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「体、冷えますよ」
「あ?ああ、ありがとう」
窓辺に座って夜桜を仰いでいる浴衣一枚の彼の肩に毛布を掛けると、彼は僕に隣に座るよう促した。
「やっぱり春はいいな」
「はい」
何も言わずに毛布を半分僕に掛けてくれる彼に、愛しさが込み上げてくる。

僕らは今一泊二日の温泉旅行に来ている。
日頃から働き詰めな僕らのささやかな御褒美といったところだろうか。
ここ数日、僕はこの日を楽しみに頑張ってきたのだ。
こちらに到着してからは温泉街を散歩したり温泉に入ったり、いつもより緩やかに時間が過ぎていった。
今は豪華な夕食も食べ終わり、眠るまでのゆったりとした時間を過ごしている。
部屋の窓からは咲き始めの桜の木々が見え、景色は素晴らしいものだ。
しばらく彼の肩にもたれて桜の蕾を眺めていた。

「古泉…」
ふいに彼の手が伸びてきて、腕の中に閉じ込められる。
突然のことに驚いたものの、彼の暖かな体温に触れると自然と体が弛緩した。
彼の胸に甘えるように頬を擦り寄せると、仄かに温泉の香りがした。

腕の中に閉じ込めた古泉がふ、と小さく笑みを零す。
「どうした?」
「いえ…、タバコの匂いのしないあなたも新鮮だと思って」
タバコの匂い、ねぇ。
結構気をつけているつもりなんだが、そんなに酷かったか?
「……いえ」
古泉がまた笑う。さっきよりも幸せそうな、とろけそうな笑顔だ。心臓に悪い。
「あなたはちゃんと気を配ってくれてますから。気づいてるのは、僕だけ、ですね」
殺し文句だな、古泉。
隠した匂いに気づけるほど近くにいるのは、自分だけだと古泉が言う。
それを喜んで、笑顔を見せる。
ここで今までの女の話を持ち出すほど野暮じゃない。
抱き寄せる腕に力を込めて、古泉の髪に鼻先を埋める。
「お前の匂いを知ってるのも、俺だけ、だな」
これも嘘だ。
古泉のフェロモンじみたいい匂いは惜しげもなく振りまかれていて、
それに惑わされるのは俺だけじゃない。

だが
「…あっ」
さらさらした髪の感触と、甘い匂いを存分に愉しみながら、浴衣の合わせに手を滑り込ませる。
こんなに近くで古泉を感じられるのは俺だけだ。
「や…んん…っ」
小さな尖りを指先で転がす。
吸い付くような肌が次第に汗ばみ、シャンプーの香りを押しのけて匂い立ち始める、熱を孕んだ芳香が
初めて呑んだタバコ以上に俺の髄を痺れさせる。堪らない。
ぐ、と細い腰を抱き寄せて、肉の薄い尻に俺の劣情を押し当てる。
その瞬間怯えたように肩を震わせる、いつまでたっても物慣れない反応がどうしようもなくいとおしかった。