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「古泉さん!」
機関での定期報告を終え、帰り支度を整えていると後ろから声を掛けられた。
この幼い声は……彼だ。
僕は心持ち緊張して振り返る。案の定そこには明るい表情を浮かべた年下の少年が居た。
「折角会えると思ったのに、さっさと帰ろうなんて寂しいですよ!」
元から年が近いせいかそれなりに話してはいたが、
どうやらあの一件で更に懐かれたらしい。
あの一件と言うのは――その……彼の目の前で僕が達してしまった件だ。
以来、彼は僕に会う度に嬉しそうに寄って来る。
僕としても人に好意を寄せられるのは嫌ではない。
だけど。
「古泉さん、今日も良い匂いですね」
擦り寄ってきた彼に間近で匂いを嗅がれ、僕は思わず赤面してしまう。
涼宮さんのイメージを保つべく、色々気を使ってはいるけれど
汗とか臭っていたらどうしよう。
「大丈夫ですよ? 古泉さんあんまり体臭とか無さそうですし。この前のも全然でしたよ」
……この前? それが何を指しているのか、聞き流せば良かったのについ聞いてしまう。
彼も一瞬きょとんとしながら、でも直ぐに笑みを浮かべて言った。
「古泉さんのせーえ……」
言いかけた彼の口を思わず手で塞ぐ。いきなり何を言い出すんですかっ!
突如口を塞がれた彼は、それでももごもごと唇を動かす。今度は何を言い出すのかと手を離せば。
「良いじゃないですか。本当の事ですし」
全然良く有りません。恥ずかしいじゃないですか。
「でもそういうの好きでしょう?」
僕は絶句してしまう。好きってそんな。いやまさか。
「こうやって言うだけで、古泉さん顔真っ赤ですよ? ……思い出しちゃいます?」
確かに今の僕の顔は赤いんだろう。彼の言葉で体温が上がっていくのが解る。
でもこれでまた流されるなんて、そんな事だけはっ。
「思い出しませんよ!」
自分に言い聞かせるかのように言い切って。
ぷいっと他所を向くと彼が困ったようにくっついてきた。
「ああ、ごめんなさい、拗ねないで下さいよ」
拗ねてなんかいません。謝りながら僕の体に腕を回してくる彼に言う。
体格の違いからか、腕を回すと言うよりしがみ付くに近い。
そんな彼の様子はやはり幼げでどこか微笑ましい。こうなると僕も強くは言えなくて。
「ほんとに拗ねていませんから」
苦笑しつつよしよしと頭を撫でてやると、彼は嬉しそうに笑い、ぎゅっと抱きついて僕の胸元へ顔を埋めた。
そこまでは良い。スキンシップとして許される範囲に違いない。違いないけど。
くんくんと匂いを嗅ぎながら、薄いシャツ越しに胸元を弄られると非常に心臓に悪い訳なんですが……。
「古泉さん?」
身を硬くした僕に気付いたのか、彼が顔を離して見上げてくる。
その顔に他意は感じられない。多分。やっぱり僕の方がおかしいのかも知れない。
「どうしたんです?」
不思議そうに彼が問う。本当に僕はどうしたんだろう。これくらいどうって事ないはずで。
果たしてどう答えるべきか。軽く火照った顔を必死に冷まさせながら僕は次の言葉を探していた――。