土星の衛星ディオネに大気を発見
ナショナルジオグラフィック 公式日本語サイト 9月12日(月)13時26分配信
写真を拡大
土星の衛星、ディオネの画像(着色加工)。探査機カッシーニが2005年に撮影。
(Image courtesy SSI/NASA)
氷を主成分とする土星の衛星ディオネに、薄いながらも大気があることが判明した。
NASAの土星探査機カッシーニが、先ごろのフライバイ(接近通過)でディオネに接近し、この衛星に大気があることを明らかにした。カッシーニのデータから、ディオネが土星の巨大な磁気圏を通り抜ける際に「痕跡」を残していることがわかった。
今回の研究成果をまとめた論文の共著者でドイツ・ケルン大学の地球物理気象学研究所に在籍するスベン・シモン氏は、「衛星がまったく大気を持たず、単なる氷の塊の場合は、磁力線が衛星の軌道の手前で乱れることはない。というのも、物質に伝導性がない限り、磁場は乱されないからだ」と説明する。
シモン氏はさらにこう述べる。「それ(磁場の乱れ)が起きるのは、例えば衛星の大気層など、荷電粒子がある場合のみだ。ディオネの大気には(土星の)磁場を乱すのに十分な濃度がある」。
◆土星の放射線帯が生み出すディオネの大気
ディオネは直径約1123キロで、太陽系の衛星では15番目に大きい。平均密度は液体の水の約1.5倍あることから、内部組成は氷が大半を占め、中心部分は岩でできていると推定されている。
しかし、ディオネの質量はそれほど大きくないため、地球とは違い、相当量の大気を持つには至っていない。
地球をはじめとする質量の大きな天体は、それに比例して重力も大きく、この重力が大気を構成する分子が宇宙空間に逃げていくのを防いでいる。
ディオネの場合は、そこまでの重力はないが、継続的にエネルギーを与えられているため、薄いながらも大気の層が存在する。
シモン氏によれば、土星は地球のバン・アレン帯に似た、高エネルギー粒子で構成される放射線帯に囲まれているという。「ディオネはこの帯の中に位置しており、非常に高速の熱を持った粒子が常に衛星の表面に飛来するため、大気を持つものと思われる」。
こうした粒子がディオネの表面に落下すると、衛星表面の氷が化学的に分解され、分子を放出してこれが大気になるという。
◆接近探査のラストチャンス?
土星の衛星ではほかにも、質量が大きいレアが、重力により引き留めた薄い大気の層を持っている。この大気が酸素を主成分とすることが先ごろ判明した。
ディオネの場合、電磁場のデータから薄い大気の存在が確認されたため、その組成はまだわかっていない。しかし、氷がもとになっていることを考えると、レアと同様、酸素が大部分を占めるのではないかと、研究チームでは推測している。
シモン氏は、カッシーニの他の観測計器が既に収集したデータに、ディオネの大気の化学組成を知る手がかりが含まれているのではないかと期待をかける。さらにこれらのデータが、今後予定されている再探査の計画を立てる際にも役立つのではないかとみている。
「カッシーニは再びディオネを探査する。次のフライバイは12月12日の予定だ」とシモン氏は語る。「大気の存在が確認できたので、粒子検出器と電子分光計を調整して詳しい調査を行いたい」。
さらに、探査のチャンスが非常に限られている点も、シモン氏は指摘する。カッシーニの現在のミッションは2017年9月に終わる予定で、それまでに「12月のフライバイが終わると、カッシーニがディオネに接近する機会はあと2回、レアについてはあと1回しかない」という。「氷からなる衛星群を接近探査するには、これがラストチャンスだ」とシモン氏は話している。
ディオネに大気の存在を確認した研究成果は「Geophysical Research Letters」誌8月12日号に掲載されている。
Brian Handwerk for National Geographic News
【関連記事】
似たもの同士、土星衛星レアとディオネ
土星の衛星レアに酸素の大気
土星の衛星ミマスの表面 (写真集:土星)
衛星ディオネ、土星の環で“綱渡り”
土星衛星タイタンに生命の構成物質か?
最終更新:9月12日(月)13時26分