※上記の広告は60日以上更新のないWIKIに表示されています。更新することで広告が下部へ移動します。

俺の心配を他所にくすくすと笑いながら古泉は件の物体に声をかける
「ほら、踏まれちゃうと困りますから。お出迎えは嬉しいですけど部屋の中に戻ってくださいね。」
古泉の言葉を聞くと緑色のブツは廊下から奥の部屋へするすると引っ込んでいく
「さ、どうぞ。」
「・・・本当に大丈夫なのか?」
「たった今ご覧になったでしょう?あの通り聞き分けのいい、可愛い子ですよ。」
先に廊下を進みながら部屋の中へ消える古泉の背中を見やりつつ
俺は諦めとともに盛大な溜息をついた
「やれやれ。」

「邪魔するぞ。」
正直ぶっちゃけると古泉の部屋に入るとそこには一面に緑色の物体が、とか、
手足を絡め取られた古泉が俺に助けを求めて、とか一瞬でも想像しなかったと言えば嘘になる
というか、むしろそっちしか想像してなかった
幸か不幸か色々と理解しがたい事態に遭遇しなれた身としては
最悪の事態を予想しても仕方ないだろう?
恐る恐る部屋の中を覗き込むと
そこには想像したような惨状は微塵もなく、
ブレザーを脱いで振り返った古泉の平常営業の笑顔があった
「どうしたんです?」
「あ、あれ?」
ない
部屋の中にあるべき筈の正体不明の緑色の触手状の物体が・・・ない
最悪の事態ではなかったものの、さっき見たものは確実にこの部屋に引っ込んでいった訳で
何処かにいる筈なんだが、と
ざっと見渡して以前来た時と違うところといえば
部屋の片隅に置かれたどこかで見たような剣状のまだら模様の葉っぱの観葉植物だ
怪しいといえばこの植物か
重なり合う葉の間を覗き込むと、件の奴はそこに居た
俺の視線に気付くとかの緑色のブツは「あ、見つかっちゃったー」とばかりに
照れる様な仕種をしながら頭をもたげて俺の方に伸びてきた
流石に古泉のように無邪気にそいつに触る気になれずに身をかわすと
しばし所在無くうろついた後、触手の先端はやや寂しそうに元居た葉陰にするすると戻っていった
え、何?こいつ空気読める子?
俺の視線に気付いた古泉がインスタントコーヒーを入れながら答える
「あ、もう気付いちゃったんですね。その鉢植えは先日森さんから押し付・・・いえ、頂いたものなんですが、」
お前、今押し付けられたって言ったな?
しっかり聞こえたぞ
「森さんも頂きものだと仰ってたんですが、自分はサボテンを枯らしたことがあるから要らない、と。」
・・・森さんっ・・・!
ああ、なんか涙が・・・
ほとんど世話しなくていいサボテンを枯らすとか・・・
年上のお姉さんに対する俺のささやかな夢を壊さないで下さい、お願いですから
「それはいい笑顔で言われましたよ。『枯らしちゃったらかわいそうでしょ?可愛がってあげてね、古泉。』と。」
くくっ、と笑いながらコーヒーを入れたマグを両手に持って移動する
「どうぞ、座ってください。」
「おう」
とりあえず年上の女性への憧れにさりげなく精神的ダメージの上書きをされたことは
古泉には黙っておこう
「インスタントですいません。」
古泉はローテーブルにマグを置くとまたキッチンに取って返す
「砂糖と・・・牛乳でいいですか?」
「いや、かまわんでいい。」
俺は別にブラックでも構わないから、といいかけたところに
古泉が牛乳パックとスプーンとグラニュー糖を携えて戻ってきた
「コーヒーフレッシュじゃなくて牛乳パックかよ。コーヒーが温くなるだろうが。」
自分のマグに半分ほど牛乳をぶち込む古泉に呆れて突っ込む
おまえ猫舌か?
「コーヒーフレッシュなんて入れる意味がわかりませんね。全く美味しくないでしょう?」
どうやらこいつは植物性油使用の代用品では我慢できない乳製品信者らしい
そんなに乳製品が好きなら練乳でも舐めてろ
って、そんなことはどうでもいい
俺の前に置かれたマグからコーヒーを一口啜って頭の中を整理する
さっきから気になっていた疑問を矢継ぎ早に並べてみた
まず、そこの緑色の触手は一体何なんだ?
こそこそ葉っぱの陰にいるが植物か?
それとも寄生してんのか?
一体どこからきたんだ?
まさか宇宙生物じゃねえだろうな?
そもそも正体不明の生物にどうしてそこまで懐かれてるんだ、おまえ!
ほんっとうに襲われたりしてないのか?(←ここ重要)

「そう一度に訊かれましても・・・ええと、どこから説明しましょうか?」
最初からだ、こいつがどうやっておまえの部屋に来たのか、包み隠さず話せ
「先ほどもお話したとおりその鉢植えは森さんからの頂きものなんですが、
僕がこの鉢植えを手渡された時に森さん自身も頂きものだと言われてましたから、この子がいつ、どの時点でこの植物にくっついてたのかは正直言ってわからないんです。気付いたら今みたいに葉陰に居たんですよ。」
古泉がちらりと鉢植えに目をやると触手がするすると伸びてきて
奴のほっぺたにすりすりと頬擦りする
ふふっと笑いながら抵抗もしない古泉と触手の間には仲良しこよしな空気が漂っている
むしろラブラブと言ってもいいんじゃないか?
「だーかーらー、何でおまえはそこまでその謎生物を信用しきってるんだよ?!」
面白くない
はっきり言って全く面白くないぞ
どうやら古泉はすっかりこの謎の緑色の物体を「可愛いもの」だと認識しているらしい
「可愛い」なんて感情は保護欲をそそるものだとか、いとけないものに対して向けられて然るべきだものと思うんだがな
例えば朝比奈さんとか、犬とか、猫とか、子どもとか
マイエンジェル朝比奈さんを犬や猫と同列に扱うのは如何なものかとは思うが
あの方は「可愛い」と言う分野においては無条件で真っ先に挙げるべき存在だと俺は認識している
見てるだけで幸せにしてくれるお方だぞ?
守ってあげたくなるのも当然だろう?
それをお前、いくら大人しくて聞き分けがいいからって、
動物だか植物だかそもそも地球上の生物なのかさえ不明な謎の生物に対して
そんな感情抱くなんて・・・可笑しいだろ?