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******
 このまま重なりあって、行き着く先には何があるのだろう――時々、思う。
 他人同士だったあたしたちが、近付いて、触れ合って、でも溶け合うことはなくて。

「は、――…っ」
 入口に、圧迫感。腰を落とせばあたしの中に、あたしじゃないカラダが入ってくる。
 少しずつ、熟れた実を割り裂くように。
「んっ、あんまり…焦るとまた痛むだろ。…ゆっくりで、いいから」
「う…ん」
 閉じた視界の暗闇の中、声に導かれるように、ゆっくりと少しずつ膝の力を抜いていく。
 片手で自分の柔肉を開き、もう片方の手で、入れようとしているカラダの根元を支えながら、誘って
いく。

「……っ」
 どんなに呼吸を落ち着かせても、入ってくる度に、息が詰まる。
 圧倒的な質量であたしの中全部が押し出されそうな感覚に、頭が反応してしまう。
 怖い。痛いかもしれない。苦しいかもしれない。
 泣き叫んで、目の前の愛しい人を困らせるかもしれない。
 ――でも。

「い…くよ、一」
 あたしは、それでも繋がりたい。
 溶け合うことはできなくても、あたしの体に触れ合った記憶を残したい。
 重ねる体に、あたしの記憶を刻み付けたい。
「ああ――…夕利、おいで」

 優しい声に、そっと太股を支えている両手の温もりに、あたしは少しだけ笑って――。
 そして、全ての膝の力を抜いた。

******    
「んん、おじゃましまーす」

 咳払いをし、おそるおそる玄関のタイルを踏む。
 そういえばオレ、コイツん家に来た事はあっても、中に入ったことは無かったっけ。

 ――3月初頭の卒業式終了後。
 オレ、乾一はドタバタの末に怪我をした彼女、一口夕利を背負って(鉄拳込みの彼女の説得により、
近所で降ろしたが)彼女の住むアパートへと足を踏み入れる事となった。
「何緊張してんの乾?お茶出すから、そこの部屋のソファにでも座ってて。お母さーん、この間買った
おせんべどこだっけー?」
 一足先に奥へと引っ込んだ夕利の言葉に促されるように、おそらくリビングであろう部屋のソファへ
と腰を下ろし、オレは一人、大きく溜息を吐いた。

 …いや、そりゃ緊張するだろ。
 家に入るだけならまだしも、相手の親に会わせるとかオレだってまだしてないし。
 扱いは…やっぱり友達、なのかな。
 夕利の性格からして、イキナリ彼氏って紹介されそうには無いしな。
 でもしてくれたらしてくれたで嬉しいよなー。あ、オレなんて挨拶したらいいんだろう。

 一昔前のTVだったら『清いお付き合いをさせて云々』とか言うらしいけど…あれってやらしいコトを
してないって意味だっけ。
 じゃあオレの場合何て言えばいいんだ?
 TVボードの上のやけに大量に置かれたボトルシップを見つめながら、オレはブツブツと挨拶の文句を
考えていた。

 がちゃっ。
「乾…あの「はじめまして!えと、『夕利さんとは黒いお付き合いをさせていただいております』!」
 延々頭の中で考えていた挨拶をし、下げた頭を上げると、そこにオレの想定した人物はおらず、湯呑
みと煎餅の置かれた盆を持った夕利が立っていた。
「…あれ?」
「…お茶、入ったよ」
 ことん、とテーブルに茶と煎餅が置かれる様に、オレは脱力し、へなへなとソファに座り込んだ。
 …あー、びっくりした。
 何故か直後、夕利に空いた盆で殴られたが。

「――イロウカイ?」
「慰労会。乾、漢字が当てはまってないみたいな発音してるよ。うーん……言ってみれば『お疲れ会』
みたいな物かな。ウチの親、父母会に参加してたから、こういうの顔出すみたい。帰るのは日が暮れて
からだって」
「父母会?PTAみたいなもんか」
 つか、父母会なんかあったんだあの学校。初めて知ったぞ。
「んー…まあ、似たようなものかな。あたしもよく知らないけど」
 ずずっ、と淹れた茶を啜りながら夕利が呟く。

 どうやら、オレが想像していた以上に夕利の親御さんは厳しいようだ。
 醤油煎餅を齧りながらも聞く夕利の説明に、オレは改めてきちんと挨拶するべきなんじゃないかな、
と考えていた。
「やだ、あんまり堅苦しく考えないでよ。パート片手だし、そんな真面目に参加してたわけじゃなさそ
うだし」
「ふうん…」
 ばりん。ぼりぼり。固焼きの煎餅のたてる音が頭の中で響き渡る。

 ――って事は、今この家にはオレと夕利の二人きりなのか。

「……」
 え?
 二人きり?

 やべっ、意識しちまった。
 そうだよ二人きりなんだ。オレと――オレの、彼女と。
「乾…あのさ」
 い、いや待て。
 別に二人きりだからってその、コトに及ぶ様なんかすぐさま連想しなくたっていいじゃねーか。
 焦ってがっついて、好きなヤツを泣かせちまうのは、あの雪の日で懲りただろオレ。
「…乾?」
 大体コイツはそんなヒマなんか無くて、だから…あーそうだ、この煎餅食い終わったら帰ろう。
 しかし空きっ腹に染みるなあ。もう昼時だからか。帰りに寄り道してラーメンでも食って帰るか。

 ぱかん。

 オレのとめどない考えは、いい音と共に頭に走った衝撃によって途切れた。
「んがっ!?」
「人が呼んでるんだから返事しなよ!」
「は、はいっ!何でしょうっ!!?」
 頭を押さえ、隣で盆を片手に座る夕利を見る。心なしか、頬が赤い。
「……レ、…ってる?」
「?」
 怒鳴り声から一転、もごもごと唇を動かしながらのセリフは、残念ながら半分近く聞こえなかった。
「何だって?」
「だからっ…アレ、持ってるかって聞いてんの」
 アレ?アレって何だよ。

 オレの察しが悪いと判断したらしい夕利は、更に顔を赤くし、ぎゅっと目をつぶると、
「コンドーム持ってるかって聞いてるの!何言わせんのよっバカ!」
 と二人きりの部屋に響く大声で怒鳴った。

 ああ、こりゃ言いにくいわ。ゴメン夕利。…って、ええええぇぇええぇえっ!!?

「ちょっ、ちょっと待ておま…」
「持ってないの?」
「え、いや、持ってる…け、ど」
 これも以前の失態で懲りたコトだ。けど。
 そんなコト聞いてくるっつー事は、そういうコトをするっていう前提があるわけで。
 ああ、今オレの心臓スゲー音立ててるな。
「…する、のか?」
「…したくない、の?」
 質問を質問で返すなよ。それも上目遣いでって狡いぞオマエ。
「でも、その…夕利、受験勉強は、どうすんだよ」
「ちゃんとしてるよ。…やっぱり、ダメ、かな」
 ダメじゃない。喉元まで出掛かってる言葉を押さえるのは、風前の灯火と化した理性だ。
 でも、その、ああ――オレのヘタレめっ!

 きゅっ、と掌に伝わる感覚。いつの間にかオレの手は夕利の小さくて温かな手に包まれていた。
「ダメ、だったらさ…しばらくこうしてて。一の熱とか、感触とか、覚えとこうって思ったの。ごめん
…ヘンな事言ってるよね」
「夕利…」
「あたし、一が思うほど、強くないから…けど…」
 名前、呼んでるな。それに手が震えている。
 夕利の顔はうつむいてて、表情はわからなかったけれど、泣き出す飽和状態のようにも思えて――。
 その姿が、オレのヘタレた心に喝を入れるのに充分な威力を持っていたのは、事実だった。

「――いいんだな」
 掌を握り返し、確認するように尋ねる。今更やっぱりダメです、とか言われたって嫌だぞオレは。
 答えは、黙ってうなづく夕利の表情でわかった。道に迷う幼子みたいな、心もとない顔。

 オレが、導くことができるだろうか。
 心の隅で思いながら、昼下がりのソファの上でオレたちは幾度目かの口付けを交わした。

******     
 どくん、どくん、どくん。
 鼓動で手が震えて、ブラウスのボタンを外すのももどかしい。
 あたし…今までで、一番緊張してるかも。
 脱いだ制服をハンガーに掛け、振り返ると、ベッドの上で恋人――…一は顔を赤くしながら、呆然と
あたしの服を脱ぐ様を見ていた。
「…下着、変かな」
 元々予測してなかったから、上下ちぐはぐだったりするんだけど。

 そう、この展開は、あたし自身思ってもみなかった。
 家の中に一を招くことも、部屋に入れることも…今日、することも。

 今までの自分だったら、どうだっただろう。
 ブラとショーツの色が違ってたり、部屋が片付いてなかったり、シャワーを浴びてなかったり。
 恥ずかしくて、例え求められたとしても拒んでいただろうか。

 けれど――今の自分には、それら全てがどうでも良かった。

「そっち、行くね」
「お、おう」
 少し痛む足首を引き摺りつつ、下着姿でベッドまで歩き、一の隣に座る。
 …あ、この位置。
「ふふっ」
「…何だよ急に笑って」
「思い出しただけ。最初に、裸になった時のこと」

 夏の終わりの、通り雨の日。
 一は黙って、泣きじゃくるあたしの傍に居てくれた。
 あたしの痛みも苦しみも知っていた『恋敵&戦友』は、あの日――あたしも気付かない内に、特別な
存在になった。

「…ありがとね」
 あたしが立ち直る事ができたのは、きっと一のおかげだ。
 そして今、あたしが前を向くことができるのも。
「こっちこそ」
 二人の距離が近付き、肌が触れ合う。一の手が背中に回り、唇を重ねあう。
 ちょっと照れ臭いけど、恥ずかしいことなんて、どこにも無い。
          

 抱き合ったまま二人してベッドに倒れこむ。と、程なく胸を締め付けていた感覚が緩んだ。
 ブラのホックを外されたのだ。――…いつの間にか、外すの上手になったなあ。
「ん…」
 裸の胸に、唇が這い、時折小さく肌を吸われるのが、何ともくすぐったい。
 そして――先端の色付く場所を、一の唇がゆっくりと含んでいくのがわかった。
「は、あっ…」
 薄っぺたいあたしの胸先でささやかに主張する乳首を、ねっとりと熱い一の舌が這い回り刺激する。
 何も出ないはずのソコを、目の前の男子はかつて『甘い』と評していたけれど、やっぱりあたしには
よくわからない。

 わかるのは、こうして無心に胸を吸う一の姿が、大きな子どものように見えるという事と、
 されていると、あたしの胸の奥がきゅううっとなって、おへその下の辺りがじんじんと痺れてきて、
 ショーツの中が、熱く潤んでくる、という事だけだ。

 ずきん。
「――痛っ!」
 不意に感じた痛みに声を上げると、一が驚いた顔であたしを見た。
「わ、悪い…痛かったか?」
「ううん、そっちじゃなくて、足」
 無意識のうちに力をかけてしまったらしい。包帯の下の足首が、ズキズキと鈍い痛みを伝えてきた。

「……ごめん」
 怪我の責任を感じたか、一の表情が曇る。
 確かに早とちりからの怪我だし、大元をたどると一が原因なんだけど、あたしはそれを責める気には
なれなかった。
「いいよ。一が守ってくれたから、この位で済んだんだしさ。…でも、ちょっと今の体勢だと足、辛い
かな」
 ただでさえ治るのが試験直前なのに、この調子で我慢して続ければ、悪化しそうだ。

 ――けれど、あたしも一ももう、これから待ち受けることを止めるなんてできそうにない。

「じゃあ…上、乗るか?」
 え?と尋ね返すより早く、ふわり、と体が浮き、次の瞬間にはあたしの体は、一の体の上にまたがる
形を取っていた。
「わわっ」
「これで、ベッドの外に足首出してたら力掛かんないんじゃないかな?にしても、やっぱ夕利の体軽い
なー」

 ぎしぎしとベッドを軋ませ、ブリッジの要領で、腰だけであたしの体を浮かせる一。
 口調は冗談半分みたいで、褒めてるのとは違うような気がする。…ちょっと、調子乗ってない?

「遠まわしに子どもだって言われてるみたいなんだけど」
「言ってねえって。子どもはこんな風に――」
「ひゃんっ!」
「――下着ん中、熱くしたりなんかしないだろ?」
 声と同時に、ショーツが太股の半ばまで脱がされ、ゴツゴツした指が、あたしに触れる。
 ぬるつく蜜を指に絡ませて、あたしのキモチイイとこ全部知り尽くしたみたいに撫でる手が、嬉しい
んだけど、少し癪に障る。

「も…うっ、はっ、一、面白がってるでしょっ…!」
 手から逃れるように、あたしはまたがる体の重心を、腰の真上から太股へと移動した。
「……」
「…何だよ」
 ベッドのマットレスに手をつき、一の顔を見下ろす。いつもと逆の体勢に、今更戸惑ってる。
 あたしはゆっくり体を沈めると、固い胸板に長いキスをした。
 とくん。とくん。とくん。
 唇に、鼓動が伝わる。あたたかい、恋人の体。
「夕利…?」

 いっぱい、いっぱい憶えておこう。
 他に詰め込まなきゃいけない物だらけの頭の中に、じゃなくて、体に直接。
 体の細胞の一つ一つで、この鼓動を、熱を、快楽を、あたしを想う人の存在を憶えてさえいれば、
「好きだよ…一」
 あたしが――ひとりじゃないってわかっていれば、きっと大丈夫だ。
 
******     
「はっ…」
 頭の横には、封を切ったゴム製品の包み。そして。
「ふうっ…はふっ」
 オレの股間からは熱い吐息交じりの声がこぼれている。
 ――そういやコイツ、口ですんの初めてなんじゃないか?
 膝の間に身を屈め、水音を立てながらゴムに包まれたオレのモノを舐める彼女の図というのは、幼い
外見から来るギャップも相まって、何ともいえない背徳感と強烈なやらしさを覚えさせてしまう。

 ゴムを着けたら濡れなくなるから、という理由でのこの行為だが、そんな状況は今までもあったし、
お互い恥ずかしがって無理にしようとかさせようとかしなかったから…きっと、夕利の思う本当の理由
は別のところにあるんだろうな。

 ぼんやりと考える間にも、唾液を含んだ舌は先端からくびれを、そして裏筋を伝って根元へと這って
いく。
 ゴムの表面も濡れているが、その内側も、今にも暴発せんと先走りがだくだくと溢れている。
「ゆ…り、も、いいから。それ以上したらオレ、…っちまう」
 喉の奥から、息と共に吐き出されたかすれ声に、夕利が顔を上げる。
 小さな舌と猛るモノを繋ぐ銀糸の卑猥さに、オレはつい、目を逸らした。
 そして、上半身を起こし、上下の位置を戻そう――。
「待って」
 ――…としたオレの動きは、夕利の押さえる手によって封じられた。

「え?」
「今日、は最後まで…あたし、上になるね」
 ぎしり、とベッドを軋ませ、再び夕利の体の重心がオレの腰の真上へと移動した。
 さっきと違うのは、二人共何も纏わない裸だという事と、すっかりいきり立ったモノに、夕利の一番
熱い場所が密着している事だ。
「へへ…初めて、だね。最初っからあたしが上になるの。一マゾだから、ホントはこっちの方が良かっ
たんじゃないの?」
 茶化すように笑っているが、微かに引きつった口元で、彼女が少し、無理しているのだとわかった。
「…肩震わせながら言うなよ夕利。怖いならそんな無理――」
「無理じゃないよ。…大丈夫、あたし好きだから、一のこと好きだから…だから、大丈夫」

 言い聞かせるように言葉を放ち、、オレの目を見た夕利の目は、やはり真っすぐで、力強かった。
 オレの知らない、何か物凄く大事なことを知っているような――コイツは、いつからこんな瞳をする
ようになったんだろう。

 繋がれば、伝わることができるのだろうか。
 ひとつになれば今の夕利の気持ち全部、知ることができるのだろうか。
 そうであって欲しい、強く願う。
 けれど、心のどこかでオレはその願いが永遠に叶うことがない事を知っていた。

「じゃ、いくね」
 腰を上げ、緊張のせいかひんやりとした夕利の手が、そっとオレの根元を支える。
 小さな水音と共に位置を調整する動きが先端に伝わり、下手をすればそれだけでイッてしまいそうに
なるのを、オレは必死で耐えた。
「は――…っ」
 大きく息を吐く音。少しずつ、本当に少しずつ、夕利の中にオレが入っていく。
「んっ、あんまり…焦るとまた痛むだろ。…ゆっくりで、いいから」
「う…ん」
 オレの声に、夕利は目を閉じた。
 膝立ちの姿勢で、片手でオレを支え、もう片方の手で自分の入口を開いて誘う様は無意識の内にやっ
てるのだろうか。
「……っ」
 何度も呼吸を落ち着かせ、少しずつ腰を落としてはまた呼吸を詰まらせる。

 出来ることなら、このまま細い腰を掴んで、力一杯体を打ち付けたい。
 一秒でも早く中に入って、夕利の熱さや柔らかさや、締め付けを感じたい。
 一番奥まで入り込んで、思いのたけ全部、注ぎ込んでやりたい。

 でも、それは今、夕利の望むことじゃない。
 どんなに欲望が耳元で囁いても、オレは夕利の思うようにさせたかった。 
 今オレに出来ることは、自分勝手な浅ましさをぶつけることじゃない。
「い…くよ、一」
 震える体を支えることだ。この両手はその為にある。
 少しワガママで、泣き虫なくせに強がりで、意地っ張りで、でも世話焼きで、考え深い。
 誰よりも愛しい、オレの恋人の体を。

「ああ――…夕利、おいで」
 オレ、こんなセリフが言えたんだ。
 自分でも驚くくらい優しい声が、すんなりと出てしまった事が照れ臭くて、少し笑った。

 声に、かすかに目を開けた夕利も、一瞬だけ微笑み、そして――深く腰を落とした。


「―――…!!!!」
 ひゅおっ、と空気を吐ききる音。同時に、身を反らし天井を仰ぐ夕利の白い喉が見えた。
 ぷるぷると震える小さな裸体。ほのかに色付く乳首は、ぴんと立っている。
「――…奥、まで…きちゃった、ね」
 目の端に涙を浮かべながらの夕利の言葉通り、体重をかけて一気に押し込まれたオレの先端は、夕利
の一番奥に密着していた。
「すご…おへその下、ピクピクしてる。…こんな奥まで入ったの、初めて、かも」
「…痛く、ないか?」
「思ったほど、は。…最近ね、少し、気持ちいいって、思うようになったんだよ」
 言葉の割に、夕利の中は相変わらずきつくて、こちらが痛みを覚えそうな程だった。

 ――強がりだ。喉まで出かかった言葉を押し留まらせたのは、続く夕利の声だった。

「最初…最初は、裂けるって思うくらい痛くって…本当、ちょっとアレだったけど、だんだん馴染んで
きて…うん、馴染んでんだろうねあたしのカラダ。一のに合うように、少しずつだけど」
「……」
「だから、さ、ヘンに気遣ったりしないで。…あたしは」
 小さくベッドが軋む音と同時に、オレを包む感触が変わった。
 深く深く繋がりながら、夕利は自分の中を広げるように前後に腰を揺らしていた。
 結った髪が、揺れに呼応するように跳ねる。
「んっ、あたしは一番好きな人と…一と、気持ちよくなりたい」

 腰を動かし、そう言った夕利の表情はやっぱり辛そうで、でもやらしくも誇らしげな、オレの一番好
きな娘の顔だった。

 ――どうして、汚してしまうなんてつまらない事を考えたんだろう。
 目の前の娘は、確かに変わっていっている。けれどそれは、汚れていく訳じゃない。
 近付くたびに、触れるたびに、重なるたびに、キレイなものも、みっともないものも全部、全部包み
込んで――新しくなっていく。オレの目の前で。

「ん、ああ…あっ、はぁ…んっ」
「夕利…」
 もっと近くで顔を見たい。
 身を起こしたオレは夕利の頬を掌で包み込み、そのまま息の詰まるキスを交わした。
「ふむっ、うう…ぅん、ん」
「ぷぁっ……好きだ」
 前髪を束ねる髪留めに触れ、静かに抜き取ると、クセのない髪が指に纏わりついた。

 もっと触れたい。華奢な腕も、柔らかな肌も、細い腰も、そして。
「あ、あっ…!!」
「……つながってる」
 オレと夕利を繋いでる、一番熱い場所も。
 そっと撫でると、あふれ出していた蜜が指を淫らに濡らした。

「ひとつに、なってんだな。オレたち」
「うん…あっ、ふぁッ!?そ、こ触っちゃ…あっ、はっ」
 濡れた指で、繋がりの先にあるぷっくりと膨れた小さな粒を軽くこねると、夕利の体はびくん、と跳
ね、中の柔肉がまるで責め立てるように激しくうねりだした。
「ひゃうっ、んっ、ふぁ、だ、ダメ…っ」
「んんっ…?」
 ぞくぞくと快感の衝撃が背中を昇っていく。
 時に茎を締め付け、時にエラ張ったくびれをなぞり上げ、先端をぎゅうっと呑み込もうとする――。
 今までとは、少しだけ違う動き。

「っ…夕利、気持ちいいのか?」
「っ、う、うんっ、で、でも嫌なのっ、ソレ、される、と、あた…あたしだけ…イッちゃ…!」
 言うと夕利はそのままオレの体にしがみつき、そのまま体重を掛けてきた。
 なだれ込むように二つの体がベッドに沈み込む。

「お願い一、いっしょ…一緒に、いこ、ひと、りじゃ、やだよ、はじめ、といきたい」

 つたなく腰を動かしながら吐息と共に紡ぐ言葉で、オレを押さえつけていたものが全部弾け飛んだ。
「…止めねーぞ」
 小ぶりな夕利の尻を掴むと、オレはそのままカラダの奥へと更に己が杭を打ち込んだ。
「うあっ!ああっ、あはあっ!」 
 音を立てるほど体をぶつけ合い、呆れるくらい貪欲に柔肉を味わう。
「くうっ、う、ううっ…やっ、はあっ」
 絡み付く襞の一つ一つに感触を覚えさせるようにねじ込めば、溢れ出した蜜が互いの太股へと滴り、
体同士がぶつかるたびに粘ついた水音を二人の耳に届ける。
「んあ、あっ、う…っあ!」
体中の感覚が、一点に集まっていく。気持ちよくて、苦しくて、涙が出そうだ。

 来るか。来るか。来るか。来るか。来るか。来るか。来るか。来るか―――来い!!!!
「あっあっあっあっあっ、はじめ――…っ!!」

 一際強い締め付けと同時に、オレは打ち込める最も深い場所でありったけの精を吐き出した。
 避妊具越しだった事も忘れるくらい、長い長い射精の中で、体の上の愛しい娘は――今までで一番、
淫らで綺麗な顔をしていた。

「はあっ、あ、はっ…ああ…」
 ひくひくと、最後の一滴をも搾り取るような痙攣を行った後、夕利はオレの胸の上で動かなくなって
しまった。
「夕利…?」
 汗に濡れて額に貼りついた髪をすくうと、熱に浮かされたまま夕利は一言、いっちゃった、と呟き、
そのまま目を閉じた。

 そっと体を起こし、脱力からか眠りについた夕利の中から力を失いかけたモノを抜く。
 離れる瞬間、名残を惜しむかのように軽く締め付けてきた中にオレはちょっとだけ苦笑した。
「…いっちゃった、か」
 初めて抱いた時は真っ青な顔して、しがみ付くのが精一杯だったのに。さっきの夕利の言葉通り、
『馴染んで』きてるのだろうか。
 少しずつでも、オレに近付いているのだろうか。

 そして――オレも、変わっていってるんだろうか。自分では気付かない位の緩やかさで、確実に。
 だったらいいな。繋がるたびに、互いが互いに、近付き合えばいい。

 背後の寝息を感じつつオレは、ベッドの端に腰掛けそんなことを思っていた。

******
 水の中に沈み込むような、ふわふわした感じ。
体中の細胞が力を使い果たしたみたいに、指一本動けない。
 …でも、すごく、きもちいい。
 空っぽのカラダにいろんなものが、すーって染み込んでいく。
 こうやって、あたしのカラダはアイツに馴染んでくのかな。

 ――ゆり…夕利、裸で寝てたら風邪引くぞー。
 遠くで、声がする。…でも、まだ眠りたい。もうすこしだけ、この感じに身を任せたい。

 …何か夢を見た気がする。
 内容は忘れたけど、とてもいい夢だったのは憶えてる。
 涙がこぼれるくらい、幸せな夢だった。
 涙が。

 目が覚めて最初に視界に飛び込んだのは、見慣れたあたしの部屋の天井だった。
「ゆ…め?」
「いや、夢オチはいくらなんでもあんまりだろ」

「!!」

 起き上がり、慌てて声の方向を見る。と、足元には制服姿の一が、胡坐をかいて座っていた。
 ついでに言えば、手には何故か…あたしの、ショーツなんか持ってたりして。
「ちょっと…何してんの一っ!!?」
 変態なのは知ってるけど、まさか。…ええい、蹴り飛ばそうとしても足に力が入んないよっ!
「ま、待て待て暴れんなって!勘違いすんな!オレはただパンツ穿かせようとだな…」
 かあああっ、と更に熱が昇っていく。あ、あたし、そんなコトされるとこだったの?
「しなくていいよそんなのっ!バカバカバカ犬!」
「イテテ、こ、コラ!怪我してる方の足は使うなっ!」
 うっかり繰り出してしまったもう一方の足を受け止めると、一はそのまま包帯を巻いた足首に軽く
キスをした。
「あっ…」
「痛くないか?」
「う、うん…」

 何度も何度も唇を落とす感触。包帯越しなのがちょっと残念に思うくらい、優しいキス。
 照れ臭くて、でもなんか胸の奥がポカポカしてくるのは何でだろう。

 ぐううううっ。

 いきなり聞こえてきたムードの欠片もない音に、しばらく二人顔を見合わせ、揃ってふき出した。
「…一、お腹の音大き過ぎ」
「しょーがねーだろ、よく考えたらオレ昼飯抜きなんだよ。夕利は違うのか」
「あーそうかも。…なんか作ったげようか?冷蔵庫の中身見てからだから、テキトーなものになると
思うけど」
 ちらり、と時計を見ればまだ夕方といった時間帯。このくらいならまだ誰も帰ってこないかな。
「チャーハンとかかな…どしたの?一、ぼーっとして」
 再び一を見ると、顔を赤らめ、呆然とした表情をしていた。うん、やっぱりマヌケだこの顔。
「あ…えーと、それってあの…」
 もごもごと口の中で何か呟き、ちらりとあたしを見る。挙動不審だ。
「?」
「は…裸エプロンってやつか?」
「……!!」
 今度はあたしの顔が赤くなる番だった。そういえばあたし、まだ素っ裸だったんだ。
 よく見たら一、前屈みになってるし。

「なっ、何考えてんのバカーーっ!!っていうかパンツ返せーーーーっ!!!!」
「ちょっ、また蹴るんじゃねーって!…おわっ?」

 ああ、やっぱり男子ってバカだ。合体のコトしか考えてないコンバトラーだ。
 でも、それでも好きになってしまったあたしもまた、大馬鹿に違いない。自覚はしてる。
 ――…本当、責任取ってよね。
 派手な音をあげてベッドから転がり落ちた恋人に向け、あたしは心で呟いた。