(タイトル):ガストロンジャー/エレファントカシマシ

(更新日時):2009-04-19 22:32

(本文)

最近、派手なプロモーションで巷を賑わせているエレファントカシマシ。音源は聞いたことはあったけど、今までどうも分かりにくくて敬遠してましたが、これを機に聞きなおしたところ、僕の好みそのものでした。反省しきりでありますが、エレファントカシマシを好きになるにはハードロックの他に落語や浮世絵の世界観にはまる必要性があったようです。日本文化の伝統がかなり根強く生きたバンドであるので、和洋折衷のバランス感覚が好き嫌いを分ける大きな要因であるように思えます。特に落語の世界を知ると、彼らに対する印象ががらっと変わります。是非、この一言に騙されて日本文化に触れてみてください。
一つ持論がありまして、戦後の落語ブームが来る前の社会のアウトローの役割がロックバンドに回ったと考えているんですが、それもハードロックのフォロワーの世代で一段落した感があります。それでもまだ売れようとか、自分の信じた音楽をやりたいなどというアウトローのポジションにいるバンド連中を、ここで今まで取り上げてきたんだろうと今になって思います。落語に見える人間像と聞き比べると、クラシックなロックバンドには落語の世界観が見えてきます。というか、一流のバンドマンこそ落語を聞くべきだし、やるべきだと思うんです。まあ、聞いてる方もいらしているようなので、それはまた別の機会に語ります。
ただ、ネット関係の情報で知り得る限りではありますが、最近は例の一件を含めてあの狂気を相当抑え込んでいるように見受けられます。エレファントカシマシに限らず、一流のバンドというのはそういったフラストレーションを常に抱えているはずです。商業が絡む以上、表現の対象がエゴか大衆かで葛藤を起こすというのがどのバンドにもあるはずです。表現者たるものエゴが強くなるのが当然で、大衆との付き合い方というのが非常に難しいのも一つの事実であると、我々リスナーは考えていかなければいけないと思います。その点、この曲にはエゴが大衆に対する配慮を上回っているように聞こえるので、それがこの曲に感動させられる一因であるのでしょう。比較的ポップな音楽を作っている今は、その反動がモロに来てるんでしょう。まあ、金の問題もあるらしいですが。このバランスを見ていくのもまた面白いです。こういうのは割と周期的に来るので、恐らく活動の最後にはまた初期みたいな滅茶苦茶ぶりが見られると思います。楽しみです。
今回は、エレファントカシマシの中でも分かりやすい狂気を持っている曲である「ガストロンジャー」について考えてみます。一言でいえば、ハードロックばりのシンプルなバンドアンサンブルと、狂気の世界にどっぷりとはまってしまったボーカルの表現力、ひたすら現状を語り倒す(らしい)歌詞、そして短い言葉で核心を突いた詞の内容、それを描き出す狂気の全てが人間臭くて何より格好いいです。特に詞に見える文学性について、相当の考察を加えてみたいという衝動に駆られるので、今回は大きく詞について語りたいのですが、簡潔かつ的確な表現というのがエレファントカシマシ最大の特徴であるかと思われます。まず、我々がこれから背負っていく高度経済成長の無理を「日本が敗戦に象徴される黒船以降の欧米に対する鬱屈したコンプレックスを一気に解消すべく」、「我々の上の世代の人間が神風のように猛然と追い続けた」、「繁栄という名のテーマだった」、「そして我々が受け継いだのは豊かさとどっちらけだ」という表現で言っています。全体をこちらのセンスで切り取っただけなので幾らも反論はあるでしょうが、この類のデリケートな事柄を非常に簡潔なフレーズで言い切っている感性の鋭さというものは相当のものであると思います。同じように、世の中をよく観察しているというのが分かりやすく出ているのが「”くだらねえ世の中””くだらねえ俺達”そんなのお前百年前から誰でも言ってるよ。お前変わんねえんだよそれお前縄文時代から変わんねえんだよお前それ」、「この世の中にはそりゃあ思い通りにはならないことはいくらもあるってことは百も承知だけどなあお前」に代表されるフレーズであります。これは文明だなんだと偉そうなことを言っていても、結局は人間の内容など全く変わっていないということを知っているからこそ出てくるフレーズのはずです。そういったものは「あいつらの化けの皮を剥がしにいくってことをなあさっき自問自答の末結論した」自分も含めて人間は愚かであるんだという嘆息が聞こえてきそうです。そして情けないくらい自分の気持ちに対して正直に向き合いさらけ出す勇気もまた魅力です。しかし、何よりも「ただなあ 破壊されんだよ駄目な物は全部」という非常に哲学的で強いフレーズ(内容・歌唱ともに)を引き出したのがこの曲の最大の魅力であります。簡単に思いついたままを述べましたが、こういった詞世界こそ「日本古典」として残すに然るべき「文学」であると思います。引用している手前、もう少し詳しく解説しようかと思ったけど、これ以上の説明は非常に難しいです。すいません。(本文はうたネット(http://www.uta-net.com/user/phplib/view_0.php?ID=57042)から引用)
エレファントカシマシに親しみを覚えるようになって、ようやく大人の仲間入りをしたという気分になれました。凄く気分が良いです。「ガストロンジャー」は建前だけの世界に疲れ果ててしまった本物の大人達に是非この本音の世界の快楽に浸るに足る一曲であると思います。いや、これ本当の話。



最終更新:2009年04月19日 22:37