新種シーラカンス、カナダで化石発見
ナショナルジオグラフィック 公式日本語サイト 5月4日(金)18時32分配信
三畳紀の海でエサを追う新種のシーラカンス「レベラトリクス」(想像図)。(Illustration courtesy Michael Skrepnick)
2億5000万年前の海には、未知のシーラカンスが君臨していたようだ。博物館の化石標本から、既知の種とは大きく特徴の異なるシーラカンスが特定されたという。
シーラカンスは移動速度の遅い原始的な種で、すべて絶滅したと考えられていた時期もあったが、1938年に生きた個体が再発見された。3億2000万年前からほとんど形が変わっておらず、現生種は「生きた化石」とも呼ばれる。
研究チームのリーダーでカナダ、アルバータ大学の生物学者アンドリュー・ウェンドラフ氏は、「今回発見された新種は、現存・絶滅を問わずあらゆるシーラカンス種と異なる」と話す。
シーラカンスといえば幅の広い尾ビレが特徴である。「これは、エサに向かって短い距離を突進するための仕組みだ」。しかし、体長90センチの新種の場合、がっしりとした力強い尾ビレを持っている。エサを高速で追いかける魚の特徴で、例えば現代のマグロによく似ている。
研究チームの一員で同じくアルバータ大学のマーク・ウィルソン氏は、「分岐した力強い尾ビレが流線型の体から伸びている。通常のシーラカンスと比べてはるかに高速で移動し、速度を維持できたはずだ」と述べる。
「したがって、広大な海域を巡回してエサを探し、素早く襲いかかって捕らえていたと考えられる」。
ウェンドラフ氏のチームは、新種を「レベラトリクス(Rebellatrix)」と命名。由来となった英語の「rebel」は「逆らう者」を意味する。「シーラカンスの“常識”にとことん逆らっているからだ」とウェンドラフ氏は説明する。
◆大量絶滅後に栄えたレベラトリクス
調査した化石は1950年代と1980年代にカナダのブリティッシュ・コロンビア州にある州立ワピティレイク公園で収集された。レベラトリクスの時代、この地域は古代超大陸「パンゲア」の西海岸だったという。
化石はアルバータ州のロイヤル・ティレル古生物学博物館とブリティッシュ・コロンビア州のピース地域古生物調査センターに保管されてきた。
「2009年に化石の再調査を行ったところ、自分の目を疑った」とウェンドラフ氏は振り返る。
「2つ、3つ、4つと見つかっていくうちに、ようやく重大な発見だと理解できた」。
化石の年代を調査した結果、レベラトリクスが最初に誕生したのは2億5000万年前ごろと推測されている。この時期は、ペルム紀(二畳紀)末の大量絶滅の直後に相当する。原因は未解明だが、地球上の90%の種が死に絶えたという。
「大量絶滅により、海中で高速移動する捕食動物がいなくなった。その隙間を埋めるように、レベラトリクスが進化していったのだろう」とウェンドラフ氏は話す。
「他の状況では、シーラカンスがこの特徴を備えることは考えられない」。
◆“壮大なる失敗作”
アメリカのカリフォルニア州にあるロサンゼルス郡自然史博物館に所属するシーラカンス専門家ジョン・ロング氏は、次のようにコメントする。「今回の発見は、進化の柔軟性をよく示している。
2億年続けてきた生活を突然捨てて、ほかのシーラカンスとはまったく異なる役割を占めるとは驚きだ」。
ただし、動きの遅いシーラカンス種の方が最終的に“勝利”することは、化石や現生種が証明している。ウェンドラフ氏は、「レベラトリクスは、さらに高速移動能力に優れたサメなどの捕食動物に地位を奪われた」と話す。
「レベラトリクスは“壮大なる失敗作”だったのだ」。
今回の研究成果は、「Journal of Vertebrate Paleontology」誌2012年5月号に掲載されている。
Christine Dell'Amore for National Geographic News
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最終更新:5月4日(金)18時32分