れて嵌って行くだろう事に恐怖を、否、甘美な悦楽を禁じえない。ああ、頭が痛む。もう俺は、戻れないだろう。
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