第七十九話

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262 :蕨 ◆grZCWCboXg :2008/08/23(土) 03:54:25 ID:/76O1pUN0 「そのままの家」1/2 高校の頃、仲間内で神秘・心霊スポット巡りが流行った事があった。 市内の山にある神社や、もう使われていない修験場で写真を撮ったり 霊が出るという墓地を夕方歩いたりした。 だが特に霊感が強い人間が居る訳でも無いのに そう簡単に不思議なものを見たりそれらしい写真が撮れる訳もなく いつも心霊ツアーは只の遠足のような物で終わっていたのだ。 そんな時仲間の一人が、家族から古い事件を聞きつけてきた。 曰く「あの山に、一家心中があった家がそのまま残っているらしい」 という事だった。 そこは古い神社や墓地があるような山とはいえ、市街地に近いため 市営住宅やアパート、果ては私立校の校舎があるような環境なので そういう家があったとしても、言われなければ判らない。 「それらしい」ポイントを巡っても何も無かった事だし 怖いもの知らずな年頃でもあり、早速行ってみようという話になった。 学校を終えてその場所に着くと、丁度夕方の薄暗い時間。 住宅街から少し離れた、見晴らしの良い場所にその家はあったが 事件の事を知らなくても、そこは異様に感じられた。 暗いとか、おどろおどろしいとか、家が朽ちかけているとかいう訳ではない。 むしろ平屋だが広く、大きなガラス窓は日当たりが良く、住みやすそうで 広めの庭の芝が生え放題になっている以外に、荒れたという印象は無い。 異様なのはただ一つ、硬く閉じられた鉄門に 過剰なまでにぐるぐると巻きつけられた有刺鉄線だった。 壁の上にも有刺鉄線が張り巡らされ、まるで昔のドラマの刑務所のよう。 その門のこちら側から覗き込むと、家庭用の小さなブランコと 幼児用の自動車型の乗り物が、まるで住人がちょっと旅行に行っているだけの様に そっくりそのまま放置してあった。 263 :蕨 ◆grZCWCboXg :2008/08/23(土) 03:56:29 ID:/76O1pUN0 2/2 自分は怖気づいたが、肝の太い仲間の一人が 唯一有刺鉄線の無い生垣から中に進入を試み、ブランコの横をすり抜け入っていく。 そしてそろそろと玄関に近づき、無謀にも鍵穴から中を覗き込むと 一転して真っ青な顔をして戻ってきた。 何か出たのかと聞く自分達に、彼は青い顔でこう答えた。 「玄関に靴があったんだ。男物と女物と子供靴。多分住んでた人のがそのまま並んでた」 後に調べた所、やはり心中したのは両親と幼い子供で 今あの家は親戚が管理しているらしい。 家を壊すのもお金がかかるし、事件が事件だけに買い手もつかない為 進入禁止にだけして、そのままにしてあるのだろう。 あんな明るい家に住んでいた一家が何故自殺したのかは判らないし きちんと祀られているのか居ないのかも判らない。 霊を見た訳でも、変な音がした訳でも、死体を見たわけでも無い。 だが、未だにたまにあの時の光景を思い出す事がある。 朽ちるか、壊されるかするまで、あの家の日常は あそこに写真のように切り取られたまま、あそこに在り続けるのだろうか。 引っ越してしまった今、あの家がどうなったのか確認する術は無い。 【完】

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