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先刻酒場でパーティーを組んだばかりの吟遊詩人は
当初場にそぐわぬ程に上品な笑みを湛えていたが
やはり状況が状況だと判断したのだろう。
「おい、古泉!お前も何とかしろ!」
「言われなくとも解っていますよ」
俺の怒声に詩人は表情を改める。しかしその唇に浮かぶのはやはり微笑だ。

辺りには毒を持った不定形の軟質モンスターが犇いている。
日はまだ高く、草原を流れる風は爽やかだと言うのに
この一帯だけ空気が淀んでいるような気さえした。
古泉が手にしているハープを奏で始めた。やがて旋律に歌声が乗る。
低く落ち着いた、しかし勇ましいその声は、俺の耳に染み入り士気を鼓舞する。
これは戦意を高揚させる歌だ。
俺は古泉の曲に誘われるまま、手にした剣を振り上げモンスターへと斬り付けた。
数は少なくは無い。だが負ける気はしなかった。

魔法使いや僧侶とは違い、吟遊詩人は歌声を武器とする。
時に仲間の戦力を増進させ、時に美しい歌声で傷を癒すその職と組むのは
今回が初めてだったが、前衛である俺との相性は悪くないようだった。

モンスターは着実に数を減らしていく。あと少しで終わる。
それが油断となったのかも知れない。
古泉の歌が乱れた。
「古泉!?」
吟遊詩人は後衛職だ。そう解っていたつもりではあった。
でも同じ男ではあるし、細身ではあるが背も高くやたらと落ち着いていた為
自分の身は自分で守れるだろうと思っていた。
慌てて後ろを振り向けば、古泉は曲奏でるのを止め
短剣を手に一匹のモンスターを相手取っている。

「大丈夫です!まず先にそちらの敵を!」
一匹ならまだ大丈夫だろう。俺は出来るだけ急ぎながら
自分の目の前のモンスターを片付けていった。

「悪かったな。大丈夫か?」
無事戦闘を終え、俺と古泉は草原の一角で休憩を取っていた。
鎧で身を包んだ俺とは違い、古泉は防御力の低い布製の衣服しか纏っていない。
「大丈夫ですよ」
古泉はそう笑うが、見れば足に小さな傷を負っていた。
「毒性モンスターだったからな。大事になる前に処置はしておいた方が良い。
ほら、足をこっちに寄越せ」
「え……いや、平気ですから」
「お前傷は癒せても毒は無理だろ?」
問答無用で白いひらひらしたマントを捲くり、古泉の脚を掴んで引き寄せた。
まずブーツを外す。脱がせ難い事この上ない服装だ。
まぁ俺も人の事は言えないが。
茶色のズボンを足首から捲り上げていけば
長い事日に当たっていないのだろう、随分と生白い脚が現れた。
俺はその脚に浮かぶ傷口へと唇を寄せる。
「あ、あの、ちょっと……っつ!」
傷口から血を吸い出せば、痛むのか古泉が口を噤んだ。

俺は黙々と血を吸っては吐き出し。
既に毒が回っていたとしたら、こんな処置では済まないが
そうでな無いのならこの程度でも充分だろう。
「ほら、終わったぞ」
「……有難う御座いました」
脚から唇を離して顔を見上げれば
古泉は僅かに頬を染めて潤んだ目で俺を見ていた。
単に痛みから来る物だろうと解ってはいたが
その表情は見る者の道を踏み外させそうな程の色気を感じさせて。
……ちょっとまずい奴とパーティーを組んでしまったかも知れない。
今後を思い若干気が沈む。俺の自制心が試されそうな予感がした。