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 きぃぃいい…ぃん
「さあさあさあ!やって参りました年に一度の大・告・白タイム!ドキ高名物『ラブ・デスティニー』が始まります!
ルールは単純、卒業生が隠した第二ボタンやリボンを捜し出してレッツ告白!己の絶対運命黙示録に新たなページを刻み込め!」「女子同士前提!?」

 マイクのハウリング音の後に続く流暢な喋り(と続くツッコミ)が早春のドキドキ高校グラウンドに響き渡る。
 天気は、晴れの舞台にふさわしい晴天。しかしオレ、乾一の胸中はどんよりと曇っていた。
 いや、どんよりしているのはオレだけではない。
 隣に立つ大木玲夜や、女子列に並ぶ笛路紋の表情もどこか浮かない。

 理由は…皆同じだろうな。

「さて、今年の『ラブ・デス』は一味違います!一目合ったその日から、恋の花咲く事もある――そんなシチュエーションがあってもいいじゃない!
題して、『好きなモノは好きだからしょうがない!!』」
「今度はベーコンレタス!?」
「今回の『ラブ・デス』は、校内のどこかに主催側によって奪取した、もて四天王のボタンとリボンが隠されております!
捜し出して、ええいままよと当たって砕けるもよし!狙いと違う相手に妥協するもまた良し!」「やりづれーよ!有り得るけどな!」

 …そういう事なのだ。自分の意志で参加したわけではない。
 言ってみれば、体のいい客寄せパンダである。
 ん?何だこの古臭い例え。アイツの口調がうつったのかな。

「なるほど、四天王の面子が参加しているのが謎だったが、そういうカラクリか。主催も去年の惨状には懲りたと見えるな」
 ぽそり、静かに呟いたのは、オレの背後に立つ安骸寺悠だ。
 …って、あれ?疑問が浮かび、オレは振り返る。
「――なんで参加してるか、か?毎度毎度サポートばかりしていたら王子の為にならんからな。高校生
活の総決算。…静かに見守るのも悪くないだろう」
 先回りして答えた安骸寺が手にしたビデオカメラの先には、笛路親衛隊の面々に袋叩きにされている
百手太臓の姿がある。

「…静かにねえ…」
 この男の性格上、そんな慎ましい考えなんて持ち合わせてないだろう。
 覚えがあるだけにどうにも身構えてしまう。

「悠様ーっ!悠様の大切な突起物は私が必ず手にしてみせますからーっ!」
『ボタンもそんな風に呼ばれたくはないと思うタマ』
「それよりも」
 無視かよ。あ、コケた。
「見たところ、探す側の人山には姿が見えないようだが、参加しなかったのか?」
「……」

 しれっと尋ねる声に、視線を派手に転んだ緑色の髪の少女から、自分の足元へと移す。
 …本当、余計なところには目がいくヤツだな。
 誰のことを指しているのかは分かっていたが、なんと答えるべきか言葉に困り、結果オレは、帰ったんじゃねーの、と答えた。

         
 ――まあ、仕方ないんじゃない?乾なんだかんだ言ってモテるしさ。

 もう使うことのない学校指定の鞄に卒業証書の筒をしまいながら、アイツは他人事のようにオレに向かって言葉を放った。

 卒業式終了後の最後のHRも終わり、クラスの中では、この後に控えるイベントに意欲を燃やす者や、そのまま学校を出て友人の間で卒業を祝おうとする者がそれぞれ、賑やかに会話を交わしている。

 ついでに言えば――オレの希望としては、目の前の相手とささやかな打ち上げなんてしたかった訳で。
 だから、このあっさりとした反応には驚かされたのだ。

「…どしたの乾。そんな馬鹿5割増みたいな顔して」
「一言余計だ。あ、じゃあ夕…一口も、『ラブ・デス』参加すんのか?」
 軽く睨まれ、呼びかけた名前を訂正しつつの質問は、そんなヒマないよ、という答えに一蹴された。
「もうすぐ後期試験だもん。3年で『ラブ・デス』参加してんのって、合格が確定してる人くらいじゃ
ないの?」
「ああ…」
 そういえばそうだった。
 このクラスの中でも、大学入試が終わってない者は早々に帰宅し、受験勉強に打ち込む予定らしい。
 加えて、こいつの場合は――。


 改めて気付かされた障害によって、自分の淡い期待が打ち砕かれたのを心で理解し、オレはがっくり
と肩を落としたのだった。
 以上、1時間ほど前の事である。

             
「3年で参加してない奴なんてザラだろ。阿久津だって参加してないし」
 彼女である矢射子先輩に対しての誠意だろうか。少し複雑だが。
 とは言え、参加してたらしてたで腹が立つ訳だが。
「参加させた方がこちらとしては面白いんだがな。王子もそのままにしておくとは思えん――」
 不意に、安骸寺の言葉が止まった。
「…?」
 疑問に思い、オレもつられる様に視線を校舎に向けたが、その先には誰も居ないように見えた。
「どうし――「それではっ!『ラブ・デスティニー』スタート!!ちなみに実況はドキドキ学園放送部、ジ・OG!目指すは戦うアナウンサー!
明石サマンサがお送りいたしまーす!!」
「おおおおおおおっ!!!!」

 オレの言葉は、どう見ても張り切りすぎな高校生と、それ以上に張り切る元高校生の声によってかき消された。
「エロSSが浮かばなかったから、急遽借り出したな。全く、引き出しの少ない書き手だ…ん?一、何か言ったか?」
「…何でもない」
 あーあ。オレ何やってんだろう。空を見上げ、大きく溜息を吐く。

 そんな事をしても何が変わるというわけではないのだけれど。

*   
 何でこんな、コソコソしなくちゃなんないんだろう。

 三年C組――ついさっき巣立った教室の、窓際の柱に身を隠しながら、あたし、一口夕利は不意にグラウンド側から感じた視線に冷や汗をかきつつも、とっさに自分のとった行動の間抜けさに、心の内で愚痴をこぼした。
 受験生だから、と断った手前今更アイツに姿を見つけられるのは、さすがに恥ずかしい。

 うー…こんなんだったら、素直に参加した方が良かったかな。
 でも、間違ってアイツのじゃないボタン取っちゃうのは嫌だし、正直扱いに困るし。
 でも。
 見守ってしまうのは、それ以上に心配になっちゃったからだ。

      
 ――今日は、やめとこう。

 ぎし、とベッドを軋ませる音と同時に頬に触れる手に目を開けると、あたしの部屋でない、だけど見慣れた部屋の天井と、少しだけ汗をかいた少年の見下ろす顔が視界に入った。
 腕立ての要領で体重をかけまいとしている少年と、あたしの間にできた微かな隙間に、エアコンの温くも乾いた空気が流れ込んだような気がした。

「え…どし、たの…?一」
 予想外の言葉に、声が途切れ途切れになりつつも尋ねてみる。
 受験勉強の合間を縫った形でのデート(改めて言葉にすると物凄く恥ずかしい)の末という、状況としては滅多にない機会なのに。
「や、その…ホラ、そんな偶の機会だからって、がっつくモンじゃないだろ?オレたちまだデート自体そんなしてないのにさ」
 あたしの上に被さっていた体をベッドの隙間へと移動させつつ、少年――乾は照れ臭そうにうなじの辺りを掻きながら答えた。

 付き合い始めのころには、押し倒そうとまでしてたくせに。思ったが、口にするのは止めた。
 初めて体を重ねた初雪の日の一件については、乾なりに気にしている出来事らしい。

 もともと正義とかそういう言葉が好きだからなあ。変態だけど。

「あたしは…大丈夫だよ?一がしたいって思うなら…」
「したくねーって訳じゃないんだ…けど、あー…」

 ごめん。呟くと乾はベッドに横たわったまま、あたしを抱きしめた。
 体と体が密着し、そこでようやく避妊具に包まれたままになっている乾の体の一部が、勢いを失ってしまってたことに気が付いた。

「……いいよ」
 ちょっとクセのある、固めの乾の髪を撫でながら、あたしは肩越しに見える恋人の部屋の中を見ていた。
 カーテンの閉められた窓。年季の入った学習机。筋トレ用の鉄アレイ。――そして。
 ぱんぱんに膨れた、真新しい紙の手提げ袋。

 ずきん。

 手提げ袋の中身を想像し、あたしの胸が痛んだ事が、どうかこいつに伝わりますように。
 心の中で願いながら、あたしもまた、目の前の体を抱きしめた。
         

 ――おおおおおっ。

 窓の外から聞こえた歓声に、あたしの意識が半月前の乾の部屋から今の教室内へと戻った。
 と、同時に顔が熱くなる。ちょっと、あたし何学校で考えてんだろ。
「…始まったんだ」
 柱から離れ、再び窓から校庭を眺めると、お目当てのボタンやリボンを探す生徒や元生徒の集まりが散らばっていく姿が見える。
 
 あの中にはきっと、半月前の紙袋の中のチョコレートの贈り主も居るんだろうな――。
 考えたらまた、胸が痛んだ。

「……」
 本当に、参加しとけばよかった。
 今更考えてももう、遅いかもしれないけど。

*        
 パン。パパパパン。
「卒業おめでとう宏海!」「おめでとうお兄ちゃーん!」
「…親父、伊舞…オレもう18なんだが…」
「お、おめでとうー…宏海」
「…矢射子も。つられなくていいから」

 自宅アパートの扉を開けた瞬間降り注いだクラッカーのテープを手で払いながら、オレ、阿久津宏海は目の前ではしゃぎすぎている面々に向け、静かにつっこんだ。
 卒業式終了後次々と送られてきた『早く帰るように』のメールはこういう訳か。

「さあさあ早く着替えて着替えて!せっかく皆で料理作ったんだぞ?主役が席に着かないとパーティーは始まらないぞ?何だったら父さんが着替えるの手伝おうか?」
「うぜええっっ!」
 学ランに手を掛ける馬鹿親父を裏拳で振り切り、自室の戸を閉める。
 …卒業は確かにめでたいが、どう見てもテンション高すぎだろ。

 まあ、おかげでふざけた誘いからは逃げ出す事が出来たのだが。

       
 ――なにーっ!?さっさと帰るだとーっ!?宏海オマエ最後のもてチャンスをみすみす逃すのか?

 三年F組教室。
 最後のHRも終わり、席を立とうとしたオレに変態三角おにぎり――太臓がかけた言葉だ。
「も、もしかしてオマエ、学校を卒業ついでに矢射子姉ちゃん相手にアッチの方も卒業って魂胆かコノヤロー!?」
「違うわ!何だその風呂デビューする卒業間際の学生DT(※例えはフィクションです)みたいな考え!
……家からも帰るようにメールが来てんだよ。大体オレはまだ受験勉強中だ。『ラブ・デス』なんぞ顔出すヒマはねえ」
「そうですよ王子。宏海は受験生です。…ついでに二人きりの部屋で、矢射子に手取り足取りナニ取り教えてもらおうという算段もあるでしょうが」
「ナニ取られてええーーーーーッ!!」
「どこの水色だオレは!」
 つーか、コイツらも受験生じゃねえのか。随分余裕だな。

 頬杖をつき、改めてクラスをざっと眺める。
 感傷的、という気分になれるほど青臭い訳でもないが、学生服姿のクラスメイトの面々と出会えるのもこれで最後かと思うと、わずかにだが胸の奥にじわりと、痛みに似た感覚が広がるような気がした。

 目の前の二人組とも――ん?
「悠、制服のボタンが無いが…オマエ、ひょっとして…」
「ああ。今年は隠す側に回る事にした。毎年毎年オレの能力を頼りにしてたら王子も成長できんだろ」
「ふーん…」
 一見謙虚なように見えるが、何か裏があるとしか思えん。
「故に宏海には『ラブ・デス』に参加して、全裸で暴れて他の連中を邪魔する役に回ってもらいたかったんだがな」
「断る!!まだ引っ張ってたかそのネタ!…冗談じゃない!オレは帰るぞ」
 これ以上付き合っていると、また言いくるめられて参加させられかねない。
 捨て台詞を残して、オレが教室を出たのが、30分ほど前の事。

 …よく考えたら、フラグ立ってたなこのセリフ。
 後で考えても遅いが。
        
「お兄ちゃんいつまで着替えてんのー?」
「あ、悪い。今行く」
 ――今更過ぎた事を考えても仕方ないだろ。
 着替えを終え部屋を出ると、待ち構えていた伊舞に腕を引かれて居間へと誘われた。

「やっと来たかホラホラ、主役は上座だぞ。矢射子さんも隣に座って、あ、座布団固くないかな?なんならこちらのと替えようか?」
「え、あ…大丈夫です」
「いい加減にしろ親父!ドン引きしてるじゃねえか!」
 真っ赤な顔でうつむく矢射子を横目に怒鳴る。
 今日のコイツはやけにおとなしいが、またなんか余計な事吹き込まれたんじゃないかと心配になってしまう。

「んん、えーと、それじゃあ、お兄ちゃんの卒業を祝って、カンパーイ!」
 伊舞の音頭に全員がグラスを合わし、身内と彼女によるささやかな宴が始まった。

「太臓さん達も来たらよかったのにねー」
「伊舞、お兄ちゃんはそういう性質の悪い冗談はキライだぞ」
「ささ、矢射子さんも遠慮せずに。このエビフライなんか自信作で…」
「……」
「無理して食うなよ。ん、こっちの唐揚げは矢射子のか?」
「う、うん!どうかな?」
「……うまいよ」
 いや、本当に美味い。
 美味いのだが、周りのにや付いた視線に晒されながらだと、言えるセリフも言いづらくなるものだ。

「あ、そうそう、お母さんからメールあってね、こっち来るのは仕事終わってからだって」
 巻き寿司をつまみながらの伊舞の言葉に、いい年をした中年男が硬直する。
「…こ、こっちに来るのか?」
「息子の卒業祝いだからしょうがないって。もう、お父さんちょっと落ち着いてよジュースこぼしてるよ」
 伊舞の言葉も耳に入らないほどうろたえる馬鹿親父の図。うん、いい気味だ。
 そもそも、この男も今日は仕事じゃなかったのか。閑職なのか。
「そういえば、矢射子はおふくろに会うの初めてだっけ。…オレもここ数ヶ月会ってな「わー!このアスパラ巻きおいっしー!」
「ん?宏海オマエはクリスマスの時に、向こうに泊まって来たばかりじゃなかったのか?」

 しまった、忘れてた。
 ごめん矢射子、お前のフォロー役に立ってないわ。

「あ、ああ、そうだったっけな」
「…まさかとは思うが、父さんに嘘を吐いて不純異性交遊なんてしてないだろうなあ?」
「し、してねえって!つかオッサン臭い言い回しすんじゃねえよ!」
「ふじゅんいせいこーゆー?」
「何だ知らないのか伊舞。不純異性交遊というのはだな…」
「メシ時にする話じゃねえ!!」
「ちょっ、ちょっと宏海落ち着いて」
 首を傾げる伊舞に説明しようとする父親、それにつっこみを入れるオレと諌める矢射子。
 オレの高校生活最後の昼下がりは、かなり騒々しくもそれなりに平和に過ごせていたのだ。

 ――そう、あの悪魔の使いが、オレの前に現れるまでは。

「そ、そうだ!今日、卒業祝いにケーキ作ってきたの!よかったら皆で食べない?」
「へえ、矢射子さんケーキも作れるんですか?あたしも教えてもらおうかな」
 ぱん、と手を叩き、話を切り替える矢射子の話に伊舞が乗る。

 とりあえず話が替わって一安心か。

「そ、そんなたいしたものは作れないんだけどね」
 と謙遜しながら開けた箱の中には、瑞々しい桃が敷き詰められたタルトが入っていた。
 オレは料理に関しての知識など、ほとんど持ち合わせてはいないが、それでも目の前の菓子が上手にできているのはわかった。

「それじゃ、切り分けて、と。…あ、取り分け皿足りないみたい」
「おっと、じゃあ出してこようか。小皿でいいかな」
 矢射子の言葉に親父が席を立つ。
 そんな中年男の姿が台所へと消えたのを確認した伊舞が、そっと矢射子に耳打ちをするのがオレの耳にも届いてしまった。

「…ケーキをそのまま手に持って、お兄ちゃんに『あーん』なんてしたらいいんじゃない?」
「!!」
「ぶっ!」
 思わず飲みかけのジュースを噴いてしまった。
 戸一枚向こうの台所からは、どうした?と暢気な声が尋ねてくる。

「何でもなーい。…ほら早くしないとお父さん戻っちゃうよ」
 なんでノリノリなんだ伊舞。

「え…えーと、じゃあ、いいかな?」
 いや、いいかな?じゃなくて。ちゃっかり手の中に切り分けたタルト持ってるし。

 ああもう、しょうがねえ。ニマニマと笑う妹の視線に耐えかね、固く目を閉じる。
「…わかったよ。あー」

 目を閉じた暗闇の中で、口いっぱいに桃と、カスタードクリームの甘みが広がっていくのを感じる。
 オレの太ももに当たる柔らかい感触は矢射子の手か――って何考えて。
「宏海、おいしい?」
「……」
 咀嚼しつつ、テーブルの下で、オレはこっそり矢射子の手を握り返した。答えは決まっている。

 ああ。

 そう、答えようとしたのに。
『阿久津宏海』
 答えた瞬間、その声が耳に届いてしまったのだ。――聞き違う事のない、悪魔の声が。

「しまっ…!!」
「宏海!?…きゃあっ!」
 物凄い力に引っ張られていく感覚。忘れる訳がねえ。
「お兄ちゃん!?」
 遠くで伊舞の呼ぶ声がする。だが、もう遅い。
 とりあえず、とりあえずこの流れの外に出たら、あの馬鹿をぶっ飛ばそう。

『――緊急開門!!太臓を知る者来たれ!!』

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「おおーっと!?今2階の辺りでなにか光ったようですが何でしょう!?爆発とかじゃないようですね」
 ――来たか。サマンサの声に、俺はビデオカメラの電源を入れ直した。
「何だ一体?」
「王子は期待を裏切らない、という事だな。さて、寒い校庭で待つのも飽きたことだし、俺は抜けさせてもらうぞ」
「え?あ、安骸寺!?」
「なんということでしょう!安骸寺君、早々と戦線離脱しましたーっ!」
 校舎から『そんなーっ!』という声が聞こえた気がするが、聞かなかったことにする。

「一、お前もいつまで律儀に待ってるつもりだ?従うだけの犬は、ただの犬だぞ」
「いやそれ普通だろ」

 確かにそうだ。だがその答えは今の場合正解ではない。

「…お前の想う相手は、待つだけじゃ捕まえられん。そういう事だ。じゃあな」
 立ち尽くす男に言い残し、俺はグラウンドを後にした。
 早くしないとオイシイ場面を撮り逃してしまう。
「――お楽しみはこれからだな」
 一人呟く口元が、自然と笑みを作ってしまう。だが止める理由などどこにもない。

 こうして、高校生活最後の一日のフィナーレの幕が上がろうとしていた。