「添い寝ゆいあず合宿編 ID:n6DYqbtP」の編集履歴(バックアップ)一覧はこちら
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このSSは『【けいおん!】唯×梓スレ 2』というスレに投下されたものです
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121 :名無しさん@お腹いっぱい。:2009/07/27(月) 04:01:31 ID:n6DYqbtP
「やった、弾けたよあずにゃん!」
唯先輩はそういって、本当に嬉しそうな笑顔をこちら向けた。
見ているこっちのほうが嬉しくなってしまいそうな、満面の笑み。
一瞬それに見とれそうになって、慌ててこほんと咳払いをして、気を取り直す。
「さすがです、先輩。これで完璧ですね」
「ううん、あずにゃんのおかげだよ~」
そういって唯先輩は、ふわって手を広げてきゅっと私を捕まえると、ギューっと抱きしめてくる。
この抱きつき癖はどうにかならないのかな、と思うものの、気がつけば苦笑を浮かべつつもそれを受け入れている自分がいた。
そしてそんな自分も悪くないと思っている自分もいたりして。
そうだ、たまにはこちらから抱き返してみるのもいいかも―更にはそんな風に思ったりもしちゃってる。
…きっともう夜遅いから、寝ぼけてきているから、ぼうっとした頭がそんなことを考えちゃってるのかもしれない。
「ゆいせんぱ―」
「それじゃ、あずにゃん、通して弾いてみようよ!」
私が手を広げたその瞬間、まるで狙ったかのようなタイミングで唯先輩はぱっと私から離れて、しゃきっとギターを構えて見せた。
「あずにゃん?それ何のポーズ?」
「…なんでもありません」
膨れそうになる頬を懸命に押しとどめて、こぼれそうになるため息も何とか押さえ込んで、私はぱたりと手を下ろした。
なに?と唯先輩は首を傾げて見せるものの―こんなこと、正直に弁明できるわけ無いじゃないですか。
「それより、合わせるんでしたよね?じゃあ、行きますよ」
「うぅ、あずにゃんが何か怒ってるよぅ…」
「別に怒ってません!」
そういう私の顔は、きっと少し怒った顔してるんだろうな、と思うものの、それくらいは許してください。
だって―やはり少しは、残念だって思ってしまってるから。―うん、もしまた同じ機会があったら、今度は少しだけ、素直になってみよう。
「それじゃ、いくよ、あずにゃん~」
ほわっとした声、だけどもギターを構えた途端、唯先輩の顔は1人のギタリストの顔になる。
相変わらずふんわりほわっとしてるけど、ここって決めたときの先輩は、先輩の目はとても真剣だから。
「はい、いつでも」
私の目を一瞬だけ見つめ、先輩はきゅっと小さく、軽やかにピックを振り上げた。
「あずにゃん、もう一回いくよ~」
これで何度目になるんだろうか。先輩は相変わらずにこにこと楽しそうにギターを抱えて、私を見つめてくる。
その演奏は回を追うごとにどんどん洗練されていって、おそらくは無意識だと思うんだけどアレンジもどんどん増えていって、私のほうは逆にそれに追いつくのに精一杯になっている。
「も、もう一回ですか?」
というよりは、正直なところ相当に疲れていた。日中海であんなに遊びまわった上に、バーベキューに肝試し、そして花火。楽しかったのは認めるけど、さすがに体力の限界が近づいている。
むしろ私よりはしゃぎまわっていたはずの先輩は、何故まだこんなに元気なんだろう。
「あずにゃん、もう疲れちゃった?」
「い、いえ、そんなことは…」
駄目駄目、せっかく先輩がその気になってくれてるんだから―私から水をさすなんてとてもできない。
それに―疲れてるのは確かだけど、先輩と一緒に練習できるこの時間はやはり私にとってとても充実してて、そして楽しい時間だから。
122 :添い寝ゆいあず合宿編2/3:2009/07/27(月) 04:03:19 ID:n6DYqbtP
「駄目だよ、あずにゃん。無理はいけないって憂も言ってたよ」
そういうと先輩はあっさりギターを下ろすと、もうおしまいってにこっと笑って見せた。
「…すみません、せっかく練習に誘ってもらったのに…」
「いいんだよ~。というよりね、私誰かに止められないと朝まで弾いちゃってるみたいだから」
「へ!?じゃ、じゃあいつ寝てるんですか」
「だから、いつもは憂がもう寝なきゃ駄目だよ、お姉ちゃんって止めてくれるんだ」
「なるほど…」
普段練習してないって思ってたけど、一度やり始めると…ってことなんだ。やりすぎなところは唯先輩らしいけど…でも少し見直したかも。
それにしても憂の物真似、何でそんなに無駄に上手なんですか。
「…って、もうこんな時間じゃないですか!」
ふと、チラッと目に入った時計の短針は、もう随分0をオーバーしていた。いくら合宿といっても、寝過ごしても咎める人がいないといっても、だからといってこんなに夜更かしをしてもいいというわけじゃない。
「わあ、すごい時間だね~」
「すごい時間だね~じゃありません。早く寝ないと…明日こそ皆でちゃんと練習できたらって思ってたのに…」
「そうだね、たっぷり寝て、たっぷり遊ばないとだもんね」
「違います!…もう」
ののほんと私の台詞をあっさり改変してくれた先輩に膨れて見せたものの、でも唯先輩が実はちゃんと練習してるってこともわかったし―私も皆で遊ぶのは楽しかったから、少しくらいはいいかも、と思ってしまってる。
澪先輩も、息抜きは必要って言ってたし。それに―ああいう風に過ごすことは、今まで知らなかった顔が見えたりして、もっとよく先輩方のことを知ることができて、バンドとしては必要なことなのかもしれない。
「…あれ~?」
そんな私の思考に、唯先輩ののんびりした声が割り込んできた。
見ると、ギターをカバーにしまったまま、唯先輩はぺたりと座り込んだままだった。
私はというと、すでにギターを収納して肩にかけ、すぐにでも部屋に戻れる状態。
「どうしたんですか、早く戻りましょう」
「ええとね…」
少し困った、そんな唯先輩の笑顔。
「…もう眠くて、体に力が入らないみたい」
「ええ!?」
言われてみると、さっきギターを奏でていたときのどこからそんなエネルギーが沸いてきてるんだと思えるほどにピカピカ輝いていた唯先輩は、今はガス欠を起こした上にオイルも老朽化して動かない中古車のようにへなへなとしている。
「ええと、立てないんですか?」
私の声に、先輩はぐぐっと力をこめたものの、すぐにへなっとなってしまう。
「えへへ、動けないみたい。私はここで寝るからいいから、あずにゃんは戻りなよ」
あきらめ気味の声色で唯先輩はそう私に告げた。
「駄目です、そんなになるまで疲れてるんですから、こんなところで寝たら風邪を引いちゃいますよ」
「あぅ…そうかなあ」
そういう先輩はもうすっかりへたりこんでいて。そんな先輩を置いて、私だけが戻るなんてとてもできない。できるわけがない。
私はきゅっと唇をかむと、肩にかけていたギターを外し、唯先輩のギターを持つと、並べて壁に立てかけた。
そして、なにしてるのかな?とこちらを眺めている唯先輩に向き直ると、右手を差し出して見せた。
123 :添い寝ゆいあず合宿編3/3:2009/07/27(月) 04:04:35 ID:n6DYqbtP
「…私につかまってください」
「え、で、でも」
「いいですから」
促すと、唯先輩は戸惑い気味に、それでもしっかりと私の手をつかんだ。少し腰を落として、ぎゅっと引き上げると、素直に私の腕にしがみついくる。
そのまま抱きかかえるようにして、先輩の体を抱えこんだ。先輩の体からは、先輩がそういったようにすっかり力が抜けてしまっていて、私の思うがままになってる。
ああ、考えてみるとさっき達成できなかったこと、これで叶ったのかも。そう思い、私はくすりと笑った。
尤も、そんな風に余裕を持てていたのは最初のうちだけだったけど。
もともと疲労も相当だったこともあり、先輩を抱えて歩くということは私にとってかなりの重労働のようだった。正直、いつ倒れこんでもおかしくないほどの。
人一人の体重というのは、思ったよりもずっと重いんだ、と私は実感させられていた。
「あ、あずにゃん…もういいよ、置いてっていいから」
「へ、平気です、これくらい」
プルプル震える腕と足に何とか力をこめて、私はずるずると引きずるようにして歩く。
私がこんなに小柄じゃなければ、ムギ先輩みたいに力持ちだったら、すんなり唯先輩を運べていたのに。
「あずにゃん…」
唯先輩に、こんなに心配そうな顔をさせることも無かったのに。
そう思うと、悔しくなってしまう。
「あずにゃん、いいから。私の部屋、遠いし…もう無理だよ」
唯先輩の言うとおりだ。悪いことに、唯先輩に割り当てられている部屋はさっきまでいた演奏スペースからは一番遠くて。私の現状から、そこまでたどり着けずにダウンしてしまうことは目に見えていた。
だけど、唯先輩を置いていくなんて、私にはやっぱりとてもできないことだったから。
「…私の部屋なら…すぐそこですから」
「え?」
「そこまでなら、何とかいけます」
疲労で朦朧とする意識の中、そう告げる。何かとんでもないことを口にしている気がするけど、今はそんなことより唯先輩を寝床まで運ぶことのほうが大事だった。
がちゃりとドアを開け、鍵を閉める。這いずる様にベッドまでたどり着き、ばたりとベッドに倒れこんだ。
「もう駄目です…動けません」
「あずにゃん、ごめんねえ…」
そういうや否や、私にしがみついていた唯先輩の体から完全に力が抜け、スースー寝息を立て始めた。
先輩が寝たんだから、私は別のところに行かないと。そう思うものの、私もここが限界のようだった。
言葉通り、指一本動かせそうにない。
そう、だから仕方がないんです。それだけですから、特別、なんですよ―先輩
そんなどう考えても裏腹とした思えない言葉だけを、最後の抵抗とばかりにポツリと浮かべ。
私はゆっくりと、支えてくれるベッドに沈み込ませるように、意識を手放した。
今夜はいい夢を見られそうかも、なんてそんなことを思いながら。
―お休みなさい、唯先輩
すばらしい作品をありがとう