万世一系

万世一系(ばんせいいっけい)は、天皇皇位継承について、皇統の一系や天皇制の永続などを主眼とする思想のこと。日本神話に登場する初代神武天皇から現在まで、王朝が断絶することもなく、一貫して天皇家によって日本は統治されてきたとする史観に基づいている。現在では、史実に基づくものか、様々な議論がなされている。

概説

万世一系とは、日本の君主である天皇の地位が、過去一度の例外もなく以下の3つの条件を満たしてきたことを示している。

  1. 血統による世襲
  2. 男系のみによる皇位継承
  3. 皇統が分裂・対立することがない

実際には下記の例にもあるように、皇統が分断する危機があった(大覚寺統持明院統、他)が、1.と2.については例外は存在しないとされる。

1.について、武烈天皇が後嗣なく崩御し皇統の断絶が危惧されたが、応神天皇5世の孫とされる継体天皇の皇位継承により、血統による世襲は継続した。

2.について、元明天皇から元正天皇への女性天皇同士の皇位継承が行われたが、元正天皇の父は草壁皇子であり、男系による皇位継承である。

3.について、過去に数回皇統が分裂して存在し、室町時代初期には南朝北朝に分かれて対立する時期が有ったが、後小松天皇の時代に統一された。

根拠とされた日本神話の記述

万世一系が天皇による統治の根拠とされていたのは、天照大神が孫の瓊瓊杵尊(ニニギノミコト)に「この豊葦原水穂国は、汝の知らさむ国なり」(古事記)、「葦原千五百秋瑞穂の国は、是、吾が子孫の王たるべき地なり。爾皇孫、就でまして治らせ。行矣。宝祚の隆えまさむこと、当に天壌と窮り無けむ」(日本書紀)と神勅を与えて葦原中国に遣わし、瓊瓊杵尊の曾孫である磐余彦が初代神武天皇として即位したことによる。すなわち、天照大神が天壌無窮に葦原中国を治めよという神勅を瓊瓊杵尊とその子孫に下したことが、天皇家が日本を永遠に統治する歴史的・法的根拠であるとされた。大日本帝国憲法第1条は、これを明文化したものであるといえる。万世一系は、天皇制において絶対不可欠の基盤を成していた。

戦前での概念

万世一系は、戦前において、共和制共産主義革命を否定する根拠とされた。また、日本は君民一体の国柄で、他国のように臣下や他民族が皇位を簒奪することがなく、臣民は常に天皇を尊崇してきたとする歴史観を形成した。さらに、日本は神の子孫を戴く神州であり、延いては世界でも優れた道義国家であるとする発想を生んだ。戦前には、国粋主義と結びついて皇国史観という歴史観を形成した。 特に、明治維新以降戦中までの期間には、国家公認の史観として重視され、大日本帝国憲法の第1条にも記載されていた。

疑義・論争

万世一系についていくつかの疑問がなされ、大きな論争に発展した。たとえば、第26代継体天皇や、壬申の乱南北朝時代などの時点で皇位継承が途絶えているため、万世一系とはいえないという説がある。

戦前の論争

Template:see also? 1911年(明治44年)には、国定教科書問題・南北朝正閏論争があった。学校の歴史教科書で「南北朝時代」の用語を使っていた。このことをめぐって、帝国議会南北朝正閏論が問題化した。それ以降の教科書では、「吉野朝時代」の用語を使うことになった。この問題では、万世一系の概念の中で、皇統の一系(皇統が分立することがない)が問題になった。江戸時代から一般的であった南北朝時代の史観が、明治時代の万世一系では不適当された事例である。また、壬申の乱のような天皇家同士の争いは、教科書に記述がなかった。

この問題のように、南北朝問題は、万世一系や皇国史観が史実に基づいているかを考察するうえで重要な問題である。また、古事記や日本書紀などの古代史の研究が進むにつれて、考古学の成果により初期の天皇の実在に疑問がなされたり(欠史八代)、第26代の継体天皇の即位を王朝交代とする説がなされた現在では、継体天皇は第25代までの天皇とは血のつながりがないとの説も存在する。。このように、戦前・戦後を通じて、歴史学の観点から万世一系が歴史的な事実であるかについて、疑問なされてきた経緯がある。しかし、特に戦前では、不敬罪治安維持法などの存在などから、皇室の権威にかかわる問題について論争が自由にできなかった。そのため、万世一系を否定する見解を徹底して主張した歴史家知識人は、決して多くはなかった。

国体との関係

万世一系が天皇制の根拠とされていたので、いわゆる国体の問題でも深い影響を与えていた。天皇機関説論争の際には、神勅が天皇による直接統治の根拠とされた。「国体の本義」でも、神勅や万世一系が冒頭で強調されている。昭和維新を標榜した一連の変革運動でも、君民一体の思想から、天皇による直接支配こそ社会の閉塞をうちやぶるものであり、「君側の奸」がそれを妨げているという主張がなされた。この問題により、万世一系をめぐる論争は、天皇制の問題と結びついて大きな広がりを持つことになる。

現代では、万世一系を重視する人々でも、万世一系が神代から連綿と続く歴史的な事実である、すなわち天照大神などの神々が実在し天皇の祖先になったと信じる人は、神道の信者を除いてほとんどいないようである。他にも、神武天皇や欠史八代の実在や、継体天皇などの血統の継承を疑う人もいる。そのため、皇室の古くからの伝統としての万世一系を尊重することと、万世一系をそのまま歴史的な事実として信じることは、必ずしも同義ではないといえる。実際に、天皇家の血統の継承を疑う人も、天皇の血統や皇位継承の歴史を示し、ひいては日本という国家の特徴を示すものであると主張している。

皇位継承問題

Template:main? 愛子内親王が誕生する一方で、皇族の男子が不足している。このため、皇室典範が早期に改正され、女性天皇が誕生する可能性が高まっていた。このことを背景に、皇統の女系天皇を容認しようとする動きがある。だが、万世一系の伝統が断絶するとして、反対する意見もある。

万世一系がうたわれた実例

  • 大日本帝國ハ萬世一系ノ天皇之ヲ統治ス(大日本帝国憲法第一条)
  • 朕祖宗ノ遺烈ヲ承ケ萬世一系ノ帝位ヲ踐ミ朕カ親愛スル所ノ臣民ハ即チ朕カ祖宗ノ恵撫慈養シタマヒシ所ノ臣民ナルヲ念ヒ……(大日本帝国憲法発布の詔勅)
  • 大日本國皇位ハ祖宗ノ皇統ニシテ男系ノ男子之ヲ繼承ス旧皇室典範第一条)
  • 天佑ヲ保有シ万世一系ノ皇祚ヲ践メル大日本帝国天皇ハ昭ニ忠誠勇武ナル汝有衆ニ示ス(米英両国ニ対スル宣戦ノ詔書詔勅や外交文書の冒頭では、このように「天皇」に対する修飾語として用いられることもあった。)
  • 大日本帝国は、万世一系の天皇皇祖の神勅を奉じて永遠にこれを統治し給ふ。これ、我が万古不易の国体である。而してこの大義に基づき、一大家族国家として億兆一心聖旨を奉体して、克く忠孝の美徳を発揮する。これ、我が国体の精華とするところである。この国体は、我が国永遠不変の大本であり、国史を貫いて炳として輝いてゐる。而してそれは、国家の発展と共に弥々鞏く、天壌と共に窮るところがない。我等は先づ我が肇国の事事の中に、この大本が如何に生き輝いてゐるかを知らねばならぬ。(「国体の本義」)

脚注

関連項目




出典: フリー百科事典『ウィキペディア(Wikipedia)』_2008年2月25日 (月) 01:46。












     

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最終更新:2008年10月02日 17:00
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