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唯「さようなら」 ID:+6KdXjUF0 その4 - (2009/08/11 (火) 02:48:36) のソース

・これは、唯「さようなら」というスレに投下されたSSです

男A「それでよく、あの連中を守ろうとか・・・・」 

ここで男はまた善からぬ思案をめぐらせる。 

男A(ここでこいつがなんで開き直ったのかはわからねぇが、 
  まぁきっと、裏であいつらと仲を取り直すきっかけでも見つけたんだろう・・ 
  でもこのままショーが始まってしまっては、何も面白くねぇからな・・・・そうだ!) 

男は先程途中まで話したことを急遽回収すると、別の話を始める。 

男A「それでよぉ・・・・。 あの女・・・律って言ったか? 
  そいつが起きた時、あそこにいる見回りの奴らに言ってたんだってよ。 
  『もう唯なんて、大嫌い、二度と顔も見たくないって・・・・・』ってな・・。」 

もちろんそれが真っ赤な嘘だと知っているのはこの場には男Aとあの男女しかいない。 

男Aは何気なく男女にアイコンタクトを送ると、男女は悪乗りするかのように頷いた。 

唯はあのとき、割とすぐ気が戻ったらしく、 
おびえる男女を横目に一番最初に音楽準備室を去っていた。 

もちろん、男女が音楽準備室を出たのが、律が目覚めるずいぶん前だということを唯は知らない。

666 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/10(月) 11:44:16.67 ID:/2NUkOWh0
唯「・・・・・・!」 

唯は驚きを隠せずにいた。 

せっかく自分が素直になって、もう一度・・・と思ったのに、 
皮肉にもそれがすれ違うように立場が逆転していたなんて・・・・ 

確かに唯は素直になれたのは事実だったが、それは勝手に自分の中で 
決めただけであって、現実世界における律たちの立ち居地は変わってはいなかった。 

そして唯は、この今の律たちの気持ちというのを 
自信に満ち溢れながらも、自分に応えてくれるか少し懸念してたのだった。 

再び闇に堕ち始める唯に男は追い討ちをかけるように言った。 

男A「せっかくうまくいくと思った仲間にまた裏切られちゃったなぁ・・・・。 
  ならお前が、おれらに預けているアレはなおさら大事にしなくちゃいけないよなぁ・・・」 

男Aは嫌みったらしくそう言うと、唯の頭に手を置く。

670 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/10(月) 11:50:22.93 ID:/2NUkOWh0
この男が言うとおり、現在に裏切られてしまった今、 
戻ることのできる過去を象徴するアレは尚更大事にしなくてはいけない。 

揺るぐ今よりも、安定していた過去のほうがいい・・・・ 

唯の心はまたすっかり悪循環に戻っていた。 

すっかり気を落とし、愕然とする唯は、 

「これから来る澪たちに最高に冷たく接しろ」 

という男の命令に「はい」と答えるしかなかった。 


こうして役者をそろえたショーは始まりを迎えようとしていた。

676 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/10(月) 11:55:27.04 ID:/2NUkOWh0
律「ん・・・・ん・・ん」 

律はいつかのように魘されながら、意識を取り戻した。 

だがそこはいつかの梓の家のように居心地の良い 
ベッドの上では決してなく、冷たく薄汚いどこかの部屋だった。 

後ろは窓になっているようだった。 

周りを見てみると、 
そこは前にギー太を探しに来たときに一度間違えて入ってしまった音楽室だった。 

周りは大勢の大学生の男たちに囲まれていた。

683 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/10(月) 12:05:04.73 ID:/2NUkOWh0
そしてもう一方を見渡すと、澪と梓がいて、意識はあるようだった。 

ただ、紬だけは俯いていて律のいる場所からは確認できなかった。 

手足は縛られてはいなかったものの、下手に動くと何をされるか 
わからない状況の中で律は紬の無事を確認しに行く余裕は無かった。 

すると、奥から一人の男が出てきた。 

律 ・・・・・! 

その男は唯と会ったときに、中心となって唯に絡んでいた男Aだと律は気づいた。 
そんな律の姿も確認しながら、男Aが説明するように言う。 

男A「え~今から、俺たちはみなさんをボロボロになるまで、あらゆる術を使って痛みつけます。 
  でも実はコレ、俺たちの意思じゃなくて、ある人に頼まれて仕方なくやるんです・・・。」 

男がそう言うと、周りを囲む男の中から――――唯が現れた。

682 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/10(月) 12:03:30.10 ID:/2NUkOWh0
! 

四人は酷く驚いた顔を見せた。 

男はその四人の顔を見て、自分がショーの前に唯を騙しておいて正解だったと思う。 

唯はスタスタと歩くと、男Aの隣に並ぶように律たちの前に立った。 

男A「みんなも知ってると思うけど、平沢唯ちゃん。 
  唯ちゃんがどうしてもって言うから、仕方なく引き受けたんだよねぇ・・・」 

するとそれまで大人しくしていた梓が叫ぶ。 

梓「そんな・・・唯先輩! 信じてたのに」グスン 

唯 ・・・・! 

唯の心は一瞬揺らぐ。 

どうして? 嫌いだったんじゃなかったの? 

男はそんな唯に苛立ちを感じると、唯の肩を軽くどつき、 
耳元で洗脳するかのように囁く。 

男A「それは嘘だ・・・おまえのことはみんな大嫌いなんだ・・・」ボソリ 

昔から人を騙すことに手馴れていた男Aにとっては 
人間不信状態に陥った唯を騙すことなどまるで容易かった。

687 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/10(月) 12:09:31.78 ID:/2NUkOWh0
唯はすっかりそれを信じきってしまった。 

そうだ・・・みんな私のことが大嫌いなんだ・・・ 

唯「私、みんなのこと大嫌いだから、この人にお願いしたの・・・」 

唯が四人に向かって、言い捨てる。 

そうだ、これ以上この人たちに関わっても 
自分が愛し続けても、それは報われないだけ・・・ 

ならいっそ、関わりをもたないほうがいいんだ。

694 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/10(月) 12:15:23.97 ID:/2NUkOWh0
憮然とする唯に、梓が言う。 

梓「そんな! それもまたいつか会ったときのように嘘ですよね!? 
  ねえ、唯先輩!?」 

梓が情的になると、唯に尋ねた。 

唯「違うよあずにゃん。 
  確かにあのときのは嘘だったけれど、今のは自分の意思だよ。」 

唯は冷たく言い放した。 

確かに今、こうした発言をしているのは、 
今から逃げたいという自分に最も忠実な行動だった。

696 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/10(月) 12:20:34.03 ID:/2NUkOWh0
澪「本当なのか・・・・唯? 
  なぁ唯、私たちのことまだやっぱり恨んでいるのか?」 

澪は寂しそうにたずねる。 

唯「・・・・・?」 

唯の頭は今までに無いほど混乱していた。 

今の澪の質問がもしも自分が相手を嫌いだったら絶対にしえない 
ものだったからだった。 

なら、どうして・・・・ 

いや、でもりっちゃんはああいってたんだ。 
きっと何か裏があるに違いない。 

唯の頭は律に復讐をした音楽準備室でのように、 
割れるほどに痛み、悲鳴をあげていた・・・。 

唯(この場から離れないと頭壊れちゃう・・・・!) 

唯はそう思うと律たちに背を向けて、音楽室の 
外へ出ようとかけていこうとした。

697 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/10(月) 12:24:19.88 ID:/2NUkOWh0
頭が割れそうな唯。 
そしてそれに酷く落胆する澪たち。 

ショーに最高の準備ができたと男は思う。 

男A「じゃあ、そろそろいいかな・・・ 
  お別れも済んだみたいだし・・・・^^」 

男が水を差すように話に口をはさむ。 

じりじりと寄ってくる男たちを律たちはただ見ていることしか 
できなかった。 

そして男Aが右手で何か合図を送ると、周りの男たちは 
一斉に律たちに襲い掛かった。 

702 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/10(月) 12:27:26.65 ID:/2NUkOWh0
だが、そんな中で律はこれもまた唯への償いになるのならば 
それでいいと思っていた。 

二年かけてじっくり痛んだ唯の心の傷を少しでも 
これによって癒せるのであれば、それは安いものだった。 

そしてそれは他の三人も同じであろう。 

律「・・・・っ!」 

律は震えながらぎゅっと目をつぶり、歯を食いしばった。 


…唯・・・・ごめんなっ 

705 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/10(月) 12:33:09.53 ID:/2NUkOWh0
ジャラララジャジャラ♪ 


律が覚悟を決めたそのとき、不意に室内に携帯の着信音 
のようなものが響く。 

男たちはそれに驚いて、思わず手をとめる。 

そして部屋中のほとんどの人間はこの 
曲が何かまるでわからなかったが、ただその中の五人だけはすぐにわかった。 

ジャララララッジャラ♪ 

聞き覚えのあるリフ。 

君を見てるといつもハート ドキドキ♪ 

甘々でダサダサな歌詞。 

この曲は唯達HTTが初めて作った曲――――ふわふわ時間 

712 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/10(月) 12:38:34.80 ID:/2NUkOWh0
するとこの場を去ろうとしてた唯が慌ててポケットから携帯を 
取り出し、急いで音を止めた。 

どうやら唯の携帯だったらしい。 

音楽が止まった音楽室は一瞬静かになる。 

男A「なにしてんだよ? おい!?」 

男Aは邪魔されたことにひどく腹を立てる。 

唯 ビクッ! 

唯「すいません・・・・」 

そしてそんなことをしておきながらなおもまだ憮然と 
してその場を去ろうとする唯。 

すると、突然律が立ち上がる。 

716 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/10(月) 12:44:19.13 ID:/2NUkOWh0
律「おい唯! なんで・・中途半端なことするんだよ! 
  私たちだってお前への償いになればと思って覚悟・・・ 
  決めたのに・・・・そんな後味の悪いことされたら 
  自分が唯の事嫌いだって・・・自分を騙さないと 
  折り合い・・・つかないじゃないかッ!」グスン 

律が涙をボロボロと流しながら、唯に訴えかけた。 

しかし、唯はそれを聞いてなお後ろを向いたり動じる様子も 
なく、その場を去ろうとした。 一言かろうじて聞き取れる 
くらいの音量でこうこぼして。 

唯「忘れられるわけ・・・ないじゃん。 
  だって私りっちゃんたちのこと・・・・本当は大好きだもん・・・・」 

その声には震えと吐息が混ざっていた。

718 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/10(月) 12:49:44.67 ID:/2NUkOWh0
澪「・・・・え?」 

男Aは自分の嘘がばれてしまうのではないかと心配し始めた。 
そして、男Aは強引に話を戻す。 

男A「唯、てめぇ・・・奴隷のくせによ・・もうしゃべんな!」ギロリ 

男は唯を鋭い眼光で睨み付けた。 

男A「そして、君たちのこともボコボコにしなきゃねぇ・・」 

男Aがニヤニヤしながら再び合図を送る。 

すると、向かってくる男たちに澪が毅然とした様子で尋ねた。 

澪「あの! 最後にひとつ、どうして唯はサークルを 
  やめることをしないんですか? 
  私たちはボコボコにされても構わないから、コレだけは 
  教えてください!」 



735 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/10(月) 13:02:10.96 ID:/2NUkOWh0
澪の質問に男Aは思わず少し考えた。 

男A(唯の大切なアレを見せれば、あいつらもっと苦しむかも・・・)ニヤリ 

男A「いいだろう、ちょっと待ってな・・・」 

男はそういうと笑みを浮かべながら、 
部屋の奥から何やら薄汚いダンボールを持ち出すと、 
澪たちの目の前に置いた。 

男A「見てみろよ」ニヤリ 

初めは四人とも気が引けるようだったが、唐突に律が 
その箱を開いた。 

律・・・・! 

律は驚くと、それをみんなにも見えるように箱をひっくり返した。

740 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/10(月) 13:06:18.42 ID:/2NUkOWh0
ガラガラガラ 

中に入っていたものが勢いよく地面に落ちる・・・。 

それを見たほかの三人もまた驚く。 

それは一見ガラクタにしか見えなかったが、 
よく見るとそれは―――――――――軽音部の思い出の品々だった。 

軽音部で何気なく紬のお菓子の箱でつくったロボット。。 

練習で使ったけれど、読めなかったたくさんの楽譜。 

練習で先端が削れて使えなくなったピック。 

何十枚何百枚と撮ったくだらない写真やミスショット。 

そして、そのほかにもガラクタとしか思えないものが次々出てくる。 

澪「そんな・・・・・なんで・・?」

743 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/10(月) 13:12:25.62 ID:/2NUkOWh0
例えば、それが楽器だったり学園祭の衣装だったのなら 
まだ話はわかるのかもしれない。 

しかし、それらはあまりにちっぽけなものだった。 

しかし、澪たちにとってはこれが奴隷のような扱いを受け続けて 
なお守らなければいけないほどのものだとは思えなかった。 

澪「唯っ・・・・・なんでだよ!」グスン 

こんなガラクタ当然のものをずっと守り続ける唯の切ない 
心境を思うと、澪の目には涙が溜まる。

747 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/10(月) 13:22:02.46 ID:/2NUkOWh0
するとさっきまでそこで震えていた唯が話しだした。 

唯「だって・・・・だって私は、弱い人間だから・・・ 
 こうやって常に安定した過去を自分の近くに置いておかないと 
 おかしくなりそうになるの・・・・。 
 だって、今の澪ちゃんたちは・・・・・私のことどんな風に 
 思ってるかなんてわからないでしょ?」 

唯が答える中で、男はショーの邪魔になるガラクタを 
ダンボールの中に戻す。 

ガバッ! 

すると、律はそのダンボールをとっさに男の手から取り上げると、 
後ろの窓から一気に外へ投げ出す。 


ガラガラガラガシャーン!! 

律が投げ出したガラクタたちは痛々しい音と 
ともに、地面へ落ちた。 

無残な姿になったことは容易に想像できた。 

律のとった衝撃的な行動に男たちはもちろん 
唯や澪たちでさえあっけにとられていた。

753 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/10(月) 13:28:39.23 ID:/2NUkOWh0
唯「・・・・・な、なん・」 

唯が話し出そうとすると、それを遮って律が胸を張って言う。 

律「なぁ唯、思い出なんてもういいんだ! 
  また私たちと一緒につくろうぜっ! 
  そして今私たちは唯のことが・・・・やっぱり大好きだっ♪」ニコッ 

律の自信に満ち溢れた表情はもう疑うことはできなかった。 

そして、唯はハッとすると男によって隠されてしまった 
本当の気持ちを思い出す。 


私はりっちゃんたちとずっと一緒にいたい! 

唯の目にはもうくすみがなく、すっかり晴れ渡り、 
いつかのように自信を取り戻していた。

律にいきなり箱を取られたことをあっけに取られていた男だったが、 
今は自分の計画が潰されかかっていることに危機感とともに、 
激しい怒りを覚えていた。 

俺の計画が奴隷なんかに狂わされてたまるかぁぁぁ!!! 

男A「ふざけんなぁぁ! やっちまえ!」 

男が怒りに身を任せるかのように叫び散らすと、周りの 
男たちが再び唯を含むHTTのメンバーに襲いかかろうとした。 

梓(もうさすがにだめだ・・・・・・) 

梓があきらめたところで、不意に音楽室のドアが開く。 

ガチャ! 

激しい音を立てたドアの向こうから一人の男が駆け込んできた。

768 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/10(月) 13:36:15.32 ID:/2NUkOWh0
?「大丈夫ですか!!」 

突然に入ってきた男―――――斉藤は心配そうに叫ぶ。 

予想もしない部外者の乱入に、場はまたしても整然とする。 

澪「なんで・・・・・」 

澪は入ってきた斉藤を見ると、驚きを隠せなかった。 

あの人・・・どうしてここに・・・ 

澪が不思議に思って辺りを見回すと、さっきまで気絶していたはずの紬が 
こっちにアイコンタクトを送った。 

紬「・・・・・・」パチッ 

どうやら紬はずっと気絶していたフリをして助けを求めていたらしい。 

澪(流石ムギだ・・・・) 

779 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/10(月) 13:44:38.54 ID:/2NUkOWh0
澪がそんなことを思っていると、斉藤が野太く第二声をあげた。 

斉藤「行きなさい!」 

斉藤がそう言って合図をすると、斉藤の背後から 
黒いスーツで身をかためた男たちが何十人と現れた。 

これは律が後で紬から聞いた話だが、彼らはどうやら 
琴吹家専属のSPで、今日来たのは全体の10分の1にも 
満たない人数らしい。 

男たちは律たちを襲っていた男たちを捕まえにかかった。 

男A「くそっ! なんなんだお前らっ!」 

そして、抵抗する男たちを斉藤が連れてきた男たちは絶望的 
な強さであっという間に倒し、捕らえてしまった。 

目の前の光景があまりにも速く展開したため、 
律たちはそれまでの恐怖を忘れ、ただ呆然としてしまう。 

男A「くそっ・・・・離せっ!」 

男Aもまたスーツの男に捕らえられる。

783 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/10(月) 13:51:10.10 ID:/2NUkOWh0
男Aもまたスーツの男に捕らえられる。 

するとそこにさっきまで背中を向けていた唯が駆け寄ってきた。 

男A「なぁ、唯ちゃん。 こいつらに言ってやってくれよ! 
  俺は何もしていないって・・・はぁ・・はぁ」 

唯の腕に掴みかかると、すがるように必死に助けを求める男。 
しかし唯がまるで反応しないと男は加えて言う。 

男A「なぁ・・・俺ら同じサークルの・・・仲間だろう?」 

仲間・・・・? 

すると唯は掴まれていた男の手を腕から払い、 
逆に男の腕を強く掴むと、男を睨み付けながらこう言い放った。 


唯「ふざけんなっ! お前なんか死んでもいい!」ギロリ 

ゴツッ!! 

唯はこれまでの全ての思いをこめて、全力で男の顔にこぶしをぶつけた。 

自分を奴隷として使ってきた二年間・・・ 

澪たちと自分に誤解を招いたのもコイツのせいだった・・・・ 

絶対に許さない・・・・・っ!!

795 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/10(月) 14:05:23.28 ID:/2NUkOWh0
唯に殴られると、男はスーツの男の腕をすりぬけて、床に伏した。 

どうやらスーツの男に攻撃されたせいか自由に 
動けないらしい。 

男A「うぅ・・・やめてくれ・・・」 

男Aは唯がその気になれば平気な顔で硫酸をばら撒く 
ことをふと思い出す。 

その瞬間、男の全身に悪寒が走る。 

すると唯は、おびえながら床に伏す男に寄って行った。 

男A ビクッ! 

唯はしゃがみこむと床に伏せる男の前髪をつかむと、 
強引に顔を上げさせた。 

その男の顔は今までの態度とは別人のように、恐怖でゆがんでいた。 

唯「これで私の気持ち・・・・少しはわかった? 
  もう二度と・・・・死んでも、私に関わらないでっ!」ギロリ 

べチャ! 

唯は毅然とした様子で吐き捨てると、男の顔を 
冷たい地面へとたたきつけた。 

803 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/10(月) 14:12:19.86 ID:/2NUkOWh0
すると唯は何事も無かったかのように、男に背を向けて、 
男の元をさっさと離れた。 

スーツの男もおそらく唯と男Aの間に何があったのかは知らないが、 
手を出すことも無く、黙ってそれを見届けた。  

男A「くそっ! お前・・・奴隷のくせにッ・・覚えとけよッ!!」 

男は定番の台詞を吐くと顔を抑えながら、 
引きずられるようにスーツの男に連行されていった。 

どうやら、全体を指示する斉藤いわく警察に突き出すという。 

律たちは無事に保護されて、お互い体を寄せ合って 
安心感から泣き出してしまっていた。 

でも・・・よかった・・りっちゃんたちが無傷で・・・ 

そして、斉藤たちが警察に連行すべく、忌まわしき 
男たちを音楽室の外へ運び出していた。 

やっと自分はあいつらから解放されたんだ・・・・・ 


唯はあらゆる緊張が一気に解けると、ふにゃりと体勢を崩し、 
そのまま柱にもたれ掛ると安心感からそのまま眠ってしまった。

807 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/10(月) 14:19:34.18 ID:/2NUkOWh0
唯が音楽室で目を覚ましたのはその日の夕方だった。 

唯「う・・・・・うん・・?」 

唯は眠気で重たいまぶたを何とか開くと、辺りを見回す。 

だが、さっきまで騒然としていた音楽室には人一人いなくなっていた。 
いつかの日のように、唯はポツリと一人、音楽室に座り込んでいた。 

かわりに外の夕日が音楽室に寂しげに注いでいる。 

そして、唯の隣にはギー太だけがポツリと立てかけてある。 

唯はいつかの音楽室を思い出していた。 

あの日、自分を捨てた日・・・・ 
あの日もこうやってここにギー太と二人っきりだった・・・ 
そしてあの日も今日みたく、夕日がきれいな日だった。 

唯はしばらくただ呆然としていたが、 
しばらくすると時間を確認するために携帯を開いた。 

唯「・・・・あれ?」 

すると、誰かから新着でメールが入っていた。 

アドレスを確認すると、それは登録されていない 
人物からのメールだった。

812 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/10(月) 14:26:13.91 ID:/2NUkOWh0
憂以外からメールをもらうなんてどれくらいぶりだろうか、 
そんなことを思いながらメールを開く。 

メールの内容はこうだった。 

『今から桜高の音楽室へ来い   律』 

唯 ・・・・? 

ただそっけなくそう書かれたメールには唯は疑問をいだいた。 

何故今更律は自分を高校の音楽室へ招いたのか。 

唯はそんな疑問を抱くと、とりあえず顔を洗おうとトイレへと向かう。

818 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/10(月) 14:32:27.75 ID:/2NUkOWh0
バシャーン! 

トイレの洗面台で顔を洗い流すと、鏡にふと自分の顔が映った。 

唯はじっとそれを見つめる。 

それはあの自分を捨てた日の唯のように顔は痩せて 
目の下にはクマがある何ら変わらない唯の姿だった。 

だが一つ、大きく異なる点があった。 

それは目の輝きだった。 

唯の目はあの日のように決してくすんではおらず、 
光さえ差していた。 

唯(今なら、胸を張ってみんなに会える・・・・・!) 

唯はそう思うと、鏡を振り返り、音楽室にあるギー太を 
取りに帰ると、急いで桜高へと向かった。

831 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/10(月) 14:45:26.40 ID:/2NUkOWh0
唯 はぁ・・・・はぁ・・・ 

もう何度目になるか分からないこの道をひたすら全力で唯は走っていた。 

ここでの思い出はたくさんある・・・・。 

希望で満ち溢れながら、何をすればいいのかわからなかった入学式・・・ 

自分の場所をようやく見つけられた二年生の文化祭・・・ 

あの日不安に押しつぶされそうになり楽器屋で律から逃げ出した日・・・ 

・・・・・ 

ここを走るときはいつでもいい思い出ばかりではなかった。 

でも、ここを走るときはいずれにせよ自分が変わるときだった。 


そして今回もまた・・・・・自分を変える! 

唯はそんなことを思いながらあの道を全力で走る。 
服は乱れていたが、そんなことまるで気にしなかった。 

夕日は唯を後押しするかのように、背中を優しく、暖かく照らした。

840 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/10(月) 14:51:55.89 ID:/2NUkOWh0
桜高に着いたのはそれから約十分後だった。 

懐かしい桜高の校舎・・・。 

校舎の片面は夕日がちょうどよく当たっていて、 
橙色に映えていて、とてもきれいだった。 

あの自分を捨てた日以来ここに近づくことはもうなかった。 

いや、無意識のうちに近づかなかった、・・・近づけなかった。 

だって、ここに来ると自分が今から逃げていることにいつも 
向き合わさせられそうだったから。 

この場所がすごく怖かった・・・・・。 

唯は少し震えると、深く息を吐いた。 

ふぅーッ・・・・ 

そうして覚悟を決めた唯は校内へと足を踏み入れた。

853 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/10(月) 14:57:49.57 ID:/2NUkOWh0
校内に入ると中はまるで人の気配がしなかった。 

静まり返る校内に唯は不安を感じ始めた。 

校内のいたるところに懐かしさを感じていたかったが、 
不安がそれらをかき消してしまっていた。 

本当に自分はここに来てよかったのだろうか? 

あのそっけない文面は自分を騙していることを 
あらわしていたのだろうか? 

唯はまたも不安に陥る。 

確かに唯がこれまで律にしたことを考えると、 
ありえなくも無い話ではあった。 

今の唯にはそんな気は微塵も無いが、 
かつて律に硫酸を浴びせて気持ちを満たそうとしていた自分がいた。 

『さぁ・・・りっちゃん・・その苦しむ顔もっと見せてよ!・・・』 

今思うと自分のことなのにゾクッと寒気さえ覚える。 

だから律たちが例え鉄パイプやその他諸々の凶器を 
持って、部室で待っていても全くおかしくない話だった。 

・・・・・・ 

不安に陥る唯の背中を、もう半分まで迫った夜が怪しく照らす。

854 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/10(月) 14:58:44.20 ID:/2NUkOWh0
唯はウサギと亀の置物が在る階段を上ると、 
音楽室の前に立ち尽くしていた。 

音楽室へ着くまでに唯の気持ちはすっかり不安に支配されていた。 

ここ何年かの経験で唯には物事を深く考えすぎて、 
心配しすぎる癖がすっかり身にしみこんでいた。 

でも、どうしてだかここに来なくてはいけない気はしていた。 

唯はまた深く息を吐いて覚悟を決めると、音楽室のドアを開いた。 

ガチャ 

866 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/10(月) 15:13:55.45 ID:/2NUkOWh0
ブワッ! 

音楽室を開けた唯を、突然それまでとは明らかに性質が違う 
不思議な空気が突然包み込んだ。 

この懐かしくて甘い匂い―――――紅茶の匂いだ・・・・ 

唯は予想と反する出来事に混乱する。 


中ではHTTのメンバーがお茶を囲んでいた。 
顧問のさわ子までいる。 

私がずっと望んでいた日常・・・・・・ 

唯は呆然とし、その場から動くことができなくなった。 

またこれがいつか見た軽音部の幻ではないかと思い、目をこする。 

でも・・・・もう幻じゃない!

881 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/10(月) 15:30:04.12 ID:/2NUkOWh0
すると、紬が唯にやさしく声をかける。 

紬「さぁ、紅茶冷めないうちに唯ちゃんも座って。」 

ムギちゃん。 

いつものように紬が唯にお菓子とお茶を勧めた。 

いつも優しくてぽわぽわしているムギちゃん。 
私やりっちゃんがふざけていても、横で笑っていてくれた・・・。 

しかし、呆然とする唯にその声はよく届いていなかった。 

すると、今度は律が茶化すように声をかける。 

律「おい唯! 今日はチーズケーキだぞぉ~ 
  あっ! いらないなら私がもらってあげようか?」ニカッ 

りっちゃん。 

いつものように律がボォーッとしてる唯を茶化す。 

いつも元気で明るいりっちゃん。 
私がりっちゃんに悪乗りして、よく二人でふざけたっけ・・・。

882 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/10(月) 15:30:52.40 ID:/2NUkOWh0
すると、調子に乗る律に澪が鉄建制裁を下す。 

澪「調子に乗りすぎだッ!」 

ゴツッ! 

律「痛ぇ!」 

澪ちゃん。 

いつもクールだけど本当は恥ずかしがり屋の澪ちゃん。 
私やりっちゃんがふざけがすぎると、よく注意してくれたっけ・・・。 

すると、ぐだぐだになる先輩を横目に梓が立ち上がり、 
唯のもとへ寄ってくると手を引いた。 

梓「先輩っ! そこに立ってないで早く座りましょうよ♪」 

いつも真面目だけど、ちいさくてかわいいあずにゃん。 
後輩なのにいつも積極的に練習をしよう、と呼びかけていた・・・。 

梓に手を引かれ、少しよろつきながら唯は梓に身をまかせる。 
そうして、唯はようやく席に着いた。

887 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/10(月) 15:32:33.81 ID:/2NUkOWh0
席についてなお気がいまいち戻らない唯に再び紬が 
今度は軽く肩を叩きながら言う。 

紬「・・・はい、これ唯ちゃんの分。」 

紬がケーキと紅茶を唯の前のテーブルに並べた。 

肩を叩かれた唯はハッとすると、目の前の光景を 
改めて確認した。 

そこには、律や澪、梓、紬の四人が楽しそうに笑い合っている姿があった。 

ずっとずっと探し続けてきた答えが―――― 

紬「・・・・・唯ちゃん?」 

前の景色に見入ってしまう唯に紬が心配そうに声をかける。 

すると、それを見ていた唯の横に座っていた律が唯の前の 
テーブルをコンコンと叩きながら少し強めに唯に呼びかける。 

律「・・・・おいっ! 唯!」 

ハッ! 

またも唯は誰かによって気を取り戻させられる。

889 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/10(月) 15:33:37.03 ID:/2NUkOWh0
そして、唯はふと自分の下にあるお菓子と紅茶に目がいく。 


チーズケーキと紅茶・・・・ 

いつもお菓子と紅茶をみんなで囲んだ日々。 

唯「ふふっ・・・・」 

そんなことを思うと、思わず笑顔がこぼれた。 

小さく笑う唯に律が嬉しそうに言う。 

律「どうした? 食べないのか?」 

唯は律にすすめられると、静かに横に並べられたフォークを手に取ると、 
チーズケーキを一口大に切る。 

890 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/10(月) 15:34:21.91 ID:/2NUkOWh0
パクッ・・・・ 

唯が恐る恐るケーキを口に運ぶ。 

そのケーキはとても甘くて、本当に美味しかった。 

でも、なんだろう・・・・ 
この美味しさは味とかの次元ではないように思える・・・。 

唯は体中が熱くなるのを感じた。 

なんだろう、このこみ上げてくる感じは・・・・ 



ポタッ 



唯の目から――――――――涙が落ちる。 

その涙は紅茶のティーカップの中にきれいに落ちた。

894 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/10(月) 15:35:36.65 ID:/2NUkOWh0
唯の二年分の思いが溢れ出す。 


また一口 


ポタッ 


また一口 


ポタッ 

何口食べても、涙は止まることはなかった。 


律「・・・・うまいか?」 

律が包み込むように優しくたずねる。 

唯「・・・・おいしいよぉ・・・りっぢゃん・・・」グスン 

あの日からずっと一人で戦い続けたきた。 

もう泣かないって決めた日から、ずっとずっと一人だった。 
本当に苦しかった。 ずっと出口の無いトンネルを彷徨っているみたいで・・・。 

私・・・やっと・・・・・ここに帰って来れたんだ。

896 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/10(月) 15:36:44.49 ID:/2NUkOWh0
唯の今までの緊張の糸がプツリと切れた。 

唯の目からは大粒の涙が流れていた。 

そんな唯を一同は優しく見守る。 

唯は涙で顔をぐちゃぐちゃにしながらも、必死に話した。 

唯「わっ・・・私・・ずっと・・・ずっと辛かった・・・ 
  誰も助けてくれなくて・・・・、それで・・・それで・・」グスン 


ギュッ 

隣に座っていた律が唯を強く抱きしめる。 
いつか澪に自分がしてもらったかのように・・・・。 

律「もう・・・いいんだよ、唯・・ 
  お前は本当によく・・・・頑張ったよ・・」 

律は唯の耳元で優しく囁いた。 

律の肩は唯の涙でいっぱいだった。 

唯「うぅ・・・う、うあぁぁぁぁ~ん!!」グスン 

唯は律の肩の上で思いっきり泣く。 

まるでこの二年間の思いをぶつけるかのように。 
この退屈で、さびしくて、苦しくて、辛かった全てを吐き出すように。

902 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/10(月) 15:38:25.18 ID:/2NUkOWh0
唯の泣く声はそのあと何時間も止むことはなかった。 

みんなはそれをただずっと暖かく見守った。 



何時間か経つと、唯の涙はようやく引いていった。 

唯は場所を移して、部室の窓際に一人すわっていた。 
それでもまだ、立ち上がることはできなかった。 

すると不意に、 

律「なんだ唯? 何泣いてんだよ、あ! 澪にいじめられたか?」 

澪「私はそんなことしていない!」 

律「あ! 澪が怒ったぞ~。 逃げろ~!」 
   
紬「もう、りっちゃんったら・・・」 

梓「先輩! ライブも近いので練習しましょうよ!」 

 ―――――あの自分を捨てた日に見た、あの軽音部の幻・・・・ 

907 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/10(月) 15:40:30.67 ID:/2NUkOWh0
律「しょうがねぇなぁ、練習するか!     
  ほら、唯も泣いてないで練習しようぜ」 

律はあのときと同じようにまた優しく手を差し伸べる。 

唯はおそるおそる、涙を拭き続けた右手を律の方にのばす。 



ガチッ! 

 ――――――――今度はしっかり・・・掴めた! 

唯の右手はあの幻のように空回りすることなく、 
しっかりと律の右手に掴まる。 

まるであのころの自分を払拭するように。

912 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/10(月) 15:45:55.60 ID:/2NUkOWh0
そして唯は立ち上がる前に、律の右手に掴まりながら 
俯いて律にたずねる。 


唯「ねぇ・・りっちゃん・・・・私のこと、怒ってない?」 

すると律はキョンとした顔をする。 

律「・・・・なに言ってんだよ?  
  私は唯のこと・・・ずっと大好きだよッ♪」ニコッ 

律は満面の笑みを浮かべてそう言った。 

唯はそんな律の答えに、泣いてしまっては 
何も伝わらないと思い、 

唯 えへへっ 

―――――目にまだ涙を浮かべながら、満面の笑みで応えた。

918 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/10(月) 15:50:42.80 ID:/2NUkOWh0
律は唯を引っ張って立たせると、みんなが楽器を持って待っている 
ところへ行き、ドラムの準備を整えた。 

唯は急いでギー太を取り出すと、みんなが待つところへ急ぐ。 

唯が持ち場に着くと、しばしの沈黙が続く。 

・・・・・・ 

律「1、2!」 

特に何の曲を演奏するか決めたわけでもないのに、 
律が突然ドラムカウントを始める。 



・・・でももちろんみんな何の曲を演奏するかはわかっていた。 

曲目は―――――――ふわふわ時間

921 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/10(月) 15:51:41.36 ID:/2NUkOWh0
こうして四人の奏でる楽曲は夜の桜高に響き渡る。 

ジャーン! 

数分後、全身全霊を込めた演奏が終わり、決めていたかのように 
みんなが真ん中を向く。 

 ふふっ・・・ 

みんながそれぞれの顔を見て笑い出す。 

何がおかしいのかはわからなかったが、笑いがこみ上げてきた。 

すると律がドラムの椅子から立ち上がると張り切るように 
両手を掲げて言う。 

律「おっしゃー! このまま武道館に一直線だぁ!!」 

梓「・・・まずは練習ですよ!」 

澪「そうだぞ律! まだまだ道は長いぞ~」 

紬「ゆっくり私たちらしくいきましょう!」ニコッ 

こんな日常がずっと、ずっと続くといいな・・・ 

ずっと・・・ずっと・・ 

929 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/10(月) 15:55:25.57 ID:/2NUkOWh0
数ヵ月後、再び桜高音楽室。 

律「おぉ~い! 唯、みんな待ってるんだから早く!」 

唯「待ってよぉ~、りっちゃぁ~ん!」 

あの日以来、唯たちはバンドとして本格的に動き始めて、 
それぞれが大学に通いながら、今や月に一度ライブを行う程に発展していた。 

ちなみに、あの後唯が和と憂ともうまく和解したことは言うまでもない。 

そして数ヶ月に一度、さわ子先生の許可を得てこの音楽室を 
借りては、お菓子を囲みながら練習する日を設けていた。 

今日は練習の終わりに律が突然それぞれの楽器を持って 
みんなで写真を撮ろうと持ちかけてきたのだった。 

唯「なんか・・ギー太がケースから出なくってぇ~・・・」 

唯がギー太を出すのに苦戦していると、ふとギターケースの 
隙間から一枚の写真が落ちてきた。 

932 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/08/10(月) 15:56:33.42 ID:/2NUkOWh0
それは、退部した大学の軽音サークルで撮った一枚だった。 

その中の唯の目はどことなく悲しそうだった。 


・・・・・ビリッ 

唯は少しそれに目を落とすと静かに,写真を破り捨てた。 

唯「さようなら」 

唯が小さくこぼすと、また律が冗談交じりに怒る声がする。 

律「もう! 写真撮っちゃうからな!」 

唯「あぁ! 待ってよっ!」 

唯はギー太を素早く取り出すと、律たちの待つ場所へと走った。 

カシャ 


軽音部は今日も幸せです。 


              END