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908:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :07/11(土) 02:06:40.00 ID:Nv8CytobO 「しゃーっ!ふっふっふ…見える!私にも見えるぞ!奴の動きが!」 「まっまだです!絶対負けないです!」 カーン!といった小気味よい音が響く。 「無駄無駄無駄ぁ!梓!反応がよくてもリーチが足りてないぜー!」 「りっ律先輩だって私とそんなに変わらないじゃないですか!」 カツーンッ!ぶつかり合う乾いた音。 「私は背が低いだけでスタイルは標準だもんねー!」 「それとこれとはまったく関係ないです!」 カンカンとプラスチックの円盤が外壁に当たり軌道を変える。それに惑うことなく打ち返す律。 「どちらにしろ…これで終わらせるぜ!」 盤上から噴き出す空気が2人の熱戦を包み込んでいた。 さて、律と梓が何をしているかお分かりだろうか。彼女たちは絶賛エアホッケー対決の真っ最中である。 そもそも、どうしてこんなことになったのかを説明するには半時ほど遡る必要がある。 913:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :07/11(土) 02:15:30.76 ID:Nv8CytobO 土曜の午前中練習を終えた軽音部はそのまま解散の運びとなった。 妹の憂と外食予定の唯は早々に帰宅、澪はムギと美味しいケーキ屋さん巡り。 律も誘われたが部活の雑務が溜まっていたためパス。これでも部長なのでやることはやっている。ただ、やり忘れる頻度は高いが。 一方梓は目下ダイエット中の身であるため先輩達の文字通り甘い誘惑を断ち切った。 921:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :07/11(土) 02:22:37.69 ID:Nv8CytobO 必然的に2人だけとなった部室から美しい旋律が奏でられる。家は家で誘惑が多いため、梓は部室でギターの自主練習に励んでいた。 そして小一時間ほどで律の雑務も片付き彼女たちは帰宅の途へ…向かうはずであった。 「あ~あ、澪たちのケーキ屋巡り行きたかったな~」 律の言葉に“そうですね”と同調する梓。 「腹も減ったしなぁ…梓ー、モス行こうぜー。」 「遠慮しておきます。しばらくファーストフードは厳禁です。」 「んだよ~増えたってたかだかn…」 「公衆の面前で何言おうとしてるんですかーっ!」 932:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :07/11(土) 02:35:19.06 ID:Nv8CytobO 「あっ。ちょうど良いところにボーリング場が。」 律が駅前のボーリング場を指差す。 「ちょうどって…まさか2人でやるんですか?」 梓はあからさまに嫌そうな顔をしているが、律はお構いなしに 「まあまあ!意外とボーリングもちゃんとやれば疲れて良い運動になるぜー!」 「先輩、ただ単に評判のホットドッグが食べたいだけですよね…?」 図星であった。ここは地区最大級のボーリング場であり飲食店も完備されている地元じゃちょっとした有名所なのだ。 中でもホットドッグは各種トッピングもある本格派で好評を博している。 941:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :07/11(土) 02:43:39.15 ID:Nv8CytobO 以前部活メンバーで遊びに来た際も、律はホットドッグを食べていた。 「バレた?でもボーリングがしたいのも事実だぞ?」 「…わかりましたよ…。」 逃走を諦めた梓はしぶしぶ同意した。 「一時間待ち?」 さすが土曜の昼下がりである。娯楽を求めて人々がボーリング場を賑わせていた。 「残念でしたね!」 そう言う梓は全然残念がっているようにはみえない。 「ちくしょお~今日が土曜だって忘れてたぜ~」 ちゃっかりホットドッグは買った律が、ケチャップを口元に残しながらごちた。 「さあ、帰りましょう!」 律は梓の安堵した表情をみると何かに負けた気分になった。 945:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :07/11(土) 02:49:26.26 ID:Nv8CytobO 「くそう…他に…何かないか…あ。」 アミューズメント施設にはつきものであり、とりわけボーリング場には何故か常備されているモノが律の視線の先に鎮座している。 「よしっ!代わりにエアホッケーをやろう!あれならすぐ終わるし安上がりだし!」 またか…なんて顔に書いてありそうな表情を律に向ける梓であったが、これぐらいならいいか…と思ってしまった。 「いいですよ。」 軽く答える梓。エアホッケーはレクリエーション…軽く遊んで楽しかったで終わる数分間だ…そう考えた梓を誰が責められよう。 鞄を脇に置きスマッシャーと呼ばれる(実際呼んでる者はいないが)パックを打ち込むエアホッケー唯一の道具を握りしめる。 そして静かにゲームは始まった。 947:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :07/11(土) 02:57:53.66 ID:Nv8CytobO お互いさして力を入れることなくパックを叩く。梓は壁に反射させ、律は直接ゴールめがけてアタックを繰り返した。 何気ない時間、はたから見れば部活帰りの高校生が親睦を深めているようにしか見えなかっただろうし実際そうであった。 しかし、それはこんな律の言葉からはじまった。 「結局2‐2かぁ。まあいいや、じゃーもっかいやろーぜー!」 するする滑るパックが楽しくつい夢中になっていた梓は 「はい!意外と楽しいです!」 なんて呑気に答えていた。律の変化に気付いたのはその10秒後である。 「んじゃ、準備運動はこれくらいにしてマジでやるか!梓ー!負けたら罰ゲームだからなー」 「へ?」 刹那、矢のようなシュートが梓のゴールに突き刺さった。 「やりー!先制点ゲットー!」 あまりに突然の出来事に付いていけず呆ける梓。 954:以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします :07/11(土) 03:06:42.94 ID:Nv8CytobO 「梓ー?時間制限あるんだから早くしないと終わるぞー。まあやればやるだけ私との点差がひらく一方かもだけど~」 ここにきてようやく状況を飲み込めた梓は 「まっまってください!私は勝負するなんて…」 「んー?梓逃げるのかー?まあ私に負けちゃうのは恥ずかしいもんなぁ~」 「するです!やってやるです!律先輩なんか返り討ちにしてやります!」 「じゃあ早く打ってくれな~~決める自信があれば!」 梓をノせることで律に適う者はいない。そして何より負けず嫌いな梓が勝負を挑まれ逃げるはずなどなかった。 梓はパックを外壁に反射させどうにかゴールにねじ込もうとした。しかしながらことごとく律にそれを阻まれ、弾丸より速いんじゃないかと錯覚する律のレーザービーム攻撃によりゴールを奪われ続けた。 そして冒頭の一幕に至るのであった。 7 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/11(土) 03:27:43.02 ID:Nv8CytobO 「私だってそれなりに速いのに…どうして…」 未だ律の自殺点による1点のみの梓。 「残念ながらあなたの技は全て見切った…諦めろ。」 どこぞの漫画に出てきた風なキャラ声で喋るマッチポイントの律。 「まっまだ諦めません!ここから一気に!」 運動もそれなりにこなす梓は律ほどではないにしろ素早いスマッシャー捌きでパックを打ち込むが、やはりゴールは割れない。 (まずい…そろそろ律先輩のスマッシュ攻撃がきそう…よく考えれば何か…あ!そうだ!) 梓の閃きに合わせたかのようにアタックされたパックが目にも止まらぬ速さでゴールに…入らなかった。 10 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/11(土) 03:41:34.39 ID:Nv8CytobO 「なっにー!」 驚く律をあざ笑うかのように勢いよく跳ね返されたパックはゴールに吸い込まれた。 その後も梓は次々と律のシューティングスターをカウンターで弾き返した。 「わかっちゃいました。先輩は必ず私の位置を確認して打つコースを決めているんです。だからもう入りませんよ!」 梓は律の正確すぎる狙いを逆手に取っていたのである。 「さああと二点差!罰ゲームは今から考えておきますからねっ!」 さっきまでとは打って変わって自信に満ちあふれたその表情はいつもの梓であった。 カンカン!激しい打ち合いが続く。 (…!きた!あれは右に打ち込む!) 予想通り右へ打ち込まれたパックを梓はカウンターでがら空きの左サイドへ打ち込んだ。 (決まった!) 一瞬の油断が勝負においての命取りであった。 ガシャン! パックはゴールに吸い込まれ試合終了のブザーが響いた。 12 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/11(土) 03:49:48.22 ID:Nv8CytobO 「…あれ?…なんで?」 今さっき打ち込んだはずのパックが自陣ゴールに埋もれている事実を理解できなかった。 「ぬるいな…」 某特務機関の指揮官チックな声色で敗北の宣告を梓に告げる律。 「ブロックされた…いや、それはまだいいんです!問題はその後です!」 梓の疑問に普段通りの口調へ戻った律が答える。 「何って外壁に反射させてゴールしただけじゃん?エアホッケーの基本だぞ。」 「違います!確かにそうかもですけどさっきまでの律先輩は反射スマッシュなんてしてな…」 梓は気付いた。律が勝負所に必殺技を隠し持っていたことに。 「大事な技は大事な場面で使わないとな~」 ひょうひょうと答える律は継ぎ足すかのように 「でも梓もなかなかイイスジしてたぜ~。あー久しぶりに楽しかった~。最近は聡も構ってくれないからさ~」 と言った。 14 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/11(土) 03:58:41.43 ID:Nv8CytobO どうやら律は昔から弟とエアホッケーで遊んでいたらしい。家族一同がボーリング好きな田井中家は親戚も混ぜてボーリング大会をよく開いていたそうだ。 そして合間合間にボーリング場のエアホッケーをいじり倒していたため律はエアホッケーをスポーツとして楽しむようになった。その結果がこれだ。 「ズルいです。得意競技で私を罠にはめて…」 すっかりご機嫌斜めの梓ちゃんである。 「だからハンデとして分かりやすい直球使ったじゃんかよー。」 両手を合わせて頭を下げる律。もっとも拗ねた梓をニヤニヤ見ているので謝罪の気持ちは感じられないが。 「誠意が感じられないですっ!もういいです!」くきゅぅ…。お腹がなった。 「お、梓ー今の」 「ななななんでもないです!何も聞こえてませんし私はお腹も空いてないですっ!」 律の言葉に自己主張を覆い被せる梓。 「あ、罰ゲームがまだだったな。」 あくまでマイペースな律は続けて 「挑んだ以上、約束は果たさないと駄目だよな~~」 などと梓を煽る。 「イカサマみたいなものじゃないですか!」 よほど律に負けたことが悔しいのか語気を強める梓に対し 「イカサマはバレなきゃイカサマじゃないんだよーん。」 と、梓からすれば悪魔のような笑顔を見せる律であった。 16 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/11(土) 04:11:38.02 ID:Nv8CytobO 「もういいです…煮るなり焼くなりしてください…」 心身ともに疲弊した梓は黄色のあくまに身を委ねた。 ちょっと待っとれ~と律が消え去り5分ほど経つ。 「あ~あ…どうして罰ゲームやるなんて言っちゃったんだろう…」 そもそも律が勝手に取り付けたのであるが、激闘のエアホッケーにより情報の全てが上書き保存されていた。 「お待たせ~」 罰ゲームの準備万端な律が意気揚々と帰ってきた。その手にはホットドッグの入ったトレイが2つ。 「また…よく食べますね…それで罰ゲームは何ですか?猫耳付けて『あずにゃんはみんなのアイドルだにゃん』とか言えばいいんですか?」 「それはまた今度だなー。今日はほれ、ホットドッグ食べようぜ!美味いんだぜーホントに~~」 「あの…罰ゲームは…?」 「だからホットドッグを食べろ!これが罰ゲームだ!」 はあ…なんて呆気にとられる梓。 「運動した後はおいしいもの食べてゆっくり休もうぜ~。正しい生活がダイエット成功の近道なり!」 「…ありがとうございます。」 (よく考えたら律先輩、もともと私にご飯食べさせようとしてあんなこと言ったのかなぁ…やっぱり無理なダイエットはよくないか…) お腹も空いたし奢ってくれるって言うし…こんな日も悪くないと梓は思い、気配りが隠し味のホットドッグをほおばった。 完

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