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******
 こんな時。
 あなたならきっと女の子を泣かすんじゃないわよって、厳しくオレを叱り付けるでしょうね。
 凛とした表情で、木刀で、背中に喝を入れながら。
 ええ、オレもそう思います。
 女の子のカラダは男より柔らかで、でも心はもっと柔らかで、傷付きやすくて。
 気付けなかったオレは、きっと今一番馬鹿なんでしょう。

 先輩。

 オレは今から、一番好きな子を抱きます。
 馬鹿でいくじなしで情けないオレを、好きだといってくれた子を、抱きます。
 傷付けてしまった心ごと、全部受け止めて。

 先輩。矢射子先輩。

 オレは、あなたが、好きでした。

*     
 玄関の扉の前に立つ少女は、寒風に鼻を赤くさせながら、おはよう、とオレに声を掛けた。

「…おす。迷わず来れたか?」
「途中でわかんなくなって、コンビニで聞いちゃったよ。同じ町に住んでんのに、迷う事ってあるんだ
ねー」
 そう言って、一口は苦笑交じりにコンビニのビニール袋を持ち上げてみせた。
 中に入っているジュースのペットボトルが揺れ、がさりと音を立てる。
 ――ジュースくらい、ウチにもあるんだけどなあ。
「何だよ、ケータイで呼び出せば、迎えに行ったのに」
「後で気がついたの。…それより乾、上がっていい?」

 頬を膨らませ、むくれる一口の言葉にオレはハッとなり、慌てて、12月の来訪者を我が家に招いた。
 目の前をすり抜けた瞬間漂った、一口の甘い匂いに、オレは胸が高鳴っていくのを、自覚していた。

「乾ん家って、共働きだっけ。…土曜日もなの?」
「ああ。昔っからだし、慣れてるけどな。あ、そこ、テキトーに座っていいぞ」
 一口の返事を背で受け、オレは学習机の上に置いてたプリントをまとめる。
 …あーもう、がっつくなオレの手!今から震えてどうする!!
「…オレの部屋、なんか変か?」
 きょろきょろと見回す一口に尋ねると、ううん、と首を振りながら返される。
 気のせいか、少しぎこちない。
 いや、気のせいじゃないのかもしれないけど。
「男子の一人部屋って、初めて入るから、どんなのかなーって。…ふふっ、本棚、漫画ばっか」
「何だよ、お前小説読むのか?」
「読むよー?今野○雪とか」
「……」

 …それは、何とかが見てるとかいうタイトルの作者じゃねーか。聞くんじゃなかった。

 部屋の真ん中に出したテーブルの上に、ばさり、とプリントの束を置く。
「一応、自分で出来るだけの事はした…つもり…だけど、やっぱわかんねートコ多くてさ」
「空白多っ!」
 ぐさり。的確さが痛いツッコミにめげそうになりつつも、オレは改めて、頭を下げた。
「いやホント頼むって一口、いや一口センセイ。提出期限、英語なんか終業式の日だしさ」
「わ、わかったって。でもさ…あたしもそんな英語得意じゃないよ?そりゃあ、分かる範囲なら教えら
れるけど。…あと『センセイ』はやめてよね」
 なんかヘンな感じだから。
 と、一言付け足し、一口は着ていたクリーム色のダッフルコートを脱いだ。

 ニットのセーターにシャツ。…下はデニムのタイトスカートと、黒タイツ…かな?

「どうしたの乾。まずは英語から始めるんでしょ?」
「へあっ!?あ…あ、うん」
 きょとんとした表情と声に、オレは我に返った。――おいおい、何やってんだ。
 服装をざっと眺めただけで、『その服をどう脱がすか』なんて不埒な考えを抱きはじめる自分の頭を
大きく振り、オレは辞書と筆記用具を、テーブルの上に出した。

*     
 難問だ。
 目の前のプリントがどうとか言う話じゃなくて。
 いやプリントも難問だけど、それは置いといて。

 正直、高を括っていたのだ。
 (ゴタゴタの末とは言え)裸で抱き合ったり、(半ば強引に)教室でコトに及ぼうとしたりはしたの
だから、何とかなると思っていた。
 だが、頭で何度も行われていた予行演習が全て無駄になりそうな位、きっかけが掴めない。
 ああ、オレって、こんなにヘタレだったんだなあ。

「――…だから、その派生語の“surprising”は、『人を・驚かすような』とか『事柄が・驚くべき』
って意味で使うのね」
 バインダー用のルーズリーフにかりかりとペンを走らせ、一口が問題の解説をしている。
 あまり自分では気がついてないみたいだが、コイツは意外と人に教えるのが上手い。
 オレが『センセイ』と呼ぶのも、あながちでたらめではないのだ。

 …その割に成績があまり良くないらしいが、多分それは、クラスに一人は居る『ノートを取るのは上
手いが憶えがあまりよろしくない』タイプに分類されるからではないだろうか、とオレは踏んでいるの
だがどうだろうか。

「…でもこの場合は、訳が『驚いたようだった』だから使うのは『何々させられている・何々している』
の“ed”で、“suprised”になるって訳か。て事は正解は4番だな。なるほど」
 番号をプリントに書き込むと、一口はにっこりと笑い、そうそう、乾飲み込み早いねえ、と嬉しそう
に声を上げた。
「普段から真面目にやってたら、もっといい点取れるんじゃないの?」
「マジメにやっててコレで悪かったな。今回は特に居眠りのツケもあったけど、元々オレはこんななの」

 ふてくされるオレに、一口は眉をハの字にし、もったいなーいと呟いた。
「狙おうと思えば、普通に大学行けるよ絶対…って、推薦決まったからいいんだけどね。うん」

 ――何が『うん』なんだろう。胸の中がもやもやする。

 近頃、一口は歯切れの悪い言葉をよく残すようになった。
 聞きたい事があるなら聞けばいいのに、無理に踏み込もうとせず、壁をわざと作るような感じで、オ
レとの間にぎくしゃくした空気を漂わせる。
 オレは、そんな空気は欲しくないのに。

「…あのさ一口、お前どこの大――「ほら乾、ここも答え書いてないよ」
 あと5枚もプリント残ってるし、なんて、困った顔で笑いながら、話題を切り替えたりなんかして。
 何だよ。
 オレはもやもやを吐き出す代わりに、席を立った。
「ちょっと、トイレ行ってくる。また頭いっぱいいっぱいになってきたし」
「はいはい」
 部屋の扉を閉め、溜息を吐く。
 しんとした廊下に吐息は逃げるが、胸の中は相変わらずもやもやでいっぱいだ。

「…んと、何だよ一口」

 ああ、難問にも程がある。英語の語句整序なんて目じゃない。
 目の前の、好きな子の事なのに、オレは何一つ分かっていない。

 ――互いの進路について触れなくなるのが暗黙の了解になったのは、いつの事からだったろう。

 進路なんて、以前ならもっと気楽に話せたはずだった。
 以前――ただのライバルで、仲間だった頃なら。
 オレはその立ち位置の心地良さに、ずっと臆病になっていた。
 雨宿りの二人でいたいと願い、無理に自分の気持ちを押し込めていた。
 それがダメだと教えたのは誰でもない一口で、だからこそオレもまた、一歩踏み出すことができたの
だ。――なのに、どうして。
 新たに塞がる壁に、オレは何度立ち止まらなければならないんだろう。

 胸の中のもやもやが、どす黒い色に染まっていく。
 少しも吐き出せないまま、体の一番奥に、タチの悪い毒みたいに溜まっていく。
 ――ひょっとしたら、一口はこのままオレの元を離れていくんじゃないか。
 ずっと、頭の奥に押さえつけていた、疑問が不意に表に浮かび、否定したい一心で、オレはぎゅっと
目を閉じた。
 なあ、一口。
 お前、嫌な事考えてないよな?


 部屋に戻ってからの記憶は――なぜか少し曖昧になっている。

 ただ、長いトイレだったじゃないという茶化した言葉と、散らばるプリントの乾いた音と。
 コンビニの袋ごと床に転がった、未開封のジュースのペットボトルの鈍い音だけが、頭の中にいつま
でも残っていた。

*     
 食い尽くしてやろう。本気で思った。

 フローリングの床に押し倒し、両手をしっかり押さえつけて、オレは夢中で一口の口腔を犯した。
 柔らかい唇も、キレイに並んだ歯も、小動物のそれに似た舌も、全部オレのものにしたくて、ただ、
乱暴に貪った。
 やろうと思えば、唇や舌を噛んででも止めるくせに、一向に抵抗しない一口の姿が、オレを更に野蛮
にさせるという悪循環。

 放課後の教室の時より、凶暴で残酷な感情が、キモチ良くて、キモチ悪くて、反吐が出る。

「んぐっ――ん、むっ…ふっ、あ…いぬい…?」
 なに今更『何でそういうコトするの?』って目で見るんだよ。
 オマエだって分かってただろうが。
「あっ…ちょっ、やっ!!」
「何がヤだよ。…んむっ…前言ったよな。オマエ無防備すぎって。オレが――随分我慢してるって」
 小さな体にのしかかり、首筋に吸い付きつつ、耳元に囁く。
「だっ、ダメ!吸っちゃやあっ!!見られちゃ…」
「見えるなら見せとけよ。それとも一口、オレと付き合ってるって誰かに知られると困る訳?」

 卑怯だ。なんて自分勝手なセリフだろう。なのに、今のオレは。
「…反論しないってのは、図星かよ。ごめんな一口?でももうダメだ」
 じりじりと腹を灼く痛みにまかせるまま、欲望を吐くことしか出来なくて。

 改めて気付かされてぞっとしたが――…一口の両手は、オレの片手でも押さえつけられるほど、非力
だった。
 オレは空いた片手で一口のニットセーターを捲り上げると、シャツのボタンに手を掛けた。
 胸元のボタンだけ外し、隙間から手を差し込むと、半ばあきらめの表情だった一口の目が変わった。
「やだっ!!お願…いっ、乾やめてってば!!」
 体の下でじたばたと小さな体が動く。けど、今のオレにはそんな言葉全然通じない。

 男と女って、別の生き物だよな。
 ――涙を浮かべる一口の目を見つめ、遠い所で冷静な自分がぼんやり呟く言葉が、妙に心に響いた。

「おとなしくしろよ。…っはあっ、どうせロクな抵抗なんて、出来っこねーんだから」
 息を荒げ、最低な言葉を投げつけると、手首を押さえる片手に目をやる。
 ああ、どこからどう見ても、今のオレ最低だな。
  少し腰を浮かせた姿勢を取りつつ、もう片方の手はシャツの隙間に潜り込んだ。
 もう少しで、ブラジャー越しの柔らかな感触が掌に伝わりそうだったその時――。

「いっ…いいかげんにしろーーーっ!!!!!!」
「ぐぉっ!!!?」

 みぢっ。
 オレにしか聞こえない破滅の音と同時に、一口渾身の膝蹴りが股間に、それはもう見事に命中した。
 下半身は既に興奮状態だったのだから、その衝撃たるや、説明するだけで股間を押さえたくなるシロ
モノだった。
「~~~~っ!!!!」

 脳天まで突き抜ける激痛に、意識が途切れるのを感じつつ、オレは心の片隅で、少しだけ安心したの
だった。

*      
 男と女って、本当、別の生き物だ。

 だからこそ、オレは一口の拒む理由が分からないし、一口にはきっと今のオレの痛みがわからない。
 …本当、痛え。急所蹴りなんて喰らったの、何年ぶりだろう。
 あーでも、今はそれよりも、もっと深いトコが、泣くほど痛い。

 畜生。こんな見苦しい自分の姿、出来るなら一生見たくなかったよ。

「……」
 一口、きっと帰っちまっただろうな。
 当然だ。あんな危険な目に遭って、逃げ出さない方がどうかしてる。
 いくら謝っても、いくら許しを請うても、もう、アイツは。

 ――ことん。…きぃっ。

 ?…何の…音、だ?物凄く聞き慣れた音のような気がするけれど。
「乾…まだ寝てる?」
「!!」

 ――…一口!?
 少しぼやけた視界の中、学習机の前に座った一口がこちらを向いているのが見えた。
「なんっ!?…お前、帰っ…痛でででででっ!!?」
 ベッドを軋ませ起き上がった瞬間、股間に痛みが走った。――て事は、夢じゃない。
「帰ったほうが良かった?」
「い、いやっ!!全然っ!!」
 首をぶんぶん振り、オレは慌ててうかつな発言を取り消した。
「…けど、正直…逃げると思ってた、から」
「うん、正直、帰っちゃおうって思ったけど」

 きいっ。

 椅子を鳴らし、一口はちらりとプリントの束を見た。
「こんな…コトで、あんたが勉強のやる気なくしたりなんかしたら…それこそ目覚め悪いし、イライラ
してたのも、何となく、わかるし。――ごめんね、乾」
「や…一口が謝る事じゃねーだろ…」
 どう見たって、悪いのはオレだ。お前が謝る理由なんてない――言おうとしたセリフは、一口のそう
じゃなくて!、という大声によって遮られた。

 一瞬、部屋がしんと静まり返る。一口は、首筋を押さえて、続く言葉を放った。

「そうじゃなくて――さっき、乾言ってたよね。オレと付き合ってるって誰かに知られると困るのか、
って…あれ、ちょっとだけ正解。…あたしね」
 お姉さまに、知られるのが、怖いの。

 椅子の上の一口は、いつもより小さく感じた。
 実際は縮こまってるからなのだろうが、それでも、膝の上に置いた手を握り締め目を伏せる一口は、
とても辛そうで。
 見ていて、胸が痛くなった。
「…酷いよね。あたし、ずっと振り切れてるって思ってたのに、乾の傍に居ると、一緒にお姉さまの
こと思い出しちゃう時、あるんだ。乾のこと、考えたいって…思ってん、のに、乾の中に、あたしが
追い、かけ続けてた、お姉さまの面影見出したりっ、し…」

 ぽたっ。手の甲に、雫がしたたる。
 一口は、泣いていた。

「でもっ、あたし乾に、そういうの思われるのっ、嫌で…む、ね、触られるのも、どこかで比べられ
てたらっ…っく、わがままなのは、分かってるけど、思ったら、怖くて」
「もう言うな、一口」
「あたし、お姉さまみたいに、おっきくないしっ…いっく、子どもみたいだし」
「言うなって!!」
 悲鳴染みたオレの叫びに、一口はびくんっと身をこわばらせると、何度もごめん、と呟いた。

 ――オレは、目の前の少女の何を、知りたがろうとしていたのだろうか。
 一つになりたい、独り占めしたいと気を焦らせるばかりで、彼女の小さな体に抱えた悩みなど、欠片
もわかってやれてなかった。
 一番好きだった人に対して、相反する感情を抱かざるを得なくなった一口の痛みなど、これっぽっち
もわかってやれなかった。

 ちくしょう。本当にオレは馬鹿だ。

「ごめん…ごめんね、乾…お姉さまも…二人にすごい、酷いコト…考えて、ごめんなさ…」
「いいから、あんまり自分を責めるな」
 オレはベッドから降りると、泣きじゃくる一口の前に立ち、そっと抱きしめた。
 背中を軽くたたき、落ち着かせるように促すと、耳元に唇を寄せ、言葉を紡ぐ。

 自分にも、言い聞かせるように、一言一言、力強く。

「…オレは、確かに矢射子先輩が好きだったよ。多分、あの人が与えてくれたものは、ずっとオレの中
に残ると思う。少しずつ、姿を変えながら。――無理に消し去ろうとか、するもんじゃなくてさ、肌に
なじんだシャツみたいに、自然な形で溶け込むようにな。…一口もさ、無理に振り切ろうとかすん
なよ。オレは、オレだから先輩の代わりにはなんねーけどさ」
「……」
「オレの中に、先輩の面影があるってのは…正直、ちょっと嬉しかったよ。オレも先輩みたいになれた
らって思ってたから――あ、でも、これだけは忘れんなよ?」
「なっ、何?」

 いきなり身を離され、一口が目を丸くする。
 あー…やばい。すごく、この表情、イイ。

「オレは、誰でもない、一口夕利が好きだってこと」

*     
 カーテンを閉め切った部屋は暗いが、昼間ということもあり、何も見えないというほどではない。
 そんな中、オレと一口はお互い下着姿のまま、パイプベッドの上に向かい合って座っていた。
 白地に桃色の飾りのついた、上下お揃いの一口の下着はとても愛らしかったが、それよりもその中が
気になってしょうがない。
 …って、いかんいかん。また暴走する気かオレ。
「え…と、その…優しくしてね」
 月並みな一口のセリフも、今のオレを見透かされてるみたいだったので、オレは馬鹿みたいに何度も
首を上下し応えた。

 近付いて、そっと首筋に触れる。
 さっき自分が吸い付いた場所は、鬱血し、白い肌に紅い花を咲かせていた。
「痛い?」
 指で痕をなぞると、一口はくすぐったそうに目を閉じ、ううん、と答えた。
「いまの乾の指、気持ちいい…」
 ぽすん、とオレの胸に寄りかかり、言葉をこぼす一口が可愛くて。
 もっと気持ちよくさせたくて、オレは柔らかい頬に、小さい貝殻みたいな耳に、クセのない髪に、キ
スの雨を降らせた。

「――…ん…」

 そして、さっき力任せに貪った唇を、今度は優しく重ね合わせる。
 さっきはただ、なすがままにされていた一口の舌は、オレの口の中にもこっそり入り込み、薄暗い部
屋に、吐息の音と水音が響いた。
「んむぅ…ふ、んん、く」

 …ああ、やっぱり、やらしいな。   
 一心に舌に絡み付こうとする一口の表情は、とろとろに蕩けきっていて、さっき蹴られた場所に血が
集まっていくのが、イヤでもわかる。

 そっと背中に手を回し、ブラジャーのホックに触れると、一口の肩がぴくんっ、と動いた。
 ――まだ、怖いかな。
「…嫌?」
 尋ねると、胸元に直接、ううん、と返ってきた。

 壊さないように注意しながらホックを外し、肩紐をずらすと――ささやかながら、丸みのある一口の
胸が、オレの視界に飛び込んだ。

 掌にすっぽり収まる乳房は、確かに小さいけれど、ふわふわしていて、男のや、子どものとは明らか
に別物だ。
「…柔らかい、ん、だな。スベスベしてて、すげ…キモチイイ」
「んあ…っ、あんまり、強く揉んじゃやあっ…痛っ…」
 ――痛いのか。オレは慌てて手を離し、ゆっくりと、狭いベッドに一口を横たえさせた。

 そのまま、身体に覆いかぶさるような形で上に乗り、乳房にもキスをする。
「一口の胸、甘いんだ。…オレ、初めて知った」
「えっ…そ、そう、なの?あっ、わかんないよそんなのっ!」
 出来るなら、足先から髪の先まで、余すとこなく唇を這わせて、味わいつくしたかったけれど。
 さすがにそれは嫌がられそうだったので、自重した。

*     
 ――全く、ロリコン趣味じゃないとか、未成熟とか言ってたのは、どこのどいつだよ。
 もし今、あの頃のオレが目の前に居たら、有無を言わさずぶん殴るだろう。
 いや、ロリコン趣味じゃないのは変わってないけどな。
 けれど――今、目の前に居る女の子のカラダは、明らかに子どもとは違う。

「あ…はぁっ、それっ、ぞくぞくするのぉっ…!」
 脇腹を触れるか触れないかのギリギリのラインで弄びながら、へそを舌で責めるたび、頭上に降って
くる声には、甘さと、ほんの少し重めの艶っぽさがある。
 こんな声、子どもになんか出せやしない。
 かと言って、他の女子に出されても困る。

 コイツじゃないと、駄目なんだ。

 くちゅん。

「―――っ!!!」
 ショーツの上からちょっと触ってみただけだったのに、一口の一番熱い所は、びっくりする位潤んで
いて、桃色の飾りのついたショーツのクロッチ部分だけが、水に濡れたみたいにぐしょぐしょだった。
「すげー…びっしょり…」
「っ…!!やあっ、見ちゃだめっ!」
 見られまいと閉じようとした一口の脚の間に、オレは膝を割り入れる。

 どくん。どくん。

 オレ…で、こんなになってくれたんだよな。…やばい、泣きそう。
「脱がすぞ」
「う、うん」
 返事と同時に腰が浮く。ショーツは一筋、透明の糸を引きながら、一口の体から離れていった。

 どくん。どくん。

 スリットが透けて見えるくらい、淡い陰り――その下に、熱い蜜を湛えた小さな花が咲いていた。

 以前見た時とは、状況が違うからだろうか。何か、別物のようにも思えた。
「い、乾…?」
 おそるおそる声を掛ける一口に、オレは軽く飛ばしていた意識を取り戻した。
「ん、どうした?」
「…あたしの…その、ソレ…ヘンかな?」
「い、いや…って、わかんねーよ。オレ、女の…ココ見るの、初めてだし…」
 厳密に言えば、一口以外のを見た事ないし。

 時折ひくひくと蠢いては蜜をこぼす、小さくも淫らな花の仕草があまりにもやらしくて、切なくて。
 オレは誘われるように、唇を近付けた。

「ひゃあっ!?乾それダメっ、汚いっ…!!」
 頭を挟み込む両脚が、びくんっと跳ねるのが分かった。

 ちゅぷっ。くちゅん。ちゅるっ。

 口の中がぬるつく。
 ほんの少しの塩気と、酸味と、むせ返るほどの女の匂いに、頭の中がぐらぐらと煮え返りそうだ。
「お願い…だからっ、やめてよぉ…っ」
 一口の手がオレの頭を離そうともがくが、オレは離れたくなかった。

 もっと触りたい。もっと味わいたい。
 身も心も、一つになりたい。
 ずっと、ずっと――おそらくは、初めて肌を合わせたあの雨の日から――思ってたのだから。

「ふっ…んっ、くっ、んんんっ」
 唇より柔らかくてぷるぷるした花弁にキスをし、赤く熟れた小さな実を唇でついばみ、とめどなく蜜
をこぼし続ける芯に舌をねじ込む度に、一口の体はびくびくと跳ね、くぐもった鳴き声が頭のてっぺん
に降ってきた。

 あ…やべえ…オレ、これだけでもイきそう。
 蹴られた痛みも吹っ飛びそうな快楽に、下着の中がぐちゃぐちゃになってるのが分かった。
 でも、出来るならこの中でイきたい。
 誰でもない、一口の中で。

「――…ぷあっ。いぐち…」

 ぎくり。

 無我夢中で、舌がふやけそうになる位堪能したオレは顔を上げ、一口の名を呼ぼうとし――。
 …硬直した。

 真っ赤な顔の一口は、目の端に涙をたたえつつ、声が漏れないように片手で自分の口を押さえ、ふる
ふると、しゃくり上げるように震えていた。

 ひょっとして――いや、ひょっとしなくても今オレがやったことって、一口には物凄く恥ずかしい事
だったんじゃないか?
 わああっ!どこまで自分勝手なんだよオレ!舌の根も乾かない内からっ!!
 思い至り、オレは青ざめた。

「あっ!わ、悪い…オレ、やりすぎた…よな?」
 謝ると睨まれた。――今更、童貞の好奇心でした、じゃ済まないよな。
「……ごめ「…ばか。ヘンなとこで醒めないでよ」
 ぽかり。頭を叩かれる。…えーと?

「…続けていいってこと?」
「聞かないの」

*     
「そーっと、だからね。そーっと」
「お、おう」
 枕の下に隠していた(一口には呆れられた)避妊具を装着し、オレはガチガチに固くなってしまった
モノを握ると、熱くぬかるんでいた一口の入口に、先端を擦りつけた。

 くにゅり。

 ゆっくりと円を描き、拡げるようにしながら先端を少しだけ潜り込ませる。
 裏側にぞわり、と柔らかいものが這うような感触。

「…うおっ」「つっ!!」

 思わず声が漏れた。
 先しか入ってないのに、イきそうになってしまうのを、腹に力を入れ、崖っぷちギリギリで耐える。
 ぬるぬるで、きゅうきゅうで、キモチイイ。
 入口だけでこんなんだったら…全部入れたらどうなっちまうんだよ。

 どくん。どくん。どくん。

 知りたい。感じたい。――もっと、もっと。
 一口の中に入りたい。
 ごくり、喉を鳴らして生唾と、ともすれば飛び出しそうに感じる心臓をムリヤリ押し込むと、オレは
ゆっくり腰を進めた。
 少しずつ、必要以上に傷つけないように。

 ずっ。
「あっ」
 ずぬっ。
「あうっ」
 …ぐっ。

 ――微かに感じる抵抗。これを越えたら、もう。
「…いいか?」
 荒ぶる息を抑え、オレは体の下の一口に尋ねる。
 一口は、泣き出しそうな目でオレの顔を見ると、小さくうなずいた。
「いいよ、乾――来て」

 あたしの奥まで、乾でいっぱいにして。

 最後のセリフは声になっていなくて、ひょっとしたらあれは、オレの幻想の中での言葉だったのかも
しれない。
 だけど、確かに聞こえたのだ。
 少女だった一口の、最後の言葉が。


「――っ!!!!」
 ぎしいっ、と大きくベッドが軋んだ。
 一口の目はきつく閉じられ、初めて受ける衝撃を必死で耐えているのが、痛いくらい伝わってくる。
「あっ…くうっ、うあはぁっ!!!!」
「はっ…あっ」

 すごい。すごいすごいすごい。
 あんな小さなトコが目一杯開いて、オレのを一生懸命に包み込んでる。
 一つになるって、こういうコトなんだ。
 紅に滲む、繋がった部分を目にし、オレは最初にそんな子どものような感想を抱いた。

 一口の中は、熱くて、柔らかくて、そのまま溶けてしまいそうな程、気持ちよかった。
「……っ、くうっ、うっ…」
 けれど、脂汗を浮かべ青ざめた、痛々しい表情を見ていると、自分だけ気持ちいいままでいいのかと
いう罪悪感が沸き起こってくるのも、また事実だった。
 痛いか?とか大丈夫か?なんて答えがわかりきっている言葉なんか掛けたくなかったし、かと言って、
このまま腰を突き上げるなんて出来ない。

 ――結果、一口の呼吸が落ち着くまで、オレは指一本動かせないままだったのだけど。

「…っ、はあっ…ね、え…まだ…入ってる?」
 まだ少し、息を途切れさせつつも尋ねる一口に、ああ、と答える。
 ゆっくり肘を曲げ、一口の体の上にぴったりと被さると、胸にオレのものじゃない鼓動と、下半身に
くにっとした衝撃が伝わった。
「…一口の、奥まで入ってる」
「んんっ」
「我慢すんなよ。…しばらく、こうしてるから。こうしてるだけでも、オマエん中、スゲー気持ちいい
から」

 幸か不幸か、さっき受けた一撃は未だ尾を引いていて、こちらもあまり激しい動きは出来そうもな
かった。
 痛みと快楽がごちゃ混ぜなのは、オレもまた同じなのだ。

 …と、正直に口にする程、オレも恥知らずではない。
 代わりに涙に濡れた一口のまぶたに何度もキスを落とし、少しでも破瓜の痛みを和らげようと試みる。
「きゃっ…やんっ、ちょっと、くすぐったいよ」
 くすくす笑いながら、一口は首を振るが、オレはなおもキスを続ける。
 お腹の動きがダイレクトに下にも伝わり、きゅんっと締まる中が、少し痛くて、かなりイイ。


 ――ありがとう。オレは声にせず、心の中で一口に礼を言った。
 オレの傍に居てくれて。
 オレを好きになってくれて。
 オレと一つになってくれて。
 本当に、本当にありがとう。

*      
「…ね、動いてもいいよ」
「ん?無理しなくてもいいっての」
 こちらにしてみれば、まだ苦しそうな体を労わるつもりで言ったセリフだったのだが、相手には不満
だったらしく、また頭をぽかりと叩かれた。
 いてーな。
「アンタって、本当…我慢強いよね、マゾだから?…でもさ、少しくらいは、無理、させてよ」
 つうっ、と背中に回されていた一口の手が、オレの背筋をなぞる。
 …いや、マゾ云々は今は無関係だと思うぞ?
 頬を赤く染めた一口は、ちょっと口ごもったあと、オレの耳に唇を寄せた。
「あたしだって…はじめ、のが、欲しいって思ってんだから」

 ――ん?

「今、何て言った?」
 この声では耳慣れない単語に聞き返すと、一口は顔を真っ赤にさせ、何度も言わせないでよ!と三度
オレの頭を叩いた。
「もうっ、一のバカっ!」
「……」

 どうしよう。
 恥ずかしがりつつも、オレの名前を呼ぶ娘が、可愛すぎて、愛しすぎて――。
 めちゃくちゃにしたくなる。
「…夕利」
 かすれ声で名を呼ぶと、相手も一瞬驚いた表情を見せ、それからふわりと微笑んで、どうしたの一、
と返す。なんだよもう。反則じゃねーか。
「夕利、夕利、ゆ…り」

 呼ぶたびに、切なさが胸から溢れ出していくのがはっきりわかる。
 オレは、目の端に浮かんだ涙を見せまいと、小さな体を抱きしめると、ゆっくり腰を動かし始めた。

「くふっ…う、んっ」
 ベッドが軋む音と、荒い呼吸の音と、体と体がぶつかる音と、粘ついた水音が、部屋の中でやらしい
セッションを奏でる。
 オレはただ夢中になって、愛しいカラダを全身で感じていた。
 最初はゆっくりだった腰の動きも、徐々に激しさを増す。
 理性のブレーキはとっくに壊れ、脳内麻薬が痛みを消していた。
 引き抜こうとすれば絡み付き、喰らいつかんばかりに離そうとしない淫らな花は、挿しこむ時には、
柔らかく受け止めてくれる。
 こんな感覚、知ってしまってはもう戻れない。戻る気も起こらない。

「あっ…あっ、一っ、激しっ…」
「夕利、夕利っ、好きだ」
「――…っ」

 背中に回していた腕に、力が入る。
 オレは繋がったまま夕利を抱えて起き上がると、座った状態で再び腰を突き上げた。
「はあっ…!はじめっ、一っ、好きっ、大好きっ!」
 がくがくと夕利の体が震え、中できゅうううんっ、と締め付けられる。
「くあっ…夕利っ、出るっ!」
「来てっ!はじめ…んああっ、ああああっ!!」
「うくっ…ううっ!」

 どくんっ!どくんっ!!どくんっ!!

 体の芯が爆発するんじゃないかって思ってしまう程の、激しい衝動がオレの中を駆け巡り――。
 流れに任されるまま、オレは、誰よりも愛しい娘の中で絶頂に達した。
「ああ…っ、好き、はじめ…好き、すき、だよ」
 オレの衝動を、しっかり受け止めている間、夕利は何度も『好き』と繰り返し、囁いていた。

 唇から紡がれる声は、甘くて、切なくて、少しだけ苦しそうで、でもかなり誇らしげな、『女』にな
りたての、夕利の声だった。

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 えーと…確かこの引き出しだったと思うんだけどな。
 がさごそと、机の引き出しの中をあさるオレの背に、ドアの開く音と何やってんの、という声が投げ
かけられたのは、事を終え、昼も大きく過ぎた頃だった。
「夕利。――血、止まったのか?」
 振り返り声の主を見ると、シャツとタイトスカート姿の夕利は、かあっと頬を赤らめた後渋面を作り、
オカゲサマデ、と感情のこもらない返事をした。

 …やっぱり、まだ怒ってんだろなあ。

 はじめての女の子を抱いた場合…その、痛みと同時に血が出るって事位は、オレも知識として知って
いる。
 痛みの有無や、血の量に個人差があることも。

 そして、夕利の場合は。

「…アレの時以外に着けるなんて思わなかったわよ、ホント」
 と何度も愚痴るほど血が止まらず、二人揃って慌てふためき――今に至る訳で。
「はあ…」
 いや、その生理用品、家にあったやつなんですけど。
 オレは変な所で生々しいモン知っちまった訳ですけど。
「まだ一のが入ってるみたいで、歩きにくいし。優しくしてって言ったのに」
 ハイ。その通りです。返す言葉もございません。
 帰りは自転車で送りますので、どうぞご容赦くださいませ。

「…言っとくけど、他の女のコ、こんな風に泣かせたら、承知しないからね」

 …がしゃん。「ぎゃんっ!!」
 加減が効かず、思い切り開けてしまった引き出しが抜けて足の甲に落下する事態に、オレは情けない
悲鳴を上げた。
「いってえーー…夕利!何急にバカな事言い出すんだよ!」
「バカじゃないよ!…こんな痛くて痛くて、涙も出なくなるくらい痛い目に遭わせるのは、あたしだけ
にしなさいって言ってんの!!」
「…え?」
 スミマセン意味がわかりません。
 まぬけ顔のオレに、夕利は長い溜息を吐くと、もういいよ、と諦めたような呟きを漏らした。

 意味がわかったのは、日も暮れた頃、ベッドに横になっていた時で、その何とも彼女らしい独占欲の
現われと、ベッドに漂った残り香に、オレは一人、悶える事になるのだが、それはまた別の話だ。

「それよりさ、何やってんの?」
「ん?…あ、あったあった。――はい、これ」
 散乱した引き出しの中身から、見覚えのある封筒を拾い上げると、オレはそのまま夕利に手渡した。
「何?」
「オレが行く、大学のパンフレット」
 言葉に夕利の表情がわずかに固くなる。
「――って言っても、オレもまだあまり読んでないんだけどな。…ざっと見た限りじゃそんな遠くない
トコだし…その」
 こういう時、上手く言えなくなるのは何故だろう。
 耳まで熱くなるのを感じつつ、オレはとにかく読め、と夕利に薦めた。

 ぎしっ。
 ベッドに腰掛け、夕利が封筒を開ける。
 何とも言えない気恥ずかしさを感じたオレは背を向け、机上のプリントと、ちまちまとした文字の書
かれたルーズリーフに目を落とした。
 英文の解説が書かれたルーズリーフは、オレが寝てるうちに書いたものか。
 ――本当、変なトコで現実的なヤツ。
 丁寧に、色分けまでされた解説文に、オレは目を細めた。
「…な、夕利。オレ、大学行ってからも、お前とこうしてたいって思ってんだ。会う機会は減るかもし
んねーけど。…それでも、お互い辛い時や嬉しい時に、傍に居られたらって」

 そして、もしも叶うなら――…なんて考えるのは、やっぱり妄想のしすぎだろうか。

「…夕利?」
「――で、一は『ギャクウシロコテシバリ』なんかされながら、『キュウビムチ』でしばかれて、
『ローションリョウアシバサミ』で、責められたりしたいの?」
「へ?」
 な、ナ、何言ってんのかな?
 嫌な予感に、オレはもう一度足元に散らかったプリントやらCDケースやらの跡に目を遣る。
 ――げ。
「い、いいやっ!!夕利、そっちじゃなくてこの封筒だ!!それ違う!!」
 そうだ。それは――封筒は似ているが、中身はオレが長年お世話になった夜の友(入手経路について
は極秘とさせてもらう)で。
 下手に隠し場所に凝ろうとしたのが、逆に首を絞めるハメになるとは。
「『魂の暗部を狙撃する雑誌ス○イパー』ねえ…。一、やっぱりこういうの読んでたんだ」
「そ…それは…えーと」

 うわあ。一口サン顔、物凄く怒ってません?怒ってますよね。
 あ、総ページ数400の雑誌が一瞬で真っ二つに。さらば夜の友。

「言い訳するなぁーーーーーっ!!!!バカ犬っ!!」
「ああはぁああ~~~~んっ!!!!」

 曇天の土曜日、昼下がりの住宅街に、ド派手なビンタ音と嬌声が響き渡る。
 ――そして、それから数十分後には、大学パンフレットを見た夕利による、素っ頓狂な大声も。

 冷え込んだ12月の空は、この冬最初の雪を街に降らせ、本格的な冬の到来を。
 そして、その先にある、春をも予感させた。