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*      
 ぎちり、手を動かせば、後ろ手に縛られたタオルが音を立てた。
「け、結構キツめに縛ってんな…」
「途中でヘンな気起こされたら嫌だもんね。あたしの純潔は心に決めた人にしか捧げないんだから」
 起きねーよ。言いたいのは山々だったが、状況が状況だけに、ありえないとは言い難い。

 悲しいけど、これって性的いたずらなのよね。

「じゃあ、いくよ」
 そう言って、一口はまずオレのタンクトップの上から胸板を触りだした。
 さするように、ぺちぺちと叩くように掌に質感を覚えさせる行為が、子供の砂場遊びを連想させるの
は、多分一口の外見に由来するのだろう。
「やっぱり柔らかくないねー」
 タンクトップをまくり上げ、脇腹を触りつつ一口が呟く。
「ちょ…っくく、くすぐってえよ」
「男の人ってこの辺感じないの?」
「え?あー、個人差じゃないの?」
 他人の性感帯なんか知る訳が無い。
 というか一口、その言い方だと自分は脇腹が感じますと言ってるようなモンだぞ。
 思ったが、今はとりあえず笑いを堪えるのが先だった。
「背中もゴツいね。…あれ?乾ってそんなに汗臭くないんだね。あんな変態な格好するクセに意外」
「大きなお世話だ」
 そりゃ多少は気にするが。
 つか一口、顔近づけ過ぎ。髪の毛の先が乳首に当たってるし。
 オレはくすぐったさに思わずきつく目を閉じる。
 …それを合図にしたかのように、一口の手は更に下、ベルトの金具へと伸びていった。

 カチャカチャ、…ぶつん、ジー…ッ。

 ジーンズのジッパーが開く音と共に、腰の拘束感がゆるんでいく。
 ――いよいよ、か。目を閉じたままオレは微かな高揚感を味わっていた。

 …矢射子先輩、こんな節操の無い犬でスミマセン。

「乾、お尻上げて」
「ん」
 言われたまま腰を上げる――と同時に下半身がひやりとした空気に晒された…って。
「一気に脱がすのかよ!!!!!!」
「ひゃあっ!!」
 オレの反応に一口はジーンズとボクサーパンツを握り締めたまま飛び上がった。
「ば、ばばばバカっ!!急に驚かさないでよ!!」
「お、驚いたのはこっちだ!!オレにだって心の準備ってのがあるんだよ!」
「チンコ丸出しで怒鳴んないでよ下半身靴下だけ男!!」
「だから軽々しく口にすんなって言ってるだろが!!」
 しばし睨み合い、大きく息を吐く。

 …全く、少しでもドキドキしたオレが間違っていた。

「も、いい。好きにしろ」
「ん。好きにする」
 一口の言葉をきっかけにオレはベッドに仰向けに寝っ転がった。
 …うわ、この部屋天井に鏡張ってたのか…鏡に映ったオレの間抜けな姿を眺めつつ、今更そんな事に
気付いた自分に苦笑した。

 そんなオレの表情に目もくれず、目の前の少女は自分に無い器官に対し何とも微妙な表情のままちょ
んちょん、と指でつついたりしている。
 …別に取って食ったりしねーよ。

「ふにゃふにゃしてる」
「勃ってないからな」
「勃たないの?」
「…今の心境で勃てられたらオレはオレを尊敬するよ。男心はファイバードなんだぞ」
「デリケートと太陽の勇者は間違えないんじゃないの乾…」
 一口はそう言うとしばらく思案顔になり、やっぱりあたしも脱ぐね、と自分の着ているシャツのボタ
ンに手を掛けた。
「見ないでよ」
「は?裸をか?」
「違う、脱いでるトコ」
 …?裸を見るのは構わないのに?変な奴。
 わかったよ、と答えつつ、オレは天井の鏡に映った一口の姿を薄目を開いて覗いていた。
 小さな手が、ゆっくりボタンを外し、シャツを、スカートを、キャミソールを脱がしていく。
 坂田あたりが見たら数年は夜の妄想に困らないだろうなあ。
 ――ふと、そんな考えが頭をよぎり、直後自己嫌悪に陥った。

 ばかじゃねーの。オレ。

*      
「も、もういいよ。目、開けて」
「…うん」

 目を開けると、白い肌が目に飛び込んできた。
 本当に申し訳程度にしかない胸と、股間を左右それぞれの手で押さえた一口が真っ赤な顔でベッドの
上にぺたんと座り込んでいた。
「ど、どうかな?」
「…どうって」何と答えろと――言いかけて、この奇妙な状況に至った理由を思い出した。
 しばらく考えて、オレは口を開く。
「そうだなあ。(お世辞にも筋肉は付いてねーけど)肌も綺麗だし(それは欠点じゃないし)、華奢っ
てのも(ソレが売りってヤツもいるらしいし。よく知らないけど)…まあ、アリなんじゃねーの?」

 男になりたいんだっけコイツ。
 …それで矢射子先輩が振り向いてくれるのかと言うと、甚だ疑問だが。

 オレの言葉に一口はちょっと驚いた表情を見せ、その後更に顔を赤くさせながら、そ、そうかな…褒
めてんだよね…と小さく呟いた。
 …ひょっとして照れてるんだろうか。
 その表情は男になるには勿体無いな、とオレは少し残念に思った。

「え、と、…じゃあ、続けるね」
「…ん」
 胸を隠していた手を外し、一口は再びオレの股間に手を這わせた。
 今度はさっきよりも度胸がついたのか、サオ全体を手で持ってみたり、タマの方まで触ってみたりも
している。
「もちょっと強く触ってもいい?」
 返事を待たず握る力が増し、丁度自分でする位の手の力が、下の自分にかかってきた。

 ――あ、やべ。

「あ、乾のぴくってした。…気持ちいいの?」
「…聞くなよ…」
 くそっ、恥ずかしい。いたたまれず、オレは一口から目を逸らした。
 だがオレの根底に流れるM魂は、見られて弄ばれる恥ずかしさに快楽を見出しつつあった。
 …本当に節操無いな!このバカ息子!
 そんなオレの煩悶など気にしない一口は、手の向きや触れる場所をいろいろ試しつつ、どの触り方に
強く反応するかを熱心に探っている。

 上気した頬と、手を動かす度にぴこぴこ揺れる結んだ髪。
 そして、わずかなふくらみの先に色付く桜色と、閉じた脚の間にほんの少し見える陰り、という幼女
と少女と歳相応の女の姿がごちゃ混ぜになった一口の裸。
 心の底に、それを的確に表す言葉があるにもかかわらず、オレの口は言葉を吐き出さず、ただ快楽を
堪える為に歯をくいしばっていた。


「乾、痛い?」
 不意に一口が手を止め、心配そうに尋ねてきた。
「え…?何、で」
「ずっと苦しそうな顔してたから。…ごめんね下手で」
 …別に下手じゃねーよ。
 下手かどうかなんて、とっくにヘソ辺りまで反り返っちまったモノを見れば分かるだろうに。
「相手が、お姉さまだったら良かったのにね」
 一口の言葉がみぞおちをえぐり込む。――今、そういう事言うなよ。ズルいじゃないか。
 わざと明るい口調で言っていたが、逆効果なのは明らかだった。
「…お互い様だろ」
 オレの言葉に、一口はまた泣きそうな顔になった。

 別に泣かしたくて言ってる訳じゃない。
 ただ、今やっている事がどれだけ不毛かなんて、二人ともとっくの昔から分かってた。
 それだけなんだ。
 傷を舐め合うどころか、紙ヤスリで擦り合うような行為なんかでは、傷は広がりこそはすれども、決
して癒えはしない。
 くだらない。情けない。…だから、止めるなら今のうちなんだ。

 ――だが。

「…タオル、ほどくね」
「ヘンな気起こされたら嫌なんじゃなかったっけ?」

 ――それでも。

「いいから、体起こして、じっとしてて」
「起こしてもいいのか?…ヘンな気」
 オレの言葉に一口は息をのんだ。冗談で言ってるつもりはない。それくらいは通じるだろうか。
 少しの逡巡、かなりの高揚。沈黙の後、一口が小さく唇を噛むのが見えた。
「…いいから。でも少しの間でいいからさ、乾」

 ――それでも、オレたちは。

「ぎゅって、抱きしめて」

 傍らのぬくもりを、欲しがらずにいられなかったのだ。

*      
 とくん、とくん。
 胸に自分のものでない鼓動が伝わってくるという体験は、初めて味わうが、何ともくすぐったい。
 オレは一口の微かに赤く染まった首筋を眺めながら、ぼんやりとそんなことを考えていた。

「乾、手ぇ冷たいよ」
「え?ああ、縛りすぎて血行悪くなってたせいかな」
「お尻のところには熱いの当たってんのにね」
「あーもーそりゃ生理現象っスから。自分男っスから。しょうがないっス」
 でもお前だって腰に当たってる辺り、凄く熱くなってんだぞ?
 返したいのをぐっと堪えて、オレは膝の上に座る小さな背中を抱く腕にそっと力を込めた。
 一口の体は、小さい上に柔らかくて、いいにおいがして、ほんの少しの衝撃で潰れてしまいそうな位
儚かった。
「んー、こうしたら少し楽になるかな?乾、ちょっと腕ほどいて」
「えっ、もう挿れ…」
 …る訳ではなかった。

 一口は腰を浮かすと、ヘソに貼りついていたオレのモノをそっと掴み、自分の股の間に挟み込める位
置へと場所を調節させると、再びオレの腰の上へと尻を落ち着かせた。
 いわゆる素股の体勢、というヤツである。

「こうかな。ん、あれ?さっきよりゴリゴリしてない?」
「……」――そりゃするよ。
 さっき腰を浮かせたときに見えちまったんだもの。何を、なんて問うまでもないだろう。
 乳首よりちょっと濃い目のピンク色した、一口の一番大切なトコロ。
 今抱きしめてる体みたいに、小さくて柔らかそうな肉のつぼみが、オレのすぐ近くにあるなんて。
 …もっと見てみたい。触ってみたい。指とか色々奥まで入れて、どんな感じなのか確かめてみたい。
 そう思うのは男として正しい心理だと思う。
 
 こ、このまま挿れても、いいんじゃないかな?つか、すげー挿れてえ。

 只でさえ今、一口の熱いトコと太ももに挟まれて、オレは爆発寸前なのだ。
 加速する鼓動を胸に抱えるオレを知ってか知らずか、一口は場所の微調整のために小さく腰を動かし、
更なる焦らしプレイをオレに強要してくる。
 いや、焦らしも嫌いじゃないけどさ。でも、ああああああ。

 そんなオレの心中一人SMは、一口の「これでよし」という声に中断された。

「えへへ…やっぱり」
「へ?…何がやっぱりなんだよ」
 自分の股間を凝視しながらにまにまと笑う一口に、疑問符しか浮かばず、オレは尋ねてみた。
「こうしてるとさ、その…生えてるみたいに見えない?」
 …。何やってんだオマエ。
 言われて、渋々一口の薄い陰りからほんの少し顔を出したオレのモノの図(あまりいい図ではない)
を見てみる。
「ね、どうかな?」
 何ウキウキしたような口調で聞いてくんだオマエ。
 …それは多分、一口の未成熟な腰周りのせいかも知れないが…言われてみれば、少し考える時間を
貰えれば見えない事も無い…気がする…」ドスッ!!「おふっ!」

 思考が漏れていたらしい。呟き終わると同時に、脇腹にキレのいい肘鉄が飛んできた。

「未成熟で悪かったわねバカ犬!アンタにはデリカシーってもんが無いの!?」
「で、デリカシーって、…言葉の使い方間違えてるだろオマエ!デリカシーってのは人のチンコ股に
挟んでる女が使う言葉じゃないんだぞ!?」
「あーっ!自分だってチンコって言ってる!!」
「オレは男だからいいんだよ!つかまた言うなよ!」
「あたしだって男になるもん!!」

 ――ずきん。真っ赤な顔で見上げながら放つ一口の精一杯の反論が、胸に突き刺さった。

「あたしだって…阿久津くんやアンタに届かなくても、お姉さまに近づけるなら…なるもん…バカ…」
 肩を震わせて言い切ると、一口はそのままうつむき、すん、と小さく鼻を鳴らした。
「…ばかやろう」
 男になったって、あの人に近付ける訳では決してない。今の自分がいい例じゃないか。
 それでも尚一心にあの人の背中を追うって、どんだけ気合入れてんだよ。
 こんな小さな体のどこに。
 …そう思うと急に胸が苦しくなってきた。
 鼻につんとした痛みが走り、オレはごまかすように一口の体を強く抱きしめた。
「!?…っ、い、痛いよ乾…」
 膝の上の一口が身をよじる。けれどオレは腕をほどけない。
「乾?…泣いてるの?」
「…見るなよ…」

 ずっと泣けなかったのに、どうしてこんな時に限って涙が止まらないんだろう。
 オレは一口の小さな肩にまぶたを押し付け、声を殺して泣いた。
 一口は、何も言わず、黙って肩を貸してくれた。

 二つの心音が重なり合う中、ゆっくり、ゆっくりと時間は過ぎていった。

******
 どしゃ降りだった雨はすっかり上がり、夕暮れの街はひやりと澄んだ空気に包まれていた。
「あー、もう一番星が出てる」
 一口の言葉につられ空を見上げると、ビルの谷間から小さな光の粒が見えた。
「早く帰んないとな。一口んトコ門限早いんだろ?」
「うん。ウチの親、ちょっとだけ過保護だから…乾の家は?」
「そんな厳しくないかな。でもまあ、女の子は早めに帰んないと駄目だろ」
 オレの言葉に一口は、乾って意外と古風だねーと笑った。
 そうかもしれない。
 が、特に一口の場合は見た目の問題もあり、夜道などホイホイと歩いてたら洒落にならないような気
がしたのだ。
「ホント、女の子って損してるよね…」
 はあ、と溜息混じりに一口がぼやく。
 ぴこん、と大きくはねる髪を横目に、でも損ばかりじゃないんじゃないかな、とオレは小声で返した。

「少なくとも、男のカラダはあんな柔らかくねーぞ」

 …沈黙。
 やべっ。オレまずい事言ったかな?
 いきなり足を止めた一口に、オレは何か言い訳をしないといけない気がして、必死に弁解の言葉を考
えていた。
「あー…えと、今のはだな」
「…乾、続きしなくて良かったの?」
「へ?」
 反応の悪いオレに、一口は顔を真っ赤にさせながら、言いにくそうに口をモゴモゴさせた。
「だからっ、…その…れ…なくて」
「何?挿れなかった事か?」
「大声で言うなーーーーーーーーっ!!!!!!」
 
ばちーん。

 ビル街に盛大なビンタの音がこだました。

 ――結局、オレたちは至る所まで至らぬまま、フロントからの無粋極まりない休憩時間切れコールに
よって、部屋を追い出されたのだった。
 残り数分でコトを達成できるほどのボルテージも、延長料金を支払うだけの金銭的余裕も、生憎持ち
合わせていなかったオレたちは、まだ半乾きだった服を着込み、早急に、かつ周囲に見知った顔が無い
か慎重に、ホテル街を抜け出した。

 挿れたく無かったと言えば、嘘になる。
 ジーンズを穿き直した時、朝勃ちよろしくいきり立ったモノをしまい込むのに四苦八苦したのも、そ
のモノを濡らしていた自分以外の体液の存在が、更に行動力を低下させていたのも事実だ。――けれど。

 もしあのまま一口と体を重ねてしまったら。
 本能のおもむくままに蹂躙しつくしてしまったら。
 オレはオレの中に居る、一口夕利という存在を、オレと同じ人をオレ以上に一途に想う仲間を、この
手で壊してしまうところだったのだ。
 ――それは、耐えられない。

 多分、矢射子先輩に嫌われるよりも。

「どうしたの?急に黙っちゃって」
「…いや、何でもない」
 オレの言葉にふーん、と首を傾げ、数歩前をぴょこぴょこ歩く一口のうしろ姿。
 当たり前すぎる風景――だからこそ失うのは、今のオレには辛かった。
「――…」
「え?何か言った?」
 夕暮れの風にかすれてしまった声に、一口が振り返る。その無邪気な表情にオレはゆっくり頭を振り、
酒抜けたのか?と代わりに尋ねた。
「自販機のジュースならおごってやるぞー」
「んー、もう一声!せめて昇龍軒のネギチャーシュー!」
「どこが一声だよ!…んじゃ、オレより先に店着いたらオゴリな!」
「よし乗ったぁ!!じゃっ、お先!」
「今からかよっ!」

 オレは華麗なスタートダッシュを決める一口の背中にツッコミを入れつつ、追い抜かないように少し
だけ加減しながら、夕暮れの街を走った。