第九十五話

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315 :蕨 ◆grZCWCboXg :2008/08/23(土) 06:21:08 ID:/76O1pUN0 「磨りガラスに映る何か」1/2 父方の親戚の話です。 そこは、自分からすると判らない、祖母の妹の夫の母の…みたいな遠い親戚も 田舎独特のコミュニティに含まれているような土地柄。 昔ながらの山間の農村そのもので、幼い頃一度しか行った事は無いけれど 道端にある古い幟の立った祠を見て「八つ墓村みたいだなぁ」と思ったのは憶えている。 そんな中、70そこそこの女性の親戚(仮にAさん)が闘病の末に亡くなった。 良くある話だがその人は長男の嫁と折り合いが悪く、かなりやり合っていた事は あまり近くない親戚の自分にも聞えてくる程だった。 亡くなる原因の病は胃の病で、死ぬ直前は殆ど何も食べられなかったらしい。 Aさんの通夜が終わり、葬式が済み、客が帰った後。 田舎の葬式だけに、やたらと人が多く来るので終わった後はぽっかりと 空洞のようにひっそりとするらしい。 山間だけに、夜中も街灯で明るいという事はなく 一歩家を出ると、都会暮らしには想像がつかないほど異様に暗い。 昔の家なので基本的に和室に障子で、家中の障子が 真ん中にグラデーション状の磨りガラスをはめ込んだ戸になっている。 茶の間と、昔ながらの板の間の台所は隣接していて 茶の間からガラス越しに台所が見えるそうだ。 316 :本当にあった怖い名無し:2008/08/23(土) 06:26:11 ID:/76O1pUN0 2/2 葬式というものは意外と家族はする事がなく、手持ち無沙汰になるものだが そのお嫁さんも、夜に茶の間でぼーっとしていた。 すると、亡くなったAさんの部屋の方から、スーッ…スーッ…という 足袋の擦るような足音が聞えてきた。 嫁さんが台所の方を見ると、磨りガラス越しに髪を振り乱したAさんが おひつの中から手掴みでご飯を食べている姿がおぼろげに見えたそうだ。 これは、一緒に居た親戚のおばさんにも同じものが見えたらしい。 周囲から聞く話だと、若い頃に散々Aさんと揉めていたお嫁さんは Aさんが病を得て寝込んだ後に、その鬱憤を晴らすような行動をしていたらしい。 食べたくても食べられないAさんの前で、わざとご飯を食べる、といったような。 お嫁さんが見たAさんが本物だとして、お嫁さんに祟るより 台所のご飯を無心に食べていた、という行動が、何故か自分には非常に哀しく感じた。 【完】

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