追悼 スティーブ・ジョブズ 革新と創造の担い手、逝く
ダイヤモンド・オンライン 10月7日(金)10時44分配信
革新的製品の数々
新型iPhone4S発表のニュースが流れ、その熱も冷めやらぬ翌日、さらなる衝撃が世界中を駆け巡った。米アップルがスティーブ・ジョブズ氏の死去を発表したからだ。数々の革新的な製品を世に送り出し、アップルを時価総額で世界最大の企業へと押し上げたミスター・アップルを失ったショックは計り知れない。
テクノロジーの未来に対する慧眼を持った世界的なカリスマ経営者がこの世を去った。
米アップルの公式サイトのトップ画面は、前日に発表されたiPhone4Sの製品紹介から一転。「Steve Jobs 1955-2011」の文字とともに、スティーブ・ジョブズ氏の写真を掲載し、「Appleは先見と創造性に満ちた天才を失いました」と、追悼のコメントを発表した。
各界からも悲しみの声が上がり、オバマ米大統領は「世界は先見の明を持った人物を失った」という声明を発表した。
雑誌「ワイアード日本版」の元編集長で、ジョブズ氏へのインタビュー経験もある小林弘人氏は「企業人としてではなく、スティーブはその類い稀なるカリスマ性と革新を実現する力、そしていい意味でのエゴイズムにより、ITをアートにまで高めた人物。彼の死去はIT業界と人類にとっても痛手であり『彼が生きていたらどうしただろう』としばらくは常に考えてしまうだろう」と言う。
ジョブズ氏は76年に友人とともにアップルを創業(会社設立は翌年)。77年に「AppleII」を発表し、個人向けコンピュータで世界で初めて成功を収めた。その後、マウスを使った操作性やデザイン性の高さで、後のパーソナルコンピュータのひな型ともなった「マッキントッシュ」をはじめ、先進的な製品を生み出すも、期待ほどには売り上げは伸びず、業績悪化に伴う内部対立などからアップルを追われる。
追放後は、コンピュータグラフィックス制作会社のピクサーを設立し、ディズニー映画「トイ・ストーリー」を制作するなど活躍。その間、アップルは米マイクロソフトとのOS競争に敗れ、業績は悪化の一途をたどったが、96年にジョブズ氏は顧問として復帰を請われると、すぐに最高経営責任者(CEO)に返り咲いた。
それ以降、「iMac」を旗頭として、新生アップルの道を突き進んでいく。コンテンツ配信サービスの「iTunes Store」と連携し、一気にナンバーワン携帯音楽プレーヤーに上り詰めた「iPod」を皮切りに、スマートフォンというまったく新しい携帯電話の市場を創造した「iPhone」を生み出した。さらには、「iPad」を世に送り出し、携帯電話とノートパソコンのあいだにタブレット端末という市場まで創り出し、ユーザーのライフスタイルを塗り替えてしまったのだ。
ところが、ジョブズ氏の体は膵臓ガンに蝕まれていた。04年に余命半年を宣告されるも、摘出手術が成功し、引き続き精力的に経営に携わっていたが、11年8月24日、病気療養を理由にCEOを退任することとなった。ちょうどその月、米エネルギー最大手のエクソン・モービルを抜き、アップルは時価総額で世界最大のIT企業となった。まさにそれを潮時としたかのように、当時の最高執行責任者(COO)だったティム・クック氏を後任に指名したのである。
そして、アップルは10月5日、ジョブズ氏が同日に死去したことを発表。前日にiPhone4Sの発表を行った直後の訃報だった。
ジョブズ氏亡き後のアップルは、これからどうなっていくのか。
アップルに詳しいジャーナリストの林信行氏によれば、日本時間の10月5日に行われたiPhone4Sの発表会で、その方向性が垣間見えたという。
「これまでの新製品発表会との大きな違いは、チームワークだ」と林氏は話す。
プレゼンテーションの“天才”と呼ばれ、新製品の発表会を全世界注目の大イベントに仕立て上げてきたジョブズ氏だが、先日の発表会では、クック新CEOは自ら前面に立つのではなく、目玉商品であるiPhone4Sのお披露目を製品担当の幹部に任せた。その様子がチームで戦っていくという今後のアップルを象徴しているように感じたと林氏は言う。
今後のアップル、そしてクックCEOにとって、一つの正念場になるのではないかと林氏が見ているのが、今から2~3年後だという。
というのも、上の年表を見ればわかるように、iMacに始まり、iPod、iTunes Store、iPhone、iPadと、アップルはおよそ3~4年おきに自社のビジネスを上昇気流に乗せる、まったく新しい製品やサービスを出してきている。そして、それが成長の原動力となってきたからだ。
膵臓ガンが発見されてからのここ数年、ジョブズ氏の死期が迫っていることは、ジョブズ氏自身も、経営陣も、常に意識せざるをえない事実だったはずだ。そして、とうとうその日がやって来た。
残酷な“準備期間”を、彼らはどう過ごしていたか。ジョブズ氏の遺したチームの力が、これから試される。
(「週刊ダイヤモンド」編集部 鈴木崇久)
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最終更新:10月7日(金)10時44分