絶滅危惧種ノコギリエイの生態
ナショナルジオグラフィック 公式日本語サイト 6月17日(金)19時24分配信
絶滅が危惧されるノコギリエイ。そのノコギリは、獲物の持つ電場を感知する“アンテナ”の役割を果たす。
(Photograph courtesy David Wachenfeld)
太平洋、大西洋、インド洋の熱帯から亜熱帯にかけて生息するノコギリエイ。生息域は広い範囲におよぶものの、全種とも絶滅が危惧されている。生態はこれまであまり知られていなかったが、“ノコギリ”の謎のひとつが明らかになった。
これまで、ノコギリエイの“ノコギリ”は土砂をの中を探って獲物を見つけるのに使われると考えられてきた。
ノコギリの歯のように皮歯が並ぶ長い吻には多くの孔があり、獲物が通り過ぎる際の電場の動きを感知できる。オーストラリア、クイーンズランド大学の感覚神経生物学者バーバラ・ウェリンガー(Barbara Wueringer)氏は、この吻の働ききを一種の「遠隔触覚」に例えている。
この能力が特に役立つのは、暗く濁った水の中で獲物を“嗅ぎ当てる”場合だとウェリンガー氏は言う。
吻は頭蓋骨から軟骨が伸びたものだが、これは武器としても使われる。ウェリンガー氏は研究室での実験の際に、ノコギリエイが吻を水平方向に振り回すだけで、自分より小さな魚を真っぷたつにできることを観察したという。
「ノコギリエイは5メートルにまで成長するのに、この魚についての私たちの知識はちっぽけなものだ」とウェリンガー氏は話している。
ノコギリエイのノコギリ(吻)に多数ある電場感知孔は、発見者の名前をとってロレンチノ瓶(ロレンチーノ器官)と呼ばれ、他のエイやサメなどの軟骨魚類のほか、硬骨魚のハイギョにも見られる。あらゆる動物は生きている限り常に電気を発生しており、ロレンチノ瓶は100万分の1ボルトというわずかな電位差をとらえることができる。
ウェリンガー氏は希少なノコギリエイのうち4種について、皮膚の“地図”を作成し、ノコギリ上の孔の分布を調べ、エイの仲間シャベルノーズレイ2種の分布と比較した。
孔が集中している箇所を特定することで、その魚の捕食行動の手がかりが得られるとウェリンガー氏は話す。「例えば、エイは目が頭の上側に、口は下側にある。口の周りの孔が電場を感知できるので、獲物の魚の存在を感じとれる。そして獲物を吸い込もうとするわけだが、見えてはいない」とウェリンガー氏は話す。
ノコギリエイでは、孔が集中していたのはノコギリの上側だった。ということは、砂の中の獲物よりも、ノコギリの上方にいる魚たちを狙いやすくなるだろう。
ウェリンガー氏は、今回の研究によってノコギリエイの生態がいっそう明らかになり、保護活動の一助となることを期待している。ウェリンガー氏が調査対象とした4種の生息域は、オーストラリア北部の人の手の入らない入江に残されているのみなので、特に保護が必要だ。
ノコギリエイは全般にここ数年、急速に個体数を減らしている。主な原因は故意または過失による乱獲だ。ノコギリ状の吻のせいで、ノコギリエイは漁網に絡まることが特に多いと国際自然保護連合(IUCN)は指摘している。
「絶滅危惧種の保護のためには、その種についてできるだけ多くのことを知る必要がある」とウェリンガー氏は話す。「獲物をどう捕獲するか、獲物の感知にどの感覚が関係しているかも、種についての基本的な理解の一部だ」。
ノコギリエイに関する予備段階のこの研究は、メルボルン博物館で6月初旬に開催された「フレッシュサイエンス:若手研究者のためのコミュニケーション・ブートキャンプ」(Fresh Science -- a communication boot camp for early-career scientists)で報告された。
Christine Dell'Amore for National Geographic News
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最終更新:6月17日(金)19時24分