「添い寝?ゆいあずその2の続き ID:PbGWsLZd」の編集履歴(バックアップ)一覧はこちら
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このSSは『【けいおん!】唯×梓スレ 2』というスレに投下されたものです
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26 :名無しさん@お腹いっぱい。:2009/07/21(火) 13:12:47 ID:PbGWsLZd
「はい、ここまでです…」
「え~、まだ足りないよぉ…」
「時間ですから、仕方ないです」
ストップウォッチの表示を見せながら、私は出来るだけぴしゃりと断ち切れるように、少し厳しく行為を打ち切る。
唯先輩は不満そうな表情で、恨めしげにこちらを眺めてきたけど、仕方がない。
それに足りないのは私も一緒。本当ならもっともっとくっついていたい。だけど、仕方がないよ。
「この仕打ち、理不尽です!私、平沢唯は断固抗議します!」
「まったく理にかなってるじゃないですか。それに、先輩方に心配をかけたのは確かなんですし」
それは、先日の話。あの猛暑の中クーラーもつけずに抱き合って眠っていた私たちは、あわや熱中症かという状態に陥っていた。
実際、先輩方が来られるのがもう少し遅かったら、かなりやばかったらしい。
保健室でぐったりする私たちに先輩方から下された採決は…「暑さが和らぐまで、日中一日5分以上のハグ禁止」というものだった。
そんな!それじゃ唯先輩分が枯渇しちゃいます!と抗議を入れそうになったものの。
私のキャラじゃないということと、先輩方は本当に私たちを心配して言ってくれたということがわかってたから、何も言えなかった。
それに、私が自重し切れなかったせいで、唯先輩をあんな目にあわせてしまったことは確かだし…
と言うわけでその次の日からの私は、ストップウォッチを片手にすることが日課になっていた。言いつけはちゃんと守らないと、あんなに心配かけちゃったんだし。
それでも、この一日5分までと言うのは思ったよりもずっときつかった。
まだ一週間もたっていないというのに、私の唯先輩分不足は半端じゃない。禁断症状でどうにかなってしまいそう。
それは、唯先輩も同じみたいだった。当初は神妙にしてた唯先輩も―唯先輩だけのせいじゃないから、そこまで落ち込まれても困るんですけど
―今ではこうして、時間の短さに不満を口にするようになっていた。それでも、ちゃんとその一線は守ってくれてるんだけど。
…私としては、我慢しきれずに強引に押し倒してくれても、問題ないんだけ…いや、それは駄目。また同じ轍をふむことになることは目に見えているから。
それに、私だけならともかく…唯先輩まで具合を悪くしてしまうのは…やはり駄目だと思う。
でもでも、やっぱり…これだけしか触れられないのは…辛い。
「そうだよね…」
って、なんでわたしの心の声に返事してるんですか。…ひょっとして私、声に出してました?
「うん」
あっさりと頷いて見せた唯先輩の笑顔に、ぽんっと音を立てて私の頬は熱くなった。おそらくは、ううん間違いなく、私の顔は真っ赤になってることだろう。
「ほい、あずにゃん」
そんな私に、唯先輩はその笑顔のまま、ほいって右手を差し出してきた。な、なんだろ。ほっぺに触れるでも、頭を撫でるでもなく、私の前でぴたっと唯先輩の手は動きを止めている。
「手、つなご。今気付いたんだけど、別に接触禁止ってわけじゃないんだから、これくらいなら平気だよ」
「あ、そ、そうですね…」
言われてみると…確かにその通りだ。何かすっかりそのつもりになっていたけど、別に触れちゃ駄目ってわけじゃなかったんだ…
差し出された先輩の手に、手を伸ばす。一日5分、その制限を超えて触れるのは本当に久しぶりで。すっかり自分でそう決めてしまっていたから、なんか嬉しさと背徳感が混ざって、変な感じがする。
それに…今まで散々抱きつかれたりしてたけど…こうして手を繋ぐのは初めてじゃ無かったかな。
そうっと手のひらを合わせると、きゅっと唯先輩の手が私の手を握り締めてきた。
まるで心臓が止まったかのような衝撃。ううん、これ本当にとまってるんじゃないのかな。
きめ細かな唯先輩の肌は吸い付くような感触で、ぎゅっと握り締められ押し付けられた部分からは、普段のそれよりもずっと―もちろん普段のスキンシップがこれに劣るというわけではないけど―唯先輩のぬくもりを伝えてくる。
手のひらだけなのに、何故か全身を抱きしめられているような、そんな感覚。意識がうっとりと何か熱いものへと沈んでいく。
もし場所が場所だったら…このまま唯先輩と倒れこんでしまってもいいと思えるくらいに。
「だ、駄目です!」
そう、完全に傾倒してしまう前に、私はあわてて意識を立て直した。さすがにこんなところでそんなになってしまうのは、いろいろ問題がある。
それに、きっと絶対にもうどう取り繕いも無いタイミングになった時点で、ガチャリと扉が開いて誰か入ってきてしまうような、そんな予感もしている。
27 :名無しさん@お腹いっぱい。:2009/07/21(火) 13:14:07 ID:PbGWsLZd
「あ、あずにゃん…いやだった?」
「へ?」
悲しそうな声に視線を戻すと、そこには今にも泣き出してしまいそうな唯先輩の顔が合った。
はっと気がつく。我に返った勢いで、私は唯先輩の手を振り払ってしまっていた。さーっと顔から血の気が引いていく。
「ち、違うんです!今のは、いやだったからとかじゃなくて…」
慌てて、そういうつもりじゃなかったことを伝えなきゃと思って、喋り出す。そしてそこで止まってしまった。何故なら、それ以上続けるということは、さっきの自分の心情を口にしないといけないってことで―それ、なんて羞恥プレイですか。
「じゃなくて…?」
私の否定に、唯先輩の顔はほっとした表情に。それでも私が言葉を途中で止めたことを怪訝に思ったのか、そう促してくる。ううん、ちょっと不安が混じってる。
やはり、続けないと駄目だよね…恥ずかしいのは確かだけど、それで唯先輩を傷つけるのはもっといやだから。
「いやだった…からではなくて、よすぎたからです」
「え?」
首を傾げられる。仕方なく、補足を入れる。…ああもう、恥ずかしいんですよ。
「ですから、唯先輩と手をつなぐのが…です」
「へ?」
唯先輩の首が、今度は反対側に傾ぐ。でも前回とは違って、じわじわとわかった!という表情に変わっていっていた。
「あずにゃ~ん…!」
唯先輩は、更に表情をキューンとしたモノへと変化させ、ばっと腕を広げて近づいてきた。いつもの、抱きつく1秒前のポーズ。
反射的に受け入れそうになったけど、慌ててぴとっと先輩の額に手のひらを当てて、ストップをかける。
「わ、だ、駄目です!今日はもう5分経っちゃってます!」
「えへへ、そうだったね…それじゃ、また手をつなごうよ!」
そうして私の返答も待たずに、額の手を両手でパシッと捕獲する唯先輩。
密かに額の感触を堪能していた私は、再び訪れた唯先輩の手の感触に、びくっとなる。
さっきと同じ、柔らかで暖かな感触。でもさっきと同じじゃない。両手で包み込まれている私の右手は、さっきの2倍…ううん、相乗効果なのか3倍も唯先輩をしっかりと感じていた。
「はぅ…っ」
まさしく3倍速。体の芯があっという間にジンジンと熱くなっていく。顔なんてもう真っ赤になっているに違いない。
唯先輩はにこにこしながら私の顔を覗き込んでいて、真っ赤になった顔を見られちゃってるはずなのに、何故かいつもの羞恥心は沸いてこなかった。
そんなことより、今の私はもっと唯先輩を感じていたい、なんて思ってしまっている。抱きつきたい、すりすりしたい、体中をぴっとりくっつけて、もっともっと感じていたい。
熱でぼやけそうな視界の中、一生懸命微笑む先輩に焦点を合わせる。抱きつくのは駄目―でも、触れるのは大丈夫。だから、こうして私と唯先輩は手をつないでるのであって。
そう、触れるのは―大丈夫。ですよね、唯先輩?
「え?」
夢見心地の私の鼓膜を、先輩の甘い声がこつんとたたく。疑問の声、だけどそれすらも、今の私にとっては起爆剤。
開いてる左手をすいっと伸ばして、柔らかなほっぺに触れる。その感触もあまりに心地よくて、私の意識を吹き飛ばしそうになったけど、今はもっと前に進まなきゃ。
瞳を真っ直ぐに先輩の瞳に合わせて、ゆっくりとその距離を縮めていく。
その瞬間が待ち遠しくて、精一杯急いでるはずなのに、何故かスピードはゆっくり。まるで時間の流れが遅くなっているよう。ううん、きっとそうなんだろう。
その瞬間もそうだけど、それにいたるまでのこの甘くてとろけそうなマシュマロみたいな時間も、一秒でも長く感じていたい、感じていてほしいと、そう思ってしまってるから。
私の意図を察したのか、先輩は一瞬だけ目を小さく見開き、そして優しく微笑んでくれた。ほんわりとしたいつものものとは少し違った、私を優しく包んでくれようとする意思を持ったほわっとした笑顔。
私を何度も虜にしてくれた、その笑顔。
先輩の目がまたゆっくりと閉じて、唇がほんの少しだけとがって、ほんの少しだけ開いて。もう後僅かで触れ合ってしまえる私を、優しく受け入れてくれる形へと変わっていく。
それまでの感覚を全て飲み込んでしまうほどの嬉しさを私の中に湧き上がらせてくれたそれに応えようと、私は最後の1ミリをゼロにしようと―した。
28 :名無しさん@お腹いっぱい。:2009/07/21(火) 13:15:32 ID:PbGWsLZd
ええ、したんですが。
「惜しかったね、あずにゃん」
耳元でこそこそっと囁かれる声に、私は気付かれないように小さくため息をつく。
つまりはその―結果として、私たちのファーストキスは未遂に終わってしまったということ。
もっとも、それを悔しくもしくは残念に思う暇も無く、ドアを開けた状態で固まってしまった先輩方を何とか解凍する努力に奔走させられたわけだけど。
「いいえ、あれでよかったんです。そもそも、学校であんなことをしようとしたことが間違ってたんですよ」
「うぅ…あずにゃんが冷たいよう。あずにゃんから―」
「ああ、もう、ストップです。終わりにしましょう…はい」
それでもまだ不満そうな唯先輩の口元に、私の口に入るはずだったケーキ付きフォークを差し出してみる。
反射的にぱくっと銜えた唯先輩の顔は、一瞬にしてほわっとしたものに変わる。
「…はっ、こんなのじゃ誤魔化されな―」
「はい」
「はむっ」
我に返ろうとする唯先輩に、その隙を与えず第二弾を投入。それに満足したのか、先輩はふにゃ~とおとなしくなってくれた。
本当は、私もまだ残念。許されるのなら、今すぐにでもさっきの続きをしたい…ってそう思ってる。
でも、今は焦らなくていいかな、って思ってる。
「唯先輩」
「ふにゃ?」
何故なら、私はもうひとつの抜け道に気がついたから。課せられた制約、その抜け道は抱きつかなければ大丈夫、だけじゃなくて―つまり。
「今夜、うちに誰もいないんです。もしよかったら―」
日中じゃなければ、つまり、夜になってしまえばいくらでも―先輩と触れ合えるということですから。
すばらしい作品をありがとう