【名言か迷言か】
退陣表明した菅直人首相を「名言か迷言か」のコーナーで取り上げるのもこれが最後となろう。1年3カ月、日本政治に負の遺産を残した菅首相の主な発言をまとめた。
「『奇兵隊内閣』と名付けたい」
関連記事
菅氏は何位?歴代首相ランキング
菅首相、きょう夕方にも退陣会見
記事本文の続き 昨年6月8日の首相就任会見で、郷土・山口の先輩で幕末の志士、高杉晋作が作り上げた奇兵隊にちなみ、日本の改革に乗り出す決意を示した。鳩山由紀夫前首相が米軍普天間飛行場移設問題で迷走した挙げ句退陣した後だっただけに、それなりに期待もあった。ところが、消費税をめぐる次の発言でつまずく。
「10年度内にあるべき消費税率や改革案を取りまとめる。税率は自民党が提案している10%を一つの参考としたい」
案の定、参院選で大敗した。
「消費税に触れたことが、やや唐突な感じを持って国民に伝わった」
参院選敗北を受けた記者会見でこう反省の弁を述べたが、以後民主党は衆参で多数派が異なるねじれ国会で苦しむことになる。
「カネにまみれた政治文化を変えたい。小沢一郎元民主党代表の政治はカネと数の原理が色濃くある」
9月の代表選で、菅首相には任せておけないと、小沢一郎元代表が出馬した際、対抗心をあらわにした。
「『有言実行内閣』を実現したい。適材適所の挙党態勢だ」
小沢氏に勝利した後、内閣改造後の記者会見でこう述べた。しかし、小沢グループとの対立は深まり、今回の代表選に影を落とすことになった。
「就任して今までは仮免許だったが、これからはもっと自分の色を出したい」 12月12日、支持者との会合で図らずも自分が未熟であったことを認めた。このことを端的に示したのが、米格付け会社による日本の長期国債格下げにだった。
「初めて聞いた。そういうことには疎いので、あらためて言いたい」
経済問題だけではない。外交面でも昨年秋の尖閣諸島沖での中国漁船衝突事件で迷走した。北方領土問題でも2月にロシアのメドベージェフ大統領が国後島を訪問したことについて、「許し難い暴挙だ」と非難した。しかし、「暴挙」というなら本人に直接言うべきあったが、菅首相は大統領に詰め寄ることはしなかった。訪問から12日後に横浜で大統領と会う機会があったにもかかわらずである。ロシア人から卑怯者とみられても仕方がない。
内政、外交ともに行き詰まっているときに起きたのが3月の東日本大震災だった。
「未曽有の国難を乗り越えたい。命懸けで取り組む」
3月12日、首相は東京電力福島第1原発での爆発を受け記者会見で決意を示した。だが、自民党との間に信頼関係を築けなかった首相が大連立を呼びかけても谷垣禎一総裁らが応じるはずもなかった。
行き詰まった首相は、「脱原発」に活路を見いだそうとした。5月25日、パリの経済協力開発機構での講演で、国内調整も行わないままに宣言した。
「発電電力量に占める自然エネルギーの割合を20年代のできるだけ早い時期に20%とするよう大胆な技術革新に取り組む」
民主党内からも不信感が高まり、野党側が提出した内閣不信任案に同調者も増え、可決の勢いとなった。追い詰められた首相は6月2日の党代議士会で、「退陣」を表明した。
「震災復興、原発事故収束に一定のめどがついた段階で、若い世代に責任を引き継ぎたい」
ところが、首相が直ちに総辞職することはなく、3カ月も居座ることになる。
「国会には『菅の顔は見たくない』という人がたくさんいるが、ならばこの法案を早く通した方がいい」 再生エネルギーに関する超党派議員会合では、こう開き直った。退陣をようやく明言したのは8月10日、衆院財務金融委員会でだった。
「公債発行特例法案と再生エネルギー特別措置法案が成立したときは速やかに党代表選の準備に入る。新代表が選ばれたときには首相という職務を辞する」
政治家にとって「言葉」は最も重要な武器であるが、これほど発言に信用のなかった首相もいないだろう。それでも首相の辞書には「反省」はないようだ。8月23日、退陣に関し参院財政金融委員会で、開き直りをみせた、
「間違ったことをしたから責任を取るのではない。党内に向けた約束を果たすのが政治家のけじめだ」
◇…先週の永田町語録…◇
(22日)
▽党を守る
渡部恒三民主党最高顧問 前回は中間の人がおらず、党を守る立場がいなかった。今度は誰がなっても、挙党一致で政治をやらせるように協力しなければならない。(党代表選に関し記者団に)
▽災い
小坂憲次自民党参院幹事長 次の首相になるかもしれない人を選ぶ民主党代表選が、たった数日間で、誰がどういう考え方を持つのか全く分からない形で進むのは災いでしかない。(党参院議員総会で)
(23日)
▽のんびり屋
馬淵澄夫前国土交通相 きょう51歳になった。「五十で天命を知る」から1年遅れだ。のんびり屋の私にはぴったりかと思う。(民主党代表選出馬について論語の一節を引用し記者団に)
▽低レベルの争い
渡辺喜美みんなの党代表 民主党代表選を見ていると「小沢詣で」か「脱小沢」か、と相変わらず低レベルの争いが繰り広げられている。本物の政策論争が極めて少ないのは大変残念だ。(党役員会で)
(24日)
▽最後のご奉公
渡部恒三民主党最高顧問 今度の代表選で代表になった人に一致協力して「政権交代して良かった」と思われる立派な政策を実行させるのが、私の最後のご奉公だと思っている。(記者団に)
▽言いなり3人男
福島瑞穂社民党党首 野田佳彦財務相は財務省、海江田万里経済産業相は経産省、前原誠司前外相は防衛、外務両省と米国の言いなりだ。言いなり3人男に委ねて日本の政治が良くなると思えない。(党常任幹事会で)
(25日)
▽骨太な人に
安住淳民主党国対委員長 いまは人気が落ちるとマスコミからつるし上げられる。そういうこともどこ吹く風で続けられる人でないと1年やるのも難しい。骨太な人になってほしい。(民主党代表選挙で記者団に)
▽メダカの運動会
古賀誠自民党元幹事長 メダカの運動会みたいな代表選が行われているようだ。誰が代表になっても政治の貧困と政権の安定は望むべくもない。(民主党代表選に関し派閥総会で)
(26日)
▽せめて4年
菅直人首相 国政選挙のたびに首相交代が起きてきている。せめて衆院任期の4年は同じ首相で続けていくことが国民的な、政治社会における慣習となっていくことが望ましい。(記者会見で日本の短命政権を問われ)
▽大雨と雷
逢沢一郎自民党国対委員長 東京もいい天気だったのに菅首相の退陣表明から急に真っ暗になって大雨と雷。これからの民主党政治はこの雷雨が象徴しているような気がする。(記者会見で)