「笑いのセンスも違って、趣味も全く違って、学校も違う。 ◆dmeDqVUA961G」の編集履歴(バックアップ)一覧はこちら
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281 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/21(火) 21:44:09.14 ID:yxF4Zd1O0
笑いのセンスも違って、趣味も全く違って、学校も違う。
でもなんとなくで付き合って、なんとなくで今こうやって喫茶店で二人コーヒーを飲んでいる。
それがなんだかとても運命的な素敵な巡り合わせのような気がして、自然と私の口元が緩んでしまう。
「どうした? なんか俺の顔におもしろいものでもついてるか?」
「ううん。ただ、コーヒーとか似合わないなって」
「なんだそれ。悪かったなガキっぽくて。でもお前みたいに年上に見られないだけましだ」
「な、なんだよそれ! 私が老け顔だとでもーー」
「言わない言わない。だから大きな声出すな。周りが見てるだろうが」
「え?」
周囲を一望する。そこらへんに座っているお客さんたちの視線、視線。
自分の顔が真っ赤になっていくのがわかる。顔が熱い。胸がドキドキする。
私はそのまま顔を上げていることができなくて、スカートを握りしめて俯いてしまう。
292 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/21(火) 21:52:28.18 ID:yxF4Zd1O0
「そんなに恥ずかしがるなって。どうせみんなすぐに忘れる」
「だって・・・」
そんなこと言ったって、恥ずかしいものは恥ずかしい。
だいたい、みんなに見られている状況で堂々とコーヒーを飲めるこいつの方がおかしいんだ。そうに違いない。
私は正常。だって、普通の女子高生で、普通の女の子。
鋼の心臓も持ってないし、鉄仮面も顔に張り付けていない。
「恥ずかしいものは・・・恥ずかしい」
「なにいってるんだか。全校生徒の前で縞パンさらした経歴をーー」
「そ、それを言うなぁ!」
再び静まり返る店内。背後から感じるたくさんの視線。
今度は振り返ることもせず、私は完全に沈黙した。恥ずかしい。ああ、恥ずかしくて死にたい。
300 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/21(火) 21:57:54.02 ID:yxF4Zd1O0
「恥ずかしくて死にたいって顔してるな」
「・・・うるさい」
「まあ、俺はお前のそういうところ、かわいいと思うぞ」
「ーーッ!」
その言葉の追い打ちがあんまりにも恥ずかしくて、気がついたらこいつの足を思いっきり踏んづけていた。
「あっ!? いででででで!」
「いきなり何を言うかと思えば・・・少しは恥じらいを覚えろ!」
財布から黒糖カフェの350円を取り出して、テーブルに叩きつける。
そのままの勢いで鞄を肩に掛け、さっさと一人席を立ち、店を出る。
後ろからなにか聞こえてくるけど知ったことか。自業自得。あんな他人のこと考えない奴は極刑にかかってしまえばいい。
・・・まあ、でも。
ああやって自分の気持ちをストレートに表現することなんて、私には到底できない。
だから、その私に足りない部分を余りあるぐらいもっているアイツに、
私は惚れたのかもしれない。
316 :以下、名無しにかわりましてVIPがお送りします:2009/07/21(火) 22:08:32.27 ID:yxF4Zd1O0
店を出てから、雪が降っていると気づく。
今日は十二月二十三日。礼儀に倣っていうなら、クリスマスイブイブといったところか。
それなのにヤツといったらパンツだのなんだの・・・人のトラウマをほじくり返すのがそんなに楽しいか。
大体、そんな話を他人に言い触らす律とか紬も・・・
「澪~。なんでそんなにむくれてんだよ~」
「っひゃあああああぁぁぁ!!」
後ろから急に抱きつかれ、変な声が出てしまう。
人通りの多い公園で、周りの人が見ているのに、そんなことされたら誰だって変な声ぐらい、
「っていうか・・・」
「ん~、澪いい匂いがする・・・。ビダルサスーンとか、そっち系?」
「人目ぐらい考えろ! バカ!」
「でっ!?」
再び足を踏みつける。今度は踵で思いっきり。
後ろで飛び跳ねている様子が伺えるが、知ったことか。今度こそ、本当に死んでしまえばいい。
こんないい雰囲気はきっといい詩が書けたに違いないのに、ああもう。
頭の中がグチャグチャで、なにも思いつかない。
さっきとは違った赤面の理由と鼓動の増加に、はぁ、と溜息をつく。
335 :♯ぽんじゅーす:2009/07/21(火) 22:17:48.72 ID:yxF4Zd1O0
あれ・・・? なんか二つ書き込まれちまってる・・・?
こんなホワイトクリスマス(一日フライングだけど)に、雰囲気もなにもあったものじゃない。
こんな時ぐらい、少しは・・・
「なんか澪さ、今日はカリカリしてない?」
「別に。あんたがいつもより調子いいだけでしょ」
「俺はいつも通りだと思うんだけどな・・・ああ、わかった。オンナノコのーー」
「なに?」
「いや、なんでもないです。申し訳ない」
本当に、雰囲気も何もない。
だいたい、女の子にそんな話題だすか普通?
確かに私はそういう話はあんまり得意じゃないけど、そこはこう、紳士的にさ。
横目で、私の隣をブラブラ歩いている男を眺めてみる。
・・・無理だな。紳士とはかけ離れている。
「・・・無理だな」
「何がだよ」
「・・・別に」
もっとこう、彼氏彼女ってのは甘酸っぱいものだと思っていた。
現実は、やれやれどうして。まったくそんなものとは無縁でした。
349 : ◆dmeDqVUA961G :2009/07/21(火) 22:26:04.19 ID:yxF4Zd1O0
酉なってないしwww恥ずかしいwww
私は、少なくとも好意なら抱いている。
有り体に言えばこいつのことは好きだ。
けど、なんでだろう。想像していたのと違うからか、私はどこか物足りない。
さっきの喫茶店でもそうだ。私たちの隣に座っていたカップルを見ても、何か違う。
そう、距離館が違うのだ。まだ私たちは接近しきっていない。そんな感じがする。
心が、遠いのか。抱きついてくることは向こうがよくしてくるから、肉体的には近いはず。
性的な意味はない。決してない。絶対ない。
「・・・お姫様はなんだか不機嫌なようだ」
「だから、別にって言ってるじゃん」
「そう言うな。ほら、ご機嫌取りじゃないけどさ、あれ乗ろうぜ」
彼が指さすその先には、きらきらと目映い光を放つ、大きな観覧車が夜に咲いていた。
363 : ◆dmeDqVUA961G :2009/07/21(火) 22:37:22.23 ID:yxF4Zd1O0
ガタガタと夜風に揺れる観覧車。外から見ればたいそうな花を咲かせていたが、内部は使い古された鉄の檻。
塗装も剥げ、腰を下ろしたイスも金属が露出している。太股に当たって冷たかったのは内緒だ。
しかも寒い。寒さを防ぐつもりが全くないぞこれは。
「寒いよな・・・」
「寒い。かなり。お前もスカート履いたらきっとわかるはず」
「そりゃ勘弁。ほら、これ着ろよ」
そう言って、ブレザーを私に差し出してくる。私はそれを無言で受け取り、膝の上に掛けた。
うん、これで多少はましになった。少しぐらいなら気をきかせられるじゃないか。
人の温もりを太股に感じつつ、多少の満足感を得ていると、
「そんでさ・・・突然で申し訳ないが、本題に入らせてもらっていいかな」
なんだか突然、本題とやらが始まった。
「本題・・・?」
「ああ、なんか澪さ、今日機嫌悪いみたいだから本当は明日の予定だったんだけど、急遽早めた」
372 : ◆dmeDqVUA961G :2009/07/21(火) 22:45:08.03 ID:yxF4Zd1O0
「で、何を早めたの? この観覧車だったら今まで何回も・・・」
「人の話は最後まで聞け」
ぴしゃりと制止をかけられる。
少しの間。その間に目の前のヤツは一息深呼吸を入れる。
そしてゆっくりと立ち上がり、わたしの隣に座った。
観覧車がギシリ、と音を立てて傾く。こうやって斜めになると、非常に乗り心地が悪いと認識を改める。
景色も華やかな光から一転。都会の白んでいる夜空へと一変した。
「明日でさ、俺らがつきあい初めてからちょうど三ヶ月。節目っちゃあ節目だよな」
「うん・・・まあ、記念みたいなものは一つももらったことないけど」
「そう言うな。・・・ほれ」
ぽい、と無造作に何かが投げられる。私は半射的にそれをキャッチした。
それは、手のひらに収まる程度の大きさの箱だった。
ラッピングもされており、見た目はプレゼントそのものだ。
「・・・これって」
「聞かずに開けてくれ。じゃないと、俺が恥ずかしい」
そう言ってそっぽを向いてしまう。私も、なんだか恥ずかしくなってきた。
379 : ◆dmeDqVUA961G :2009/07/21(火) 22:55:28.85 ID:yxF4Zd1O0
ゆっくりと、リボンを解く。包装紙の中には藍色の小さな箱。
指先が何故か震えてくる。無音の中、私の手の中の紙が立てるカサカサという音だけが聞こえてくる。
今度は私が深呼吸をする。そして、ひと思いにその小さな箱を開けた。
「まだほんの少しクリスマスには早いけどさ・・・メリークリスマス。澪」
その箱の中には、きれいな指輪が二つ入っていた。
同じデザインであるところから、ペアリングというやつだろう。
「意外と高いんだぜ? それ。バイトして貯めた金全部つぎ込んじまった」
触れれば壊れてしまいそうな輝きを持つ指輪を、丁寧に丁寧に、一つ手に取る。
きらびやかではないそのデザインが逆に光沢を放ち、それが私の心を引きつける。
「ペアリング、なんて今時流行らないかもしれないけどさ・・・俺、不器用だから。
こうやって何かお前とのつながりを作っておかないと、お前が遠くに行ってしまいそうで」
指輪は、サイズまで完璧だった。裏側にイニシャルが掘ってあるあたり、芸が細かい。
自分の指で光を放つその指輪。初めての彼氏からの贈り物。
調子がよくて、うるさくて、とても不器用だけど、とても優しい人からのもらいもの。
ああ、甘酸っぱい。これが、きっと私が求めていた青春。
383 : ◆dmeDqVUA961G :2009/07/21(火) 23:00:09.24 ID:yxF4Zd1O0
「・・・ありがとう」
自然と、口から感謝の言葉が出ていた。
「よせやい。俺だってお前からプレゼントもらうんだから、これでおあいこさ」
それでも、それでも、ありがとう。
ああ、幸せだ。今まで私は何を心配していたのだろう。バカらしい。全部杞憂ではないか。
今までだって、きっと幸せだったのに、他人との比較ばかりしていて、自分を見ていない。
楽しかったじゃないか。笑っていたじゃないか。他人との違いがあるのは当たり前。そこすらわかっていなかったなんて。
「その・・・さっきから一言もしゃべってないけど、もしかして気に入らなかった?
だ、だったら今から走って別のものでも買いに・・・」
気に入らないはずなんか、ない。
「あの・・・澪さん?」
だって、せっかくの、彼氏からの贈り物。
「ちょ、澪? 顔ちかーー」
これ以上、幸せな贈り物なんて、私には存在しないのだから。
387 : ◆dmeDqVUA961G :2009/07/21(火) 23:02:44.89 ID:yxF4Zd1O0
エピローグ
「で、その指輪は彼氏からのプレゼント、と」
「う、うん。どうかな・・・」
「・・・しい」
「・・・え?」
「羨ましいって言ったんだよバカやろー! いや、妬ましい! チクショー!」
「り、律落ち着け! 人がみてる!」
「落ち着けるかー! 梓に続いて今度は澪かよ! しかも初キスは観覧車とかどんだけじゃーい!」
「それを言うなー!」
~fin~