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今日の目覚めは最悪だった。
事もあろうか、夢の中にフタナリ野郎が登場した挙げ句、夢とはいえそいつと
やってしまったからだ。
不幸中の幸いだったのは、朝起きた時点で夢精していなかったことだろう。
夢の中の出来事と夢精との因果関係がないことぐらい知っているが、それでも
このタイミングで夢精なんてしたら――普通に夢精するだけでも落ち込むという
のに、地獄のどん底まで落ち込みそうだからな。

「うーん」
俺が部室内で今日見た夢のことを考えている間、ハルヒは携帯電話を片手に
ぶつくさつぶやいている。
「おっかしいわねえ、電源切ってるみたいだわ」
「誰のだよ」
「古泉くんよ、古泉くん」
何だか噂をしたら影、みたいで不吉な予感を覚えるが、ハルヒはそんな俺の
心情に構わず言葉を続ける。
「お昼休みに食堂で見かけなかったから、九組の担任に聞いたところ、体調を
崩して休みだってのよ」
そりゃあ、一昨日フタナリになったんだし、体調の一つや二つぐらい悪くなる
だろうよ。だったら昨日――と思わなくもないが、一日遅れの筋肉痛だって
あることだから不思議じゃない。
「あのね、古泉くんはあんたなんかと違って、学校を休みときは如何なる理由
でもあたしに連絡をくれてたのよ。それが今日に限って連絡が来ないなんて
変だわ。絶対に何かあったのよ」
何か、って何かだよ。また不吉なことを言うんじゃないだろうな?
「……実は古泉くんがフタナリになった夢を見たのよね」
一昨日見た古泉くんの姿が強烈過ぎたのかしら、と言葉を続ける。
おいおい。お前まで見たってのかよ。
「あら、なに顔を赤くしているの? さてはあんたも見たわね」
どうやら顔に出ていたようだが、流石に夢の内容までは教えることは出来ない、
と考えていると、顔を赤くしてモジモジさせている朝比奈さんの姿が目に映った。
……まさか?
「あ、あの……あたしも、その、古泉くんの……その姿の夢を見たんです……」
「みくるちゃんも!?」
ハルヒは目を輝かせて長門へ向き直る。
「………」
長門は肯定するかのように、顔を縦に一振りする。
……なんてこった。俺たち四人全員が古泉のフタナリな夢を見たってのか?
「よーし、こうなったら直接古泉くんの部屋に押し入るしかないわね!」
「何でそういう結論になるんだよ」
「勿論、古泉くんがフタナリになっているかどうか確認するためじゃない。電話に
出てくれたらその必要はないんだけどね」
ハルヒは携帯を持ってニヤリと笑っている。
「副団長とはいえ、無断で休んだ理由を聞かなきゃ」
「明日でもいいだろ」
もし再びフタナリ野郎に遭遇したら、また前日のような出来事が起こることは
間違いない。正直、あんな奴を目の前に、自分自身を抑える自信はなかった。
「ばっかね、明日なんて悠長なこと言ってたら元に戻ってしまうでしょ」
「それを言うなら、既に夕方なんだし元に戻っているんじゃないのか?」
前日は放課後の部室でフタナリになったと聞いている。
それから数時間程で元に戻ったのだ。
学校を休んだとなれば、それは朝から変化が生じたと考えるのが普通だろう。
だとすれば、いい加減元に戻っていてもいい頃合いだ。
「……まあ、それでも明日聞くよりはいいわ」
ハルヒは少々ガッカリした様子だったが、それでも古泉から色々なことを聞き
だそうと考えているのだろう。先程より勢いは落ちたものの、行く気は満々だ。
俺にしても、戻った奴なら幾分マシ――いや、無駄に色気があるから全然マシ
ではないが、それでもフタナリよりはまだ何とかなる。
そう思っていたのだが――
「大丈夫、今回はあたしに任せて」
いつにない朝比奈さんの頼もしい言葉が、逆に俺の不安を煽った。


あれからどれだけの時間が経過しただろうか。
俺たちは今、古泉が住むアパート――と呼ぶには立派すぎる建物の前に居た。
「これを『アパート』と称するのは詐欺よねえ」
ハルヒは立派な建物を見上げてぼやく。
「てっきり四畳半アパートで表札見ればすぐ解ると踏んでたんだけど」
俺も前に行ったコンピ研部長クラスの佇まいと踏んでいたが、まさか長門の部屋
クラスとは思わなかった。まあ、『機関』なんて怪しい組織に所属しているんだし、
セキュリティ面において万全を期するに越したことはないんだろう。
「生憎と部屋番号までは知らないのよ。名簿作った時点ではまだ居なかったのか
九組のクラス名簿にも載っていないし、担任の先生までちゃんと覚えていないって
言うんだから職務怠慢よね」
この辺りは『機関』の圧力かもしれんな。
というか、お前は聞いていなかったのかよ。
「だっていつも電話かけると通じるから、住所まで知る必要はなかったのよ」
まあ、奴のことだから、極力ハルヒに知られないようにしていたんだろう。
「うーん、管理人さんとか居てセキュリティ高そうだし、中の人が通りすがるのを
見て一緒に入って行くしかないかしら」
俺もハルヒと共に立派過ぎる建物を見上げていると――
「ごめんね、キョンくん」
朝比奈さんの小さい声と共に、後頭部に大きな衝撃を感じる。
――これって、まさか!?
俺は考える暇もなく、意識が遠ざかっていった。

「キョン、何やってるのよ」
俺が目を覚ますと、何故か地面に横たわっていて、そんな俺をハルヒと朝比奈
さんと長門が見下ろしていた。
「気がついたみたいでよかったですぅ」
「………」
「なに気絶してるのよ」
俺はゆっくりと起き上がって辺りを見渡すが、
「あれ……?」
心なしか、辺りの風景に違和感を覚える。
一見すると、先程と変わり映えない様子だが――と思っていると、
「ま、あたしたちも気絶していたみたいなんだけどね」
ハルヒは機嫌よさそうに軽くウィンクをして一言。
「それよりも、聞いてよ、キョン。何とあたしたち、朝方にタイムスリップしたみたい
なのよ!!」
……違和感の正体はこれか。
確かに俺の時計を見ると、登校時間は過ぎているものの、朝方と言っていい
時間帯だった。
普通の時計の時間も自然と現在居る時間に戻るんだな――と割とどうでもいい
ことを思ったが、そんな場合ではない。
「どういうことですか? 朝比奈さん」
ハルヒが調子に乗って色々な妄想を並べ立てている間に、俺は朝比奈さんに
小声で問い掛ける。すると、彼女は両手に頬を当てて、顔を真っ赤にして一言。
「……ダメ元で時間遡行の申請をしたら通っちゃいましたぁ」
あっさりと言いのけた彼女の言葉に、俺は思わず目眩を覚える。
こんな簡単に許可出していいんですか? 朝比奈さん(大)!

まあ、若干過去に戻ったとしても、このセキュリティが高そうな建物の中へ入ること
は厳しそうだ。
長門の力があれば何なく入れるが、それではハルヒに不信感を与えてしまう。
……よくよく考えてみると、この時間帯だと奴がフタナリでいる可能性は高く、俺と
してはそんな奴と遭遇するのは避けたいから、今のうちに諦めさせるのが最善だ。
折角過去に戻ったことだし、朝比奈さん側の『既定事項』を変更させない程度に
ハルヒの探求心が満たされる出来事を探せばいい。
さてはて、何があるかな――なんて思っていると、建物の中から誰かが出てきた。
容貌は普通の青年だが、『何か』違和感を覚えていると、
「あの、そこの建物の住民の方ですか?」
ハルヒがずうずうしくもその青年に話しかける。
ああ、そういえばこいつはこんな奴だった。
何やらその青年と会話をしているようだが、相手は終始穏やかな様子だ。
やがて会話が終わったのか、ハルヒは俺たちを手招きする。
俺たち三人が歩み寄ると、
「古泉くんのお友達の方々ですね。彼からお話は聞いていますよ」
その青年は、寸分違わぬ微笑みを浮かべて言葉を紡ぐ。
「生憎と彼が体調を崩して休んでいることは存じませんでしたが、お見舞いに来ら
れたのであれば、僕と一緒に入るといいでしょう。もし彼が眠っているのだとしたら、
彼のほうから鍵を開けることも出来ないでしょうから、管理人さんへ話を付けて鍵を
開けさせますね。ああ、大丈夫です。管理人さんも彼のことは良く存じていますし、
あなた方のお話も伺っていますから、ご安心を」
喜び勇んでついていくハルヒと朝比奈さんを余所に、俺はこの青年の、凄く説明的
な長台詞をすらすらと淀みなく言い切る姿に違和感を覚えた。
そもそも、午前中だというのに制服姿の人間が友達の見舞いに来ること自体、
普通の大人なら怪しむところだ。
――ならば普通の人間ではない?
俺ははっとして長門のほうへ向き直る。
すると長門は淡々とした口調で一言。
「情報統合思念体の許可を得て、一時的に『青年』を操作している。……管理人は
『機関』側の人間だから大丈夫。心配はない」
俺が別の方面で心配になったのは言うまでもない。

あれから、胡散臭い青年に導かれるまま建物の中に入った俺たちは、管理人さんと
話をつけているらしい様子を見ていた。
小声なのと早口なのが相まってうまく聞き取れないでいたが、
「話は終わりました。彼の部屋の扉前には監視カメラが付いていますから、あなた方が
辿り着いた時点で、管理人権限で鍵を開けるそうです」
そういう組織だから仕方がないとはいえ、一般的な視点から見ると物々しいというか
大げさ過ぎる。ハルヒも同じことを思ったのか、
「全く大げさよねえ。……まさかとは思うけど、部屋の中にまで監視カメラがあるとか
言わないわよね?」
歩きながらぶつくさ言い始めた。
「心配ございません。部屋主のプライベートは守られていますから」
まるでここの管理人のような口ぶりで青年は言い放つ。
おいおい、お前さんの設定はここの住民じゃなかったのか?
「こちらです」
青年に導かれるまま、階層が全く表示されないエレベータに乗ると、数秒も経たない
内に再び扉が開き、俺たちはエレベータから出た。
そして、少し廊下を歩いた先で、その青年は立ち止まり、俺たちへと向き直る。
「ここが彼の部屋になります。恐らく鍵は開いているでしょう」
青年に案内された扉前は、殺風景で表札すらない場所だった。
「何だかえらく無機質な内装よね。古泉くんの部屋も表札すらないし。集金避けかしら」
「集金避けってこたぁないだろ」
「じゃあ、なんだってのよ」
「さあな」
そして、気がついたら、俺たちを案内してくれた青年の姿は綺麗サッパリ消え去っていた。
「あら、お礼を言おうと思っていたのにいなくなったわ」
ハルヒは辺りを見渡すが、人の影一つ無いのを確認すると、
「まあ、いっか。言わなくても解るでしょ」
あっさりと案内してくれた青年の存在を切り捨て、扉のノブに手を伸ばす。
「おいおい、ベルは鳴らさないのか?」
いくら管理人さんが鍵を開けたからといって、勝手に入っては不法侵入だと思うが。
「あのね、キョン。古泉くんは我がSOS団の団員で、しかも副団長なのよ。団長にとって
SOS団員は家族も同様、だから、その家族の部屋には勝手に入っていいのよ」
いや、家族だからって勝手に部屋に入っていいものではないだろう。
それに、誰にだってプライバシーというものはある。
「んもう、仕方ないわね。ベル鳴らすわよ」
ハルヒはインターホンを一回押すが、特に何の反応も返って来ない。
「あら、やっぱり寝ているのかしら。中に入ってみないと」
おいおい、一回押しただけで決めるのかよ。
「だって、普段の古泉くんなら、一回だけで反応ありそうじゃない?」
まあ、それはそうなんだが……
「ずる休みしてTV見ながらおやつ食べてるわけじゃなさそうだし、ちゃちゃっと入るわよ」
結局、俺たちはハルヒに押し切られる形で古泉の部屋へ入っていった。
「建物同様、殺風景な部屋ねえ……」
俺たちが居る部屋は、流石に長門の部屋ほどではないものの、まるでTVドラマの
応接間セットのようないかにも作られた感があった。
「部屋に入っても古泉くんが出てくる様子ないから、本当に具合が悪くて寝ている
のかしら。だったらこのままここで待っていたほうがよさそうね」
不法侵入紛いのことをしておいて何を今更――と思ったが、俺としても眠っている
であろう人間の部屋に押し入る真似はしたくない。最も、寝ているフリをして俺たち
が帰るのを待っているのかもしれんが、それならそれで黙っておいたほうがいいだ
ろう。出来ることなら奴のフタナリな姿なんざ見たくはない。……本当だぞ?
一方、ハルヒが部屋を見渡しているのを余所に、長門は何やら呪文めいたものを
唱え始めた。同時に、心持ち部屋が暗くなっていく。
「……何やっているんだ?」
小声で問い掛けると、唱え終えた長門は俺に向き直り、
「古泉一樹がわたしたちの存在に気付く前にシールドを展開した。これで彼にわたし
たちの姿は見えない。恐らく気配も感じ取れないだろう。――涼宮ハルヒを除いて」
末恐ろしいことを言い始めた。
「……そういうのって勝手にやっていいのか?」
どう考えてもヤバめな感じはしたが、長門は淡々と一言。
「情報統合思念体の許可は得ている」
いや、だから、宇宙人側もこんな簡単に許可出すなよ!
しかし、『ハルヒを除いて』というのはどういうことだ?
そもそも、長門一人でシールド展開は出来ないのか? いや、そんな筈はないよな。
「うーむ」
俺が長門の発言に首を傾げていると、朝比奈さんが扉の前に屈み込んでいる。
「何してるんですか?」
俺は微動だにしない彼女の様子が気になって近付く。
何やら扉の隙間から中の様子を見ているようだが、俺の位置からは中の様子を
伺い知ることは出来ない。
「……静かに」
横から見た朝比奈さんの表情は真剣そのものだ。
部屋の中には一体何があるのだろう――
いつもとは違う彼女の様子に、俺はあることを失念したまま彼女の頭の上から
扉の隙間経由で中の様子を見る。
そこには、パジャマを着てはいるが、明らかに胸が膨らんでいる古泉の姿があった。

「………」
予測していたとはいえ、あんまりな姿に.唖然とするが、気を取り直して、
「何だ、起きてるじゃねえか。ここからだとフタナリかどうかは解らんから――」
奴に直接聞けばいいだろう、そう言いかけた瞬間、
「おチ○チンが盛り上がっていますから、フタナリ化していると思いますよぉ」
「ぶっ」
朝比奈さんの隠語発言に、俺は思わず吹き出してしまう。
それは露骨過ぎです、朝比奈さん。
「大声を出さないで。シールドを展開しているとはいえ、勘づかれる可能性がある」
いや、そんなことを言われてもだな。
「あーやっと椅子あったわ。ソファじゃ流石に持ち運び出来ないしね」
そんな中、ハルヒがどこからか椅子を持ってくる。
おい、長門。ハルヒのこの大声はいいのか?
「みくるちゃん、そっちどう?」
「えっと……何やら下に物を置いて、パジャマのズボンを刷り降ろしていますぅ。
そろそろだと思いますよぉ」
「ぶぶっ」
その可愛らしい声で実況中継は止めて下さい。俺の股間に響きます。
「あ、キョンくん。『そろそろ』と言うのはですね……」
いえ、話の流れで大体察していますから説明不要です。
「よいしょっと」
いつの間にか、ハルヒは朝比奈さんの後ろに椅子を置き、その上に足を組んで
座っていた。
……って、まてこら。俺たちはこれから奴がそのナニしてるところを覗くのか?
少なくても、俺は野郎がマスかいてる姿なんざ見たかねえぞ。
「ふぅん……男の人って同性のは見たくないものなのかしら。あたしは女の子の
オナニー姿も見たいと思うけど」
誰もお前の嗜好なんざ聞いちゃいねえ!
「ま、あんたなら見たくないって言うと思ったわ。はい、これ」
ハルヒは顔をニヤつかせてビデオカメラを俺に手渡す。
「おい……」
「録画よろしくね。見たくないなら視線は胸だけに集中していればいいから。でも、
ピントはちゃんと古泉くんの顔に合わせておいてね。ボカしたら承知しないわよ」
俺は心の中で頭を抱えながら、ビデオカメラのファインダー越しに、扉の隙間の
向こう側へ視線を向けた。


それにしても、同じその手の行為をやるにせよ、普通にベッドで横になってとか、
胡座をかいてとか、せめて扉に背を向けてくれれば助かったのだが、
「………」
俺がファインダー越しに見たものは――パジャマのボタンを全開にして二つの
胸の膨らみを露わにし、下着ごとズボンを膝下にまで刷り降ろして膝立ち状態で、
自分のモノに手を当てている古泉の姿だった。
奴の顔にレンズを向けると、何やら興奮した様子だったのでさくっと視点を床下に
降ろすと、何やらケースみたいなものが置かれている。
奴がやろうとしていることは全くもって解るのだが、もう少しオーソドックスな方法に
してくれとか、せめて俺が見ていないときにやってくれとか思わずにはいられない。
「……ん?」
そう言えば、先程から奴は辺りを見回してばかりいる。
まさか、俺たちの姿が見えるのか?
いや、見えるなら扉の隙間に気付く筈だから、辺りを見回す必要はない。
「おい、長門」
俺は傍らで立ったまま壁を見つめている――恐らく壁を透過しているのだろう――
長門に答えを促す。
「シールドは完璧。この扉の隙間も彼の目には閉まっているようにしか見えない。
また、彼にはわたしたちの存在は勿論、視線も感じ取ることは出来ないだろう。
――涼宮ハルヒを除いて」
それじゃあ、あいつが辺りを見回しているのは……
「五感以外の『何か』で、涼宮ハルヒの視線を感じ取っているからだと思われる」
何だか超能力者っぽいな――と思ったが、そう言えばあいつは超能力者だった。
「わたしの力で彼女の姿、情報統合思念体の力で彼女の気配を一時的に消す
ことは出来た。しかし、彼女の視線を完全に消すことは出来なかった。それだけ、
彼女の力は計り知れないものがある」
「………」
いや、確かにハルヒの力は凄いものなんだろうが、たかだか覗きをするがために
親玉の力まで借りるってのはどうなんだろう?
ハルヒの力の凄さと、実際にやっていることの落差で途方に暮れていると、
「何カメラから顔を離してるのよ。ちゃんと撮れてなかったら承知しないからね」
椅子に座って踏ん反り返っている超AV監督――じゃない、ハルヒにどやされた。

『ん……っ』
悩ましげな奴の声が、耳からではなく脳裏に鳴り響くような感覚で伝わる。
これも長門の力なんだろうな、と思いながら、ファインダー越しに奴の行為を
眺めていた。
『あ、あぁ……』
正直、最初はカメラに顔を近づけた状態のまま、目を瞑っているつもりだった。
だが、奴が右手で自分のモノを扱きながら左手で股間付近をまさぐる様子は、
日常では見られない光景なのと、興奮で頬を上気させながらその行為に夢中
になっている表情、そして脳全体に伝わってくる物欲しそうな喘ぎ声と相成って、
目を瞑ることが出来なくなっている。
「ねえ、キョン」
そして、奴が見せる淫らな光景と重なるように、背後からハルヒがささやく。
「男の人がああいう体勢でオナニーしている時って、何を望んでいるのかしら」
悩ましげな奴の声と、口調こそは穏やかだが突き刺さるようなハルヒの声が
相成って、何だか不思議な感覚に捕らわれた。
「床下にナニか置いてあるからには、そのナニかに自分の欲望を注ぎ込みた
いってことよね」
普通に考えたらそうなんだろう。それは否定出来ない。
「床にはナニが置かれているのか解る?」
ナニか? と問われても、俺の目には黒いケースみたいなものが見えるだけだ。
何か物を置くにせよ、普通は写真の類だよな、と思っていたが。
「アレね、ビデオテープよ。先日、撮ったばかりの」
よくこの距離から裸眼で見えるな……って、問題はそこじゃない。
あれが先日撮ったビデオテープだって?
「そうよ。……そこでクエスチョン。あの中に映っているのは誰かしら?」
誰って……奴を除いた俺たちSOS団四人だろ。
「馬鹿ね、違うでしょ。……そのビデオテープの映像を録画したのは誰?」
あ……ハルヒを除いた三人になるのか。
「でもね、その三人なら、ビデオテープを見ながらオナニーすれば済む話なのよ。
テレビのモニターにラップでも貼り付けておけば後始末にも困らないしね」
それじゃあ、つまり、奴は――
『あぁ……あ、あぁ……んっ』
俺がその事に気付いたと同時に、奴の喘ぎ声が一際大きくなる。
「これが終わったら、撮り直しをしないといけないわね、古泉くんのために」
そして、俺が居る方向から青白く細長い『何か』が勢いよく古泉に向かい、
縛り付ける――いや、奴を舐め回すように絡みついた。
おい、何だ? この青白い『何か』は。
例の《神人》と色合いは似ているが、それにしても細長すぎる。
傍目には青白い蛇というか触手というか何というか……紐か?
「……涼宮ハルヒの『視線』が具現化したものと思われる」
長門が壁に視線を向けたまま、俺にだけ聞こえる声で淡々と言葉を続ける。
「大丈夫、『何か』は古泉一樹を視姦しているに過ぎず、普通の人には見えない。
無論、朝比奈みくると涼宮ハルヒの二人にも。彼にしても、五感以外の『何か』で
存在を感知しているだけ」
視姦って穏やかじゃねえな……と今更ながら思うが、何で俺には見えるんだ?
「そのビデオカメラのファインダーを通して見えるようにしている」
……敢えて理由を問い質すのは止めておいた。

『はぁ……はぁ……』
青白い『何か』に絡まれている古泉は、さっきに比べて興奮の度合いを増していき、
見えない筈の青白い『何か』に虚ろな視線を泳がせる。
困ったことに、奴の情欲に釣られたのだろうか、俺の股間も熱を帯びてきていた。
『あ、あぁ……んっ』
一体全体、何たって俺は、フタナリとはいえ、胸さえなければどう見ても男にしか
見えない奴が自分のモノを扱いている姿に欲情しているんだろう。
どれだけ悩めかしい表情をしていても、どんなに淫らがましくても、俺と同じモノが
付いている限り、奴は男なんだ。
「………」
俺は少しでも興奮を抑える為、淫らがましい顔ではなく、弾力性がある乳房や
ツンと立ったまま放置されている乳首でもなく、敢えて自分と同じモノが付いている
であろう下腹部に目線を移す。
『んぁ……あぁっ』
だが、俺の目は、自分自身と同じモノを持った右手ではなく、不器用に、慣れない
手つきで股の下をまさぐっている左手だった。
そして、奴が左手で触っている場所は、奴自身の体の真下に当たるから、俺の場所
からはどう足掻いても見えない。
『はぁ……んぁ……っ』
本当に、何だって俺は、野郎のこんな行為を真剣に見ているんだろう。
とっととファインダーから顔を離すか、それが出来ないのなら目を瞑ればいい筈なのに、
体が、顔が、奴から目を逸らすことを拒否していた。
内から湧き出る情欲に苛立ちを感じながら、古泉をファインダー越しに見つめていると、
絶頂を迎える間際なのか、モノを扱いている手の動きが速くなる。
『あぁ……っ!』
そして奴は体全体を震わせると、右手で支えているモノの先端から、白い液体が
物凄い勢いで床下に置いてあるビデオテープへと注ぎ込まれ、左手は愛液が滲み出る。
『うぅっ……あぅっ!』
奴の放出は中々終わらず、更に何度か床下に流れ出て、ビデオテープを汚していった。
同時に、事の終わりを告げるかのように、青白い『何か』はすっと消え去っていく。
『はぁ……はぁ……』
奴は興奮が冷め止まないのか、潤んだ目を床下に向け、口をだらしなく半開きにして
放心状態になっている。右手には出し尽くして縮んでいくモノを掴んだままだ。
そして、長門が展開していたシールドが解除されたのだろう、心なしか部屋が明るく
なったような気がする。
「キョン、録画止めていいわよ。ついでにテープを入れ替えておいて」
その声に呼応するかのように、奴は驚愕した表情を見せ、俺を――いや、少しだけ
開いている扉の隙間越しに居る『誰か』に視線を向けた。
「……さて、色々と聞かないとね」
停止ボタンは押したものの、ファインダー越しに映る古泉から目を離せないでいると、
ハルヒは俺の横を通り過ぎて豪快に扉を開けて言い放った。
「随分と沢山出したのね、古泉くん」
恐らく奴は、シールドが解除されたと同時に、ここに居る『誰か』の存在を感知したの
だろう。だが、まさかこんな時間帯に、しかも自分に気付かれずに、ハルヒがここに
居るとは夢にも思わなかったに違いない。
「でも、体調を崩して休んだのに、激しい運動をしていいのかしら?」
古泉は膝立ち状態のまま、愕然とした表情でハルヒを見ていた。