第六十九話

229 :枯野 ◆BxZntdZHxQ :2008/08/23(土) 02:56:15 ID:4zKYlt9k0
「神隠し」

オタ友の松岡は京都の出身で、時々不思議な話を聞かせてくれる。
古い家の中の奇妙な現象、今でも晴明の逸話よろしく呪物が埋まっている場所、
深泥池の裏側に廻りこもうとすると、いつも雨が降り出して行かれない…、
ぱっと書き出してみても、そんなエピソードが思い出される。

そんな松岡がまだ小さかった頃、少し怖い事があったと言う。
真夏の夕方、一人川べりで遊んでいた松岡の所に、白っぽい着物の女性がやって来た。
女は白くてのっぺりした顔で、目が狐のように釣り上がっていた。
松岡は女に手を引かれて、バス通りへ歩いて行ったと言う。
通りへ出ると、松岡の良く知らない方角へと、女は歩を進める。
バス停より遠くへ行ってはいけないと言い聞かされていた松岡は、
急に怖くなって、その女の手を振り払って逃げたそうだ。

家に帰り着いて暫くは、女が追って来るような気がしてとても怖かった。
しかしやはり子供なので、一晩寝れば、怖かったことなどすっかり忘れてしまっていた。

だが実はその日、近所では松岡と同じ年頃の女の子が行方不明になっていた。

松岡が白い女に連れて行かれそうになってから3日後、
いなくなっていた女の子が見つかった。
少女は神社の境内、それも3日間、何度も探された場所にいた。

大きな石灯籠の、灯りを点すその空間に。
ぴったりと嵌め込まれた女の子は泣きもせず、ただぼんやりとそこにいたそうだ。

それだけ話した後、女と事件の関係は分からないが、もしも逃げ帰らなかったら、
そこにいたのは自分だったかもねぇ、と松岡は困ったような顔をした。

【完】

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最終更新:2008年08月29日 15:17