動物的な衝動に駆られた自慰行為の後は、いつも以上の虚無感と後悔に苛まれた。
涼宮さんを冒涜してしまったようで、どんな顔で会えば良いのかと一晩思い悩んだ。
それでも朝は来るのだ。きっと今日も何かしらの辱めが待っている。
嫌がる気持ちと裏腹に、体は性的な期待に火照り
僕は指示通りに今朝もまたリップを使ってから登校した。

席に着いて鞄の中身を机に移すと、机の中に軽く柔らかな感触があった。
一体何が入っているのかと取り出してみる。
小さく四角いそれは……ポケットティッシュだろうか。
まじまじと眺めてから、それが何なのか思い当たり、僕は動揺した。
そんな時に背後から声を掛けられ、僕は急いでそれをポケットに入れた。
慌てて振り向くと、クラスメイトの一人がいつもと変わらぬ顔で笑っていた。
どうやら彼は宿題を忘れたらしい。

HRを終え、一時間目は教室移動だ。
何でこんな物をポケットに入れてしまったのかと後悔したが、今更どうしようも無い。
動揺を表に出さなければ周りには気付かれる事も無いのだと、僕は身に染みて解っている。
そしてメールが届く。新たな指示と共に昨日の自慰回数の報告も促された。
本来なら秘められるべき恥部を毎日他人に管理されているようで。
こんな事でさえ、僕の体は反応しかけてしまう。
心を落ち着けるべくゆっくりと息を吐く。
メールの内容共々、今日も僕は休み時間早々にトイレに行く事となるようだった。

個室に入り、僕はポケットからそれを出す。
最初ティッシュだと思ったそれは、所謂生理用品だった。
男の僕が持つにはあまりに不似合いなそれを目前に、体に熱が篭るのを感じる。
これを僕は今から身に付けるのだ。考えるだけで思考に霞が掛かるようだった。
何処から開けるのか良く解らなくて、戸惑いながらも何とか開封する。
そしてベルトを外して下着を下ろし、宛がうように乗せて下着を穿き直した。
いつもと全く違う感触に体が強張る。
見下ろせば股間部分が不自然に膨れ上がっていて酷く不恰好だった。
そして、盛り上がっているのは生理用品だけのせいでは無くて。
何て僕の体は浅ましいのだろう。
でもそれ以上の行為は今は許されていない。
それに、きっとこの上から擦っても分厚いそれに阻まれてしまうだろうから。
手慰みにワイシャツ越しの乳首に触れてみたりもした。

休み時間は短い。
僕は部分的にオムツを穿いているような情けない写真を送り、トイレを後にした。
これを身に付け、放課後まで教室から出るなという指示だった。
そのメールの意図は大体解っている。
この後は教室移動の予定は無い。
つまり僕は今日一日トイレへ行く事を禁止されたのだ。脈打つ鼓動が煩かった。

女性に比べ、男性はわりと尿意に強い方だと言う話を聞いた事がある。
一見何事も無く、時間は過ぎて行った。
男の僕が生理用品を身に付けている。
冷静に考えれば、その恥ずかしさは昨日の下着の比では無いだろう。
出来れば椅子から立ちたくも無かった。
こんな時に限って、親切なクラスメイトは僕に水分の摂取を薦めてくれる。
声を掛けられそちらの方へ歩くたびに、股間に宛がわれたそれが
両足の動きを僅かに阻害するのだ。
リップを塗った敏感な先端が、柔らかく股間を包むそれに擦られるのを感じた。
クラスメイトから貰ったジュースを片手に僕は考える。
未だにメールの相手は誰だか解らない。誰が見ているかが解らない。
だから休み時間になっても、指示通り僕は教室から出る事は無い。
吸水性があるのだろうそれは、逆に考えればどれだけ勃起して
先走りを漏らそうとも下着を濡らす事も無い訳で。
ちょっと便利なんじゃないかと暢気なことまで考える余裕すらあった。
いや、そうとでも思わないと事態の異常さに心が耐えられないからだろうか。

更に時は過ぎ、昼休みでさえ僕は教室から出られなかった。
クラスメイトの宿題を手伝ったお礼にと、昼食を購買で買ってきて貰った際
しっかりと500ccのペットボトルが付いてきた事にさえ
深読みしそうな自分が少し嫌だった。

放課後まであと一時間。もう少しだ。
しかし流石にそろそろ切羽詰ってきた。
今日飲んだ水分量を考えれば、こうなるのも明白だった。
一度覚えた尿意は抑えきれず、刻一刻と僕の中で膨れ上がっていく。
時間が早く過ぎる事をただ願う僕に、メールが届いた。
僕は教室内を見渡す。誰もこちらを見ていない。
メールの内容は、我慢出来ないなら教室でこのまま漏らすか
もしくは条件付きでトイレに行っても良いと言うもので。
幾らなんでも前者だけは有り得なかった。

必死に堪えていた尿意は、僕の顔色も悪くしていたのだろう。
体調不良を申し出ると、あっさりと教室を抜け出せた。
一目散にトイレに向かう。
授業中な為、当然誰も居ない。
それでも陰毛の無い僕は、万が一を考えれば個室を選ぶしか他は無い。
鍵を掛け、下着を露出させた所で携帯が震えた。

メールが示す条件は、生理用品の吸水性を試して
その結果を送れと言うものだった。
つまり、この状態で排尿しろと言うのだ。
トイレが目の前にあると言うのに強いられる行為に体が強張る。
必死に考える。この場には誰も居ない。
どうせ写真を撮るにしても、下着から外したそれに
水道水でも含ませれば良いのではないか。それは名案のように思えた。
しかしそこまで考えておきながらも、僕の手は下着からそれを取り外せなかった。
決して認めたくは無いが、僕はこの変態的な要求に
それなりの興奮を覚えているのだ。
自慰ばかりでなく排尿と言った自然の摂理まで、
誰だか解らぬ相手に強要されて身を熱くしている。
本当にどうしようもない体だと自分で思った。

結局僕は下着を下ろす事も無く、躊躇いながら少しずつ排尿していった。
開放感は無いが、一思いに出して溢れたら悲惨過ぎる。
両足が震え、壁に手を付いた。
何処までも変態だと自分で思いながら少しずつ少しずつ。
体内の水分と共に、自分の中の大事な何かが流れ出て行くような気持ちさえした。
「あ……」
半日我慢していた尿はやはり多かったのだろう。
内腿に生暖かい雫が伝うのを感じ、僕は慌てて下腹部に力を込めた。

メールは結果を送れと言ってきたが、こんな物を写真を撮ったり
具体的に書くのは流石に憚られた。失敗に終わったと伝えるだけにする。
限界まで水分を含んだそれを外すと、僕の性器はこんな中でさえ
硬くなっていた。でもまだ我慢出来る範囲だ。
何より今は先にすべき処理がある。
性器を便器に向けて、体から力を抜く。開放感に脱力して吐息が漏れた。

あとはこの生理用品をどうするか。
ゴミ箱へは無理があるし、男子トイレに置いておけるはずも無い。
思案している僕に再びメールが届く。
結果に関して全く触れもせず、次の行動を示している。
そのあまりに酷い内容に、気が緩んでいた僕は
横っ面を殴られたような衝撃を覚えた。

男子トイレの隣には、当然女子トイレが有る。
距離は決して遠くない。授業中なら姿を見られる事も無いのだろう。
それでもその空間に足を踏み入れるのは、尋常でない程の抵抗感を伴った。
僕は出来るだけ息を殺し、足音を立てぬよう忍び込む。
多少の差異はあれど、所詮学校だ。
場所を迷うこと無く僕は個室の一つに入り鍵を掛け
震える手で備え付けの小さな金属製の箱の蓋を開ける。
決して中は覗かないように自分の尿に塗れたそれを押し込み、蓋をした。
廊下の気配に神経を尖らせながら、僕は急いで男子トイレに戻る。
言いようの無いタブーを犯した気がして、洗面台でひたすら手を洗った。
胸が苦しい。見上げた鏡に映った僕は泣きそうな顔をしていた。
目は潤み、顔は真っ赤で。酷い有様だと思う半面
女子トイレに忍び込んだ事に、昨日の涼宮さん程の
性的興奮を覚えなかった自分に、まだ大丈夫だと安堵もした。

それでも平常心には中々戻れなくて。
この日僕は部活を休んだ。


何も考えたくなくて、僕は帰宅早々横になった。
昨夜きちんと寝付けなかったからか、まだ時間も早いと言うのに、いつしか眠りに就いた。

寝苦しさを感じ意識が戻った。
目を開けば寝る前と何も変わらぬ薄暗い部屋だ。
浅い睡眠は疲れを多少癒したが、喉が乾いていて体が熱かった。
布団の中で僕は自分の体に触れる。
薄いシャツ越しに、初めは輪郭を辿るように自分の腕を。
その手は次第に肩から胸へ。体の中心へと伸びていく。
この所毎日していたのに、今日はまだだから。それが理由と言い聞かせた。
思い浮かぶのは今日の出来事。
常識を逸脱したあまりに行いは、思い返す程に自分を苛んで。
だからこそ、僕の体は火照るのだと。
そう気付きながらも認める勇気は無かった。
考える事を放棄して、僕は体を弄る。
ベッドの上で布団に包まり、その中で半裸になりながら。
静かな空気に、忙しなく熱い吐息は溶けていった。

ただ自分を追い詰め、果てが近くなった頃
ベッドの際に置いていた携帯が鳴った。
聞こえたのはメールの着信音。
ここは学校では無い。今の僕を見張る誰かの目は無い。
そんな事はある訳が無いと思いながらも、驚きと期待に体が強張った。

体に篭る熱はそのままに、おそるおそる片手を伸ばし携帯を見れば
それは勿論あのアドレスでは無く、彼からのメールだった。
今日部活を休んだから心配してくれたのか。
開いたメールは、涼宮さんが気に掛けていたとの旨だった。
どう返事をすれば良いのだろう。
昨夜涼宮さんが触れたリップで自慰をしたのと
生理用品に排尿し、女子トイレに忍び込んだ動揺で
部活に出られませんでした?
変態行為にも程がある。
言い訳が思い浮かばず、頭が働かない。
それでも自由な片手は僕の体を蠢き続ける。
浅い呼吸を繰り返しながら携帯を眺めていると、今度は電話の着信。
返信が無い事に痺れを切らしたのか。彼らしくも無い。
このまま電話に出なければ、僕は今忙しいのだと適当に解釈してくれる事だろう。
その方が都合が良い。こんな状態で電話には出られない。
それなのに鳴り続ける電話から目が離せなくて。
今出てはいけないと解っているのに。蠢く片手は止められないのに。
僕は通話ボタンを押してしまった。
「……はい、古泉です」
情欲に声は掠れていた。
「何だよ。居るんじゃねぇか。出るならさっさと出ろ」
変わらぬ憎まれ口。僕はこんなに遠くに来たのに彼は何も変わらない。
「そう言われましても……少々、目を離していたものでして」
必死に声を抑えて言葉を続ける。僕の手は止まらない。
「まぁ良いけどな。それより今日はどうしたんだ。バイトか?
ハルヒが気にしていたぞ。間接キスがそんなにショックだったのかってな」
涼宮さんの名前を告げられ、脳裏にフラッシュバックした光景に僕は小さく息を呑んだ。

「古泉……?具合でも悪いのか?最近様子がおかしかったしな」
彼の声色が心配そうな物へと変わる。僕の異変は彼に気付かれていた。
体が更に熱くなる。乱れて押し殺した呼吸が苦しい。
「いえ……っ、あ、ええ、実はそうなんです。
少し前から、風邪を……引いてしまいまして」
途切れ途切れに話しながら、僕は布団の中で大きく足を開いて中心を扱いている。
濡れた音が彼に聞こえやしないかとどきどきした。
「そんな時は大人しく休めよ。お前の事だ、大方無理してたんだろ」
日頃僕に対してぶっきらぼうな彼もこんな時は優しい。
「っ……いえ、それ程でも、無い……ですから……」
自分で与える快楽に息が詰まる。もう限界だ。
このまま電話口で喘いでしまったら、彼は僕をどう思うのだろう。
「……なぁ、熱とか出てたりするのか?話すのも苦しそうじゃないか」
彼は純粋に心配してくれている。その厚意を僕は裏切っている。
彼と電話で話しながら、僕はこんな事を。
「ちゃんと飯は食ってんのか?……まだそんな遅く無いし
要るもんあるなら持っていってやろうか?」
彼が来るかも知れない。その申し出に僕の体は緊張に震え
彼に知られたらという恐れは、強い興奮へと掏り替わった。
その興奮を軽く後押しすれば、直ぐに熱が弾ける。
僕は口元を枕に押し付けて、耐え切れずに漏れる声を殺した。

「……古泉?おい、生きてるか古泉」
黙ってしまった僕を彼は心配している。
数回呼吸を繰り返してから僕は口を開いた。
「……生きてますよ。申し出は、とても有り難いのですが……。
あなたに風邪をうつしてしまったら……申し訳が無いので」
興奮冷めやらぬ声は小さく震えていた。
それでも彼は、体調不良が原因だと思ってくれたようだ。
「そうか。まぁ俺もお前の風邪なんざうつされたくも無いが。
あんま喋らせるのも悪いしな。今夜はゆっくり休めよ。あと団を休むなら連絡しろ」
そうして電話は切れた。
吐精すれば眠くなるものだ。今が何時だったのかを確認する事も無く
僕の意識は再び薄れていった。

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最終更新:2008年07月31日 08:33