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「乾早くっ!早くしないとお姉さまの純潔が散らされちゃうよ!」
「分かってるって!…ええ、ですから本当に18歳超えてますから」

 ホテル『アクエリオン』のフロントにてオレ、乾一は連れ、一口夕利に対し物凄く不審気な目を向け
る、係のオバちゃんと少々問答をした末、 ようやく部屋の鍵を手に入れた。
 ――…一口、後で半分休憩料金払えよ。
 部屋ナンバーは、『一万年とと二千年前からアイシテル』号室。
 そしてその隣は『八千年を超えたころから以下略』号室。
「はあ、はあ…ここに入ってっちゃったんだ…お姉さま」
 『八千年を超えたころから以下略』号室の扉の前で、一口は息を切らしながら呟いた。

 そう、この部屋の中には――。
 オレと、コイツの好きな人と、あの男が居るんだ。

*    
 話は少し前に遡る。
 あの人…オレと一口の憧れの女(ひと)百手矢射子先輩と、同級生、阿久津宏海が付き合いだしたの
は、先輩が卒業して間もない頃だった。

 オレたち(というか一口)は彼女の気持ちが阿久津に一途に向けられていた事を知っていたが、問題
は阿久津である。
 『見た目に似合わず状況に流される性質である(一口:談)あの男が、本当に矢射子先輩の事が好き
なのか分かったもんじゃない!』
 との理由で二人のデートをこっそり付け回すようになって、今回で早五回目。
 相変わらず、二人の間は近いんだか遠いんだか分からなくて。
 かと言って、オレたちが口出しをして何が変わるんだろうと心に迷いが生じ始めた、そんな時だった。

 ――ぽつん。アスファルトを小さく叩く、水音。

『え…雨?』映画のパンフレットを抱えた先輩が空を見上げる。
 つられて、阿久津と、路地一つ向こうの電信柱の影で様子を見ていたオレたちも空を見上げた。
 ぱらたたたたっ。途端に顔に大粒の雨の滴が顔にかかる。
「やだっ。いつの間にか曇っちゃったんだ」
 傍の一口が自分の頭を押さえながら困惑顔になる。
 目の前の二人も、おそらくそんな会話をしているのだろう。
 どんどん強まる雨の中を二人は手を繋ぎ、走り出した。
 阿久津はちゃんと先輩に自分のジャケットをかぶせて――まあ、この辺は当然だよn「ちょっと乾!!
何ボーっとしてんの!?」
 はっと気付くと、一口が、オレの一つ括りにした後ろ髪を引っ張り怒鳴っていた。
 イデデ。それ取っ手じゃないんスけど。
「追うよ!」
「お…おう!」
 後ろ髪を押さえながら、二人の後に付いて走る。途中一口がぼそっと「さぶっ」と口にしたような気
がするが、多分気のせいだ。

「ほらっ、さっきあの路地に入ってったから!」
「ああ――って、この辺…」
 一口に促されるまま脚を踏み入れた小道に、オレは目を疑った。
 あちこちに散見する『ご休憩****円・宿泊****円』の文字。
 時間はまだ暗くなる前だったので、あの夜目に不健全なネオンは鳴りを潜めていたが…ここは…。
 ラブホ街じゃないか。
 いや、何の不自然もない。(高校生がラブホテルに立ち寄るのは不自然だが)
 恋人同士がデートの末に一線を越えることは…あっても不思議ではないのかも。

 だが、相手があのひとなら話は別だ。
 特に、傍らの小さな連れにしてみれば。

「ふ…ふしだらだわっ!あの男、雨に乗じてお姉さまにツッコミ三昧だなんてっ!!」
 一口の頭から蒸気が昇る。もうすっかり濡れ鼠だがお構いなしだ。
 何を想像しているかなど、問うまでもないだろう。

 二人はそんなオレたちの事など知らぬまま、一軒のラブホテルの前でしばらく会話した後――…えっ、
矢射子先輩が引っ張ってったよ。
「い…一口…」
「ますます許せない!普通ああいうのって男がリードするモンじゃないの!?何女の子に恥ずかしいこと
させてんの!?」
 どっちやねん。いや、それより。
「そうじゃないだろ。どーすんだよ一口、いくらオレたちだってホテルの中まで…」
「もちろん追うに決まってんじゃない!」
「そうだよなー。オレもそろそろ不毛だって…ええっ!?」
「何よ、諦める気?」
 ぎろり、目の据わった一口がオレを睨む。
 何が彼女を駆り立てるのか。プティ・スールのポの字も分からないオレにはさっぱりだ。
「乾が行かないなら、あたし一人でも行くんだから!」
「わあっ!!待て待てっ!」
 さすがにそれは無謀すぎる。
 いくら4月に18歳になったとはいえ、コイツはどう見ても○学生高学年がいいとこの外見しかもって
ないのだから、門前払いがオチである。

「ええいわかったよ、オレも行くから早まるな!」

*      
 なりゆきだ。なりゆきじゃなかったら漫画によくある御都合展開だ。
 きっと最後のページには『俺達の戦いはまだ始まったばかりだ!』とか、ミカンの絵が描かれてたり
するんだ。あれ?それって打ち切りじゃね?
「一人で何ブツブツ言ってんの?乾」
「へあっ!?オレ何か言ってた?」
「何かプリンセスがどうとかって…それより黙っててよ。お姉さまの声が聞こえないじゃない」
 言いながら一口は濡れた服もそのままに、壁におそらく備え付けであろうコップを押し付け隣の音に
集中している。
 白いシャツの下からかすかに透ける水色のキャミソールにオレは少々居心地の悪さを感じていた。
「…風邪ひくぞ」
 オレはバスルームからタオルを数枚拝借し、一口に向け放り投げた。返事は無い。期待してないけど。
 ついでに、服を乾かすハンガーを借りようとクロゼットを開ける。

  ――が。

「ぶっ」
 中を見て慌ててドアを閉めた。
 ――クローゼットにあったのは、おそらくオプションであろう、ボンテージ衣装と九尾鞭をはじめと
する数々のSM小道具だった。
 こ…これ、隣の部屋にもあんのかな。
 クロゼットの扉を押さえつつも、激しい動悸と妄想が止まらない。


  ――艶やかな黒革の衣装に身を包んだ、はちきれんばかりの先輩の肢体。
『ほら、何が欲しいの?』
 鞭の先端がゆっくり空気を撫で、触れるか触れないかギリギリの快楽が背中を走る。
 …けれど答えられない。口に噛まされたギャグボールが、人の言葉を喋らせてくれない。

 そこに居るのは、一匹の忠実な獣。
 ヨダレと荒い息を漏らしながら、血を流しそうな位痛い主の愛を待つ、哀れで卑しい畜生の姿だ。

 そして主はそんな畜生を見下ろしながら、ゆっくりと笑みを湛えこう言うだろう。
『いい子ね…愛してるわ。――宏海』


「すないぱぅっ!?」
 畜生の図が、妄想のオレから阿久津の姿に変わった瞬間、オレは弾かれたようにクロゼットから離れ、
一口の隣で壁にへばりついた。
「い、乾?急にどうしたの?」
 唖然とした表情で一口が問う。だがそれに答える余裕など今のオレにはない。
「…許せねえ」
「?」
 そうだ。矢射子先輩が阿久津の彼女になったって事は――あの爪先から脳天まで快楽が駆け抜ける、
先輩の愛のムチを、アイツが独占しちまうって事だ。
 そんなの。
 そんなの、許せるかよ。
「ヘンジン!」
「きゃっ!」
 装着した首輪のバックルを回し、辺りが光に包まれる。
 その隙にオレは、サイボーグ乾へと姿を変え(断じて、着替えではない)た。
「キモっ」近くで声が聞こえた気がするが、気のせいである。
「…待っててください矢射子先輩。貴女の愛のムチを受けるのは…このオレだぁーーーーっ!!!!!!」
「乾!?」
 一口の声もおかまいなしにオレは壁に向け、拳を放つ。
 サイボーグ乾と化したオレのパワーは通常の約7倍。
 それ位あれば、ラブホテルの壁などやすやすと壊せるだろう。

 …が、壁に拳が当たる直前、オレは動きを止めてしまった。
 犬の聴力は約16倍。
 ――それにより聞こえる会話が、犬型サイボーグであるオレの耳にも届いてしまったのだ。

*    
 キィ…。

 ガラス戸――おそらくシャワールームの扉が開く音がした。
『宏海』どきん。矢射子先輩の声だ、隣の部屋に居るオレの鼓動が高鳴る。
『おう、体あったまったか。こっちも服干しといたか…ぶえっくしゅん!!』
『あ…ご、ごめんっ、宏海の方が体冷えてたのに』
『構わねえよ。
風邪引きゃテキトーにサボれる口実が出来るからな。アイツらのお守りより、そっちの方が楽だ』
 ずびずびと鼻をかみながら、阿久津が返す。
『それより、服乾くまでシーツ被っててくんねえか?――その、目のやり場に困る』
『えっ…っ!!』
 先輩が息を呑み、ぎこちない衣擦れ音――おそらくはベッドシーツを身に纏っているのだろう――が
した後、微妙な沈黙が二人を包んだ。
 困るって言っている割に、少し落ち着いてる風な阿久津の口調が、なんだかムカついた。
『ごめんね、宏海…迷惑だったでしょ?』
『あ?』
『…雨だからって、急にこんなところ連れ込んで…軽蔑したよね。女の子なのに』
『…また反省してたのか。やけにシャワー長いと思ってたが』
『だって…』先輩の声が、涙声に変わっていく。
 ――…壁をブチ壊すなら今か?オレは右手に作った握り拳に力を込める。
 一口も眉間に皺を寄せ、壁の向こうを睨んでいた――その時。

 ぎしり。

 ベッドのスプリングが軋む。無論、向こうの部屋のだ。
『……!』
『泣き止んだか』
『こ、ここ宏海、今のって…』
『…好きな女にじゃなきゃ、しねえよ』
 キス、だ。目に見ることは出来なくとも、オレも一口も確信していた。
『こっちこそ、ごめんな。アンタには告白の時からリード取られっぱなしでさ。
そういうの気にする方だってのも知ってんのに…本当、情けねえ』
『そんなの…情けなくなんか、ないよ。だってあたしはそう言って人の事を思ってくれる宏海を見てた
から…大事にしてくれる宏海がっ、すっすすすすす…』
 …先輩、言えてません。


 ことん。

 突然近くで音がした。
 隣の様子を伺うのに夢中になっていたオレは、音の正体に気付くのに少し時間が掛かった。
「乾、もう聞くのやめよ」
 音の正体は、一口が置いたコップだった。
「…一口?」
「もう、これ以上聞くの辛くなってきちゃったよ…。ゴメン乾、あたしもう帰るね」
「えっ…あっ、待てよそう言えば休憩代…」
 半分出して貰ってないぞ。一口の腕を掴み、言いかけてオレは言葉を止めた。
  ――…一口は、大きな目一杯に涙を溜めて、必死に泣くのを堪えていた。
「バカ…なんで顔見んのよ。空気読んでよバカ犬…うっ、く…」

 わああああああん。

 腕を掴まれたまま一口はその場にへたり込み、大声で泣き出した。
「な、泣くなよおい…」

 こういう時どうすればいいんだ。

 オレは自分の胸の痛みを吐き出そうにも吐き出せないまま、豪快な子供泣きをする一口の前に同じよ
うに座り込んだ。
 小さく結った一口の前髪が、しゃくり上げる度にぴこぴこと揺れる。
 本当、子供みたいだな。そう思ってオレは子供をあやすように一口の頭にそっと手を置いた。――が。

 バキィッ!!「そのキモい格好のまま触んなーーーーーーっ!!!!!!!!」

 ええーーーーーっ!!!?これなんてリバーサルアタック!?
 マスクをしたままの顎にギャラクティカマグナムを喰らい、横向きに吹っ飛びながらオレは心でツッ
コんだのだった。

*      
「…これでも飲んで落ち着けよ」

 備え付けの冷蔵庫から缶ジュースを出し、ベッドの上に座った一口に向けて放る。
 缶は放物線を描きつつ、顔を両手で押さえながら泣き続ける一口の横にぼすん、と音立てて着地した。

「まだ雨は止んでないみたいだから、止んでから出ようぜ。
この辺ホントに雨宿りできる建物無かったし、オレたちまで風邪引いたら、怪しまれちまう」

 窓の外は、まだ大粒の雨で白くけぶっている。
 今の季節にありがちな夕立かと思っていたが、どうも少し違うみたいだった。
「…随分、余裕だね乾…」
 ぐしゅっ、と鼻をすすりながら一口が呟いた。
 余裕なんかじゃねーよ。手に持ったミネラルウォーターの蓋を開けながら返す。
 本当のことだ。
「そりゃ泣けるなら、泣いてるよ。…けど何でか知んねーけど、涙が出ないんだ」
「…冷めたの?」
「違う」
 即答に、心なしか一口は小さく身をこわばらせたようだった。…キツイ言い方だったかな。

「けど、矢射子先輩のこと、オレはどの位考えてたかなーって思ってさ。オレが矢射子先輩に求める
ばかりで、矢射子先輩が何を求めていたか、何を欲しがっているかをオレはずっと気付けなくて…だ
から駄目だったのかな、なんて思ってた」

 あたしはずっと気付いてたよ。プルタブを開けつつ、一口は答えた。
「でもしょうがないじゃない。お姉さま以外に好きになれる人がいなかったんだもん。確率がどんなに
低くたって、諦められなかったんだもん」

 それは、オレも同じだ。言葉を水と一緒に喉の奥に流し込み、オレは一口の横に座った。
 ――今日が雨でよかった。風にあおられ、激しく窓を打つ雨の音に、オレは少しだけ感謝した。

「…乾」
「ん?」
「…ありがとね。あんたはバカだけど、今日は近くに居てくれて良かったって思うよ」
「一言余計だ。まあ、オレも思ってるよ。――一人だけだったら、耐えられなかったかも」
 互いに顔も見合さず、壁に向かって続ける会話。けれど、けっして空しいものではない。
 それはきっと、隣がコイツだからだろう。
 先輩に対する想いを互いに知り尽くし、語り合える。
 ライバルというよりはむしろ戦友のような、小さな――…大切な存在。

「んふふ」突然一口が笑い出したので、一瞬心を読まれたかとオレの心臓がはねた。
「な、何だよ急に」
「だって乾黙り込んじゃうから何だかおかしくて」
「はあ?」

 そーゆーキャラじゃないじゃーん。

 自分のセリフがツボにはまったのか、一口の笑い声はさらにボルテージを上げ、ついにはベッドに倒
れ込み、足をバタバタさせながら笑い出した。
 …って、ちょっと待て!
「こ、コラ!見えるぞ一口!!」
 あとベッドにジュースをぶち撒けそうだったので、慌てて缶を取り上げる。
「いいじゃーん別にぃ。減るもんじゃないし」
 それは見られる側のセリフじゃない。
 ニーソックスと膝上プリーツスカートの絶対領域奥に見えそうなモノの存在に、オレはやきもき――
はしたなさに対する困惑だ。欲情では、断じてない――しつつ、この状態は変だと頭の中で思い始めて
いた。
「一口、一体どうしたん…げっ」
 嫌な予感に、さっきまで一口が飲んでいたジュースの缶に目をやり、オレは絶句した。
 そこには、割と大きな字で「これはお酒です」と書かれている。

 …言うまでもないが、お酒はハタチになってから、だ。

*      
「いっ、一口おまっ…これ知ってて飲んだな!?」

 オレの言葉に一口がにへらっ、と笑う。
 渡してしまったのはオレのミスだが、気付いていながら飲んだのなら、タチが悪い。
「だぁって、18歳はオトナだもーん。パチンコ屋もレンタルビデオのAVコーナーも、某エロパロ板に
だって行けるんだもんねー」
 いや…あれ?そうだっけ?最後のが近頃変わったってのは聞いたことあるが。
 いや、なぜ知ってるかなんて聞いてほしくはないが。
「とにかく、水飲めよ。お前それは酔っ払いすぎだろ」

 ひったくったチューハイの代わりに、オレが今まで飲んでた水を渡すと、一口は赤く染まった頬を更
に真っ赤に染め、間接キスさせようとしてるの?と尋ねてきた。

「なっ…!」
「なーんてね。冗談だよ。大体乾にそんな気無いの知ってるし。あたしも範囲外だし」
 とんだ肩透かしである。――…いや、実際そうだけどさ。
「でもさ…あたしだって、そういうコト、出来るんだよ…?」
 ちゃぽん。ペットボトルから口を離し、一口が呟く。
 水に濡れた唇に不覚にも胸が高鳴ったが、これはさっきのセリフのせいだ。
「ど、どうい…」
「なのにお姉さまったらあんな不自然な髪の色したシスコン野郎なんかにーーーーーーーっ!!!!!!」
 …やっぱりそっちか。
 再び足をバタバタしだした一口を尻目に、オレは既に空だった缶を手に、くずかごを探していた。
 こういうのって分別すんのかな。でもこの部屋一つしかくずかご無いよなあ。
「いーぬーいー」
「…なんだよ」

 今度は受け流すぞ。と心に決めて、一口の呼びかけに愛想無く返す――が、その意思は、
「ね、おちんちん貸して」
 という、水爆発言によりもろくも崩れ去ってしまったのだった。


 Jack has a bat and two balls.


「…べ」
「べ?」
「べぇーすーぼぉーるはえすえすけー♪」
「…もしもし?」
 もしもーしと呼びかけながら目前でひらひらさせる一口の掌により、オレの意識がもどる。
 …いけねえ。一瞬なつかしCMの世界に飛んでたらしい。
 オレは大きく頭を振り、今なんて言った?と一口に向け問い直した。
「乾のおちん「わーっ!!やっぱ言うな!女の子が!」
 この手のセリフは、冷静に喋れば喋るほど相手が恥ずかしく感じるものであり、今もその例に漏れな
かった。
「乾、首まで真っ赤だよ」
「オマエ恥ずかしくないのかよ」
「…恥ずかしくないと思ってんの?」
 心外だと言わんばかりに一口が眉間に皺を寄せる。
「や…だったらそんな突拍子も無い事言うなよ…」
「突拍子無くないもん。――…あたし、前にお姉さまが男の姿になったときに思ったの。ああ、あたし
お姉さまが相手なら、男でも女でも構わない…ううん、今だったらいっそ、あたしが男になるのだって
構わないって」

 そんな時あったっけ?矢射子先輩がやたら体格良かった時の事か?混乱した頭の中で、必死に過去の
記憶を掘り返す。
「でも、あたしが男になるにしたって、男のカラダを知ってなくちゃ駄目じゃない?だから、乾のおち
「ぬわあああああああっ!!!!!」

 それは突拍子無いとは言わないのか?いや、酒が入った人間の論理ってこういうもんなのか?

「だ、大体だな…ぜぇぜぇ…そんな事言われたってオレに何の得があるんだよ」
 喉痛ぇ…。吉田A作ばり(※例えが古いのは仕様です)の絶叫のし過ぎでひりつく喉を押さえつつ、
オレはまだ顔の赤い一口に問う。
「あたしの見てもいいよ?」
「オレはロリコン趣味じゃない」
 即答だ。ついでに言えば断言だ。一口はあからさまにムっとした顔になったが、これは譲れない。
「マゾの癖――そうだね」
 言いかけて何か思いついたのか、一口が悪戯を思い浮かべた子供のようにニヤリと笑みを作った。

 ぞくっ。

 オレの背筋に悪寒が走る。ベッドの上でにじり寄ろうとする一口に対し、自然と腰が引けてしまう。
「な、何だよ…」
「乾は、お願いなんかじゃ人の言うこと聞いてくんないんだよね。…じゃあ」
 それまで肩にかけていたタオルを手に持ち、さらに迫ろうとする一口。
 そしてオレはベッドボードに背を押し付けつつ、これから何が起きようとしているのか――きっと、
本能で気付いていた。
 一口の、次の言葉には、逆らえない。何故ならば。

「乾――これは『命令』よ。あたしの玩具になりなさい」


 何故ならば、オレは、どうしようもない程のマゾヒストだからだ。