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「明日も団活あるのか?」
シャワーを浴びてリビングに戻ると、ソファの上から声をかけられた。
「ええ、『失った時間は決して取り戻すことは出来ない』からと。涼宮さんらしいですよね」
「その分じゃ三十一日まで毎日遊び倒しそうだな。いいのか?たった一度の高一の夏休みだろ?」
「どこかで聞いたような言葉ですねえ」
「かわいい女の子と海行ったり、花火見たり、なんかそういうことしなくていいのか?」
そんなこと、おかげさまでたっぷりと経験済みだ。水着ではしゃぐ涼宮さん、花火に目を輝かせる朝比奈さん、望遠鏡をのぞきこむ長門さん。これで足りないと言ったら罰が当たる。と話すと、彼はそうじゃない、とでも言いたげな顔で頭をかく。
「好き勝手遊んでだらだらしたり、あとはデートでもして一夏の思い出作ったり、とかさ」
「デート……ですか。……あなたと?」
聞けば、彼は顔をしかめた。思わず苦笑する。だって、こんな風に寝食を共にしている相手以外に、誰とデートするっていうのか。
「いいですよ。しましょうか、デート。ふふ、記念すべき初デートですね、映画でも見ますか?」
本当はこのまま眠ってしまいたかったけど、彼がそんなつれないことを言い出すから誘いたくなった。
「こんな時間にそれもないだろ。いいよ、その辺ぶらぶらするだけで」
「この辺じゃあコンビニと公園しかないですよ」
「じゃあ公園で。いいじゃないか、夜の公園」

広々とした運動公園は、まだ深夜には早い時間なのに誰もいなかった。かすかに残る花火の匂いに、誰かの夏が終わった気配を感じながらゆっくり歩く。一番奥の四阿(あずまや)を模したベンチに腰を下ろして、二人で遠くの星空を見る。
「先週の方がよく見えました」
「晴れた日のマンションの屋上と、曇りの地上を比べないでくれ」
左側に彼の耳が目に入る。そういえば、もう何日も二人きりでゆっくり過ごしてなんかいない。
ふと、彼が手首に触れてきた。
「まだ十時か」
僕が出がけにしてきた腕時計を見て、おもむろに外し出す。
「な……に、してるんですか」
「邪魔だったから」
左手首は、普段時計をしている分刺激に敏感な気がする。静脈を触られると、まるで内側を探られているみたいだ。するすると確かめるようにさする指に、あらぬ事を考えてしまう。
「ん……さわらないで、ください」
「なんで、手を繋ぐのは初デートの基本だろ?」
まだその設定(?) を覚えていたのか。世の恋人達は本当にこんな接触をすぐに許しているのだろうか。手首を辿って重ねられた手の甲が熱くて、火傷しそうだ、なんて、僕はこの暑さで頭がおかしくなっているのかもしれない。
「……っ」
彼の手が指を這う。それだけで身体が震えた。気色悪さからだったらまだ救いようもあるのに、伝わる体温がぞっとするほど気持ちいい。
「汗かいてるな」
指先を愛撫していた手はとうとう掌まで行き着いてしまった。絡められた指が子どものように指の股をくすぐる。は、と漏らした息が熱い。気持ちいい。掌だけじゃ足りない。ぜんぶ彼の手中に収められてしまいたい。
「……もう、デートじゃなかったんですか?」
でも、全部明け渡すにはまだ惜しいから、悔し紛れに言ってみる。
「ムードがほしい?じゃあ、キスでもする?」
彼の声が終わる前に唇をふさいだ。重ねたそこは夏なのに乾いていた。僕も彼も、何に緊張してるっていうんだ。そういえば前もこんな事を思った気がする―――


瞬間、破壊衝動に襲われ、強引に歯列を割って舌を絡め取る。彼が驚いたように喉奥を鳴らす。
ぴちゃぴちゃと余裕無く咥内を探れば、どちらのものかしれない唾液が零れ、顎を伝った。それさえも腹立たしく、乱暴に温い液体を啜った。
「ん…っふ」
もう息が続かない、と思った頃合いで、宥めるように舌裏をくすぐられて、喉の奥が痛くなる。この人はいつもそうだ。何も知らないくせに。
「なんだよ、したくなったのか?」
彼が眦をそっと撫でる。呆れてくれればいいのに、べたべたに優しくされて反論できない。全部壊して奪いたいような衝動から角が取れ、だんだんただの性欲だったように思えてくる。……なら、そうしてしまえ。
「したい……です」
「ここで?大胆だな、まあ誰も来ないとは思うけど」
もうどうなったっていい。だって今しかないんだ。

「深夜の公園で青姦なんて、いかにもですね」
「偏見だ……っていうかその顔でアオカンとか言うな」
公共のベンチで下半身を露出させてる人に言われたくない。それを学生に舐めさせてるんだから充分犯罪だ。
カーゴパンツの腰に縋るようにして目の前の「猥褻物」に舌を這わせる。先端にキス。唇でちゅぷちゅぷとカリ裏を辿る。そのまま舌で支えるように裏筋を舐め上げると、見る間に勃ってくる。
「ふっ……う、んむ、」
浅く咥えていた先を思いきって喉奥まで呑み込めば、焦ったように肩を押し返すのがおかしい。今更なのに。
「よくないですか?」
汗で湿った髪が邪魔で、耳にかき上げる。そのまま首を傾げると、手の中のそれから先走りが零れた。思わず笑ってしまう。僕なんかに興奮するなんて、かわいそうな人。かわいそうでかわいい。
「ねえ、そろそろ僕も、してくれません?」
伸び上がって耳元で囁くと、彼が壊れ物でも扱うようにそっと抱きしめてきた。そのまま膝の上に引き上げられて、またキスをする。すでに勃っている股間を撫でられ、声が漏れる。 その間にもう片方の手はハーフパンツの中へ入り、後ろを辿る。
「ん、んん……」
乾いたそこを確認した指はまたするするとTシャツの中に入り、乳首を押しつぶした。鳥肌が立つほど気持ちよくて、水飴のように溶けた声が出る。前を弄っていた方の手が頬に添えられ、親指が唇を割る。何も考えずしゃぶりついた。
「ん、っふ、ぷは」
少し塩辛い指を舐めているだけで、熱が集まっていくのを感じる。口が原始的な性感帯というのは本当かもしれない。
敏感な舌先をくすぐられて涙が浮かぶ。もどかしい。昂ぶった熱が別の場所を強く意識させる。
手首に滴った唾液を舐め取ると、少しだけ苦い味がした。痺れた舌に眉をひそめると、彼が苦笑する。
「虫除け舐めちゃった?」
ああ、そういえば出がけに子どもみたいにスプレーされたのを思い出す。
でも今は、もっと違う苦さが欲しい。
「もう、さわって、ください」
唇と彼の指との間に唾液の糸が引く。たまらずウエストに手を掛けると、彼が首筋に噛みつきながらズボンを降ろし、さっきまで舐めていた手でそこに触れた。
早く力を抜いて解して挿れて欲しいのに、何が不満なのか身体はなかなか緊張を解いてくれなかった。突っ張った皮膚が痛い。
胸、腰、内腿、彼の左手が触れる肌の全てが歓喜に震えて、それだけで達してしまいそうな程気持ちがいいのに、相手に快楽を与えられる箇所だけは硬く閉じていた。
「あっ…は、っかは、っふ」
彼の手が熱い。脇腹を撫で上げられて、ひりつくほどに感じる。もうイキたい。でもイキたくない。
「ゆっくり、な」
「ん……ぁ、…!」
首筋をざらりと舐められて腰が砕けそうになる。まるでスイッチが入ったように一気に内側が弛緩し、その拍子に奥に触れられ今度はきゅうっと収縮した。一度快楽を得てしまえば、さっきまでの硬さが嘘のように熱く熱く疼きだす。
はやく、はやく。
衝動的なセックスに似合わない程時間を掛けて性感を拾い出したそこに、ようやく昂ぶりが入ってくる。
「は、あ…っ…!」
腰を抱えられて声が出る。やっぱり手だけじゃだめだ。彼のものでなければ。


こんな外で、星はまばらで、風は温く、この夏は―――しているっていうのに、身体はそんなこと気にも留めない。
「あっ、ふぅっ…あぁんっ」
ただ気持ちよくて、もっとどろどろになりたくて、腰を動かす。もうぜんぶ忘れたい。いや、忘れたくない。
彼の頭を抱え込むように腕を回す。体中ぴったりとくっついているのに、まだ足りなくてしがみつく。
「…ん、ひぁ、や、もっと…っ」
彼が膝裏を抱え直す。角度が変わって、もうこれ以上はないと思っていた快楽がさらに深くなる。
暴力的なまでの快感に押されてじんわりと目が熱くなった。喉と鼻の奥がツンと痛くなる。
なんだ、気持ちよくても泣けてくるなら、我慢することなかったな。そう気持ちを緩めた途端、堰を切ったように涙が溢れてきた。
「……泣くなよ」
喋るとしゃくりあげてしまいそうで、何も言えない。
「うそうそ、泣けよ、泣いちゃうくらい気持ちいいんだよな?」
彼が眦を舐めてくる。明日瞼が腫れたら彼のせいだ。
「…っふ、」
噛みしめた唇を舐められて歯列を割られ、また甘やかされていることを知る。
「っく、あっやあっ…んっ……ぐす、」
彼が何も知らない人だったらよかったのに。『機関』も、閉鎖空間も、彼女のことも知らなければ、割り切れた。
でも彼は、ぜんぶ知っている。それなのに、彼女に近しくない彼は、この夏のことには気付かない。
きっとこの夏は繰り返す。これから作る思い出はぜんぶ消えてしまう。僕にはそれを、とめることが出来ない。
所詮、僕が世界のために出来ることは、あの閉鎖空間を壊すことだけだからだ。
「古泉」
留守になってた頭を咎めるように、耳元で囁かれる。前も触られて、何も考えられなくなる。
「っ、あっ、んん……っ!!」

「―――何かあったのか?」
あれだけぐちゃぐちゃのべたべたになっていたのに、セックスの跡は、ポケットティッシュ一袋できれいに拭われてしまった。公園には相変わらずひとけがなく、遠くの街灯に集る虫の音だけが聞こえる。
「なぜそう思うんですか」
それでも赤い目と顔が恥ずかしくて顔を伏せる。
「喘ぎ声が投げやりだった」
「はは、AV女優じゃあるまいし、何を期待してるんですか」
たとえばこの三年間で、彼女を揺らがせたもの。この十日あまりで、強く既視感を感じた時。
そんなヒントを追って往生際悪くあがいてみても、やっぱり僕ではだめだ、と思い知る。
だから今夜くらいは、抜け出す努力をちょっと忘れてもいいかな。

「涼宮さんから聞いたんですけど、三十一日は予備日なんですって。やり残しがなければ、その日の団活はお休みの予定です。二人でどこか行きませんか?」
「三十一日?いいけど、宿題終わってるのか?」
「その頃には終わっていますよ」
「せっかくだし、九月の土日の方がゆっくりできて良いんじゃないか」
「夏休み明け……ですか」
「そのくらい待てるだろ?たった十日かそこらじゃないか」
「……そうですね」
僕らはあと何回繰り返せば九月を迎えられるのだろう。先週長門さんから聞いた数字は、もう少しで桁を増やしそうだった。
もしも僕が三百年もの夏を記憶していたら、間違いなく気が狂ってしまうだろう。
だから僕らがこの数千回の夏を忘れてしまえることは、きっと彼女の慈悲なんだ。
「楽しみだな」
彼は笑う。僕は願ってしまう。あなたはどうか知らないでいてください。この世界がこんなにも不安定であることを。僕もあなたも、今の記憶を忘れてしまうだろうことを。

どうか、どうか。