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******

 すぐ近くに、熱い吐息。背中には、制服越しに触れる掌。
 ――好きだ。
 泣きそうな声で言わないでよ。すごく卑怯じゃない。

「…あたしも、好き」
 頭の中に正解のランプが灯る。――ああもう、ダメだ。
 カラダにも、心にも逆らえない。

 背中の掌が、ゆっくり腰へと降りていく。
 あたしは目を閉じて、すでに熱く潤んでしまっている場所へと辿り着こうとしている指を待った。

 ほんの少しのうしろめたさと、胸いっぱいの期待を抱えたまま。



 期末テストも終わり、あとは(受験生にはほぼ無縁の)冬休みやらクリスマスやら正月やらを待つの
みとなった頃、乾一のスポーツ推薦合格の知らせ――というか、乾自身も周りの女子から聞かされて、
慌てて確認したらしい。ひどい話だ――が届いた。
 ここで普通の高校三年生ならば、あとは気楽な学生生活が待っているはずだった。
 けれど今、(わざわざ週番から鍵を借りてまでして)放課後の教室に居座り、あたしの目の前で古文
の副読本とプリントを交互に見ては、頭を抱えるクラスメイトには、そんな言葉は、夢のまた夢という
ものだった。

「…は『茜さす』だから3番だろ…で…えーと『袖』は…『からころも』か?」
「選択肢の中に『唐衣』は無いから、この場合は『しろたへの』で5番だよ。波や雲とかの他にも、
白っぽいものに付く枕詞だって覚えたらいいんじゃないの?」

 こつん。ペン先で解答を示すと、乾は渋面を作り、むう、と唸った。
 多分、今までで一番頭使ってんじゃないかな。
 ――そりゃ確かに、自分の卒業がかかってると言われたなら、頭のひとつふたつは使おうってものだ
けど。

 大方の予想を裏切ることなく、乾の期末テストの成績は、ぶっちぎりの学年最下位だった。
 結果、ほとんどの教科の先生から、冬休みの補習と分厚いプリントの束という一足早いクリスマスプ
レゼントを貰ってしまった乾は今、少しでも消化させようと頭を悩ませている次第で。
 そしてあたし、一口夕利はというと、乾本人に半ば泣き付かれるように、課外授業につき合わされて
しまっている訳で。
(BGM:北の国から)

 …別に、嫌じゃないけどさ。

「――ふはっ、もうダメだ。休憩、きゅーけー」
 頭から煙でも昇りそうなほど考え込んだ乾は、大きく息を吐くと机にペンを放り投げた。
 からん、という音が、人気の無い教室に響く。
「トイレでも行ってくれば?あたしもう少しこのプリント見てるから」
「…一口よくそんなモンまじまじ見てられるなあ」
「結構勉強になるよ?受験勉強の応用にも使えるし」
 ――…そう、乾と違って、あたしにはまだ、大学受験が控えていた。
 乾ほどでは無いにしたって、あたしの成績も、あまり良い方ではない。
 本来なら他のクラスメイト同様、早く帰宅して勉強しなければならないのだけど。

 かたん。

 椅子が音を立て、乾が席を立つ。
 ――来る、かな?あたしの胸が、期待に小さく弾む。
「本当、悪いな。余計なモン付き合わせてさ」
 乾の影で、西日が遮られる。
 けれどあたしの頬は、冬の日差しより温かい乾の手が、包み込んでいた。

 ――いいよ。
 あたしは、心の中で答えた。唇はとっくに、乾の唇に塞がれていたから。

 唇に当たる柔らかくて温かい感触。
 …ああ、キスってこんなに気持ちいいモノだったんだ。



 初冬の遊園地での一件以来、あたしと乾の間柄は少しだけ変わった。
 ううん、変わったというよりは、項目が追加されたような感じだった。

 今まで通り、悪態を吐いたり、ふざけあったり、鉄拳制裁をしたりするあたしたちと。
 今みたいに、こっそりキスしたり、手を繋いだりするあたしたち。

 どことなくぎこちなくて、ちょっと後ろめたくて、だけど胸の奥がきゅんとなる。
 いかにも子どもらしい、青臭い付き合いだけど、あたしはそれでもいいかなって思っていた。

「――ん、んむっ?」

 つい、さっきまでは。

「ぷぁっ、い、乾?」
 口を離し、たしなめようとする言葉が、再び封じられる。…ちょ、口…の中。
 ぬるっ。
 うああっ…舌、だよねコレ。

 あったかくてぬるぬるしてて、別の生き物みたいな乾の舌が、あたしの口の中で暴れだすのを、あた
しは震えながら受け入れる事しかできなかった。

「ん…っ。んふっ…」
 舌同士がぶつかり、絡み合う。――えっちなキスだ。
「…嫌?」
 口を離し、乾が耳元で囁く。熱い吐息が、耳にかかってぞくぞくする。
「――…っ」
 いや、じゃないけど、でも。

 こりっ。「っ!!」
 答えようとしたら耳を軽く噛まれた。やだ、ちょっと、待。
「結構、オレ我慢したんだけど。一口スゲー無防備だし」
 む、無防備って何よ!?
「――っ、じゃ、ないじゃない」
 そうじゃないじゃない。あたしは受験生で、アンタは留年スレスレで。ここは学校で。
 えっちなことしてる場合じゃなくて。
 ――だから、言いたいのに。

 くちゅん。「ひゃ…あっ!?」
 耳?い今、あたしの耳なめてるの!?
「だめっ…待って、よ!」
 どんっ。力一杯乾の胸を押すと、あっさり乾の体はあたしから離れた。
 隣の机に凭れかかった乾は、逆光でちょっとだけわかりにくかったけど、困ったような顔で、あたし
を見ていた。



 ばくん。ばくん。ばくん。――うわあっ、心臓、バクハツしそう。
 マトモに顔も見られないよ。
「い、乾どうしたのよ急に…ヘンだよ、こんなの」
 うつむいて、乾のクツの先だけを見つめながら問いかける言葉に、乾は低い声で、急じゃねーよ、と
答えた。

 いつかの電話みたいに、無理に感情を押し殺したような声。
  あの時もこんな顔してたんだろうか。

「ずっと前から、一口とやらしいことしたいって思ってた。…卒業したらこうしていつも傍に居られな
いって、改めて気付いたら余計に」

 ――でも、それって変なのかな。

 最後の言葉が、胸に刺さる。返す言葉も見つからず、あたしはただ黙った。
 あたしだって、漠然と思ってはいた。

 卒業して、違う道に進む二人は、いつも一緒には居られない。
 お互いに進む学校の名前すら聞こうとしなかったのも、ひょっとしたら――いつか来る時を、予感し
ての事なのかもしれない。
 一番、想像したくない事の。

「……」
 考えたら、涙が出そうになった。多分、今のあたしの顔、ものすごく不細工だ。
 泣きたくないのに、みぞおちの辺りが痛くて痛くて、呼吸すらままならない。
 唇を噛んで、痛いのを我慢しようとしても、堪え切れそうにもなかった。
「…悪い。オレ、今酷い事言ったよな。一口の気持ちとか考えなくて…けどさ、オレもどうしていいか
良くわかんねーんだ」
 椅子に座ったままのあたしの前に、中腰になって、乾が向かい合う。
 ちょっとだけ固い乾の指が、あたしの頬をなぞっている。
「頼むから、泣くなよ。お前の泣き顔見てると、こっちまで涙出ちまうんだよ」
「…泣…て、ない、よ」

 泣かないって、決めてたもん。
 だってあたし、乾と違う道行くんだもん。いつまでも一緒にいられないもん。

 一人に、ならないといけないんだもん。

「――オレが」
 がたん、という音と共に耳元に響いた声に、あたしは目を開ける。
 乾の首筋と、一つ括りにした後ろ髪があたしの目の前にあった。
「…しようとしてる事、スゲー酷い事なのかもしれない。お前を今以上に傷付けて、泣かせて、取り返
しのつかない目に遭わせるかもしれない。けど、オレ…一口が、好きだ」

 どうしようもねー位、お前が好きだ。

 ぎゅうっ、と、背中に回っていた腕の力が増し、吐息が耳にかかる。
 制服越しに、はちきれそうな程の鼓動が伝わってくる。
 あたしは、いつの間にか乾に抱きしめられたまま席を立っていて、足元が変な爪先立ちみたいになっ
ていたのだけど、そんな事、全然気にならなくて。
「――…あたしも、すき」
 学ランを皺が出来るほど握り締め、囁き返すのが精一杯だった。

 どうしようもない位、好きだよ。



 ――つめたっ。

 袖口の、金属製のボタンがお尻に当たり、その意外なほどの冷たさに、あたしは身を固くした。
 きっと、ボタンが冷たいんじゃなくて、あたしのカラダが熱いんだよね。
  そう思うと何も言えない。恥ずかしくて言葉なんて紡げない。

 乾は、腕の中の存在が、いきなりびくんっ、と震えたのに驚いたのか、痛かったか?などと見当違い
の言葉を掛けてきた。
「ううん。…まだ、大丈夫」
 少しゴツゴツしている乾の手は、あたしの背中から腰に降り、スカートを潜って――今は、ショーツ
の中で、直接あたしのお尻を触っている。

 触り心地…は、あんまり良くないんだろなあ。
 前に思いっきり『未成熟』とか言われちゃったしね。
 ええ、覚えてますとも。一生、忘れるもんか。
 でも、乾が気持ちよくなれるなら、もっと大きな方が良かったかな。
 お尻とか胸とか胸とか胸とか。
 ――今日は胸に触れられなくて、ちょっとだけホッとしてるんだけどね。

 …あたしだって、いろいろある。目の前の鈍感男には、気付かれたくないこととか。

 ――もぞっ。「あっ」
 指が脚の付け根――あたしの一番大事なトコをかすめ、衝撃で思考が途切れる。
 まるで、余計な事考えるなってたしなめられてるみたいに。
「一口、もうちょっと…脚、開いて」
 言われるまま、固く閉じたままだった脚を、肩幅くらいに開く。
「ふあっ!?」
 小さな――多分、小さな水音を立てながら乾の指が隙間をなぞり上げた瞬間、おへその辺りがビリビ
リって痺れた。

 何これ。こんなの、自分でするのの比じゃない。

 ちゅっ。ちゅぷっ。くちゅっ。
「あっ…や、くっ、ん、んっ」
「すげ、とろとろ。一口って結構、やらしいよな」
「っ…!!どういっ…はんっ、意味よ」
 囁きつつも、指の動きを止めない乾に、あたしは吐息混じりの不服の声を上げた。
 少なくとも今の状態だったら、圧倒的にコイツのほうがやらしいくせに。
 ていうか、ドMのクセになんでこんなに責めてくんのよ。こんなの、ずるい。

 目にすることが出来ない分までカタチを確かめようとするかの如く、執拗に指であたしをなぞる動き
が、気持ちよくて、もどかしくて、恥ずかしい。
 お腹の奥がじんじんして、下着汚れちゃうかもなんて心配しながらも、溢れ出すものが抑えられない
なんて。

「言葉どおりだよ。子どもっぽい顔して、小っさいカラダしてんのに…今、スゲーやらしい表情して誘っ
て、オレの手ぬるぬるにさせて…我慢できなくなるっつーの」
「!!」
 や…やらしい、表情?誘ってる!?
 途端に、背中まで汗をかいた。
「バ、バカッ!そんなの見ないでよ!!」
 あたしは、乾の視線から逃れようと、胸元に顔をうずめた。
 シャツからは洗剤と、お日さまと、ちょっとだけ汗が混じった匂いがする。
 汗臭いのは嫌だけど、今の乾の匂いは不思議と嫌にならない。
 体中がじんじんして、それどころじゃないのかもしれない。
「隠れんなって」
 胸元から顔を離され、再びえっちなキスを交わす。
 唇を舐め、舌を舐める乾の舌の動きは、まるでミルクを味わう仔犬のようだ。
 これだけでも気持ちいいのに、指が、あたしが一番触れられたかった敏感な突起を責めだしたりなん
かして。

「んっ!――…んむっ、んふーっ…っぷぁ…やあっ、そこ…んうっ…」

 どうしよう。ダメだってわかってんのに、しちゃいけないって思ってんのに。
 ――あたし、今、物凄く欲しがってる。
 あたしの中のあたしが、目の前の男と、繋がりたいって叫んでる。
 …すごい、えっちだ。
 乾の言うとおり、あたし、凄くえっちな子だったんだ。
「いぬいぃ…」
「…何?」
 わかってるクセに、あえて尋ねるかなソコで?
  ――非難の意味も込めて学ランの背中を握り締めると、あたしは口の中をとろとろにしていた二人分
の唾液を飲み込み、乾の目を見て、欲しい、と呟いた。

 ああ、もう駄目だ。
 もう帰れない――そう思ったあたしの高ぶりは、乾の、ごめん、という情けない声に中断される事に
なるのだけど。



「…え?」

 瞬間、頭が真っ白になった。勿論、性的じゃない意味で。
「あーちくしょー…オレだって今気付いたんだよ。…その、アレ、持ってくんの…忘れた」
 アレ…って、アレだろうか。いわゆる、避妊具とかいう。
 ていうか、乾普段からそんなモノ持ち歩いてんの?
 …なんか…予想外というか…何というか…いや、ナシでしたいって訳じゃないけど。
 さっきの指といい…もしかして、乾って『手慣れてる』ヤツなの?
「……」
「そんな目で見んなよっ!…オレだってお前と…今、したかった…けどさ。さすがに無いのはマズいん
じゃねーのか?」
「そうじゃなくて、乾、ひょっとして…」

 他の女の子にも使ったんじゃ、というあたしの疑念は、オマエ以外に使おうと思ったことねーよ!と
いう声によって一蹴された。

「オレそこまでバカじゃねーぞ…って、気にすんのそっちかよ」
 苦々しい、と表現するのだろうか。
 微妙な表情で乾は言うと、大きく息を吐き、もう一度ごめん、と呟いてあたしを抱きしめた。

 ころころと表情が変わるなあ。

「…いい、よ。…アンタなりに、考えてくれたんでしょ」
 ここでどこかの少女漫画や映画の真似事をしてしまえるほど、あたしも乾も愚かではない。

 残念に思うのは事実だけど。
 カラダのうずうずはまだ治まってないけど。
 乾があたしの体を大事に思ってくれてるのが伝わっただけでも、十分だ。

 …初めてを学校でする気満々だったのか、というツッコミに気付いたのはそれから数時間後、眠る直
前になってからの事だったのだけど、それはまた別の話だ。

「だから」
 乾の片手がまた、スカートの中に潜り込む。――今日は、指で勘弁な、なんて言葉と同時に。

 え?ゆび?…ああ、指か――…え?
「ちょっ、待っ――」

 くぷんっ。
「…っ!!」
 ちょっとだけ、入口に痛みが走ったあと、あたしの奥に乾の指が入ってきたのがわかった。
「っ、あ…っはあっ…」
 お腹の中、すごい、ヘンな感じ。
 自分でも触れた事の無い場所を、あたしの指より長い乾の指が、ぐちゅぐちゅってかき回してる。
「結構、ザラザラしてんだ。でも、ぬるぬるして、柔らか…」
「やあっ、何、言ってんの、っつ、んんっ…!」
 こんな時に解説なんて、どうかしてる。
 でも、耳元に乾の吐息混じりな声が響くたび、えっちになってしまったあたしのカラダは反応して、
お腹の奥がきゅううっ、って引きつってしまう。
「指一本でも、キツいぞお前ん中…これ、入んねーかも」
 これ…って、アレの事かな。服越しに、あたしのおへそ辺りに押し付けられてる…アレ。



「い…ぬい、辛い?」
 服の上から分かる位、張り詰めてて、きゅうくつそうにしている。
 あたしは背中に回していた右手を下ろし、そっと制服のズボンの上から撫でながら尋ねた。

 びくんっ。

「あっ!…し、正直言うと、かなり」
 撫でた瞬間、乾の背中が跳ねた。――服の上からなのに…凄く我慢してんじゃないのかな。
「じゃ…あたしも、触るね」
 返事を待たず、ジッパーを下ろし、手探りで、下着の前開き部分(っていうのかな?)から熱い塊を
掴む。
「うあっ…!?」
 あたしを責める指が止まり、耳の奥まで熱い吐息が流れ込む。
「人のコト言えないじゃない。…おちんちん、ぬるぬるが溢れてるよ」
「バっ…おまえ、また――…っ」
 先端を包むあたしの掌が、にちゃにちゃと音を立てるのを耳にしたか、乾が恥ずかしそうに目を閉じ
た。

 ――ぞくり。
 …これは、反撃のチャンス?背中が粟立つと同時に、あたしの中に、イタズラ心が芽生えた。
 前に、乾のカラダで色々試したのは、妄想の果ての暴走だけじゃないんだから。
 心の中で呟き、あたしは塊を握る手に、少し力を込めた。
 ――…でも、やっぱり、大きい…よねコレ。
 あたしの片手だけじゃ、きちんと握れないよ。
 コレ、あたしの中に入れようとしたの?
 木の幹みたいにゴツゴツしたところを擦ってみたり、先端のぬるぬるを吐き出してるトコを人差し指
で弄ってみたり、根元の筋張ったところを、親指の腹でぐりぐりしたりする度、乾の膝ががくがく震え、
耳に幾度も切ない声がこぼれ落ちて来た。

 キモチイイのかな。

 乾も、あたしみたいにお腹のうずうずが胸にまで伝わって、呼吸がままならなかったりするのかな。
「…気持ち、いい?」
 直球で尋ねると、答えはまともな言葉にならなかったのか、何度も首を上下する動きに化けた。

 キモチイイんだ。

 伝わると、嬉しくなってしまう。
 もっともっと、気持ちよくなって欲しいって心の底から思ってしまい、更に擦る手の動きを早める。
「あっ…!!」
 手の中が、びくん、びくんって脈打ってる。――いいよ。
「もっと、気持ちよくなってもいいよ」
 あんたが、あたしにしてくれた位、ううん、叶うなら、それ以上。
 あたしの言葉に、乾は小さく息をのんだ――気がする沈黙を、一瞬だけ落とし、止まっていた指を再
び動かし始めた。
 さっきよりも、激しく、乱暴に。
「くうっ、うん、ひゃあうっ――ん、んむっ」
 お腹の一番奥の、切なさのもとをぐりぐりと押さえる指に、ついこぼれる声を、唇が塞ぐ。
 上から下から、もう気持ちよすぎて馬鹿になっちゃいそうだよ。

 元がライバル同士だったからだろうか。それとも、場所が場所だからだろうか。
 西日が赤く染まりだした教室の中で、あたしたちは、声を殺し、手だけでお互いを追い詰めるように、
高みに上らせるように、求め合った。

******

 窓を開けた瞬間、カーテンが冬の風によって大きくはためく。
 ――と同時に乾の机の上のプリントが数枚、ばささっと床に散らばった。

「おわっとっとっと。…何だ、急に風吹いてきたな。寒っ」
「まだ閉めちゃダメだよー?ニオイ、こもってるから」
 窓際に立ち、開けた窓を閉めようとした乾に向け、あたしはティッシュで床に滴ったものの後始末を
しつつ、言葉を投げた。

 …ううっ、ショーツん中、ぐちゃぐちゃで変な感じ。
 一応、さっきトイレで拭ってはきたけれど、ショーツを淫らに濡らした分までは、どうにもならな
かったのだ。

「…結局プリント、そんなに出来なかったね。乾、ちゃんと家でやんなよ?」
「さっきの今でそういう事言うかねー?…なんつうかオマエ、変なトコで現実的だよな」
 はあ、と大きく溜息を吐き、プリントを拾いながら乾が呟き返す。
 自分の行動が非現実的だと気付いてないのだろうか。
「言っとくけど、もう、教室でなんか…ヤだからね。見つかんなかったから良かったけど…その…」

 こんな事ばかりしてたら、受験も卒業もままならない。
 あたしたちはどんなにえっちでも、学生で、今は高校三年の冬なんだから。

 ――…そういう意味で言ったのに、目の前のバカ犬は散らばったプリントを胸に抱え、バカみたいな
満面の笑みで、
「良かった?」
 なんて聞いてくるもんだから。

 あたしは、教室の片隅で、思いっきり乾の頬を引っぱたいた。

「も…うっ!!バカっ!ばかばかバカ犬っ!!!!」
 どこまで危機感のない男なのコイツは!
「あんまバカバカ言うなよ。自分に跳ね返ってくるぜ、そーゆーの」
「赤くなった頬押さえて嬉しそうにしてる辺りがバカだって言ってんの!!ドM!」
「それは否定しないけどな。…じゃあさ」

 乾は小さく笑うとあたしの耳元に唇を寄せ、今度オレん家で『勉強』しようか、なんて囁いてきた。
「……!!」

 え?そっ、それって――…どっち、の?

 聞くに聞けない質問を胸に抱え、あたしは、酸欠の金魚みたく口をパクパクさせる事しか出来なくて。
「それまでオレも『自習』してるから。よろしくお願いします、一口センセイ」
 だから、それっ、どっちのよーーーーっ!!!?

 寒風にカーテンがはためく教室の中で、あたしは顔中を熱くさせながら、そう遠くないうちに確実に
訪れる日に様々な不安と期待を抱く羽目になってしまったのだった。