「先輩・後輩(教師Ver.)   あとがき」の編集履歴(バックアップ)一覧はこちら

先輩・後輩(教師Ver.)   あとがき」(2009/08/25 (火) 21:31:23) の最新版変更点

追加された行は緑色になります。

削除された行は赤色になります。

652:先輩・後輩(教師Ver.) :sage:07/19(日) 02:22:34.32 ID:Hr5soUJf0 (33) ID AA 店内は、程よい喧噪に包まれていた。 会社帰りのサラリーマン、大学のサークルに所属する生徒 などといった様々な人々が紡ぎだす、居心地の良い雰囲気。 その中に、一人の女性教師がいた。 655:先輩・後輩(教師Ver.) :sage:07/19(日) 02:26:35.39 ID:Hr5soUJf0 (33) ID AA 年のころは、20代中盤。 容姿端麗であり、道行く人が彼女を見たら10人中10人は振り返るのでは ないかと推測できるほどだ。 もっとも、彼女自身はそうした好奇に満ちた視線は意に介すことはなかった。 彼女――山中さわ子はあることに悩んでいたから。 他のことに気をとられている場合では、無いのだった。 657:先輩・後輩(教師Ver.) :sage:07/19(日) 02:28:41.16 ID:Hr5soUJf0 (33) ID AA はあっと、何度目とも分からない溜息をつく。 物憂げな視線を虚空に向ける。 (……おっそいわねえ) そこには、待ち人が来ないことにたいする苛立ちも多少は 含まれていたのかもしれない。 661:先輩・後輩(教師Ver.) :sage:07/19(日) 02:33:24.79 ID:Hr5soUJf0 (33) ID AA  そこで、店内のベルが鳴った。 「悪い、山中! すっかり遅れてしまった!」  その口調から察するに、おそらく彼も同じ教師であろう。  年の頃は、40代。  どこにでもいそうな、中年教師だ。 「……遅いですよ、ホント」 「改めて、済まなかった。  ちょっと急な仕事が入ってしまってな」  彼は、さわ子の隣に腰かけると、ワインを注文する。 「……そして、山中。相談とはなんだ?」   663:先輩・後輩(教師Ver.) :sage:07/19(日) 02:38:03.84 ID:Hr5soUJf0 (33) ID AA  彼女は、その言葉に可笑しくなる。  学生時代のことを思い出してしまったからだ。  思えば、あの時から、さわ子はこの教師を頼りにしていた。  「――うちの部の、田井中と秋山のことはご存じですよね?」  「ああ、あの二人か。そりゃまあ、一度担任を受け持ったこともあるからな。   ……二人が、何かいさかいでも?」  相変わらず鋭いな、とさわ子は感心する。  しきりに相談しに行っていたあの頃から10年程経過しているのに  なにも変わっていない。  「ええ……いさかいといえばいさかい、になるのでしょうね」   665:先輩・後輩(教師Ver.) :sage:07/19(日) 02:43:54.20 ID:Hr5soUJf0 (33) ID AA  さわ子は、その時の現場を見ていない。  そのため、詳細は知らず、概要だけ理解できた。  それは、文化祭の少し前に起きた。  その日に、さわ子がいつも通りに軽音部の部室に行ってみると  どこか様子がおかしかった。  その理由に、すぐに気づく。  「ねえ、律っちゃんは?」  さわ子は、暗い顔をしている部員にその質問を投げかけた。  最初は、誰一人として答えようとしなかった。     666:先輩・後輩(教師Ver.) :sage:07/19(日) 02:48:15.91 ID:Hr5soUJf0 (33) ID AA  そんな状況を見かねたのだろう。 「律っちゃんは、調子が悪いと言って、家に」  キーボード担当の琴吹紬が、答えてくれた。  しかし、そんな彼女の口調に普段のおっとりした感じはない。 「そう……大丈夫、かしら」  紬にそう言い、部員を見まわす。  ギター担当の平沢唯は、普段の明るい様子はどこへやら  神妙な顔をしている。  同じくギター担当の中野梓は、何故か猫耳をつけながら  悲しそうな顔だ。  しかし、誰よりもひどかったのは―― 667:先輩・後輩(教師Ver.) :sage:07/19(日) 02:49:44.75 ID:Hr5soUJf0 (33) ID AA 「澪ちゃん」  さわ子がそう声をかけると、ベース担当の秋山澪はびくりと肩を震わせた。 「……辛そうね。何が、あったの?」     670:先輩・後輩(教師Ver.) :sage:07/19(日) 02:51:38.50 ID:Hr5soUJf0 (33) ID AA 「――ほう、それで?」  さわ子は、男性教師に先を促され、説明を続ける。 「秋山は、私が声をかけると、怒ったような顔をしました。  この瞬間に、私は確信しました。  ……発端は、この子だな、と」 671:先輩・後輩(教師Ver.) :sage:07/19(日) 02:54:49.41 ID:Hr5soUJf0 (33) ID AA 「しかし、それが分かっても、私にはどうすればよいか分かりませんでした」  さわ子の声に、少し悲しみが混じったかのように感じられる。 「彼女に問いただすべきなのか、彼女を何も言わずに優しく慰めて  あげるべきなのか――答えを出せなかったのです」  私は、彼女たちの指導者なのに、と悔恨の混じった声が続く。     673:先輩・後輩(教師Ver.) :sage:07/19(日) 02:57:06.33 ID:Hr5soUJf0 (33) ID AA  結局その日、さわ子は澪に対して何もできないまま、だった。  どうすればよいか分からず戸惑っているさわ子に 「今日は帰らせていただきます」  と言い、澪は部室を出ていった。   675:先輩・後輩(教師Ver.) :sage:07/19(日) 03:00:48.35 ID:Hr5soUJf0 (33) ID AA 「私は彼女を追いかけることはできませんでした。  その場で答えを出せなかった私に、追う資格なんて無いと思ったから」  彼女の言葉には、悲壮感が漂い始めていた。  これが一般生徒だったならまだしも、自分の受け持つ部の生徒  だったからこそ彼女のダメージは大きかったのだろう。  そんな傷心の彼女に、男性教師は声をかけた。   676:先輩・後輩(教師Ver.) :sage:07/19(日) 03:02:48.93 ID:Hr5soUJf0 (33) ID AA 「――何もしなくて、良かったんじゃないか」 「えっ?」  彼女が驚いたような顔でこちらを向く。 「な、なんでですか? 教師だったらここで、なんらかの行動を  即座に取るべきなのでは……」 「お前は、気を張りすぎてる」  男性教師は、ずばりと言い放つ。 677:先輩・後輩(教師Ver.) :sage:07/19(日) 03:05:56.94 ID:Hr5soUJf0 (33) ID AA 「秋山や田井中だって、もう高校2年。  あの二人の仲の良さは、去年見てきてる。  多少の仲違いだってあるだろうし、それに対して自分たちなりに  解決方法を模索できるだろうさ」  教師はそこで言葉を一旦止める。 678:先輩・後輩(教師Ver.) :sage:07/19(日) 03:07:55.22 ID:Hr5soUJf0 (33) ID AA  そして、言った。 「お前に出来るのは、彼女たちを見守ることなんじゃないのか?」 「みま、もる」  その言葉を反芻するさわ子。 「そうだ。お前は部室にいて、彼女たちの輪の中にいてあげるだけで良い。  そうすれば、後は自分たちで解決できるはずだ」   679:先輩・後輩(教師Ver.) :sage:07/19(日) 03:10:09.18 ID:Hr5soUJf0 (33) ID AA  男性教師は思い返す。  ――思えば昔から、気負いすぎる性格だったな、こいつは。 「先生、部員がまとまりません、私の責任でしょうか?」 「先生、部の運営費がまずいです。どうすればよいでしょうか?」  10年前からあまり変わってない彼女を見つめ  男性教師はすこし微笑む。 684:先輩・後輩(教師Ver.) :sage:07/19(日) 03:14:28.33 ID:Hr5soUJf0 (33) ID AA 「……ありがとう、ございました」  さわ子の顔がさきほどとはうってかわって、希望に満ちたものとなっている。 「私、明日部室に行ってみます。  そして、みんなの意見を色々と聞いてみようと思います」 「ああ、それでいいだろう。  あまり事情に深入りするんじゃないぞ」 「はい、そうします」  さわ子は席を立ち 「どうもありがとうございます――先輩。  昔から、お世話になってしまってますね」  一礼し、彼女は店を出て行った。 (……先輩、ねえ)  その言葉を聞いて、男性教師は自分の顔が笑っているのを自覚する。  長い付き合いだ、これからも頼られることがあったら  こたえてやるとしよう。 (そう、部活の先輩のように、な)   686:先輩・後輩(教師Ver.) :sage:07/19(日) 03:18:25.22 ID:Hr5soUJf0 (33) ID AA ほど良い気分になり、席を立つ。 そこで、彼女がいた席の伝票に気づいた。 (……) 嫌な予感が、する。 おそるおそる金額を見ると―― (……あいつ!) 「すみません、後払いでおちませんか♪」 「おちません♪」 その後、さわ子はそのいさかいを解決し、結束は強まったそうな。 END

表示オプション

横に並べて表示:
変化行の前後のみ表示: