気怠い朝が来る。僕はあのまま寝入ってしまっていた。まず体を清め、悪習と知りつつも敏感な数箇所にリップを施してから家を出た。最早逐一メールで確認される事も無い。指示を出さずとも実行すると思われているのかそれとも些細な事だと流されているのか。前者なのかも知れない。指示を受ける以上の事を僕は自発的にしている。それは例えば昨夜のような行いで。思い出しただけで体に熱が篭るようだった。今日彼に会ったら、何かしらフォローをするべきなんだろう。出来れば、彼にこれ以上違和感を抱かせないように。
教室に入り机の中を見れば、今日もまた小さな紙袋があった。手に持った感触は軽く、しかし柔らかくも無い。メールはまだ届いていない。普通に誰かからの送り物だとしたら?そう思い中を覗き見る。朝のざわめく教室の中で、僕は一人言葉を失った。見計らったかのように携帯が震える。何処からか視線を感じるが、振り向けば誰も見ていない。クラスメイトの会話が、密かな囁きが、今更のように気になって仕方が無い。HRまでにはまだ時間がある。僕は携帯と紙袋を手に僕は教室を後にした。向かう先は、水道だ。
紙袋の中から、メールに従い、まず取り出したそれは数粒の錠剤。何の薬なのかは触れていなかった。もしかしたら単なるビタミン剤かも知れないそれを手に、僕は考える。これまでの僕なら、こんな怪しげな物は絶対口にしないだろう。少々極端な発想ではあるが、毒物という可能性だってあるからだ。しかし、メールの送信者はこれを飲めと言う。この薬が、飲んで何かしらの効果が現われる物だとしたら逆に飲まない限りは効果が解らない為、相手の意図には添えない。これを服用せずに誤魔化す事は出来ないのだろう。それに今までを思えば、送信者は僕を貶め卑しめはしたが肉体的に傷付けられるような事は無かった。名乗りもしない相手を信用するのもどうかと思うがこの紙袋に薬と共に入っていたもう一つの物を考慮すれば人体に害のある物では無いだろうと察せられた。相手が崩したいのは僕の心だ。今まで散々ではあったが、それでもまだ僕に残された部分はあった。きっとこれを飲んでしまったら、多分もう後は無い。解っていながら薬を口に含んだ。
時間は緩やかに過ぎ、やがて薬の効果が現われる。予想通り襲ってきたそれは、僕の手足を冷やし、額に汗を浮かべさせた。ちらりと時計を見る。このまま休み時間まで耐えるべきなのだろうか。いや、それではきっとダメなのだろう。第一持ちそうに無い。血の気の引いた顔で僕は教師に申し出る。連日何かしら不調を訴えている気がするが誰にも疑われない辺り、日頃の行いの賜物だろうか。教師やクラスメイトを偽り、今では彼らや機関まで。僕は一体何をしているのかと冷や汗を垂らしながら自嘲した。
授業中の人気の無い廊下は異様に長く感じられたが一歩一歩足を進めれば、いずれ着くものだ。道中携帯が震えたが、届いたメールを確認する余裕も無く僕はふらつく足で奥の個室へ入った。
薬に因るきつい差し込みも、事を済ませば直ぐ様解消された。でもこれで終わりでは無いとメールが示している。僕は紙袋に入っていたもう一つの物を取り出した。小さなイチジク型のそれは、所謂使い捨て浣腸だった。朝飲んだ下剤で、既に腸内の物は粗方無いだろうと思いながらもそちらも使えと言われれば使わざるを得ない。何の為に僕にこんな事をさせているのか。それももう明白で。この後考えられる羞恥に興奮して手が震えた。
渡されたそれは一つではなく、結果僕は何度か苦しんだが吐き出した瞬間に感じたものは安堵と快楽だったに違いない。出来る事なら一度シャワーでも浴びて清潔に体を洗ってからにしたい所ではあったが仕方ない。あとで念入りに手を洗おうと心に決め僕は自ら酷使したそこへ、躊躇いながら指を這わせた。これまでリップを塗るべく触れた事はあった。それでも中に触れてみようなんて思わなかった。漠然とした知識はあったが、やはりそこは排泄器官でしかないはずで。大体僕は性器だけで充分な快楽は得られていた。だから必要無いと思っていたのに。本来なら硬く閉ざされているべき場所は一連の行為に慣らされたのか、意外な程簡単に僕の指を飲み込んだ。
指先で触れた中は暖かい。当たり前だ、内臓なのだから。ただ、指を一本突き入れた所で、異物感はあれど快感には遠い。それでも、わざわざ腸を洗浄して未知の領域に足を踏み入れようとしている自分に、どうしても鼓動は早まった。
メールを思い出し、このまま指を挿れているだけではダメだと少しずつ動かし始めた。奇妙な感覚に吐息が漏れる。気持ち悪いような、むず痒いような緩い刺激でさえ僕の体は快感と得るのか、触れても居ない性器は首をもたげていて。何て浅ましい体なんだろうと思いながら、更に指を蠢かせた時僕の背筋を何かが駆け抜けた。思わず手が止まる。でもそれをもう一度感じたくて。そこを探り当て刺激していけば、耐え切れない僕の口から小さく上擦った喘ぎ声が漏れた。
一度排泄器官での快楽を覚えてしまうとあとは本当に坂を転げ落ちるようだった。メールに促されるまま、何処までも欲望に溺れていく。自慰の際、性器や乳首だけでなく肛門も弄るようになった。挿入する指が増えれば、それを報告した。精液を肛門に塗り込んで弄っている写真も送った。ローターを買いに行き、中に挿れたまま一日過ごす事もあった。静まり返った教室で、周囲に音が聞こえやしないかと緊張し興奮して何度も体内のそれを締め付け、人知れず絶頂まで迎えた。乳首と性器を勃起させながら下着を濡らす日々。言われるがままに様々な事をした。あのメールの送信者は誰なのか、突き止めたい気持ちは今もある。でもいつしかその思いは、少しずつ形を変えていった。
いつまでも特定出来ない相手に、それももしかしたら一人ではなく複数なのかも知れない相手に、日々支配され翻弄されている。その事に、僕は次第に言いようの無い興奮と執着を覚えてきていた。次は何を指示されるのか。体は貪欲に新たな刺激を求める。それはある意味依存と言えるのかも知れない。出来れば、面と向かってもっと淫らな行為を要求されてみたい。そんな事を漠然と考えるようになった。元々は脅してきた相手だ。それなのに会いたいなんてどうかしていると思っている。それでも欲求に思いは募り、抑えきれなくなりそうだった。
その日、部室には長門さんしか居なかった。彼女はいつも通りに書物に目を落とし、僕は一人詰め碁をして時間を潰す。教則を片手に、でも体内にはローターを忍ばせて。手を止めて熟考するように、振動を味わい快感に酔い痴れた。最初から気付いているであろう長門さんの前で、僕は興奮していた。もう僕は自分を良く知っている。認めたくなくて何度も目を背けたが、僕は変態性欲の持ち主なのだろう。だからもっと刺激が欲しい。もっとだ。「古泉一樹」静かな声に意識を引き戻される。驚いて窓際に目をやれば、長門さんは澄んだ闇色の目で僕を見ていた。「あなたは……それで良いの?」何とか聞き取れる程度の、ごく小さな声で問い掛けられる。その問いが何を指しているのか、考えるまでも無くて。僕は笑みを浮かべて問いに答えるべく口を開いた。
その晩、僕は意を決して行動に移す。あのアドレスへとメールを送ったのだ。
返信は――A.届いたB.届かなかったC.別のアドレスからメールが届いたD.僕の送信内容には触れる事も無く、いつもと変わらぬメールが届いた
このサイトはreCAPTCHAによって保護されており、Googleの プライバシーポリシー と 利用規約 が適用されます。
1文字以上入力してください
本文は少なくとも1文字以上必要です。
1文字以上入力してください。