コンプガチャ問題は一気に終わるのか DeNA、グリーら相次ぎ廃止宣言
ITmedia ニュース 5月9日(水)19時26分配信
「真摯に取り組みたい」と話したグリーの田中社長=8日
「Mobage」(ディー・エヌ・エー)と「GREE」(グリー)というソーシャルゲームプラットフォーム最大手2社が相次ぎ「コンプリートガチャ」(コンプガチャ)を廃止する方針を打ち出した。両社とも、両プラットフォームにゲームを提供している外部会社(サードパーティ)に対してもコンプガチャの終了を要請する方針。成長著しいソーシャルゲーム業界を揺るがしたコンプガチャ問題だが、社会の視線は厳しくなっており、問題がこれで収束するかどうかは不透明だ。
【写真:DeNAが考える新しい方向性】
「ただちに法令に違反するという考えは持っていないが、社会的な問題提起もされている状況をかんがみ、今後、コンプガチャを順次廃止していく」。DeNAの守安功社長は5月9日午後、都内で開いた決算説明会で、コンプガチャを廃止する方針を明らかにした。今後ガイドラインを策定し、サードパーティ製ゲームを含めてコンプガチャを順次終了する。
それから数時間後。前日に「指摘があれば真摯に取り組む」と繰り返していたグリーも「コンプリートガチャの取り扱いに関するお知らせ」というニュースリリースを公表。コンプガチャを5月末までに既存タイトルを含めて全廃する方針を明らかにした。
「現行法上ただちに違法性があるものとは考えておりませんが、多くのお客様にご利用いただいているサービスを提供する社会的責任を負っている企業として、各方面からのご示唆を受けて、真摯に検討した結果、お客様に対するサービスの内容の向上を図るため、停止することとしました」──という説明は、実質的にほぼDeNAと同じ内容になっている。
それから1時間以上がたったころ、両社とミクシィ、NHN Japan、サイバーエージェント、ドワンゴの6社で構成する連絡協議会が5月末までにコンプガチャを廃止する方針を表明し、プラットフォーム各社からの“コンプガチャ追放”が決まった。サードパーティのKLabも「監督官庁から指導・要請される前に、業界側が自主的に規制することが望ましい」として、5月末までの廃止を公表していた。
●見えないコンプガチャ廃止の影響
倍々ゲームで増えていく売り上げと利益。急成長をとげたソーシャルゲーム業界だが、その裏では「当局が注目しているようだ」と規制問題もささやかれるようになっていた。
今年2月、グリーの人気タイトル「探検ドリランド」のバグで表面化したリアルマネートレード(RMT)問題を受け、各社はRMTの防止や青少年の利用額制限を設けるなどの対策を進めてきた。
だが4月24日、福嶋浩彦・消費者庁長官が、コンプガチャについて「場合によっては、景品に当たるということも考えられる」と景表法に抵触する可能性を指摘。コンプガチャは「ガチャ」と呼ばれるゲーム内アイテム販売システムを使い、ランダムに出るアイテムやカードを一定種類そろえる(コンプリートする)と、さらに貴重なアイテムやカードがもらえる仕組みだ。「射幸心をあおり、高額課金になりやすい」として批判が出ていた。
景表法は、過去に野球選手カードなどで社会問題化した「絵合わせによる懸賞」を禁じており、福嶋長官はコンプガチャがこれに抵触する可能性があるとの認識を示した形だ。さらに5月の連休に入り、一般紙が「消費者庁が景品表示法上、コンプガチャを違法と判断し、中止を求める」と報じて問題に着火。連休明けの株式市場は関連銘柄が一斉に暴落する“コンプガチャショック”とも言える状況になった。
株式市場がパニック売りに走ったのは、コンプガチャ廃止の影響が見えなかったためだ。
DeNAの守安社長は、コンプガチャ廃止が業績に与える影響は「かなり読みづらい」と話す。現状では「何が『コンプガチャ』に当たるのか分からない」上、「ガチャでアイテムを購入しているユーザーのうち、コンプしたいから回しているユーザーがどれほどいるのか、ゲームタイトルやイベントごとに異なる」ためだ。このため、同社は2012年度の業績予想開示を現時点では見送っている。
コンプガチャ問題の影響は既に出始めており、4~6月期で50億円程度に上るという。7~9月期が「底になる」とみているが、対策を打てれば再び成長できるとも踏んでおり、11年度の4~6月期、7~9月期を下回るようなことはないのでは、と考えているという。
元々DeNAはコンプガチャを内製タイトルにはほとんど取り入れておらず、昨年10~12月期に投入した「ガンダムカードコレクション」が初めてといい、「ガチャはモバコイン(Mobage内仮想通貨)消費の中心ではなく、影響は極めて限定的」。プレイヤーがチームを組んで同時に戦う「リアルタイムチームバトル」や、多数のプレイヤーが同時アクセスして強力なボスを倒す「ソーシャルレイドボス」などの導入で回復アイテムなどの購入が増えており、今後はこうしたタイプのゲームの割合を高めていく考えだ。
守安社長は「カード型ゲームがだめになるのではなく、ガチャやコンプガチャに頼らない、新たな進化の方向性を考えている」と説明する。「社内ではコンプガチャをどうしていくのかを前向きに考えている。短期的にはインパクトはあると思うが、中長期的には新しいジャンルを作っていけると考えている」という。
だがタイトルによってコンプガチャ依存度は異なるため、サードパーティによっては高収益の反動が大きくなりそうだ。守安社長は「サードパーティは影響が大きいこともあり、事前には知らせていない。今後、どういうタイミングでどういうガイドラインになるのかきっちり説明していく」とした。
相次いでコンプガチャ廃止に動いた業界だが、松原仁消費者相がソーシャルゲームについて「極めて射幸心をあおるということは間違いない」と述べ、福島長官は来週にも消費者庁の見解を公表する方針を明らかにしている。一般紙を含むマスコミがソーシャルゲームに向ける視線は厳しく、このまま社会的な批判が高まれば、ソーシャルゲームへのユーザーのマインドも低下していく可能性もある。業績への影響が「コンプガチャの終了」で済むのかどうか、不透明だ。
ことここに至ったのは業界の自浄能力が働かなかったためだという指摘は多い。DeNAの守安社長は「市場を引っ張ってきたのはDeNAとグリーだが、グリーとは訴訟もあって協調的な動きが全く取れていなかったのは反省すべき点だ」と述べた。今後は両社など6社が参加する連絡協議会が月内のガイドライン策定などを目指すが、問題は本当にこれで終わりなのか。急務となった新たなビジネスモデルの構築を含め、ソーシャルゲーム業界は岐路に立っている。
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最終更新:5月9日(水)19時47分