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*        
 シャワーを浴び(野郎のシャワーシーンなど需要がないだろうから省略する)、オレは大きく深呼吸
すると、シャワールームの扉を開けた。

 ――戻ったら、続きな。

 あんなことを言ってしまったら、後戻りは絶対きかないだろう。
 けれど、オレは後悔していない――いや、正しく言えば後悔したくなかった。
 これ以上、ケツの青いガキみたいに、好きな女を泣かせたくなかった。

「…風呂、上がった」 
「…うん」
 ベッドの前に立ち、報告のように呟くオレの言葉に、矢射子は耳まで赤くさせながら、小さくうなず
いた。
「…そっち、行っていいか?」
「…うん」
 許可を得、ベッドに上がる。
 ぴくんっ、と微かにこわばる矢射子の姿を視界に留めた時、またオレの胸がずきん、と痛んだ。
「…緊張してる、か?」

 嫌か?とはあえて聞かなかった。
 コイツはすぐ反発して、すぐ考えすぎて、すぐ暴走して、その分落ち込むから、ストレートな言い方
は傷つけかねない。そう判断したのだ。

 矢射子は三角座りの膝に顔をうずめると、少し…だけ、と答えた。

「…そうか」
「で、でもっ!」
 がばっと顔を上げ、矢射子がオレを見る。意志の強い、真っすぐな瞳。
「あたし、宏海と一つになりたい!すっ、好きな人にだったら、あたしっ、あ――」

 矢射子の言葉は、全部声にならなかった。理由は単純、オレが唇を塞いだからだ。

「…男のセリフ、全部取る気か。オレだって、オマエと一つになりてえよ」
 囁いて、再び唇を唇で塞ぐ。
 矢射子の口が半開きだったのをいい事に、オレはそっと自分の舌を矢射子の口中へと滑り込ませた。
「んっ…――っ、ふ」
 ぬるんっ。矢射子の舌がオレの舌にぶつかる。
 最初、おっかなびっくりだった矢射子の舌は徐々にオレを受け入れ、くすぐるように、あやすように、
オレの舌に絡みついてきた。
 …うわっ、やべえ。シャワーの時に落ち着かせたはずだったのに。
 下半身に痛みに似た熱がこもっていくのを感じ、オレは慌てて口を離した。
 ――キスだけで勃つなんて、予想外だ。

「宏海…」
 頬を紅く染め、とろんとした表情で、矢射子がオレの名を呼ぶ。
 これで我慢できる男がいるだろうか。いや、いまい。(反語)
 オレは矢射子の背に手を回すと、そっと体をベッドに横たえさせた。
「…止めねえぞ」
 返事を待たず、頬にキスをする。そのまま首筋に、鎖骨にと軽い口付けを落としていった。
 ――次は、胸、か。そう思った矢先、オレは思わぬハードルに気付かされた。
「…ブラ、外そうか?」
 オレの戸惑いに気付いたか、矢射子は軽く身を起こし、ブラジャーのホックを外した。
 …うっわー情けねー。いたたまれ無さに首まで熱くなる。

 せめて寝かせる前に気付けよオレ。

「悪い、言ったそばから」
 矢射子は、熱っぽい目に小さく笑みを作りつつ、いいよと答えた。
 肩ヒモをずらし、後は引き抜くだけの状態にしたブラジャーを片手で軽く抑えながら、矢射子は再び
ベッドに身を沈めた。
「もう、止めないで」
 ――言われなくとも。矢射子の言葉に目で返すと、静かにブラジャーを引き抜いた。

 白く、柔らかそうな双丘は、呼吸と心音によってふるふると揺れていた。
 そっと、手で包む。
 矢射子の胸は簡単に指がめり込むほど柔らかいのに、手を離せばすぐ戻る弾力も持ち合わせていた。
「…んっ」
 すげえ、すべすべして、もちもちして、気持ちいい。
 片方の乳房を手で、もう片方を舌で愛撫しつつ、オレは未知の感触にバカの一つ覚えのように夢中に
なった。
「ふぁっ…っ、んん」
 舌や指先がかすめると共に上がる甘い声に、オレの関心が芯を帯び始めた胸の先端へと向く。

 …こうか?
 赤ん坊がするように、オレは矢射子の乳首をくわえると、舌と前歯の裏で軽く押し潰してみた。
「――!!」びくんっ!
 刹那、大きく跳ねた脚に驚いたが、すぐに二度、三度と同じ事をしてみた。
 唇や歯で噛んだり、指で強くつまんでみたり、口と手の位置を変えてみたり――。
 その度に脚はびくびくと跳ね、肌にじっとりと汗がにじんだ。
「っ、はっ、はあっ、あっ…やはぁっ!!」

 ぞくぞくっ。

 ――この声は反則だろう。鼻にかかった、吐息混じりの声。
 無意識に出してるなら尚更やらしすぎる。
 オレは顔を上げ、矢射子の顔を見た。
 けれど矢射子の顔は、自身の片手に隠されて、表情がよく見えなかった。
 見えたのは、紅く染まった頬、耳、そして荒く呼吸し続ける唇だけだったが、それらを飾る大粒の汗
が、矢射子が元々持ち合わせていた艶めかしさを強調していた。

 …はぁっ、はーっ、はーっ…。

 少しずつ波が引いてきたか、矢射子の呼吸が落ち着きを取り戻していく。
 オレはそっと胸から離れ、更に下――腰へと手を伸ばした。

*     
 ――落ち着け。うろたえるな、オレ。こんな所でヘマやらかしたら全部パーだ。

 ごくり。カラカラの喉に無理やり生唾を押し込むと、そっと矢射子のショーツに手を掛けた。
 反応した矢射子が腰を上げ、レースの飾りの付いたショーツは丸まりつつ、するすると太股を、膝
を、足首を通過し――オレの手元に収まった。
「や…あんまり、見ないで…」
 
 見ないと出来ねえよ。いや、見るなってショーツの事か?そりゃあ確かに手にしたショーツは、しっ
とりと濡れていたが…濡れ?
「……」
 想像して背中に汗をかいた。…危うくこっちまで濡らしちまうところだったじゃねえか。
 いや、先走りなら出てるけど。

「…そういや、オレもまだ脱いでなかったな」
 少しでも気を紛らわせようと(あと矢射子ばかり脱がせてるのもなんだし)、あえて声に出す。
 トランクスの中身は、とっくに臨戦態勢のオールグリーンだ。オレはトランクスのゴムに手を掛け、
一気に脱いだ。
「えっ…!?」
 へ?オレは声の主の顔を見る。
 主――矢射子は、顔を隠していた手の指の間から覗きつつ、素っ頓狂な声を上げたのだ。

「こ、宏海のって…そんなだったっけ?」

 このセリフは、流石オレの全裸を数度目撃(うち1回は告白時)した矢射子ならではだ。
 全然自慢じゃねえけど。むしろその辺の記憶はボカシ入れてほしいけど。

「勃ってねえ時と比べられると困るんだが…怖くなったか?」
 ぎしり、トランクスを放り投げ、オレは矢射子に近付く。
「こ、ここ怖くなんかないっ、わよ!ただちょっと驚いただけじゃない!」
 言いながら膝曲げて、引け腰になってんだけどな。アンタ。
「へっ、平気よ!伊達にアソコは見てないんだからっ!!」

「……」
 悪い。そのセリフちょっと萎えた。

 オレは霊界探偵ならぬ、目をぎゅっと閉じた矢射子の横をすり抜けると、ベッドボードの引き出しを
開けた。
「…どうしたの?」
「探し物。備え付けがヤバいって話は聞くけど、無いよりはマシだろ」
 そう答えて、見つけた品を矢射子に見せる。
「あ…」
 オレの手の中の小さなゴム製品を見て、矢射子は納得したように吐息をこぼした。
「あ、ありがと」
「礼ならいらねえぞ。これからオレ、アンタ泣かしちまうんだから」
 ゴム製品の封を切り(幸い、分かる限りでは針穴などは見つからなかった)、背中を向けちまちまと
装着しながらオレは矢射子の言葉を返す。
 …しかしこれかなり間抜けな図だな。女にはあまり見せたくねえ。

「――…いいよ」

 ぴたり、思わず手が止まる。
 振り返ると、矢射子は――これから傷付けられると、分かっているハズなのに――幸せそうに微笑み
ながら、オレがしばらく無言にならざるを得ないようなセリフを言った。

「今の宏海になら、あたし…泣かされてもいい」

 あーあ。女ってズルいよな。
 何でそんなにこっぱずかしくて、やらしいセリフをさらりと言えるんだろう。

*     
「足、開くぞ」
「う、うん」
 膝頭を持ち、オレはゆっくり矢射子の股を開いた。
 ボカシやモザイクの無い女のアソコは、18年の人生の中で初めて目にするのだが――傷口みたいだ、
と思った。
 オレはそっと自分のペニスを持ち、矢射子の傷口にあてがう。

 ちょん、と先端が触れると、ぬるぬるになっていた傷口がひくり、と蠢いた。

「んっ…」

 ぬる。
 ぬるり。

 ゴムを着けて濡れようの無いペニスに矢射子の蜜を絡める度、矢射子の口から甘い吐息が漏れた。
「――…いくぞ」
 オレもまた吐息混じりの声を掛け、狙いを定めて矢射子の中へと入り込んだ。

「あっ…!!くっ!」
 傷口に更に傷を穿つ――正にそんな感じだった。
 みしみしと、肉を裂く音さえ聞こえてきそうだった。
「やっ、いこ、力抜けっ」
「むっ、無理!!」

 即答かよ。

 ぎちぎちと押さえつける矢射子の力によって、オレのペニスは3分の1も入りきっていなかった。
「力抜かねえとっ、痛いんだって!」
「分かんないっ、分かんないよっ!!勝手に力入っちゃって…あたっ、あたしだって…受け入れっ、たい、
のにっ!!」
 ボロボロと涙をこぼし、矢射子がオレを見る。
 
 ――ずきん。ずきん。ずきん。

 くそっ、何でこんな時に胸が痛みやがるんだ。
 オレは歯を食いしばりながらも更に腰を突き出し、少しでも中に入ろうともがいた。
「~~~~~~っっ!!!!」
 矢射子の声が声になってない。痛いんだろうな。いや、痛いに決まっている。
 オレの胸の痛みなんか比べようの無い痛みと、矢射子は今、一人で戦ってんだ。

 …一人?

 自分の考えに、オレは疑問符を投げかけた。…馬鹿じゃねえか。
 いや、比類なき大馬鹿野郎だ。
「…矢射子」
 腰の動きを止めオレは、痛みを堪えるため目を閉じていた矢射子の名を呼ぶ。
「矢射子」
「…こう、み?」
 息も絶え絶えな矢射子の返事に、大きくうなずく。
 そして、ベッドシーツを握っていた矢射子の手をそっとほどくと、ゆっくり指を絡め、そして、強く
握った。

 ああ、ただのエロ漫画の演出と思って悪かったよ。
 こんなささいな事でも、凄く、嬉しくなるんだな。

「宏海の手、熱い…」
 泣き笑いの表情で、矢射子が囁く。
 互いの両手が塞がった分、オレの体が矢射子の上にぴったり重なり合い、肌の熱が伝わりあう。
「オマエの手だって」
 言い返すと、矢射子はくすぐったそうに笑った。つられるようにオレも少し笑った。
 押さえつける力がゆっくりと弱まり――オレたちは、ようやく一つになった。

 矢射子の中は、矢射子の体のどこよりも熱かった。

*       
 ぴちょん。

 窓の外から微かに聞こえる水音で、まどろみから目が覚めた。
「…雨、止んだのか」
 カーテンの隙間から漏れる光は、紛う事なき夕陽だ。
 オレは片手で目を擦りながら、天井の鏡に映る姿をぼんやり見た。
 大きなベッドに横たわる二人。一人は勿論オレ。
 そしてもう一人は、オレの肩口を枕に寝息を立てる矢射子だ。
 一定のリズムを刻みながら、体を上下させて眠る矢射子のまぶたはまだ赤く、先ほどの行為の辛さを
物語っているようだった。
「…最初から上手くいくなんて思ってないけどな」
 思うが、それでも自分一人しか絶頂に達せなかったという事実は、何とも寂しくも申し訳ない気分に
させるものなのだ。
 オレはそっと自由な方の手を矢射子の頬に寄せ、乱れた髪を直そうとした――その時。

 ぱちり。矢射子の目が大きく開いた。
「「!!」」
 再び、二人そろって固まってしまった。
 …頼むから矢射子、もう少しゆっくり目を開けてくんねえかな。心臓に悪い。
「あ、こ、宏海…」
「…はよっス」
 しょうがなく、オレは行き場を無くした手で自分の頭を掻いた。
「…おはよ」
 朝でもないのに、なんだこのアイサツ。
 向こうも思ったか少しの沈黙のあと、変なの、と小さく呟く声が胸の辺りから聞こえた。

「どの位、寝てた?」
「え?――なんだ、20分そこそこしか経ってねえじゃねえか。もっと寝てたように思ったけど」
 矢射子の言葉にオレは首をひねり、ベッドボードの置き時計に目をやった。
 休憩時間の終わりには、まだ少しばかり早かったみたいだ。
「…もう少し寝とくか?オレは別に構わねえけど」
 肩枕側の腕を少し曲げ、オレは矢射子の背中をそっと撫でた。――ん?
「――…」
 みるみるうちに肩に熱が…というか矢射子、オマエ今まで見た事の無い顔色してるぞ?
「――…っ、あ、あたしっ、肩っ、かたたっ」
「腕枕の方が良かったか?確かに良く聞くのはそっちだが」

 ぶぱっっ!

「わああーーーーーっ!!何だっ!?」
 二人きりのまどろみは、矢射子の鼻血によって突然血みどろの終焉を迎える事となった。
 全くもってムードもへったくれも無い話だ。
「や、やだ、宏海血が…」
「人の事より自分の鼻心配しろよ!!ほ、ほらティッシュ…」
 胸に付いた血を拭うのも忘れ、オレは鼻血が止まらない矢射子に箱ごとティッシュを渡した。

 ――本当、マトモな恋人同士の甘ったるさが似合わないよなあ。
 迷って、惑って、流されるオレと、突き進んで、突っ走って、引っ張ってくオマエと。
 二人の歩幅もペースもまるでちぐはぐで、ともすれば二人揃ってつまづきそうになるけれど。
 そして、劣等感は未だ小さなトゲになって、時にオレの胸を痛ませるけれど。

 けれど、それすら嫌にならない――むしろ、楽しんでしまうオレだってここにいるのだ。

「なあ、矢射子。…ずっと先延ばしにしてたけど、今度ウチ来るか?」
「え?」
 やっと治まったか、血まみれのティッシュを顔から離し、矢射子がオレの言葉を尋ね返す。
「あー…つまりだな、ウチの親父に会ってくれと、そういう事だよ」
 うーん…やっぱり改めて言うと照れ臭いな。
 オレは自分のセリフの恥ずかしさについ眉間に皺を寄せ、しかめっ面を作ってしまう。
「…返事は?」
 わかっているくせに聞くのは照れ隠しだ。気付いてくれるだろうか。
「…うん」

 雨上がりのホテルの一室。
 オレンジ色の光が満ちる中、オレの恋人は涙に潤んだ目を細めて返事した。

 ――つうっ。
 ついでに鼻から一筋、血を滴らせて。

「って矢射子!鼻血止まってねえぞ!!――…チクショウ何だよこれがオチかーーーーーっ!!!!」