150年前の恒星爆発、反射光を初観測
ナショナルジオグラフィック 公式日本語サイト 2月17日(金)15時16分配信
りゅうこつ座の巨星イータ・カリーナ(左の写真)は1800年代に爆発が観測された。その光が現在、星雲に反射しているのを確認できる(右側の列)。
(Images courtesy A. Rest STSI/NASA/NOAO)
りゅうこつ座の巨星イータ・カリーナは、150年以上前に地球上で異常な増光が観測された。この“超新星爆発もどき”の現象は、現在では「巨大爆発」と呼ばれている。このほど初めて、そのときの光が星雲に反射しているのが捉えられた。
今回の観測結果は、19世紀に記録されたイータ・カリーナの異常な増光の原因究明の一助となるだろう。またこの“時限爆弾を抱えた”巨大な恒星が、いつ本物の超新星爆発を起こして死滅するかを予測する鍵となる可能性もある。
イータ・カリーナは地球からおよそ7500光年の位置にある連星系で、光度の増減を繰り返している。ごく最近まで、イータ・カリーナは単独の巨大な恒星だと考えられていた。その場合は太陽の120倍もの質量を持つという試算になる。しかし2005年になって、この天体は実際には2つの恒星からなる連星系であることが確認された。青色超巨星と、それより小さい伴星が、互いの軌道を回っている。
この青色超巨星は、かつてはもっと巨大だった。ところが1838年にイータ・カリーナは異常な増光を示した。この謎の現象は20年ほど続き、現在では「巨大爆発」と呼ばれている。超新星爆発ほどの規模ではなく、この連星系は爆発の後も無事生き残った。
しかしこのとき、青色超巨星からは太陽の質量の10倍以上もの物質が放出された。これらの物質は今では密な双極型の星雲となって、この連星系を取り囲んでいる。
アメリカ国立光学天文台がチリに設置したビクター・M・ブランコ望遠鏡によって、今回この巨大爆発の際の“光のエコー”が、爆発の中心からおよそ100光年も離れた星雲に反射しているのが撮影された。
「(イータ・カリーナは)天の川銀河の中で特によく研究されている天体の1つだが、その爆発そのものから放出された光を直接捉える機会はこれまでなかった。この観測結果は、巨大爆発の引き金を理解する一助となるだろう」と、アメリカのメリーランド州ボルティモアにある宇宙望遠鏡科学研究所のアーミン・レスト氏は言う。レスト氏は今回の論文の共著者の1人だ。
◆風変わりな連星、イータ・カリーナ
今回レスト氏らのチームが捉えた光のエコーは、これまでの通説に予想外の展開を加えるものだった。「巨大爆発の温度は、この超新星爆発もどきを説明するのにこれまで使われてきた単純な恒星風モデルから想定されるよりも、かなり低かった」とレスト氏は言う。
恒星風とは、電荷を帯びたガスの絶え間のない流れで、恒星を起点にあらゆる方向に向かって生じている。従来のモデルでは、巨大爆発で多量のガスが放出されたために恒星が拡張し、明るくかつ低温に見えるようになった、と考えられていた。
しかし今回の光のエコーからは、巨大爆発の温度はこの恒星風モデルでは説明がつかないほど低かったことが示された。この食い違いが何を意味するかはまだ分かっていないが、研究チームはこの連星系における爆発の原因について、ある仮説を抱いている。
イータ・カリーナのうち、小さいほうの伴星は、大きな主星の周りを極度の楕円軌道で回っている。だから伴星が主星に最も接近した際に、巨大爆発を誘発したのではないかとレスト氏は言う。「それぞれの星から恒星風が生じており、それが衝突する」。
実際、過去の観測記録から、イータ・カリーナは約5年周期で増光を繰り返していることが分かっているが、これは伴星が主星の近傍を通過する周期と一致する。
この周期的な爆発は、主星が「自滅に至る前の最後のゲップのようなもの」だと、レスト氏はナショナルジオグラフィック ニュースの取材に電子メールで答えている。イータ・カリーナはいずれ確実に本物の超新星爆発を起こして死滅するだろう。「この最終段階の出来事、とりわけ巨大爆発などは、恒星が超新星爆発に至るまでの道筋を理解する上で重要だ」。
◆巨大爆発を多角的に捉えたい
レスト氏のチームは今後の計画として、爆発の中心から別の方向に向かった光のエコーを見つけ出して、巨大爆発の全容を再構築することを考えている。チームは既に光のスペクトル分析によって、巨大爆発の温度と、その時点でのこの連星系の組成を知るための手がかりを得ている。「将来的には、さまざまな時点、さまざまな方向からのスペクトル分析を手に入れて、巨大爆発の各段階の姿を描き出せるといい」。
イータ・カリーナの光のエコーに関する今回の論文は、「Nature」誌オンライン版に2月15日付で掲載された。
Dave Mosher for National Geographic News
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最終更新:2月17日(金)15時21分