平成14年憲法第2問

以下の各訴えについて、裁判所は司法権を行使することができるか。

1 国会で今制定されようとしているA法律は明らかに違憲であるとして、成立前に無効の宣言をするよう求める訴え。
2 B宗教の教義は明らかに憲法第13条の個人の尊重に反しているとして、その違憲確認を求めてC宗教の信徒らが提起した訴え。
3 自衛隊は憲法9条に違反する無効な存在であるとして、国に対して自己の納税分中自衛隊に支出した額の返還を請求する訴え。


1
 本問の1から3の訴えにおいては、司法権の行使の可否が問題となっている。
そこで、まず、司法権行使の要件について検討する。
2
 思うに、司法権とは、具体的紛争に法を解釈適用してこれを解決する国家作用を言う。
 司法権が、国家権力を異なる機関に分属させ相互に抑制均衡を図ることにより、国家権力の濫用を防止し、もって国民の人権保護を図る三権分立(41条、65条、76条)の一場面であることから、かく解するのが妥当である。
 裁判所が、具体的紛争もないのに、違憲審査権(81条)等の司法権の行使ができるとすると、裁判所に消極的立法を認める結果となって国会の立法権(41条)を制約するからである。
3
 司法権がかかる内容のものであることからすれば、司法権行使の要件は、①当事者間の権利義務の存否にかかわる具体的な紛争が存在すること(事件性の要件)、②法の解釈適用で終局的に解決可能であること(法律上の争訴性)が必要である。
4
 以下、1から3の各訴えにつき、①②の要件を満たすか否か検討する。
二 1の訴え
1
 本問ではA法律への違憲審査権(81条)の行使が問題となるが、違憲審査権も司法権の一内容であり、前述の①②の要件を満たす必要がある。
2
 この点、A法律は成立前であり、①当事者間の権利義務の存否にかかわる具体的な紛争は存しない。
3
 よって、裁判所は、司法権を行使することができない。
三 2の訴え
1
 本問の訴えには、①B宗教の信徒とC宗教の信徒との間に権利義務の存否にかかわる具体的な紛争が生じていないので、事件性の要件を欠く。
 よって、裁判所は司法権を行使できない。
2
 また、本問の訴えは、B宗教の協議の内容が憲法13条に反するかどうかという、宗教の教義のないようそのものについてのものである。
 およそ、宗教の教義のないようそのものについての紛争は、②法の解釈適用で終局的に解決できるものではない。
3
 したがって、裁判所は司法権を行使することができない。
四 3の訴え
1
 ①本問の訴えは、税金の返還という権利義務にかかわる具体的な紛争が存在する。
 また、②自衛隊法が違憲無効かどうかという法の解釈適用により終局的に解決できるものである。
2
 もっとも、自衛隊法が違憲無効かどうかは、国家の統治の基本に関する高度に政治的な事項である。
 かかる統治行為については、非民主機関である裁判所は司法権を行使することができない(内在的制約)。
 政治機関たる国会、ひいては国民の自立的意思決定によらしめるべきだからである。
3
 従って、裁判所は司法権を行使できない。
最終更新:2009年07月01日 12:51
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