恋の危機~春香の涙


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146 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/03(土) 17:32:57.57 ID:QUfxf/qu0
盛り上がってきたスレを盛り下げることに定評のある
番外編

俺と春香は喫茶店で向き合って座っている。重い空気に押しつぶされそうだ。
何か言葉を発してこの空気を打開したい。しかし、何を言えばいいのか皆目見当がつかない。
ただ、黙っている。春香は膝に乗せた小さなかばんのベルトを握ってうつむいている。

小さな店だ。薄暗い店内の奥の席にはカップルがいて静かに何か話している。
その手前の席では、ポロシャツ姿の若い男性がカタカタとノートパソコンをいじっている。
店内に流れるソニー・ロリンズの「You don't know what love is」・・・
その全てがやかましく、なのに却って静寂を助長した。

俺は春香の顔を見ることもできず、顔を右に向けて大きな窓の外を見た。
いい天気だ。楽しい日曜日を満喫するように、誰もが笑顔で通り過ぎる。
チカチカと点滅する信号に、子供たちはいっせいに走り出す・・・

「アイスコーヒーふたつ、お持ちしました」
店員は気兼ねするように静かに告げて、俺と春香の間にコーヒーを並べる。
窓を隔てた店の中と外に、別の世界が広がっている。

俺たちは、別れ話をするために、ここに来た。



148 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/03(土) 17:39:40.00 ID:QUfxf/qu0
些細なきっかけだったはずだ。思い出せないほどに些細なきっかけだ。
きっとお互いイライラしていたのだろう。ちょっとした口論が大喧嘩に発展した。
春香はボロボロと泣きながら大声で俺を罵った。俺もかっとなって反論した。
春香は俺のことを嫌いと言った。それから一週間連絡を取らなかった。
このままではよくないと思って、けじめをつけるために春香を呼び出したのだ。

春香は意地っ張りなところがあるし、それは俺も同じだ。
理屈は俺のほうが正しいはず。春香が謝るまで俺は謝らない・・・
いつの間にか後に退けなくなってしまった。

春香は無言のままストローを袋から取り出し、コーヒーにミルクを入れてかき混ぜた。
カラカラと綺麗な音がやけに大きく聴こえる。黒い液体に白い筋が広がり、あっという間に混ざり合う。

コーヒーとミルクは混ぜてしまえばもう分離しない。
そんなコーヒーを挟んで、俺たちは今別れようとしている。
あんなに愛し合っていたと思った俺たちの絆は、ミルクコーヒーより脆かった。
すれ違い絡み合った二人の糸は、コーヒーに浮いて融けていく氷のように、二度と元には戻らない。
何もしていないのが苦痛で、俺もコーヒーにストローを挿した。
いつもは入れるミルクを、今日は入れる気がしなかった。



152 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/03(土) 17:44:45.93 ID:QUfxf/qu0
春香はコーヒーを飲んで少し顔をしかめる。
いつもはパフェなどの甘いお菓子を注文する春香だが、今日は重い空気を読んでかコーヒーを頼んだ。
春香には少し苦かったようだ。春香は横にあるシロップに手を伸ばしかけて、止めた。

(回想)
春香「シロップは入れないの?」
俺「うん、コーヒーの味が曖昧になる気がして」
春香「ふーん。ミルクは入れるのに?」
俺「ミルクは味がまろやかになるんよね」

春香はまたコーヒーを飲んで顔をしかめた。
俺はその様子を見て、少し顔を緩めた。
春香は俺を見る。今日初めてはっきり目と目が合う。
春香はあからさまに不機嫌そうな顔をした。



153 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/03(土) 17:49:27.30 ID:QUfxf/qu0
何か言わないと・・・俺は緊張からあっという間にコーヒーを飲み干した。
春香のコップにはまだだいぶ残っている。

言葉を発すれば俺たちは終わる。
このままずっと黙っていれば、春香と別れなくていいのではないか・・・
二人は牽制するように無言を通したが、俺の心臓の鼓動はいっそう激しさを増す。
俺は意を決して、搾り出すように声を発した。声が震えているのが我ながら滑稽だった。
「・・・今度は、幸せな恋、してね」

春香は何も言わない。ただうつむいて、全身を硬直させた。
泣き顔は見たくなかった。また春香がいとおしくなる。
俺は伝票を手にとって立ち上がった。
「元気で、ね」

重苦しい空気の中、俺は席を立って会計を済ませる。
レジの音が静寂の中で無遠慮に響く。不快だった。

扉をあけると、カランカランという音とともに、明るい日差しが照りつける。
街路樹の緑は青い空を背景にして暑そうにきらめきながら、さらさらと涼しげな風に揺れている。
もうすぐ夏、だな・・・
俺は重い足取りで喫茶店から出た。



154 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/03(土) 17:54:00.89 ID:QUfxf/qu0
あれでよかったんだ。
春香は、可愛くて優しくて・・・きっとすぐに素敵な人が現れる。
俺は・・・当分は独りでいたい気分だった。大好きな夏が来ることすら不快だった。
足取りがますます重くなる。すれ違う人たちの楽しそうな声がうっとうしくて、俺は小さな路地に入った。

俺の背中に何かがぶつかる。いや、しがみついたのだ。
俺はぴたりと足を止めた。泣いている・・・春香だ。

「幸せな恋・・・しようよ」

俺は馬鹿だ。
春香はまだ高校生。子供じゃないか。
それが夏奈ちゃんや千秋ちゃんの親代わりまでしてて・・・
俺は年上なのに、俺に甘える春香を大人気なく突き放してしまったのだ。
不意に涙があふれた。壊れた蛇口のように、あふれて止まらない。



157 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします。 :2008/05/03(土) 17:58:46.06 ID:QUfxf/qu0
俺は身を翻して春香を抱きしめた。強く、強く。そして声を上げて泣いた。自分が情けなかった。
腰の力が抜けて、かくりと膝をつく。
もちろん得意のイケメンスマイルを炸裂させる余裕はない。

春香は俺の髪を優しく撫でて、涙声で、しかしはっきりとこう言った。
「楽しいこと、いっぱいしよう。」

俺が春香に告白したときの台詞だ。
春香は涙にまみれた顔で俺の目をまっすぐに見て、にっこりと笑った。

初夏の日差しが二人に降り注ぐ。
俺は心から春香を尊敬し、また感謝した。
生涯をかけて春香を愛そう。命をかけて春香の幸せを守ろう。そう誓った。

過去最高に薄ら寒い番外 南春香編 終了


~~inspired by...さだまさし(歌)「第三者」~~
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