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*       
「…続けるよ桂さん」
 震える手で、残り少なくなったチョコを分け、そっと唇に押し込む。
 そして、頃合を見計らい、僕は半開きになった彼女の唇に、自分の唇を重ねた。
 さっきまでとは違う、僕がリードを取る形のディープキス。
「ん…くふ、っ」
 少しだけ涙に濡れた、長いまつげが愛らしい。
「はっ…桂さんも、真っ赤になってる。汗までかいて…」
 だから、脱がすね。――囁き、彼女の制服の上着に手を掛ける。
 リボンタイを取りブラウスのボタンを外すと、ブラジャーに包まれた手のひらサイズの胸が、ふる
りと揺れた。
「あっ…」

 チョコレート云々から逸脱している気もしなくも無いけれど、
「ん?チョコを奥に押し込み過ぎたな」
「ふあぁっ?あ、あ指…入っ…それ、チョコじゃないっ…!」
 一九くんに比べて僕はポジションで明らかに劣っているので、この位のオマケは大目に見て欲しい。
            
 そう、これは同好会の活動の一環。僕がどれだけ状況を丸く収めるか、試す機会。
 だが、同時に、男としてのプライドを賭けた勝負でもあった。
 ――桂さんを、好きな娘を気持ちよくさせるのは僕だ。
 胸の奥から、ふつふつと湧き上がるものを押し込めるように、僕は、ぐっと喉を鳴らした。
 大きく開いたブラウスに手を潜り込ませて、ブラジャーごと胸を揉む。

 うわ…女の子の胸って、こんなに柔らかいんだ。
 それに、布の上からでも分かる、このちょっとコリコリしたのって…。
「ああっ、野田くん、そこ、やんっ」
「嫌なの?乳首が勃っちゃうくらい、気持ちよくなってるのに?」
「んんんっ」

 自分で自分のセリフに興奮してしまう。

 下手すれば暴発しかねない自分の下半身を律しながら僕は、ブラをずり上げて直に胸を揉み、桂さ
んの耳朶に言葉を落とした。

「やっ、じゃないっ、じゃないけどっ、おかしくなる!」

 その言葉は、偽りではないだろう。
 僕と一九くん、二人がかりで上から下から責められて、嬌声を上げる桂さんの表情は、涙と涎でぐ
しょぐしょだけど、凄くやらしい。
 もっと、もっと、気持ちよくさせたくなる。
「いいよ。おかしくなっても」
 チョコの残りを手に取ろうと、腕を伸ばす。
 と、強い力で手首を掴まれた。
「――残りは半分に分けるぞ」
 一九くんだ。
「…うん」

「はっ、ひゃううっ、も、ダメぇ…」
「ほら、桂さん。最後のひとかけ、ボクに頂戴?」
 口に含ませ、何度目かのチョコレート味のキスを交わす。
 あまりの心地良さに、甘くて、苦しくて、涙が出そうだ。
「ふむっ、んんっ!んっ!―――!あっ!あはぁっ!」
 びくん、びくん。
 大きく痙攣する、小さな体。制服のズボンの太股の辺りが、じわりと熱くなった。
「ああ…ふぁあん、ん――」

 初めて目にする、女の子のイッた時の顔。
 恥ずかしさからか、真っ赤になった頬。
 涙で潤んだ、大きな瞳。
 小刻みにしゃくりあげるように震える、小さな肩。

 正直、僕と一九くんのどちらが彼女をイかせたかは、分からない。
 けれど、このとびきりやらしくて、せつなくて、いとおしい表情は、誰にも譲れない。
 だから、僕は唇を重ねた。

*        
 あんなに冷え切っていた道場は、今はじっとりと肌にまとわり付く熱気がこもっている。
 けれどそれが、片隅の年季が入った石油ストーブのせいじゃないのは、ここにいる全員わかってい
た。
「桂、服に皺が付きそうだから、脱がすぞ」
 静かに言葉を放つ一九くんの額のハチマキに、汗がにじんでいる。
 力なく、されるがままに服を脱がされ、靴下のみ(何やらマニアックだな)の姿になった桂さんも、
そして、身を起こし、膝に彼女の重みを感じながら、ぼんやりと脱がされる様を眺める僕も――全員、
熱にうかされたように、赤い顔をしていた。

「……」
 白々とした蛍光灯の明かりの下の、桂さんの裸。
 呼吸と心音でふるふると揺れる、微かなふくらみ。
 ウエストから腰にかけての、なだらかなライン。
 強く握れば折れそうなほど、華奢な手足。
 全て、僕がかつて夢にまで――それこそ自慰のネタにするほど――見たものだった。

 それらが今、目の前に、圧倒的な現実と共に横たわっている。

「…一九くん」
 擦れた声で僕は、とんち道場三代目総帥の名を呼んだ。
「なんだ、慎」
「今、思ったんだけど…ボクたち、『チョコを貰うため』に桂さんにああいうコトしたんだよね…」
「ああ」
「だったら、貰った後で服を脱がしても意味無いんじゃない?」
「……」

 いや、本当に素朴な疑問だったんだから仕方ないじゃないか。
 空気読めてなかったのは認めるよ。
 だからそんな小馬鹿にしたような目で見るのやめてくれない?

 そりゃ僕だって…出来ることなら続きがしたいよ。
 さっきから股間はギチギチに張り詰めてて痛いくらいだし、何より桂さんと体を重ねる機会なんて、
この先あるかどうかも疑わしい。
 けれど、あと一歩踏み込めないのは、やはり心のどこかで『こんなのおかしい』と思う僕が居るか
らなんだ。

 一九くんは深く溜息を吐くと、やっぱりお前はとんちを分かっていないなあ、と呟いた。
「…どういう意味だよ」
「さっきも言っただろう。とんちの真髄は、いかに相手を、そして己を傷つけずに丸く収めるかにあ
ると。――このまま済ませてお前は満足するのか?」
 一言一言、噛み含めるように返す一九くんのセリフがどうにも癪に障る。
「なっ…じゃあ、三代目総帥殿はどういったとんちで切り返そうっていうんだよ」
 僕の言葉に、一九くんはしばし黙った。

 なんだよ。そっちこそ考えなしだったんじゃないか。

「――3月」
 沈黙を破ったのは、裸で僕に寄りかかる桂さんだった。
「…14日は…なんの日だっけ、野田くん」
「え…?えーと、ホワイトデーだろ?」

 バレンタインデーと対を成す、恋人の祭典。
 2月14日に心を打ち明けた女性に、男性が応える日――だったと思う。

 元々バレンタイン自体縁の無い僕に必要の無い知識なので、なげやりなのはやむ無いことである。
 でもそれが――考え至り、僕は桂さんの顔を見た。
「なるほど、前倒しというわけだな。桂」

 ベルトをカチャカチャ鳴らす一九くんの回答に、桂さんはこくん、と頷いた。
 なるほどって言っちゃったよこの総帥。――いやいやいや、ちょっと。
「準備早っ!」
 早々に桂さんの目前で臨戦態勢になっているブツをさらけ出す男に、ツッコミを入れる。
「何だ慎。お前は桂の想いに応えないのか?」
「うっ…」
「野田くん…のも、ずっと苦しそうにしてたよね。…受け止めさせてくれる?」

 女の子にこんな事を言われて、断る男が居るだろうか。
 否。
 僕は真一文字に口を閉じ、気合を入れると、ズボンのベルトに手を掛けた。

*         
 僕と一九くん、二人のポジションを代えることになり、ガチガチになったモノを片手に僕は、桂さ
んの足の間に割って入る。

 呼吸するように、ひくひくと蠢いている、大切な場所。
 ――これが、女の子のアソコなんだ。
 初めて見る本物のアソコが、チョコまみれというのもどうかと思うけれど。
 とろとろになった場所は、そのまま挿れても大丈夫そうだった。

「…じゃあ、入れるよ」
「う、うんっ」
 狙いを定め、ゆっくり腰を突き出す。
 緊張ゆえに、何度か滑るミスを犯しつつも、僕は桂さんの熱いぬかるみへと、沈み込んでいった。

「あ…野田くんの、入ってくる…熱…」
「はああっ…ああっ、あ」

 情けない声が、勝手に喉の奥から漏れてくる。
 けれど、押さえ切れない。
 ぐちゅぐちゅって、やらしい音をたてて、僕を包み込んでくる桂さんの中。
 僕の全部を、淫らに呑み込んでいく、もう一つの口。

「凄…こんな、の」
 ――舐めるように僕の形に沿って這う幾枚ものぬめる舌が、僕のキモチイイ部分に触れるたび、
「感じたこと…な、い」
 ――頭の奥でチリチリと、どこかの細胞が焼き切れていくかのような微かな音を響かせ、
「…桂さん…の、なか」
 ――同時に僕の中の何かが失われていくような錯覚を覚えた。
「……気持ち、いい」

 そして。

「んっ…!!」
 僕の先端が、彼女の奥の大切な場所の入口をノックし、彼女の淫らなカラダが跳ねた瞬間。

 今まで僕を縛り付けていた理性とか、常識と呼ぶ類の抑圧が――簡単に、本当に驚くほど簡単に、
消え去り、
「うおおああぁぁ……ああっ!!」
 僕は、ただ彼女の中で与えられる快楽を求め、夢中で腰を振る獣になった。

 ――快楽で頭の中が焼き切れていたせいか、最中の記憶は、残念ながらきちんとは残っていない。

 憶えているのは、突き上げるたびに微かに揺れる小ぶりな胸とか、
 白く泡立った粘液まみれの僕を、何度も何度も呑み込んだ、繋がった部分の小ささや柔らかさとか、
 抱え込み、肩口へと高くあげた片脚の細さとか、
 そして――頭を抱え込まれ、僕と同じようなモノを何度も口に出し入れされていた桂さんの、やら
しくも満たされている表情で。

 僕は心の底から、この刹那に似た時間が、永遠に続けばいいと願った。

 ………。
 ……。
 …。
     
 ぱたっ。ぱたたっ。
 柔らかい土に雨粒が落ちるような音が、自分の心音と呼吸音でざわめいていた耳の奥に届き、そこ
でようやく僕の意識が『正常』を取り戻した。

 快楽の残滓でじんじんと痺れる意識の中で、僕はいまだひくつくモノを片手に握り、痙攣を起こし
たかのように体を小さく震わせる桂さんの体の、へその辺りから胸の双丘にかけてのほの紅い肌を、
自分の精液で白く染め上げたのを見た。

 その姿はとても淫らで、背徳的で――それでいて、今まで見た事が無いくらい綺麗で。
 いつも放つたびにちょっとした罪悪感を抱いてしまう自分の体液に対して、僕は初めて『誇らしい』
と思ったのだった。

******
 ――冬の木枯らしの中では、夏の日差しは思い出せない。
 と書いてあった本のタイトルは何だっただろう。

 駅前にあるコンビニの前で、買い食いの肉まんを頬張りながら僕は、ぼんやりとそんな事を考えて
いた。
 青白い光が、肉まんから昇る湯気と、僕の吐息を照らしている。

 確かに、2月の空気は寒い。日も暮れた夜道なら尚更に。
 けれど今の僕は、目を閉じれば容易に、さっき全身で感じた気怠くも心地良い熱さを思い出す事が
出来た。

 何故なら僕は。

「お待たせー。ごめんね寒かった?」
 コンビニの自動ドアが開き、隣に立った少女の声に僕は目を開け、軽く首を振った。
「いや、大丈夫だよ」

 僕は、ついさっきまで、彼女を抱いていたのだから。

 ――桂を送っていけ。

 すっかり暗くなった外を見た一九くんに、そう言われたのは、狂乱の痕跡をあてがわれた濡れタオ
ルで拭っていた時だった。
「慎、お前たしか途中まで同じ方向だったろ。…本来は同好会の責任者たる俺が送るべきなんだが、
秋剣の世話が待っててな」
 むう、と心配そうに唸りながら、責任者は語る。

 なんだよ、そんなに頼りないか。

 ちなみに、秋剣というのは一九くんの飼っている馬のことである。
「そんなに気を使わなくてもいいよー。あたしの家、駅から近いし、まだ門限の時間でもないし」
「でも、もう外は暗くなってるから送るよ。夜道の一人歩きは色々あるし」
 さっきの手前、変質者云々、とは口に出さなかったのだが、一九くんには、送り狼になるなよ、と
釘を刺された。

 人の事を何だと思ってるのだろうか。
 しかし、つくづく古臭い言い回しが好きな男だな。同い年なのに。

 そんな経緯で僕は今、電車待ちがてら二人でコンビニに立ち寄り、こうやって二人揃って買い食い
なんてしてる訳で。
 あ、桂さんのは桜あんまんだ。
 コンビニの、人工的な明かりに照らされた彼女の横顔は、呆れるほどに普段通りで。
 女の子が隠し持っているという、切り替えの早さとタフさというものを実感すると共に、心のどこ
かで、今さっきまでの事が全部自分一人の見た幻だったんじゃないか、と僕に思わせたりもするもの
だった。
 ――幻。
 本当にそうだったなら、どれだけ気楽なものだろうか。
 僕の望んでいた平穏な日常と、あの行為は、はっきり言って真逆の位置に存在している。
 全てを幻と思い込むことが出来たなら、僕はまた、ひっそりと暮らしていく事が叶うだろう。

 …胸に一抹の、2月の風のような寂寥感を抱きながら。

 …くん。のだくん。
「…野田くん、冷めちゃうよ?」
「え?」
「え?じゃなくて、肉まん。どうしたの?ぼーっとしたりなんかして」
 言われて僕は、手にしていた肉まんから湯気が昇らなくなっている事に気が付いた。
 見れば桂さんのほうは、既に食べ終わっていた。
「あ…うん」
 慌てて頬張った肉まんはやっぱり冷めてて、僕は気まずさから来るバツの悪い表情を、不味くなった
肉まんのせいにした。
「もうそろそろ電車の時間だから、私行くね」
 店内のアナログ時計を、ガラス越しにのぞく桂さん。
 このままやり過ごせば、僕は。

 僕は。

「――っ、か」
 桂さん、と言おうとした声は途中で止まったが、離れていこうとした彼女の腕は、僕の手が掴んで
いた。
 彼女は何も尋ねてこなくて、僕も、何を言えばいいか分からないまま、みっともなく口をもごもご
させている。
 ぎこちなくも長く感じる時間の末、僕はゆっくりと手を離し、目を閉じて、また明日ね、と喉の奥
から言葉を絞り出した。

 …情けないと笑いたければ笑えばいい。

 どうせ僕は、どこにでもいる影の薄い、平穏を望む男なんだ。
 好きな子に、気持ち一つ伝えられない、弱い男なんだ。

 かさっ。
 落ち葉を踏んだような、小さな音が耳に届き、僕は閉じていた目を開けた。
 ――と、同時に、唇に柔らかいものが押し付けられ、口の中に、今日何度も味わった、あの甘い味
が広がった。
「また、明日ね」
 僕の口から唇を離し、そう言うと桂さんは振り返ることなく、駅に向かって走っていった。
「……え?」
 遠ざかる後姿を目に、残された僕はコンビニの前で、ただ立ち尽くす事しかできなくて。

『波風立てずに、平穏な日々を送る』
 それが、僕の人生のささやかな目標だ。
 これから待ち受ける日々はどこをどう考えても、そんな言葉から遠く離れている。
 けれど、心の底で、そんな日々を楽しみにする自分がいるのもまた、否定できない事実だった。

「――お返し、どうしよう」
 口の中で溶けていく、甘いチョコに隠されていたコーヒーヌガーのほろ苦さを味わいながら、僕は
一人呟いた。