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85 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/12(日) 21:45:04.58 ID:OqCHJ2tZ0 「ごめん! 待った!?」 夏も盛りの八月。 デートの約束をしたのは自分の方からだった。 現在午前十一時半。約束の時間よりも一時間の遅刻だ。 「ええ、かなり待ちました。女の子を炎天下に一時間も待たせるなんて、先輩は相当私のことが嫌いらしいですね」 「ごめん! 本当にゴメン! 目覚まし時計が」 「言い訳はいいです」 一刀両断。返す言葉もない。 今、俺の目の前でたいそうご立腹なのは、中野梓という一人の少女。 俺の、彼女だ。 90 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/12(日) 21:50:23.02 ID:OqCHJ2tZ0 「だいたい、先輩はですね・・・」 冷房のよくきいた喫茶店の店内。 俺への説教を垂れつつ、片手間にチョコバナナパフェを洒落こんでいる梓を眺めながら、俺の意識は別の場所にあった。 パフェ専用の長いスプーンを教鞭のように振り、時折そのクリームの飛沫がテーブルに飛んでいる。 そんな子供のような一面を持つ梓を見ていると、思わず表情が緩んでしまう。 ホント、三ヶ月前からは考えもしなかった展開だ。 104 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/12(日) 21:59:58.49 ID:OqCHJ2tZ0 俺が梓と出会ったのは、三ヶ月前。 同じ中学校だった律が軽音部を始めた、というのを小耳に挟んだのが始まりだ。 確かに以前からバンドだライブだドラムだ、なんて騒がしかったのは覚えているが、まさか行動に踏み切るとは思いもしなかった。 しかも友達の澪まで巻き込んだときた。 どうせガールズバンドで見知ったものどうし、本格的なものには発展しないだろう。 そんな気持ちで律の自慢話を聞き流していた。 そんなある日、 「今度、ウチらでライブやるんだけど、チケット配布係か大人しく見に来るかどっちか選べぃ!」 と、謎の宣告をデコ娘から告げられたのであった。 111 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/12(日) 22:09:29.52 ID:OqCHJ2tZ0 「なんだその選択肢。どうせ見に行くって言っても配布係やらされるんだろ」 「ふふん、ご明察! というわけで、はいこれ」 律はどこから取り出したのか、チケットを五枚ほど俺に渡してきた。 なるほど、どうやら結構本気らしい。 「一枚はあんたの分でいいからさ。あと四枚は適当に友達にでも渡しておいてよ」 「簡単に言うけどな・・・捌けるかどうかわからんぞ。  それでもいいならやってやるよ」 「オーケー! 交渉成立! じゃあ、よろしくね~」 ヒラヒラと手を振りながら、俺の前から姿を消した律。 あいつも澪みたいな落ち着きとバストサイズがあればもっといいんだがな・・・ 律からもらったチケットをポケットにつっこみ、俺も席を立つ。 とりあえず、友達に適当言って買ってもらうか・・・ 律から同級生のよしみで請け負ったこの役目。 これは後ほど、多大なるボーナスが付いてくることになる。 123 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/12(日) 22:21:26.31 ID:OqCHJ2tZ0 「お疲れさまで~す!」 キャイキャイと、久しく聞いていなかった女の子な声。 そんな空気のど真ん中。工業高校に通う、我が身が居ていい場所ではないだろう。 「帰る」 「なに言ってるの!  あんたはチケットを売ってくる係で、ちゃんと自分の仕事こなしたんだから、打ち上げにいていいの!」 「だがな・・・どうも男一人だけってのはなんか気恥ずかしい」 これは俗に言う『合コン』というヤツではないか? つーか、そういう解釈しかできん。 「ふふん、女っけが全く感じられないあんたのためにあたしがわざわざ場を用意したんだから、ものにしなさいよ」 とは言ってもな、みてみろこのデコ娘。澪とお前をのぞいたお三方は怪訝なまなざしを俺に向けてきているじゃないか。 いくら女に飢えているとは言っても、自分を見失うほど落ちぶれちゃいない。ここはさっさとお暇させて・・・ 「さぁ! ここで今日の主役! この不機嫌そうな顔のこいつが一発芸を披露します! 拍手~」 「いえ~い! 頑張れ~!」 「頑張ってくださ~い!」 「ちょっと待て! なにも聞いてないぞ! ああくそ、どうにでもなりやがれ!」 132 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/12(日) 22:30:54.10 ID:OqCHJ2tZ0 打ち上げと言う名の飲み会と言う名の俺的合コンがようやく終了したのは、日付が変わる手前だった。 社会人一人と先輩学生四名が完全に潰れていく様子を眺めながら、俺が親しくなったのは中野梓、という一つ年下の女の子だった。 小柄な娘で、髪型はツインテール。言っちゃああれだが、最初は中学生かと思った。 梓は宴会の最中も一回も酒を飲まず、飲んだくれの先輩の介抱に奔走していた。 で、ようやく全員潰れて終了、かと思いきや、明日は早いらしく、俺が送っていくという流れになった。 「本当に申し訳ありません・・・わざわざ送ってもらって・・・」 「いやいや、全然構わないよ。こっちこそ今日は楽しかった。ありがとう」 「あ、そういえば、アドレス教えてもらえませんか?  先輩、ギターもかなりお上手でしたから、いつか機会があれば教えてください」 「オーケー。あ、じゃあ俺が送るから、そっち受信して」 「はい、りょうかいです」 これが、二人の出会い。 甘酸っぱいね。青春の一ページだね。 まあ、今は尻にしかれちまってるが・・・ 162 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/12(日) 22:50:01.42 ID:OqCHJ2tZ0 馴れ初めタイム終了。さて、現実では、三ヶ月間で親しくなったあずにゃんはどうなっているかというと。 「先輩? 人の話聞いてますか? まさかこれ以上私を放置するつもりじゃないですよね」 あずにゃん怒りモード突入。心なしかツインテールの角度が上昇した気がする。じゃなくて。 「ほら、梓、俺のパフェあげるから。あーんして、あーん」 「あーん」 単純である。 パクリと俺のスプーンは抹茶パフェと一緒に梓の口の中に。 俺ですらまだやってないことをやってのけおったなこの無機物が。 もぐもぐと満足そうにパフェを食べている梓。先ほどまでの怒りはどこへ行ったのやら。 これじゃあまるで子供だ。 まあ、そこを好きになったわけだが。 168 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/12(日) 22:59:37.21 ID:OqCHJ2tZ0 パフェ(俺のおごり)も食べ終わり、お姫様はすっかりご機嫌を取り戻したのだった。 「先輩、次はどこに行きます?」 「そうだな・・・この近くだったら映画とか水族館とか、ブラブラしてウィンドウショッピングでもいいんじゃないか?」 俺の提案に、梓は腕を組んで考え始める。その間五秒。導き出した結論は、 「じゃあ、私水族館がいいです!」 了解しましたお姫様。 「というわけで、水族館にやってきた」 「人が多いですね・・・あ、イルカ!」 ツインテールをピョコピョコと揺らしながら、ちっこい体でイルカさんへ一目散に駆けていく俺の彼女。 次第にその姿は家族連れの周囲に紛れ、遠巻きにイソギンチャクの水槽を優雅に眺めていた俺の視界から・・・消え・・・ ・・・あれ? これってもしかして・・・はぐれた? まずい。これで梓が館員さんとかに見つかって、館内放送とかされてみろ。一生もんの恥だ。 どうにかして探さなければ。イルカさんの前の軍団は居なくなったから、次は・・・ 「イルカのショーか!」 172 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/12(日) 23:06:14.39 ID:OqCHJ2tZ0 俺がステージに突いたころにはショーも終盤で、梓の姿はなぜかステージの上にあった。 当の本人は気づいていないかもしれないが、だいたいそういう場ってのは子供が選ばれるもんだぞ梓。 「では、ここでイルカさんからのプレゼントです!」 係りのお姉さんがそういうと、水面下からイルカが上がってきて、梓の前に浮上した。 キュイキュイとかわいらしい動きと声でしばらく踊った後、梓に近づき、キスをした。 そのままイルカは水中へと戻り、大喝采の中ショーは終了した。 俺は壇上でいつまでも照れくさそうにしている梓を引っ張り、さっさとその場を後にする。 「先輩! イルカさん、すごくかわいかったです!」 なんでか、その笑顔で少しだけ心がざわついた。 175 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/12(日) 23:12:28.02 ID:OqCHJ2tZ0 水族館へ行き、昼食を食べ、ウィンドウショッピングを楽しんだ。 時計を見ると午後六時半。そろそろ帰る時間だ。 「さて、梓。そろそろ時間だが・・・最後に行きたいところはあるか?」 「じゃあ・・・最後に、あれに乗りたいです」 梓が指さしたのは、海の近くに見える観覧車だった。 日が暮れ始めているからか、華やかなイルミネーションが周囲を照らしている。 「よし、了解した。じゃあ行くか」 「はい!」 観覧車は下から見上げるとかなり大きく、一周にけっこうな時間がかかりそうだった。 あまり高いところは得意じゃないのだが・・・梓の頼みとあっては断れない。 まあ、密室に梓と二人きり。 この状況を今までの空気からの脱却に使うか、はたまたダラダラと過ごすか、このあたりのバクチで恋人生活ってのは刺激的になるんだろう。 178 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/12(日) 23:17:13.32 ID:OqCHJ2tZ0 「先輩、今日はありがとうございました」 観覧車に乗って、すぐに梓がそう切り出した。 完全に出鼻をくじかれてしまい、しどろもどろになってしまう。 「あ、ああ。いや、おれも楽しかったよ。ありがとう」 くそ、俺の根性なし。こんなんだから未だに律とか澪にバカにされちまうんだ。 特に澪なんて、口には出さないが態度からして「早くしろよこのチキン」ってオーラが出てるからな・・・ 実力行使はさすがにまずいだろうし、ここはやっぱり段階を踏んでからだよな。 「あのさ」 「あの」 出鼻挫かれ第二段。ははっ、もうどうにでもなりやがれ。 「梓からどうぞ」 「は、はい。あの・・・先輩、こういうことはすごく言いにくいんですけど・・・ 私って、そんなに魅力ありませんか?」 186 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/12(日) 23:25:05.10 ID:OqCHJ2tZ0 「え・・・?」 「先輩は、いつだって私に優しいです。今日だってご飯も洋服も、全部先輩がお金出してくれました。  転びそうになったときも腕を掴んでくれましたし、ショーの時だって私を探してくれていたんですよね?  ・・・私は、そんな先輩が大好きです。でも、先輩は優しすぎるんです」 それは、始めて聞く梓の心情。今までの鬱憤。 「でもそれは、先輩が他の女の子にも向けている優しさなんです。澪先輩と一緒に買い物に行ったときも、  律先輩と遊びに行ったときも、そうでした。先輩はみんなに優しいんです。でも、私は彼女なのに、その区切りから抜けてない」 次第に、声が荒げられていく。膝の上においた手は、力を入れて握りすぎ、プルプルと震えている。 その手の上に、ポタリと涙が落ちた。 「私、今のままじゃイヤです! 私は澪先輩よりもスタイルよくないですし、律先輩みたいにおもしろくもありません!  唯先輩や紬先輩みたいに優しくもできないし、自分の気持ちも素直に言えません! だから、先輩! 先輩!」 188 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/12(日) 23:34:11.00 ID:OqCHJ2tZ0 目の前に、涙を流して叫んでいる女の子がいる。 その子は、俺が大好きな女の子で、誰よりも大切にしたかった女の子。 その子が、泣いている。何故? 理由は、わからない。頭が考えることを停止している。だから、 「ッ、せん、ぱい」 助けを求めている彼女を、助けを求められた俺が抱きしめる。 俺は、小さな彼女を抱きしめることしかできなかった。 大事に、大事に。壊れないように優しく、けして離さないように強く。 だけど、これだけじゃ足りない。だから、俺みたいな根性なしでも、次の想像はたやすい。 「梓、ごめんな。俺、お前の気持ちに気づけなかった。・・・だから、顔を上げて」 「せんぱ・・・い」 梓の泣き顔が上に上がる。そのグシャグシャになった顔が、すごく愛おしい。 ずっと見ていたい彼女の泣き顔。危ない発言だと自分でも自覚があるあたりがダメさを露呈している。 俺がしなければならないことは、見ていることではない。 さっきそう、自分で感じたじゃないか。 感情のまま、梓の頭を抱きよせる。 そのまま、俺は梓と拙いキスをした。 193 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/12(日) 23:39:39.14 ID:OqCHJ2tZ0 長いようで、一瞬の出来事だった。 ファーストキスはレモン味? なんのことやら、緊張で味なんて感じとる暇なんかないわ。 「先輩・・・うぅ、ぜんぱぁぁあい!」 お互いの顔が離れてから、梓はまた泣き出した。こんどの涙は、悲しませて泣かせた涙ではないと祈りたい。 ああ、俺がふがいないばかりにこんなにこの子を悲しませてしまった。 「ごめんな、ごめん」 優しく頭を撫でる。艶のある黒髪が、とても撫でていて心地いい。 ああ、神様。願うことなら、この結びつきが永遠に途切れることのないよう。そう、祈ります。 観覧車の頂上で、俺はそう願いながら、ギュッと梓を抱きしめた。 195 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/12(日) 23:46:09.84 ID:OqCHJ2tZ0 エピローグ 「なに? あんた梓泣かせたんだって~?」 三日後、学校からの帰りに律からの電話があった。なんでも話があるとかどうとか。 で、行ってみればそこには軽音部の面々が。しかもすごいこっち見てるし、帰りたいんだけど。 しかし帰るわけにもいかず、席の真ん中に座らされ、包囲網完成。そして律の一言である。 「あぁ・・・いや・・・その・・・すまんかった」 「甘い! 甘いぞ! 我ら軽音部のマスコットである梓を泣かせた罪は重い! 従って罰則を・・・」 「あ、あの! 律先輩! その・・・いいんですよ、その話は、そういうことじゃなくて・・・」 梓が気恥ずかしそうに律を制止する。完全に勢いを折られた律はぎこちない動作で梓に問う。 「・・・え? なに? どゆこと?」 「あの・・・ケンカしたとか・・・そういうことじゃなくて・・・あの、その・・・」 「ええい! まどろっこしい! あんた説明しなさい!」 「梓とキスした。より仲良くなった。これでいいか?」 刹那、場の空気が凍った。 206 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/12(日) 23:58:53.24 ID:OqCHJ2tZ0 「キ、キ、キ、キ、キス!?」 いままで静観を決め込んでいた澪が急に暴走した。まったく、いつまで経ってもそういうことに免疫ができないやつだ。 「早い! あんた早すぎ! なに!? まさかその先までは行ってないでしょうね!?」 「待て待て待て。とりあえず頭を振るのをやめろ。話はそれからだ」 「はーっ、はーっ。で、本当のことを言いなさいよ」 「最後まで行った」 「ウチのマスコットがぁぁぁぁぁぁぁ!」 よよよ、と律が崩れ落ちる。律には悪いが・・・まあ、そういうことだ。 静かな喫茶店の一角、場に似合わない大音量で、俺たちが騒いでる。 そんな空気に飛び込んで、そしてその結果俺と梓は付き合うことになった。 この空気がなければ、俺はこうしてこの場にいない。そのことはすごい偶然が重なっての出来事なのだろう。 だが、その偶然を俺の元へ運んできてくれたのは、紛れもない軽音部の存在。 そこに大きな感謝を向けなければならないだろう。 とりあえず、この喫茶店の代金は俺の奢りだな。 また梓に怒られるかもしれないが、それはそれ。 よく晴れた夏のある日。俺は、彼女と共に幸せな日々を暮らしているーー ーーfinーー

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